転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
深海棲艦のトップである深海磨鎖鬼提督が日本政府と交渉を行いたい
その情報が、深海棲艦を管理する旅館の番頭と交渉を担当していた者から伝えられた際の日本政府には激震が走る事になった。
何しろ、深海棲艦に対する今までの定説は80年以上前に発生した深海棲艦との大戦で得たデータから、強力な兵器を扱うだけの各自で動く深海生物という物だった。
その為、当時のデータを元に重要な海上交通路の拠点を中心に各個撃破する方針が基本だったのだが、磨鎖鬼提督の存在によってその方針は大きく修正する羽目になる。
それと同時に、もしも旅館の襲撃に加担した今回の件で敵対関係になった場合は自国民を始めとする多方面にかなりの被害が出る事が予想されるので、首相に就任していた人物を始めとする日本政府の要人や官僚は頭を悩ませる事になる。
何しろ、日本の経済に必要な各種資源の9割以上を輸入に頼っている上、少子高齢化と言う人的資源のデバフを受けている現状で深海棲艦と戦ったら色んな物を消耗し過ぎて、国は存続できても先進国の立場は維持できないのは明白だからだ。
その結果、深海磨鎖鬼と名乗る人物 深海棲艦と定義して良いのかが不明な為、人物と定義 との交渉に乗り、彼が何を望んでいるのかを聞く事にした。
主人公 side
「ここまでトントン拍子で話が進むなら、磨鎖鬼さんが自ら出向けば良かったんじゃないですかね?」
「そうも行かなかった。80年以上前の戦いで中核だった多数の深海棲艦が沈められた以上、その再建には多大な時間と資源が必要だった。特に各海域を担当していたトップの深海棲艦の喪失はかなりの痛手だったのでな」
「確かに、人間側の軍隊でも将軍になるには数十年は掛かると聞いた事がありますね」
近世以前は分からないが、近代国家における軍隊の少尉から大将までの士官は位が高くなるにつれて、爵位の高い貴族や士官学校を卒業して軍隊に所属している期間が長い人物が就く傾向がある。
特に、18世紀だか19世紀に7つの海を支配したと言われる西洋の島国では貴族の権限も大きかったので、士官と兵や下士官では貴族出身と庶民出身と言うレベルで違ったらしい。
これは、軍の中核である士官には長期間に渡って各種教育を受ける事になる一方、軍隊はその国に所属している以上は国から渡された限られた予算内でやりくりして、やる気のある人物を優先して採用する必要があるのが大きい。
特に、少将から大将までの将官クラスになると少尉として採用してから20〜30年は必要になるので、人類と同等の知識を有する深海棲艦も元の規模にまで立て直すにはそれぐらいの時間は必要なんだろうなと推測した。
しかも、離島棲姫達が無事という事は人類側が開発したであろう対深海棲艦用の弾薬が効かないか、余裕で耐えれるレベルまで成長していると予想できるので開発した人物は泣いても良い。
「それでどうやって接触するんです? 陸路による行進は愚策の様に見えますが」
「勿論、陸路さ」
「大丈夫ですかね? 今頃、各国では順次大騒ぎになっていると思いますが?」
「それを見込んでの行動さ。それに、今回の事で警備に問題があったんじゃないかとかの話になって碌に身動きできないだろうしね」
「あぁ、成程です」
確かに、同時到着する様に防腐処理された生首を各国首脳官邸に送り届けた上、首脳陣が混乱して騒ぎになる様子を逆に特定されない様に工夫しながらSNSや動画配信サービスに流すと言う現代版の情報戦を展開した。
その結果、政府の警備体制が問題視されたり、視聴者がグロテスクな光景を想像して苦情が殺到するなどの混乱が各国で発生したのと同時に各国首脳はある事を考えた筈だ。
今の深海棲艦は80年以上前の奴とは違う、と。
今回の計画を知らされたのと同時に、磨鎖鬼提督から俺の魂を通して人類文明の技術を知って計画を立てた事を謝られたが、俺としても深海棲艦に関して一向に話が進まない事に苛ついていたので特に問題にしない事でまとまった。強引だが話を次の段階に進めたかったしね。
その段階とは、深海棲艦を地上に進出させて人類との共存共栄を果たして文明を発展させると言う物で、凡人の俺からすれば壮大すぎる話に聞こえるのだが磨鎖鬼提督は本気らしい。
その為、かなりの苦労と長期間に及ぶ年月を必要とする計画に不安やらが湧き上がってくるが、離島棲姫を拾った時点で乗り掛かった船なので俺も一枚噛む事にした。ここで断ったらつまらない人生に逆戻りする事になるしね。
そんな訳で、磨鎖鬼提督と共に予め用意していた飲み物を飲んでいるとフル装備の艦娘を大勢、引き連れた担当の人がやってきて話しかけてきた。
「政府からの許可が降りました。明後日の午前10時、首相官邸に来てほしいそうです」
「分かった。馳せ参じようじゃないか」
「それと万が一、深海棲艦が暴れた際の対策として××××の身柄を拘束します。期間は会議が終了するまでの間ですが」
「大丈夫か? ××××」
「構いません。それで話が進むなら」
妙に物々しい、と思ったらそう言う事か。
今回の仕返しで、面子やら何やらを潰された方からの報復や各国からの非難によって、対外的に確保しないと面目が立たないって所か。仕掛けたのは大国の方だが。
とは言え、ここでゴネても仕方がないので大人しく捕まっておこう。いくら、愚かな判断を下していようがここで下手に危害を加えれば政府中枢まで潜り込める深海棲艦が暴れる事を予想できない程、馬鹿ではないと信じたい。
その為、不満げな離島棲姫達を宥めながら拘置所と呼ばれる刑務所とは違った施設に滞在する為の準備をして連行されていった。
離島棲姫達 side
「人間は愚かね」
「彼に何かあったら暴走するって事、分かってない様ね」
「まー、それで安心感がほしいのさ。俺らの様な化け物を相手にして人質を取ったぞって言う安心感がな」
リュックに入る程度の荷物を持って、連れて行かれた彼を見送ったものの彼女達の心境は穏やかではなかった。
何しろ、一緒に生活していく中で彼に対する情が生まれている上に今回の件で精神的な負担をかなりさせているのも相まって、人類に対する感情は決して良いものではない。
その事を察した磨鎖鬼提督は、そんな彼女達を宥めながら今回の交渉で確実な成果を出さないとな、と思いながら交渉に向けての最後の準備を進める事にした。