転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
共同基地が正式に稼働し、艦娘の運用が開始したものの発足したてで練度の低さはどうしようもないので、欧州大陸が悲惨な事になっているのを尻目に練度向上の為の教育と演習を日夜行なっている。
戦術の教育を行い、演習で実力を発揮して少しでも練度を上げないと単なるカカシとして戦場に行って無駄な死傷者になるし、生産や修復に必要な資源だって何百何千もの艦娘相手だと馬鹿にならない量になる。
何しろ、昔から経済を回す為の資源の大半を海外からの輸入に頼っている日本にとって、欧州大陸全土が戦場になっている事からそれら資源の買い占めが欧州大陸以外の大半で起きている現状は輸入の安定化からは程遠い状態になっている。
つまり、平時から先物取引の他に各種倉庫で多少の備蓄はしているものの1年にも満たない備蓄量しかないので、戦時に近くなった事からそれらを湯水の様に使える訳じゃないのは誰の目にも明らかだろう。
ならば、練度を上げて少しでも死傷率を下げるしかないのだが個人的な1番の懸念点は日本の食料自給率と人的資源である。
まず、日本の少子高齢化による人口減は深海棲艦との戦争が始まる前の試算で30〜40年後に半減する、との見込みだったので今の状態でいけばもっと減ったり、半減する時期が早くなる可能性が高い。
そして、農業従事者の多くが高齢者である事を考えれば戦火が日本に飛び火したらカロリーベースで半分以下、金額でも6割ぐらいしかない日本の食料自給率は崩壊すると言っても過言ではない。
何しろ、農業や畜産に必要な各種車両や機械に必要な石油の殆どは中東を中心に輸入に頼っているし、生産を安定化させる為の肥料や家畜が消費する飼料の大半も輸入に頼っている現状では、日本単独で賄おうとすると今の1割ぐらいしか賄えないと予想できる。
ましてや、日本中の生産地から大都市圏まで生産・加工した物を運ぶ輸送網も石油や石炭といった燃料がなければ、輸送できない事を考えれば東京の様な大都市は維持できないのは明白。
つまり、海上輸送で輸入している日本を守る為の艦娘は質も足りなければ数も足りない、と言う二重苦を背負っているので仮に共同基地にいる艦娘が他の基地へ言っても日本全体からすれば何ら問題はない訳だ。
「とは言え、ここまであからさまに減ると中々に凹むな」
「仕方ないじゃない。私達、深海棲艦と同居するなんて考えられないんでしょう?」
「そこが疑問なんだよなぁ。昔の戦争なら兎も角、なんで今の艦娘は深海棲艦が敵視しているのかって思ってさ」
その為、演説と言う名の説教をやってから1ヶ月程が経ち、漸くマトモな艦隊を維持できる様になった艦娘達の報告書を読みながら、新たに来た深海棲艦達の代表と話し合っていた。
「さあ? 純粋にそう仕組まれているか、或いは本能的に負のエネルギーを纏う私達の顔を見たくないかのどっちかじゃない?」
「前者は兎も角、後者の場合だと人間が黒光りするGを本能的に嫌うのと同じって事か」
その代表とは、ゲームにおいて大西洋の方で活躍する深海棲艦の一隻である欧州装甲空母棲姫であり、彼女を筆頭に本来なら日本から程遠い海域で活躍する筈だった深海棲艦達が大勢で来た時には心の底からたまげたものだ。
理由を聞くと、『単純に一枚岩じゃないからよ。私達は大西洋にいる深海提督達とは決別したの』との事だったので、彼女達が知っている情報を全て語ってもらった後で仲間として受け入れた。下手に断って日本近海で暴れ回ってもらわれたら困るし。
その為、欧州装甲空母棲姫から聞き出した情報をこっちでまとめて政府に提出するとその内容に役人達はかなり驚いていた。
