転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
人間に限らず、生物が生きていくに当たって最低限、必要なものがある。
まずは、飲むのに適した水分とエネルギーを摂取できる食べ物、そして疲れた体を休ませて体力を回復できる場所の3点であり、これらがなければ生物は長期間に渡って生き抜く事はできないし、大衆を扇動できる大義名分なんてものは塵紙以下の存在でしかない。
幸い、日本は国家そのものが消滅した欧州各国から距離があるので、海上保険の値上がりや需要が急上昇した化石燃料が輸入コストに反映される程度で済んでいるが、だからと言って安全かと聞かれればNOと言わざるを得ない。
何しろ、経済を回す為に必要な各種資源を輸入に頼っている日本において輸入できなくなった時点で詰みであり、そんな状態になったのが太平洋戦争末期の日本本土である。
つまり、何が言いたいのかと言うと
「可能な限り、食料は自前で用意しろとか無茶振りが過ぎる」
「仕方ないんじゃない? 政府も政府で長期戦に備えて缶詰やレトルト食品の増産に勤めている訳だし」
「寧ろ、私達は魚が食えればいいがなっ!」
「そうだね!」
「うーん、この」
往復の期間も含め、およそ半年間の長期遠征に必要な食料を自前で用意しろと言う政府からの無茶振りに頭を悩ませている状態だと言う事だ。
一応、金を無尽蔵に使って関係各所に頭を下げれば用意できるのだろうが小規模な先遣部隊に、余計な金や資産を消費するのは本来の戦争に向けて余りにも頭が悪い方法でしかない。
食料だけを用意しても、消費する奴がいなければいずれは痛んだり、腐ったりして食べれなくなるのだから作戦に参加する部隊が作戦が終了するまで、戦える程度の量を事前に計算して準備するのが好ましい。
幸い、移動に必要なモノホンの船舶から燃料・弾薬と言った実際の戦闘に必要な物は政府の方で賄ってくれる、との事を聞かされているのでそっちの負担が軽減されるのは助かる。
まぁ、無茶振りをしてくる政府を全面的に信用できないから弾薬に関してもある程度、こっちで用意にする必要があるのだがそんな俺の悩みなんてお構いなしにレ級やほっぽちゃんの能天気な発言に深いため息を吐いた。
「離島がまともに答えてくれる奴で助かるよ」
「私達が馬鹿だって言いたいのかー!」
「のかー」
「実際、まともな回答は期待しない方が良いわよ? この子達、人間社会で言う所の脳筋タイプとか、アホの子とかの類いだから」
「そうか」
薄々、勘付いていたが深海棲艦にも考えるのが苦手なタイプはいる様である。
人間社会でもそうなのだが、どうしてもそう言った考えるのが苦手な人物がいるので俺としてはそう言った奴に対して理解できる様な説明をしたい所ではあるが、脳筋タイプに関してはどうしようもないので時期が来るまで待ってもらうしかなさそうである。
まぁ、そう言った輩がいるからルールなどの抜け穴を見つけて最短距離で進める場合があるので上手く扱うしか方法がないだろう。今はまだ、こちらにも余裕があるしね。
「んで、何か言いたげだな。武蔵」
「あぁ。なんであそこまで充実した布陣に突っ込ませる様な演習を行なったんだ?」
「演習前にも語ったが、深海棲艦の侵攻から既に数ヶ月が経過して戦線が停滞している以上、強固な陣地を構築している可能性が非常に高い。特に、物資の陸揚げに使われている大型の港付近は奪われたらそれだけ、被害がデカいから警護も充実しているだろうしね」
「それは何度も聞いた。だが、あそこまでガチガチにする必要はないだろう?」
「それだけ、厳しい戦いになるって言ってんの」
やれやれ、連合艦隊の旗艦を勤めた経験のある武蔵ですらこんな認識なんだから、より小さい艦娘達の説得なんて無謀だと言う事は組織の上に立った経験が少ない俺でも分かる。
