転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。)   作:八雲ネム

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第45話 大規模演習

「主砲、一斉射!」

「撃てぇ!」

 

 現在、旧九十九里浜沖にて半年に一回のペースで行うと決めた深海棲艦と艦娘の大規模演習を開催していて、今回の演習では大規模な深海棲艦の基地を艦娘が独力で攻略する想定で、双方が持てる総力を使って攻防していた。

 欧州大陸に対して、逆上陸する際は本気で産業を盛り返して戦力を整えたA軍などの多国籍軍との共同作戦になると思われるが、それまでは艦娘が主力となって深海棲艦と戦う事になる。

 その為、今すぐにでも国からの徴兵されても良いように定期的に演習を行なって練度向上に勤めている一方、より実戦的な演習にする為に敢えて演習に参加している敵の数は基本的に双方に伝えていない。

 

 何しろ、実際の戦闘では戦闘する予定の場所にどれだけの深海棲艦が屯しているのかが分からない上、深海棲艦の全員が水中を移動できる特性から事前の情報は目安にはなるが当てにならない場合の方が多い。

 その事から、艦娘と深海棲艦の両方に敵の数を伝えないし、伝えたとしてもかなりぼかした数を伝えているので彼女達は各々が持つ偵察機を飛ばし、敵の位置と数を確認して航空機は勿論だが主砲や魚雷を撃ち合っている。

 

 

 

「うん。やっぱり、艦娘側が不利になるよね」

「そう言う風に調整したからでは?」

「そうでもしないと急ピッチで練度は上がりませんよ。政府から年内には先見部隊を派遣する為、戦力を抽出せよとのお達しが来ているんですから」

「無事に帰って来ますかね?」

「難しいですね。実戦経験を積んだ艦娘の殆どは他界していますし、引退した事で当時の記憶が薄れて曖昧になっている人が殆どですから」

 

 一般的に、産業は人材育成や運用に10年の空白(ブランク)があると継承する人が居なくなって技術の断絶が起こったり、機材などがなくなってロストテクノロジーとなったりする為、取り戻すのに同じ年数以上が掛かるなんて言われる場合がある。

 特に、重工業の場合だと技術の発展によって機械化や自動化が進んでもその日の気温や湿度などの気象状況によって、取り扱う金属の品質が変わったりする場合があるのでどうしても熟練工の力が必要になる。

 そして、それは深海棲艦との戦争は80年ぶりと言うブランクを有する艦娘にも適応されて、ほぼ1から戦術を構築し直さないといけなくなってしまった。

 

 その為、急ピッチで戦術の再構築と練度向上を進めているのだが正直に言って一国の一地域でできる事は、場所的にも艦娘や深海棲艦の数的にも限られているので、今はそこそこの練度になった艦娘を横須賀基地などの他の基地に派遣して海軍全体で練度向上に勤めている。

 そうしないと、深海棲艦がいる共同基地だけが練度が上がって少数精鋭になってしまう為、大量にいる敵対的な深海棲艦を相手取るには厳しいと言わざるを追えない。

 それに、敵が大軍でいる所に少数の兵力を小出しで送り続ける行為はガダルカナル島における一木支隊が壊滅した事例からもわかる様に、各個撃破される事から兵法において愚策中の愚策とされているので日本全体で大量の艦娘、しかも練度のレベルが最低でも30以上のの艦娘は必要だと思っている。

 

 理想を言えば、50前後の練度は必要だが30以下の低練度なら深海棲艦の格好の的だし、70以上はコストが掛かり過ぎて揃える余裕がないとの事でこの数値になった。

 

「やっぱり、水雷戦隊を率いる巡洋艦クラスは戦意が高いですね」

「そうしないと、ペナルティとして演習後に腕立てなどの筋トレが待ってますし、そもそも駆逐艦以下の艦娘達に格好悪い姿を見せる羽目になりますから」

 

 大規模な演習に対して、遠隔ドローンの中継で双方の戦闘を確認しているのだが、杉山さんと話し合っているとどうしても先行きが不安な展望が浮上するので、敢えて彼女達の動きに対する話題に移行した。

 何しろ、大小様々な演習を初めて数ヶ月で漸く平均がレベル10台後半の練度になった事から、1から始めている割にはかなりの速いスピードであるが全体ではまだまだと言った感じなので道のりが長い事この上ない。