何しろ、今までは磨鎖鬼提督と言う例外は居ても海洋生物の集まりだと思っていた深海棲艦が軍隊の様に統率され、行動していると言う情報を知ったのだから俺も初見だったら暫くは碌に考えられなかっただろうし。
その内容とは、悪逆非道な人類から大陸を奪って独立国家を樹立する、との事だったので一個人としても国家としても受け入れられない内容からせっせと量産に励んでいる。
とは言え、艦娘に関しては日本の各基地と連携しながら生活を送っているのだが、政府の方でも欧州大陸に遠征するにはどうするべきかなどで色々と紛糾している様で、明確な方針が提示されていない状態で教育や演習の日々が続いている。
(このまま、行ったら確実に欧州各国の大半は滅ぶよなぁ。ただでさえ、撤退に次ぐ撤退でソーセージとビールが有名な国の辺りまで後退しているのに)
この1ヶ月で、欧州大陸は守るのが難しいイベリア半島を放棄して、前世の世界で2度の世界大戦に負けている国の所まで人類の勢力範囲を後退している。
この状況だけを見ると、深海棲艦版マブラヴオルタの世界を再現している様な状況なので早くなんとかしたいなぁ、と思いながら欧州装甲空母棲姫と話を続けた。
「にしても良かったのか? こっち側に居ると狙われるんじゃねぇのか?」
「その可能性もゼロじゃないけど、彼らには私達に対してそこまでするメリットがない。少なくとも、地球の反対側にまで出張ってくるのは欧州大陸を掌握した後でしょうね」
「そうか。なら、掌握させないように頑張るしかねぇって事か」
「そう言う事」
どうやら、大西洋から太平洋に来るには長距離の移動に必要な物資の補給が大変らしく、そこそこの準備が必要な様なので一安心した。
何しろ、インド洋側からの移動はスエズ運河を掌握するか、アフリカ大陸を遠回りするしかないし、パナマ運河やマゼラン海峡を使おうにも超大国のA国が黙ってはいないだろうからな。他の地域に波及させない為に大小様々な妨害は行うだろう。
その間に、少しでも練度の向上に努める必要があるのだが気になる点が1つあって、それは
「まさか、君が記憶持ちとはね」
「うん、僕も驚いてる」
「色々と苦労を掛ける事になると思うが、大丈夫か?」
「うん。あれで踏ん切りが付いたから」
今回の建造で新たに出た時雨に殺した筈の時雨の記憶が引き継がれていた為、俺からすれば複雑な感情が湧き上がっている。
何せ、人間不信を拗らせて深海棲艦化の可能性があった頃の記憶を引き継いだ時雨が何食わぬ顔で、俺と欧州装甲空母棲姫の話を聞いていたので引き金を引いた時の決意やら覚悟やらは一体なんだったんだと言う気持ちが強い。
あれがあった所為で、漫画家志望の薫とは喧嘩別れの様な形になったし、吹雪達4人は人間として生きていく事を見送る羽目になったのだから文句の1つでも言いたくはなる。
とは言え、あの時に死んで水葬に伏した事で彼女なりに踏ん切りが付いたらしいので、こちら側からとやかくは言わないがまた似た様な状態になったら、火葬で記憶の引き継ぎはできない様にしてやる。割りかし真面目に。
その為、他の基地に移籍する意思のない時雨を共同基地に在籍させたが他の艦娘、特に深海棲艦と共闘する事に反感を持つ艦娘が多数いたので集計した結果、3割が移籍を希望していたので受け入れ態勢が整った他基地と連携しながら移籍させるつもりだ。
思った以上に少なかったが、大抵は状況に流されただけだと推測できるので移籍しない事を選んだ艦娘達は当面の間、観察対象として深海棲艦との共闘に対する適性があるかどうかを見る。
適性があれば共同基地に在籍させるし、なければないで他基地の艦娘と入れ替えをしながら軍全体での練度の蓄積を行えれるので、この適性の有無はまだ些細な事で済んでいる。
些細な事で済まなくなった時点で、日本の滅亡は確定するので今のうちに適性がある艦娘を揃えなければな、と思いながら演習計画や方針についての議論を離島棲姫達も交えて進めていった。