転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。)   作:八雲ネム

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第52話 条約と派兵

 箆羅雄提督と日本政府の間で行われた本格的な交渉の結果、俺が基地長として割り当てられた役割は彼が指揮する深海棲艦との連絡所兼彼女達が来た際の受け入れ先に限定される事になった。

 それも当然で、正式に艦娘を運用できる国である日本と石油の一大産地である中東に加えて、各種資源を産出しているアフリカ大陸の東岸にアクセスできるインド洋の海面下で活動する深海棲艦を纏めている提督との条約締結なのだ。

 その間に、一介の基地長である俺では割って入れない上にそもそも太平洋にいる深海棲艦を受け入れて同居した挙句、今回の大規模侵攻前に発生した当時の大国から派遣された特殊部隊(観光客を装ったガタイの良い人達)を殲滅している以上、下手に動かれて反逆されたら困ると言う判断をされた様だ。

 

 只でさえ、欧州大陸に大規模な戦力を導入すると言う大変な事になっている上、インド洋から第二の大規模侵攻が発生したらユーラシア大陸の失陥は時間の問題だ。

 何故なら有史以来、国家レベルやそれに匹敵するレベルで行われた二正面作戦で成功した例はほぼないと言っても過言ではないからだ。

 ナポレオン1世率いる大陸軍(グランダルメ)然り、ちょび髭伍長率いる当時のドイツ軍然り、当時のC国大陸で戦争を行いながらA国との戦争に突入した旧日本軍然り。

 

 勿論、これらの国と戦った相手国の国土が広大で焦土作戦をしながら首都を移転して戦えた、と言う背景があったから負けたとも言えなくはないが、だからと言ってある程度の妥協をして早期講和を行なっていれば勝てなくとも負ける事はなかったと個人的には思っている。

 その上で言えるのは、箆羅雄提督が音頭を取って人類側に反旗を翻せば欧州大陸に兵力を送っている(ナンとカレーの)国は早々に堕ちると思っている上、複数国に跨る問題になるので今はまだ均衡が保たれている欧州戦線も崩壊は時間の問題だろう。

 そんな状況にならない様に、俺がインド洋まで出向く事も考えていたのだが箆羅雄提督はそこまで頑迷ではない様で、人類側の国家と一定の条約が見込めれば静観の構えを取る様な人だった。

 

 いわば、俺との交渉は政府との交渉に必要な試金石的な事だった様なので、下手に戦線が拡大しなくてよかったと安堵した。拡大していたら、経済の血液である石油の輸入がストップして日本は悲惨な事になっていただろうからな。

 そんな訳で、本格的な条約が締結したのだがその内容はインド洋における深海棲艦は締結後、数年間は人類側、特に日本へ運ばれる各種商船に対して攻撃を行わずに守るとの事だった。

 その見返りは人類側との技術交流であり、色々と興味があるとの事だったのだが政府として出せる範囲の技術に頭を悩ませる事になったのは暫くしてから聞く事になる。

 

 

 

 

 

「先遣艦隊の第二陣、出発します」

「おう。生きて帰ってこい」

 

 その言葉と共に、重巡利根を始めとする巡洋艦と駆逐艦を中心とした先遣艦隊の第二陣を送り出した。

 もしも、彼女達が適性型艦娘であれば遊びに行っていてもおかしくはない年頃であり、前世も含めれば最低でも50歳ぐらいになる俺からすれば複雑な気分になるが、今は平和な世の中でもなければ戦争が硬直化して安定期に入った訳でもない。

 ましてや、欧州各国の大半が消滅した事によってかなりの混乱が生じている現状において、能天気に平和な日常を送る方がおかしいと思うし、何よりも送り出した彼女達は船魂型の艦娘だ。

 

 自分達が戦う事に関してしっかりと理解しているし、戦う覚悟と言うのをしっかりと持っているので、帰還後の報酬やら休暇やらは必要になるが民間人を戦地に送り出す様な行為ではなかったのでそこまで気を使う必要はなかった。

 まぁ、そう言う民間人を軍人に仕立て上げるのに必要な心構えやらの教育に関しては、実際の軍隊に所属する方々に任せるつもりなのであまり気にならないものの、できれば1人でも多く生き残って欲しいと願わずにはいられなかった。

