転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
(やっぱり、デカいなぁ)
離島棲姫の導きにより、深海の中でも怨念の溜まり場とも言える場所にやってきたのだが、その中心にある炎はキャンプ場に於ける特大のキャンプファイヤー並の大きさだった。
何しろ、燃え上がっている炎の高さが10メートルはありそうな程に高い上に直径も高さと同等の太さだったのでそれだけ、海で亡くなった人達の想いが溜まっていると言えるのだが、離島棲姫が言うにはこう言った溜まり場と言うのは他にも複数あるらしい。
有史以前から、営々と紡がれてきた海と言う自然の営みとのやり取りで無念にも散っていった人達の想いは形を変えながら、時には浄化される事もあれば海に関連する怪異や深海棲艦の様に実体として現れる事もあると言う。
その為、真剣に彼らの思念とも言える炎と対面していると離島棲姫が手順を改めて伝えてきた。
「来る前にも言ったけど、彼らとの対話に人間の言葉は不要だから。只々、己の目的を思念として伝えて対話して頂戴」
「………分かった」
「怖いの?」
「怖くないと言ったら嘘になる。だが、ここで躊躇っても先には進めねぇからな。だからまぁ、やれるだけやってみるさ」
「そう。それじゃあ、行ってらっしゃい」
「おう」
人間と言うのは程度にもよるが、自分が知らない状況に陥った場合は予想が付かずに恐怖を感じる様になっている為、怨念の塊を目の前にして軽く怯んだのだがここで止まる訳にもいかない。
いやまぁ、ここから逃げ出しても誰も咎めないだろうが語学力だったり、ビジネスマナーだったりが微妙な俺からすれば折角の機会な上にここでやらなければ交渉の場で不利な発言をしかねない。
呼ばれている会議の前に、事前の打ち合わせがあるのでその内容にもよるが深海棲艦を交流があり、共同基地を管理する立場として必ず発言を求められる場面があると思われるのでできるだけ、共同基地に有利な交渉にしたいと思いながら一歩を踏み出した。
「ぐっ………あっつい。肉体はないのに熱い」
人間の体は、深海の水圧に対応できないので魂のみを連れてきてもらった為、肉体的な感覚は感じにくい筈なのだが熱く感じるのは魂を介して肉体が熱く感じるのか、或いは魂そのものに熱さを感じさせるものがあるのかのどちらかだろう。
まぁ、だからと言って足を止める理由にはならないので溜まり場の中心にある怨念の塊に向けて近づいたら、それに比例して上がる熱量を感じながら怯む気持ちを押さえつけながら歩みを進めた。
そして、塊の直近まで近づくとサウナよりも遥かに熱く感じたので今すぐにでも逃げ出したい気持ちになったものの、意を決して両手を突き出して怨念の塊に両手を突っ込んだ。
「 」
その瞬間、あらゆる感情や記憶が大量に流れ込んできたので思わず、手を引っ込めてしまった。
(これが怨念の正体か。そら、そう簡単に読み取らせてくれねぇよな)
そう。人間の感情と言うのは、機械の様なONとOFFのどちらかに割り切れるものではなく、どうしても混ざる部分ができてしまう。
今回の場合、自分達の無念を理解してほしいと言う気持ちとそう簡単に理解してほしくないと言う気持ちが混在している為、一筋縄ではいかない厄介さがあるので腰を据えて対話をする為に気合いを入れ直してから改めて両手を突っ込んだ。
「 どうだったかしら?」
「話は済んだ。色々と教えてくれたから今後の交渉事に活かせそうだ」
「そう。なら良かったわ」
「おう」
結果から言えば、正に言葉は不要!と言うのが1番しっくり来た時間だった。
いやまぁ、語学のレッスン時に喋る事はあっても基本的に必要な情報は頭に直接、流し込まれる状態だったので教えてもらう時間はそこまで多くなかった。
逆に、時間が掛かった部分は怨念である彼らの説得であり、人間であればすぐに乾涸びてしまうレベルの熱を俺に浴びせる割にはうんともすんとも言わないので、彼らが根負けするまで待ち続けなければいけなかった事にはまいった。
とは言え、こちらにもこちらの都合と言うものがあるので彼らが根負けするまで居座る事で語学に限らず、色々と教えて貰えたのだから来た甲斐があった所か、余りあるぐらいのものを貰った。
(現時点で必要な知識は得た。後は経験を重ねる必要があるな)
そう。知識を得た今の俺に必要なのは経験であり、どんなに凄い知識を得たとしてもそれを有効活用しないと実感として感じにくい部分はあるので、会合への不安が楽しみに変化したのを喜びながら肉体への帰路に着くと離島棲姫がこんな事を聞いてきた。
「そう言えば、どうやって彼らを説得したのかしら? 普通なら怨念に飲み込まれて彼らの一部になってしまうのに」
「あぁあれね。ただ単に、対話の意思を示し続けただけで特にこれと言って難しく考えずに飛び込んだまでさ」
「ふぅん。まぁ、良いんじゃない? たまに命は投げ捨てるものとかボヤいてるし」
「必要なら投げ捨てる手段も取れるってだけさ」
実際、取り込まれたら取り込まれたらでそこまでの人間だったって事で諦めが付くし、空いた共同基地の基地長の席は他の誰かが座るだろうから問題はないだろう。指揮下にある艦娘は困るだろうが。
それに対話できたら案外、気さくな奴らが多い感じを受けたので必要になったらまた来るかもしれない。状況が状況だしね。
そんな訳で、元の場所に帰還して目覚めると思っていた以上に寝汗をかいていた様で、背中側を中心に服がびしょ濡れになっていたので布団も含めて洗濯が必要だなと思っていると、怨念の溜まり場への水先案内人として添い寝していた離島棲姫が話しかけてきた。
「おはよう」
「おはよう。今日も可愛いね」
「煽てても何も出ないわよ」
「知ってる」
添い寝自体、何度もされているので今ではなんとも思わなくなったが今回の様な何かしらの理由で深海への導きが施された際は毎回、こう言った声がけをする事で夢か現実を区別して魂と肉体に異常がないかを確認している。
ハガレンで表現された魂と肉体、その両方を繋げる精神みたいな物で魂だけでは現世に留まれないし、肉体だけでは朽ち果てるだけなので離島棲姫曰く精神と言う紐で両者が繋がっているらしい。
魂やら精神やらはまだ、科学的に解明されていない分野なので素人の俺では何も言えないが、怨念の塊との接触で魂自体に対して否定する理由がなくなった。
しかも、彼らの知識によって動画共有サイトで流れる外国語の動画や海外のネット記事に書かれている文章などは翻訳を介さずに理解できる様になったのはありがたい。
後は、打ち合わせでどう言った方針で会合に臨むのかを政府と話し合おうと思いながら、日本艦娘の蓮度に追いつこうとする海外艦娘達を支援しながら日頃の業務を進めるのだった。
因みに、怨念の塊と対話を経て無事に生還できる可能性は離島棲姫達と仲がいい俺だからできた行為であり、普通の人がやったら近付いただけで精神に悪影響を与え、接触すれば異常をきたして目覚めた時には精神病院にぶち込まれるレベルの廃人になると後日、離島棲姫から聞いたので彼女達と仲良くなっておいて良かったと安堵したのだった。
主人公の場合は離島棲姫達、深海棲艦と懇意にしているので彼女達を介して彼の人となりが怨念に伝わっていたのも大きいですね。
でなければ怨念の塊に飲み込まれて無事に帰ってこれませんでしたから。