転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
その日、混乱している大国も含めた世界各国に衝撃が走った。
日本国政府は深海棲艦との安全保障条約を締結する事を決定した。
その決定を発表した事に際し、太平洋を挟んだ超大国のA国は深刻な懸念事項を憂慮すると発表し、大陸側に存在する2つの大国も非難声明を発表したものの大した行動には出れなかった。
何しろ、深海棲艦と言う貴重なサンプル兼
その上で、彼らの首を各国首脳の執務室に並べられると言う醜態をSNSで晒されてしまったので、事態を収拾させるのに手一杯だったからだ。
勿論、大国は各々でごく稀に沿岸部に打ち上がったり、上陸してくる深海棲艦を極秘裏に回収して各種実験を行なってはいたが、そもそものサンプル数の少なさからそこまで進んでいなかったのも大きかった。
その為、各国政府は自国内で発生した事態を収拾させながら日本国政府の行動を注意深く観察する方針を決定する一方、日本国政府は深海棲艦と言う問題に頭を悩ませる事になった。
今回の件のきっかけとなった日本国政府が発表する数日前に時間を巻き戻す。
磨鎖鬼 side
「無事、留置所に到着したそうです」
「そうか。では前持って伝えた手筈通りに頼む」
「畏まりました。総力を持って身の安全を確保致します」
彼がしょっ引かれた翌日、私は東京にあるホテルの一室にて彼との交渉を担当していた女性からの説明を受けた後、身柄の安全について言及するとそう返してくれた。
私が彼を気にかけているのは、離島棲姫達を保護してくれた彼の事を気に入っているからであり、もしも本人の身に異変があれば離島棲姫達が暴れ出しそうだったからだ。
その為、私を含めた深海棲艦同士で連絡を取り合える特殊な装置を使って日本近海に多数の深海棲艦を潜ませつつ、政府との交渉で取り決める内容の最終確認をした。
1.深海磨鎖鬼が指揮下に置く深海棲艦と日本国政府は双方に対して先制攻撃をしてはならない。
2.
3.××××を深海棲艦との交渉の窓口として雇う事
4.
こんな感じで、計20個もの内容を含んだ安全保障を締結しようとしているのだが、離島棲姫が拾われる前の私なら考えられない様な状況に信じられないが捕えられている彼を解放する為にも気を引き締めて事にあたる事にした。
「今回の安全保障条約を締結して頂いた対価として、貴国の排他的経済水域に於ける凡ゆる経済活動の援助を確約します」
「分かりました。前向きに検討させてもらいます」
「この先、いつまた不測の事態に陥るか分かりませんからね。備えあれば憂いなしです」
交渉自体、素直に進んで条約を結ぶ方向で進みそうだと思う一方で、大国と呼ばれる各国が開発した対深海棲艦用装備が現存する深海棲艦に敵わないとなれば、日本国政府としては受け入れざるを得ないのも大きいのだが。
まぁ、こちらとしては丁度良い機会なのでこのぐらいの貸しを付けておいた方が損害を被った彼の為にも良いだろうと思った為、交渉成立後は邪魔にならない様に首相官邸を出立して吉報を伝えるべく、彼が拘束されている拘置所に向かう事にした。
実は、安全保障条約を結ぶ交渉をする前に離島棲姫達を住まわせてくれた彼について、彼との折衝を担当してくれた女性に聞いてみると意外な事に政府の方でも既に素性を調べていた様ですぐに教えてくれた。
年齢は20代後半で、家族構成は両親と彼を間に挟んで姉と妹がいたが10年程前に交通事故で彼以外の全員を失っている。
交通事故の判決は、彼の家族を失わせた被告に非があると言う判決が下りている物の事故が遭遇するまで、高校でできた学友とのコミュニティに所属する事が多かった人格から1人の世界に閉じ籠る人格に急変した、との事だった。
高校卒業後は、同窓会等のイベントに参加する事なく、投資などで儲けた資金で過疎地の旅館を購入して隠遁生活を送っていたのだが、そこに離島棲姫達がやって来た。
第三者からすれば、金があって暇だったから彼女達を受け入れる事ができたし、家族がいなかったから失うモノがなくて好き勝手できる状況だったのだ。
彼はその事について、おくびにも出さなかったので私としても特に言及する事なく、彼を深海棲艦からの
主人公 side
「………味が薄いでござる」
拘置所に来てから、まだ2日目なのだが食事に於ける味の薄さは病院食と肩を並べる程だなと思えるぐらいに薄く感じるので、味に対してアクセントぐらいは欲しいでござると思いながら、今頃は条約に向けての交渉が進んでいるんだろうなぁと考えていた。
何しろ、拘置所に来てから外部とのやり取りを行えなくする目的でスマホなどの端末は職員が管理しているので、どうなっているのかが全くと言っていいほどに分からないからだ。
一応、魂に関しては離島棲姫達と繋がっているので寂しくはないのだが細かいやり取りはできないので、無事に出所できる様に祈るしかない。宗教に関して疎い身柄ではあるが。
その為、持ってきた私物の中で許可された本を寝っ転がりながら暇潰しに読んでいると職員の足音が聞こえてきたので、座り直して読んでいると俺がいる檻で止まって呼ばれた。
「出所だ。私物の荷物をまとめて持って出ろ」
「分かりました」
どうやら、交渉は無事に終わった様だな。
まぁ、派遣した精鋭である特殊部隊が全滅した上に敵の頭目である磨鎖鬼提督が姿を現した現状では、下手に手を出さずに静観するのが無難だろうねぇと思いながら私物を持って出た。
そして、拘置所を出所する為の手続きやら預けていた荷物やらの確認をしてから拘置所を出ると磨鎖鬼提督が離島棲姫達と共に待っていた。
「すみません、待たせてしまって」
「構わない。無事に出てきただけでも充分な価値があると言うモノだ」
「………その割には拗ねている様に見えるんですがね。彼女ら」
「彼女達を宥めるのは君の仕事だ」
磨鎖鬼提督は、最初に会った時と同じで事情を知らなければコスプレに見える提督風の衣装を着ていたのだが、離島棲姫達は市井に馴染む様にカジュアルな服装で来ていた。
そして、平常運転な磨鎖鬼提督と比べて離島棲姫達の拗ね具合はかなりの物なので宥めるのが大変だなぁ、と思いながら旅館への送迎用バスに乗りながら交渉の結果を聞いた。
「で、どうでした?」
「結果は上々。当面は人類との共存は可能だ」
「それは良かったです。下手に決裂して戦争になってほしくないですから」
「私だって余計な出血は望まないさ。可能なら人類との恒久的な共存共栄を望む」
色々と話して分かったのは、俺は色々とお世話になっている人類文明の消失は避けたい一方で、磨鎖鬼提督は全く違う文明の相互補完を目的としているので互いに戦争を望んでいない点だ。
その為、大義名分を掲げて人類側の代表である日本政府との折衝に応じて交渉の席に着いた結果、条約の締結に結び付いたとなれば個人の損失は比率としてはかなり軽くなる。
勿論、俺としては損害の補填を政府に求めていくが過疎地が再開発される以上、今回の襲撃で損傷した旅館を取り壊して全く違う建物にしても良いかもしれない。旅館に拘りはないしね。
そう言った今後に関しての諸々は、担当の人を筆頭に様々な人と膝を突き合わせて話し合っていけば良いので、交渉内容について磨鎖鬼提督から色々と聞いていった。
昔、訳あって長期入院する羽目になったのですが病院によっては味が薄過ぎて気力が削がれる事がありました。病院によるんでしょうが。