転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
「えぇっと、次が重巡組だな?」
「そうよ。でもなんで、戦艦とか正規空母を沢山建造しないの?」
急ピッチで工事が終わった工廠にて、叢雲と一緒に艦娘の大量建造に力を入れていたのだが、次々に建造されていく艦娘を見て叢雲は俺に疑問を投げかけてきたので工程表を見ながら答える。
「非効率だからだ。例えば、1回の出撃で1,000ℓの燃料で1隻の大型艦を動かすよりも100ℓの燃料で動く10隻の中型艦、或いは10ℓの燃料で動く100の小型艦の方がよかったりする。特に兵器を大量に消費する総力戦の場合はな」
「確かに、私や武蔵が知っている戦争だと数で負ける場面があったわ」
「まー、現代戦ではレーダーなんかの技術力も必要だから数だけを揃える訳にもいかないが、西欧における戦争の推移を見ているとどうしてもね」
「まぁ、ね」
苛烈を極める欧州戦線は、広い沿岸部から内陸部へ侵攻する戦闘から大きめの港に戦力を集めた後、そこを起点に内陸の深くに浸透する戦闘にシフトしていった。
深海棲艦と言えども、銃火器を扱っているので弾薬の補給は必要な上にどう言う訳か、石油などの燃料も使用している事が衛星からの写真から判明している為、燃料補給も必要なのが分かる。
つまり、生き物でありながら近現代の軍隊の様に膨大な量の補給を万全にする為、海洋からの大量輸送の入り口として大きめの港に戦力を集め、前線への補給を行う体制が整っている事になる。
まさか、21世紀の現代においてここまで大規模な電撃戦を行なった挙句、A国の軍隊顔負けの大規模な物資輸送までやってしまうのだから、どれだけの準備をしてきたのかが分かる。
それに対して、西欧諸国は同時多発的な奇襲攻撃を受けた事である程度のダメージと混乱が生じた上、大規模侵攻の初撃で航空戦力と海上戦力の大半を消失、戦争が始まった1週間で拠点に取り残された陸上戦力は孤立した点となり、難民と共に大規模な移動を伴う陸上戦力は長い長い移動となった。
そんな情報を、遠い異国の地からテレビやネットから得るしかない俺達からすれば歯痒い気持ちにさせるが、今は戦力の拡充が先だと判断して耐えるしかなかった。
『××××、珍しい客が来たわよ?』
「急用じゃなきゃ、断ってほしいんだが」
『その客が私達に恐怖を刻み込まれたツインテまな板空母だとしたら?』
「分かった、すぐ行く。叢雲、ここは頼んだ」
「えぇ、任されたわ」
その為、次の建造に取り掛かっていると携帯に着信があったので出てみると離島棲姫が来客を伝えられたのだが、今は戦力の拡充で忙しいので断ろうとして彼女の発言に思い当たる節が出てきた。
以前、共同基地が開設するよりも大分前にレ級達によって恐怖が刻み込まれた見張りだったまな板正規空母がいて、結局は横須賀基地に逃げたのだがそんな彼女が来たともなれば俺が応対するしかなかろう。
そう思い、叢雲に工程表を渡してから応接室に向かうと離島棲姫と向かい合いながら1人の艦娘がいた。
「まさか、君が来るとはね。基地の方はかなり忙しいんじゃないのかい?」
「別に良いわ。辞めてきたし」
「辞めてってお前、今の情勢だとそう簡単に手放さないと思うが?」
「アンタなら知ってるでしょ? 艦娘が軍縮の対象だった事ぐらい」
「まぁな」
その艦娘とは、適性型艦娘である瑞鶴で今は私服でいるので内心、首を傾げながら離島棲姫の隣に座りながら聞いてみると案の定と言うか、ヨーロッパの現状を考えればそう簡単に軍隊を辞めれない事ぐらい、誰にだって分かる。
「だからアンタの所から逃げ帰った後、心的ストレスで休暇を取って暫くした後に退職したのよ。幸い、その時はまだ平和な時代だったからすんなり通ったわ」
「それだと呼び戻されたりしないかい?」
「えぇ、召集令状は来たわ。ただ、理由を付けて冷遇してきたのにいざ急用が発生したから退職した私にまで戻ってこいと言ってくる組織に戻るのと、なんだかんだで上手くやれそうな組織に行くの、どっちがマシかを考えた結果よ」
「そうか、理由は分かった」
どうやら、横須賀基地に勤務していた間に鬱屈した気持ちを溜め込んでいたのだろう。
その結果が以前の瑞鶴の態度であり、今はかなり落ち着いた雰囲気で接してくれているので普段、他の人と接する際にリトマス試験紙の様に雰囲気で感情を表現する離島棲姫も冷静に聞き入っていた為、彼女が安全と判断したと言う事で仮ではあるが採用する事にしよう。
