転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。)   作:八雲ネム

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第47話 出撃

「なんとか、形にする事はできたが果たしてどれだけの艦娘が帰ってくる事やら」

「まぁ、今回の遠征から帰ってきたら転勤する事を許可してるからやる気だけはあるんじゃない?」

「そう甘く見てると痛い目に遭うっつーのが個人的な経験則さ」

 

 3月始めから始まった深海棲艦の大規模侵攻に対し、ツギハギではあるが最低限の訓練を済ませ、先遣部隊に参加できる程度の練度を艦娘達に施した頃に出発の時期が決まった。

 12月の初めに、スエズ運河がある紅海やアフリカ大陸の南端にある希望峰と繋がるインド洋に向けて出発する、との事で政府が指定した海域に向かったのを共同基地の埠頭で見送った俺は離島棲姫とそんな会話をしながら基地の建物に戻った。

 共同基地からの参加人数は80人、機密漏洩を懸念して艦娘のみで編成する事を政府から提示された為、共同基地に在籍している150名以上の艦娘の中で先遣部隊に所属しても問題ない練度がある艦娘に対象を絞った結果としてこの人数になった。

 

 とは言え、数十年に渡って溜め込んできた高練度の深海棲艦を数多く抱え込んでいる向こうに対して、こちらはたかが数ヶ月の訓練という付け焼き刃の練度しかないので、そんな艦娘達がどこまで戦えるのかが疑問なので最悪の場合、送り出した艦娘の全員が沈没したって驚かない。

 まぁ、送り出した艦娘の中には覚悟を決めた時雨や叢雲、戦いに参加したがっていた鳳翔さんや艦隊を纏める力を有する武蔵も所属しているので壊滅こそすれ、全滅まではしないと考えられる。

 その為、1割でも良いから生きて帰ってくれば次に経験を活かせるから良し、と言う組織のトップとしての覚悟を決めながら半年後の結果報告を楽しみにしながら執務室に入ると、今回の先遣部隊の選考から外れた特設航空母艦の春日丸が報告書を持って待っていてくれた。

 

「屋内食料生産計画の経過報告です」

「おう、確認しよう」

 

 春日丸の様な艦種の割に、船体が小さい艦娘は搭載できる燃料や弾薬の量、空母であれば艦載機の数が少ないので船体が大きい艦娘よりも継戦能力が劣る傾向がある。

 その欠点を、数でカバーできる程の艦娘を先遣部隊に組み込んで派遣できれば良かったのだが、そうすると先遣部隊の規模が大きくなりすぎて迅速に移動できないので数を絞って船体が大きい艦娘を優先した結果だ。

 その為、春日丸を始めとする軽空母や海防艦、駆逐艦の中でも排水量が少ない艦娘を中心に軽巡や潜水艦の艦娘が居残る事になったのだが、本土周辺の海域を守れるだけの戦力を残しているので、磨鎖鬼提督の号令を発して離島棲姫達が裏切ると言った余程の事がない限りは問題ないだろう。

 

「うーむ、やはり虫を経由して受粉させる野菜は無理だな」

「無理、でしょうか?」

「屋外、特に農地で栽培する野菜を管理しやすい屋内で栽培しようとしているんだ。虫経由で受粉する野菜は、品種改良でスギ花粉の様な風によって花粉を飛ばせるようにならないと到底、無理だろうねぇ」

 

 そんな事を考えながら、報告書を読んでいったのだが事前に分かっていた様に蜂や蚊と言った虫を経由して受粉する野菜は受粉できず、実を付けずに枯れてしまったようだ。

 ただ、意外だったのは調べていく内に日本人にとっては馴染みが深い米の元となる稲も屋内で栽培できるんじゃね?と思ってやってみたら、普通に実って収穫できたのでコストが釣り合うなら屋内での栽培も可能だと思う。

 ただ、ネックなのは稲を刈り取る機材が屋外で作業する事が前提の物しかないので、新しい機材を開発しないと栽培する機材を傷付けかねない。

 