 

(散々、出させろ出させろと言っていた天龍も行っちまったしなぁ。こりゃ、暫く静かになりそうだ)

 

 第一陣となった前回の先遣艦隊は、主力艦である戦艦や正規空母と言った足の長い大型艦がメインだった為、彼女達の周囲を固める小型〜中型艦は横須賀基地を始めとする各基地に任せていた。

 これは各基地の意見を反映した結果とも言えるのだが、大量の深海棲艦が押し寄せるタイミングと重なった事から惨憺たる生存率になったので、結局は自前で用意する羽目になった。

 その為、天龍達も行かせる事になったのだが二線級の練度である彼女達も送り出した事でまた一から座学や演習をしないとなぁ、と溜息が出てしまう。

 

「随分と深い溜息だね。どうしたの?」

「いや、根こそぎ動員でスケジュールを組み直さないとなぁと思ってたんだ」

「あぁ、今回も大分送り出したからねぇ。残ってるの何人ぐらい?」

「32人。共同基地全体で214人だから15%ぐらいしか残ってねぇ」

「結構、送ったねぇ」

「あぁ」

 

 そんな訳で、1人で黄昏ていると日向が話しかけてきたので事情を話すと納得してくれた様だ。

 時雨や武蔵達を送ってから、新規建造も続けていたのだが他の基地との兼ね合いで割り当てられた資源で演習やらもしないといけない為、半年前の建造祭りの様に無計画に資源を突っ込む事はできず、足りない頭で必死にやりくりしていたのだ。

 その結果、どの基地よりも練度が上がったもののここまで持っていかれるとマジで建造と練度向上に注力せざるを得ない為、政府に対して暫くは戦力の抽出に応じれない旨を強く伝えてある。

 

 こうでもしないと、建造したばかりの新兵と同等の艦娘を激戦区に送り出す末期戦の様な状況になりかねないし、そうなると離島棲姫達から反発や不満が暴走と言う形で現れる可能性が高くなる。

 そうなれば、関東地区が戦場になる事を遠回しに伝えているので余程の阿呆が適当な指示を飛ばして強要でもしない限りは大丈夫だろう。腐っても国を舵取りする人達だしね。

 

「それにしても、どうしてここまで性急に派遣したんだろうか?」

「良い疑問だな。端的に言ってしまえば安定して海軍の戦力を供給できるのが日本だけだからさ」

「そうなのか?」

「あぁ、海軍の船と一口に言っても小さい奴でも排水量が数百トン、デカい奴になれば10万トンを越す様な物まであるからな。船としての強度の他にある程度の攻撃を受けても生き残れる抗堪性も求められる。80年以上も前になるとそういった船を造れる国となれば自ずと限られるのさ」

 

 河川だったり、沿岸部の限られた場所での運用であればそこまでの技術力は必要じゃないが、外洋に出て長期間の運用に耐えて多少の攻撃に耐えられるだけの能力を有する船を造るには、高品質な鋼材を生産して加工できる重工業が必要になる。

 グローバル化が進んだ現代なら兎も角、80年前ともなればそう言った船舶   特に海軍が求める戦闘艦を造れる国は限定的なので一種の国家事業と言っても過言ではなく、海軍の花形である戦艦は国の象徴とも言えよう。

 その為、今の艦娘を運用できるのは日本の他にA国とUK国、(ビールとウインナーの)国、(パスタの)国、(トリコロールの)国、(ウォッカの)国がメインで後は(北欧の)国なんかが続く。

 

 しかも、今回の大規模侵攻によって欧州大陸の国々はR国を除いて滅亡しているし、R国は当事者なので論外なのは当然としてA国内は内乱に近い状態に陥っているので他国に構っている余裕がない。

 そんな訳で大西洋は兎も角、インド洋側の警備が日本にお鉢が回って来たので慌てて送る事になったのだが、ズルズルと根こそぎ動員が続けられると練度の維持は不可能だから今回限りにしてほしい所ではある。

 

「理由はわかったさ。けどさ   

「それに関しちゃ   

 

 そう思いながら、日向との雑談を続けるのだった。

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