 

「特に、率先して攻撃を仕掛ける艦娘を中心に練度の向上が凄まじいですね。このまま行けば、あっさり50まで行くんじゃないんじゃないかなぁ?」

「そうも言ってられませんよ。何しろ、演習はあくまで演習。装備を自由自在に動かせても実戦に参加する事以上のものは体験できませんから」

「確かに。戦場の痛みを体感しないと戦場がどう言った所なのかが実感できないな」

「だから転勤の条件をレベル30以上の練度と決めたんです。すぐに戦闘に参加しても問題ないとされる基準ですからね」

 

 楽観的な杉山さんに対して、深海棲艦の危険性を間近に感じてもしも離島棲姫達が心変わりした場合、日本の首都圏は壊滅する最悪の想定まで出来てしまう俺は現実的な事を言ってしまう。

 薄氷の上の安定、と言う事が今回の大規模侵攻によって明確になったのだが政府内部の雰囲気は、資源の輸入が面倒になったぐらいでこれまでの生活はまだまだ続くだろう、と言う妙な楽観が蔓延しているので最悪の場合は日本そのものを裏切って独自の勢力を作っても悪くないと思う。

 今はまだ、日本と関係を構築し続けていれば情報共有や資源の融通などの点で有効だから友好的に接しているが、離島棲姫達を無理に自陣営に引き込んだり、俺達の行動に対して妨害が目に余るようなら国を飛び出すのも悪くはない。

 

「にしても、率先して動いている艦娘の中で時雨と叢雲の活躍は凄まじい。××××、彼女達に何かしたかい?」

「特にこれと言って大した事はしていません。ただ、動機付けに持ってこいな物を用意しただけです」

「それは?」

「私個人の専属秘書艦です。つまり、彼女達を私的に囲い込む訳ですがその対価として率先して危険な場所に行ってもらう事にしましたので当然の結果かと」

「やるねぇ」

 

 そんな会話をしていると、杉山さんが駆逐艦の割に姫級の撃破判定がトップレベルで多い時雨と叢雲に注目して、俺に聞いてきたので理由を答えると彼はニヤリと笑みを浮かべた。

 何しろ、一見して浮ついた話が無さそうな奴が深海棲艦と言う異形種の他に艦娘と言う人間に近い存在を侍らせた挙句、近くに置こうと行動したんだから人間らしさを感じ取ったんじゃなかろうか。

 まぁ、人間らしさってなんぞや?って話になると議論が延々と続く事になるから何も言わないが、自ら人間性は捨てたつもりはない。あくまで深海棲艦に比重が傾いているだけだ。

 

「まぁ、それでも弾薬切れになった時点で負けが確定する訳ですが」

「事前に載せた搭載量ならギリギリで勝ている数で防衛してたら勝てないって」

「総当たりで戦うから負けるんです。最終目標を最短で攻略して、それを維持する様に防衛に当たれば勝てる筈の戦いでした」

「理屈ではそうなんだがなぁ」

「無理は承知の戦わせ方です。ですが、そうでもしないと今回の大規模侵攻に対処し切れないと考えています。後で詰められるでしょうがね」

 

 戦場の霧と言われるぐらい、実際の戦場と言うのは流動的で常に情報が不足している状態で戦わなければならない為、部隊を率いる指揮官クラスの人はその限られた情報から判断しなくてはいけない。

 つまり、最初から敵味方の戦力が全て判明している上に損害の規模を都合の悪さで上げ下げする様な旧海軍のやり方は、実戦から程遠いと考えているので実施する小規模〜中規模の演習の実測値や戦い方などを元に、敵戦力が不明確な状態で大規模な演習に当たらせている。

 要は、ゲームの勝ち負けのようにスッキリとした終わり方にはならないのだが、実際の戦闘でも同じ様な物なのでどうしたらもっと良い結果になったのかを各自で考えてほしくてこうしている。

 

 正直、その点を理解している深海棲艦は兎も角、それを理解できていない艦娘からの突き上げは中々のストレスになっているので根気強く説得し続けるしかなさそうである。

 

(全く、こんな苦労を背負い込む事になったんだから大規模侵攻を決定した連中を恨むぜ)

 

 その為、キリキリと胃が痛むのを感じながら演習の終了を告げるのだった。

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