日本にとっても、戦時を意識した国家体制が構築されつつあるので、それに伴って共同基地も艦娘を量産して急拡大した結果、艦隊を指揮する人材が不足しているし。
「一先ず、仮契約として君を雇用する」
「正式採用の条件は?」
「艦隊運用のノウハウを艦娘達に教えてやってくれ。急拡大する新規の基地だから素人ばかりだし」
「まぁいいわ。以前の事を考えれば当然だしね」
その為、まずは仮採用してこちらが提示した条件を達成したら正式に採用する事で瑞鶴と合意したので後日、契約書にサインと押印を求める事になったのだが正直に言ってどこまで有効なのかが疑問だ。
今回の地上侵攻によって、深海棲艦は内陸部に進出しているので海軍による攻撃は航空機の航続距離を加味しても、沿岸部から数百キロまでが活動限界なのでかなり限定的だ。
しかも、その沿岸部から数百キロ圏内の海洋にも深海棲艦が跋扈しているのでA国海軍であろうとも近付けない上、肝心の艦娘も儀礼要員しかいないとの話から迅速な配置変換は難しいとのことだった。
つまり、ヨーロッパ大陸に上陸しようとしても制海権を取り返さないと上陸できない上、制海権を取り返して陸上戦力を上陸させたとしても大量の部隊がいないと今度は深海棲艦の膨大な陸上戦力に押し潰されてしまう。
要は、海軍としても陸軍としても上陸に必要な膨大な戦力を生産して訓練を施した後で漸く上陸の作戦が実行できるので、それを考えると海上戦力主体の民間軍事会社でありながら、戦車なんかの陸上戦力の拡充もやった方が良いんじゃないかと素人ながらに考えたりもする。
とは言え、会社の規模的にも艦隊の生産と運用に予算の大半が取られている為、そんな陸上戦力の生産と運用に割けるリソースはないに等しいので今すぐに行動しようとは思っていないが。
その為、瑞鶴への説明と雇用の仮契約を済ませた段階で駆逐艦を中心とした建造が一通り、終わって重巡や戦艦と言った艦娘の建造に移ったので彼女達が待っている講堂へと足を運んだ。
「さて、みんなに集まってもらったのはこの共同基地についてと今後の運用方針を説明する為だ」
建造を終え、いつでも出撃が可能な艦娘 瑞鶴以外は適性型艦娘ではなく、船魂型艦娘 達を講堂に集めて俺が講演壇の所に姿を表すと艦娘達は一様に驚いた様子で騒がしくしたので、咳払いで静かにしてから説明を始めた。
「既に、大半の艦娘は気が付いていると思うがこの共同基地には深海棲艦、しかも鬼級や姫級と言ったハイレベルな深海棲艦が居住している。経緯を話すと長くなるので省くが、結論から言ってしまえば政府は彼女達を管理できる責任者を置く事を条件に、この基地に配備する事を決定した」
俺の言葉に、共同基地の一因である叢雲達は冷静だが今回の大量建造で新たに入ってきた艦娘達から、ざわめきの声が聞こえてくるがそれを無視して話を続けた。
「驚くのも無理はないが、政府との正式な手続きによって既に決定した事であり、異議の申し立てや反論は許されていない。しかし、管理者であり、責任者でもある自分から言わせてもらうと君らが知る艦娘だと分かれば容赦なく攻撃をしてくる獣の様な深海棲艦ではない」
「彼女達にも理性があり、感情があり、各々の考えがある。そして、ニュースを見れば分かると思うが今の欧州では人類と深海棲艦との熾烈な戦争が発生しているにも関わらず、ここにいる深海棲艦達は人類との共存共栄を求めて生活している」
「君らがどう思おうともこれは紛れもない事実であり、変えられない現実でもある。もしも、偏見や自分の価値観が絶対に正しいと判断して深海棲艦を差別する様な発言を主張したのが発覚次第、この共同基地にいる資格はないと判断して他の基地に追い出すつもりだ」
「欧州での戦争の為、今の日本には余裕がない以上はそう言った面倒な手続きが必要としない様に願っている。では、これで説明を終わらせてもらう」
鬼級や姫級の他、人型の深海棲艦を何十人も壁際に配置している事が威圧にしている事で俺が説明している間は静かだったが一々、説明するのも面倒だから一気に話したのだが果たして何人の艦娘が今回の説明で内容を正確に理解したかが疑問になる説明になってしまった。
その為、後で必要な時に叢雲達に補足説明させればいいかと思って次の話に移ろうとした。
「後は武蔵達から説明が 」
「ちょっと待てよ!」
すると、1人の艦娘に止められる事になった。