転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。)   作:八雲ネム

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第43話 準備

 共同基地で働く人を募集すると、掲示板で名乗りを上げた2人以外にも何人かが応募してくれたので面談を通して、共同基地で働く事への危険性を伝えた上で考える時間を設ける為に採用通知は1週間後に知らせる事にした。

 これが平和な時代、深海棲艦が暴れ出して欧州大陸を踏み荒らしている情勢でなければ、そこまで神経質にならずに済んだのだがそうならなかった以上は後で危険がある事を知りませんでした、と言われるのを避ける為に前もって知らせている。

 いくら、お腹が減っても毒が入っている物を飲み食いしない様に予め周知させれば、平和な時代が長かった日本の環境では余程の物好きでなければ来る事はないだろう、と踏んでいたのだがそうでもなかった様だ。

 

 何しろ、準戦時体制に移行した日本の経済は鉄鋼業やエネルギーの転換によって細々と続けられていた石炭産業の活性化、そして電子回路の国産化と農業の再構築を重点的に資金投下する統制経済に移行する事になった。

 その結果、それまで補助金頼みだった企業は補助金を切られた事によって軒並み、倒産する事になったので倒産の煽りを受けて失業した人が応募に殺到する事になり、一時的に応募者の選別をしないと手が回らなくなるほどだった。

 とは言え、応募した人の半分以上はホワイトカラーの人達だったので書類選考で大半は落とさないといけなかったし、面接に通った人も戦艦棲姫(ダイソン)に付き従う化け物じみた姿の深海棲艦を多数、目にした結果としてやっていく自信を無くして逃げ帰る奴らが殆どだった。

 

 最終的に、ホワイトカラー出身の奴らの中で100人中数人が残っているかどうかになった一方、技術職は待遇の良い仕事ができれば問題ないと言った変わり者が多くいて人材は充実した、と言っても過言ではない。

 

 

 

「助かりますねぇ。俺が指揮するとかなりの反感を買う様で中々、上手くいかなかったんですよ」

「まぁ、それは当然と言えば当然だと思いますけどねぇ」

「敵判定を受けるのは仕方ないですが、そこは割り切って欲しいぐらいですよ。軍属という立場なんですし」

 

 共同基地の中核的な建物である司令部にて、粗方の事務作業を終えた俺は退役済みの元海軍大佐の杉山さんと艦娘についての話で盛り上がっていた。

 何しろ、俺が指揮する場合は叢雲や武蔵がいると言っても深海棲艦に与する奴と言う事前情報から、指示に従ってくれない場合が多々あったのだが“元海軍大佐”と言う肩書きがある杉山さんが間に入ってくれるお陰で反感は大分マシになった。

 彼を採用できなかったら、いつかは暴動に発展していただろうなと思いながら今後の展望に着いて話し合った。

 

「今後、彼女達には日本周辺の海域の防衛と海上交通路(シーレーン)の護衛に就いてもらおうと考えていますが大丈夫ですか?」

「えぇ、問題ないかと。特に中東からの海上交通路は石油と言う点で重要ですから」

「他にも色んな国から色んな物を輸入しないといけませんからね。欧州が悲惨な状況になっている以上は残ってる国々との協調は欠かせません」

 

 杉山さんから、年上で軍隊経験が長い事から言葉遣いはすぐに使える様に訓練した方が良い、との意見が出たので引き篭もりの一般人が使うお粗末な敬語で話している。

 前世で社会人の経験はあれど、高校を出てから長らく使っていなかった事から咄嗟に出ないので、今のうちに習慣化させるのが目的な為、仕事中における日常会話でも敬語を使う様にしている。

 

「I国、C国を中心に陸上兵力の大規模派兵を決定………東欧への戦線後退を加味すると欧州の破滅は決定的ですね」

「先日、暫定政府を設立しましたが地位の大幅な低下は免れないでしょう」

「政治家になるつもりはありませんが、終戦後を考えると頭が痛いですね」

 

 そんな平和とも言える共同基地から遠く離れた欧州では、大規模な出血とは裏腹に人類側の連敗が続いていて欧州大陸の大半を失陥して残るのはR国を始めとする東欧と北欧ぐらいだ。

 しかも、北欧でも深海棲艦との戦闘が始まっていて上陸も間近だとの予測も経っている程に不利な状況であり、仮に人口が10億人を超えているC国とI国の両国が派兵しても焼け石に水だと思われる。

 日本としては、大陸からの圧力が減るのはありがたいがそうなると国内の不満分子、特にC国は一党独裁な国なので国内にいる反発勢力が一定数いるので派兵な結果、失敗に終わればその勢力が活発になって内乱のリスクが高くなるのは目に見える。

 

 最終的に、国家が分裂するレベルの内乱になればC国で生産された多岐に渡る物品が輸入できなくなるので、上がり方に差異はあれど値上がりするのは確実なので負けてほしくない一方、力が弱まれば良いなと言う複雑な気持ちになる。

 とは言え、金儲けは出来ても離島棲姫達が来るまで只の一般人が政界に関わって1年も経ってない状態では、出来る事も限定的でやれる事も少ないのでそこは本職の人に任せるとしよう。