 なので、それに関しては今後の課題だなと思いながら他の野菜に関しても内容を確認していくと、試験的に少数を導入した虫を経由して受粉する野菜は全滅に近い数値を出した。

 その一方で、風によって受粉できる野菜は野外で栽培するよりかは効率は落ちるが栽培は可能、栄養によって繁殖する芋類と豆類は普通に生産できたので、今回の栽培結果からすぐに行動できるのは芋類と豆類の生産を重点的に行う事だ。

 その為、今回は遊びの範疇だったので手が空いた艦娘や離島棲姫達に手伝ってもらえたが、今後は生産体制の維持・管理から収穫までをやってくれる人材の採用が必要になるので、こっちはこっちで忙しくなる。

 

(まぁ、惰性で生きていた頃に比べれば遥かに充実しているがね)

 

 

 

 

 

「やはり、難しいか」

「えぇ。国家として存続しているA国や現在進行形で激戦が続いているR国の艦艇は、向こうに妖精さんもいますからまだ可能性がありますが欧州の方の艦艇は国家として滅亡しましたから、拾い上げるだけでも難しいかと」

「まー地道にやっていくしかないな。造れないからやりません、は流石に通らんしな」

「はい」

 

 一方、海外艦の建造はA国やR国と言った深海棲艦から攻撃を受けても国家として存続している為、それらの国に属している妖精さんに手伝ってもらえれば建造できるものの滅亡した国の艦娘ともなれば妖精さんも一緒に消滅しているので建造が難航している。

 いわば、向こう側の技術は一種のロストテクノロジーになっているので妖精さんの力ありきで建造せず、専用の機材を造って細々と稼働し続けた先人達の判断に感謝するしかない。

 機材の再生産や手順の見直しなど、時間は掛かるが人類の手で艦娘を建造できる手段が残っていれば、仮に妖精さんがいなくなっても効率が下がるなどのデバフが掛かっても建造は可能だ。

 

 平和な時代なら、グローバル化によって自国でやるとコストが高くなる重工業をコストが安い途上国へ移転すると言う判断は、一見すると合理的ではあるが産業の空洞化と表裏一体なのでいざ戦争になると大量消費に耐えられるだけの生産体制がない。

 特にこの傾向が強いのは、国によって種類は違えど工業によって経済が発展・成熟した後で金融業に手を出すようになった旧西側諸国であり、サプライチェーンで金儲けはできたが国内の工業はガタガタになってしまった。

 その結果、今回の深海棲艦による大規模侵攻によって国家そのものが崩壊する羽目になったので、将来がどうなるかなんて分かったもんじゃないなと思うきっかけになった。

 

 とは言え、政府から年度末である3月までに生産できるようにして報告しろとのお達しが来ているのでできる事は全てやるつもりだ。

 

「それにしても………普通に仕事できたんですね」

「来てから半年ぐらい経ってるのに酷い事言うね、君」

「いえ、深海棲艦をけしかけて無理を押し通す方だと伺ってましたので」

「ひでぇ言われようだ。確かに、深海棲艦と(つる)んでいるが一応は秩序を遵守する側だと自認してるからね?」

 

 そう思いながら、溜まっていた事務作業をしていると普段はあまり関わりがないものの、日替わりで今日の秘書艦となった扶桑が根も葉もない噂を言ってきたので一応の反論はした。

 確かに、艦娘からすれば悪の組織の棟梁に見えるのでそう言った噂は根強いが、俺らがその気になったら日本が地図上から消えてもおかしくはない程の戦力を有していながら、未だに滅んでいないのは協調路線を取った方がまだ利益が出ると判断しているからだ。

 今後も長い付き合いになると思っているので、下手に倒れてもらっても困るからこうやって汗を流しているのだが、成果に対して認知度が低いせいで中々理解されないのが現状だ。

 

 まぁ、今はまだ下積みの期間でいずれは彼女達の認識をひっくり返せればいいと思いながら事務処理を続けていった。

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