なので、説得は諦めてただ事実を並べて公表して周知させるしかないのだが、これがまた時間の掛かる作業なので苦労が絶えないなと思いながら1つの報告書を読み進めていった。
それは、食料自給率を向上させる為の各種研究と建築だ。
現在の日本において、食料自給率はカロリーベースで4割を切っているので海外からの輸入が不安定になる前にある程度、自国で生産できる様にはしておきたいって言う日本人としての考えだ。
いくら、国に対して不信感を有していようが本気で裏切って深海棲艦側に付くまでは、半民半官の民間軍事会社のトップとしてできる事を最大限やっていこうとは思っているしね。
その為の第一弾として、共同基地から程近くに投機目的で建設中だったタワマンを買い取って内装を大幅に変更、内部を大規模な水耕栽培の栽培場にして試験的な実験場にしようと考えている。
長年に渡り、東京などの都市圏へ大勢の人が流れている関係で農業従事者の減少がネックになっているのはよく言われているが、問題なのは農村部に対して交通の不便さや娯楽の少なさ、仕事に対する給与の少なさや農作業が大変さなどの複数の要因が重なり合っていると個人的には思っている。
その上、少子高齢化によって数十年に渡って人口の減少が続くと考えられるので全体の成り手が減り続けるし、そもそも耕作地も地域ごとでやり方が全く違う日本本土の国土では統一したやり方ができないのもネックだと言われている。
その為、農業従事者やこの世界における農協にあたる組織と言った既得権益からの反対の他に、水や電力と言ったコスト面で誰もやって来なかった大規模な事業を始めようと思っている。
元々、株や投機なんかで儲けた引き篭もりの成金みたいなモンだったから一種の道楽的な考えの他に、当事者として軍事に関わる段階で強く意識する様になったのは安定した食料や燃料などの補給が大事だと言う事だ。
この世界において、80年ぐらい前にあった深海棲艦との戦争では派閥争いはあっても、人類VS深海棲艦と言う構図からA国やUK国などの植民地を持っていた各国から資源などを輸入できていたから、空襲などの被害はあっても飢餓などに直面せずに乗り切れた。
しかし、前世で発生した太平洋戦争では緒戦で順調に資源がある東南アジアへ進出できたものの、東南アジアと日本本土の間を繋ぐ
結果は授業で習った通り、日本が負けて飢餓やら何やらが発生する事になる訳だが、海外からの輸入ができなくなったら国民の大半が困窮するのは今世でも変わってない。
その為、今回の水耕栽培の事業化を目指していたのだが漸く施設としての建造が終わったので、後は水耕栽培に必要な機材の搬入を待つばかりなのだが読み進めていた報告書に興味を持った時雨が横から覗いてきた。
「食料自給率の向上?」
「そ。前々から水耕栽培を大規模にできないかなぁ、と思ってたから今回の大規模侵攻を契機に試験的に導入しようと思ってね」
「正気か? 今まで誰もやってこなかった事業だぞ?」
「だからこそだよ。現状、失業率は上がっているのに農業従事者の数はそこまで増えていない。つまり、誰もやりたがらない仕事って事だからその隙間を行くのさ。幸い、数年分の資金はあるしね」
実際、資産運用と言う点で集積地棲姫の腕前はかなりの物で現在、共同基地に在籍している深海棲艦と艦娘を数年間は食わせていけるだけの金額になっている。
そう言った背景から、溜まりに溜まった資金を有効活用しようと思って水耕栽培の事業化を進めているのだが、上手く行けば規模は共同基地に限定されるが食料供給を自分達で賄う事ができる。
勿論、戦争の影響の他に政府の方針で電力や水道が止められるリスクもあるが、人手が必要となる耕作地を維持するよりもコスト面で安くなる可能性を秘めているので、俺個人としては強く推し進めたい。
そう言った思いから、執務室に集まっている離島棲姫達、深海棲艦や武蔵や時雨と言った艦娘達と水耕栽培について話し合った。