 こっちはこっちで、政府から戦力の捻出を要請されたら可能な範囲で捻出をしないといけないので、その準備をしないといけないのだから。

 

「××××基地長、杉山さん、訓練が終わったぞ」

「お疲れ様、報告書はできてるかい?」

「勿論だ」

 

 そんな訳で、グダグダと話していると日課の訓練が終わった様で長門が報告書を持って司令部内にある執務室に来たので、杉山さんと一緒に報告を受けることにした。

 訓練内容は、叢雲や武蔵が考えた内容に加えて杉山さんの意見を取り入れた内容に変更されたので、初心者だった艦娘達からすればハードなものになったが取り入れる前の物よりもかなり効率的になったので、練度の向上が捗って一先ずは日本近海の防衛は出来る様になった。

 その為、順調に行けば政府の方で推し進める暫定的な法律が整えば海上交通路の防衛に送り出しても問題ないし、訓練内容のシステム化が進めば一般兵的な練度の艦娘を量産する事だって可能だ。

 

 対テロを意識した少数精鋭な戦い方なら兎も角、今は大規模な全面戦争が勃発している以上は質よりも頭数や量を重視した組織運用が必要なので、多少の人間関係のいざこざは目を瞑るしかない。じゃないと数が足りずに負けました、なんて事に成りかねないし。

 その為、長門から一通りの訓練結果の内容を聞いて問題ない事を杉山さんと共に確認してから、いつもの様に休息を取らせる様にと伝えると長門は暫く俯いてからある事を聞いてきた。

 

「1つ良いか?」

「なんだい?」

「いつになったら実戦に出してもらえるのかを聞きたい」

 

 どうやら彼女か、艦娘の誰かが戦いに赴きたいとの考えでその質問を投げかけたのでこうして聞きに来たのだろうが、俺は政府の人間ではないので答えられる範囲で答えるしかない。

 

「政府が法案を可決した後からだ」

「では、それはいつになる?」

「分からない。21世紀になってここまで大規模な戦争になった事はないからね」

「艦娘の中には今すぐにでも戦いたいとの奴もいるからな。なるべく、正確に伝えたいのだ」

「いずれ、嫌でも戦いに参加する様になるさ」

 

 のらりくらりと答える俺に、彼女の表情が険しくなっていったのでここら辺で一回、長門達がいた時代と今の時代が違う事を語る事にした。

 

「今の日本は少なくとも建前では法治国家である以上、軍隊の権限は君らが居た時代よりも色々と制限があるんでね。今すぐにでも、戦地に行きたい気持ちは分からんでもないが万全を期す為にも今は耐えてくれ、としか言いようがない」

「だとしてもこのままだと!」

「だからこそだ。今はまだ、準備ができる時間がある時期だからこそ、戦地に赴く為に必要な物を準備しているんだ。雌伏の時間だよ」

 

 彼女自身、欧州大陸で蹂躙されている現状を憂いているのだろうが、今から行ったとしても大量の物資を輸送する必要がある為、船旅だと最低でも1ヶ月以上は掛かる上に全員が全員、戦地に行けて戦える訳じゃない。

 潜水艦による通商破壊が、大西洋を中心に行われているので魚雷による攻撃によってある程度の損害は出るし、航空攻撃も加味すれば輸送船の過半数が沈められてもおかしくはない。

 その対策の為の準備期間であり、その間に損害を減らす為の練度向上なのだがそう言った大局観的な視点を持ってないと無意味な時間だと思っても仕方ない。ゲーム限定ではあるが俺も準備より、実戦の方が好きだしね。

 

「………分かった。私の方からその様に伝えておく」

「よろしくお願いするよ」

 

 そう言った意図の発言をすると、長門は渋々ながら受け入れてくれたので退室させると杉山さんが褒めてくれた。

 

「艦娘相手にあそこまで啖呵を切れるとはね」

「伊達に離島棲姫達、深海棲艦と一緒に暮らしていませんからね。しかも大事になる前から政府と交渉してきましたから、腹を括る時間はありました」

「上手くいけば政府の役人になれるかもしれませんよ?」

「勘弁して下さい。私個人はグーダラ気ままに生活したいだけのボンクラですよ。そんな奴が人間関係がドロドロの仕事場に行ったら1ヶ月も持たずに退職してます」

 

 離島棲姫を拾った事で、平穏な生活からかけ離れた生活を送っているが元々は生活に困らない程度に金を稼いで、他人に迷惑は掛けない様なひっそりとした生活を送れれば良いだけの人間だったのだ。

 それが離島棲姫を拾った事で、共同基地の責任者になった挙句に艦娘を運用する立場も兼任するまで偉くなってしまった。

 所謂、分不相応な責任を背負う事になっているので状況が安定したらさっさと引退して、元の寂れた旅館の番頭にでも戻るつもりではある。いつになるか、知れたものじゃないがね。

 

 その為、杉山さんと冗談を言い合いながら残った書類仕事を終わらせる事にした。

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