転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
「………大丈夫かい?」
「大丈夫な訳あるかクソッタレ………最悪だ………最悪の部類に入るぞ、これ………」
R国を始めとする核兵器を保有する国々が欧州大陸で核兵器を使用する、と言う北斗の拳を始めとする世紀末を題材とした創作物ですら本気で起こるとは思ってもいなかった事態が発生した事に動揺を禁じ得なかった。
いずれ、使うであろうと頭では理解していたものの実感していたかと問われれば否と言わざるを得ない精神状態だった為、落ち着くのにある程度の時間が必要だった。
「ふーっ、すまんな。時雨」
「ううん、大丈夫」
「これからの世界は気象異常によって更に荒れるだろうね」
「確か、巻き上げられた粉塵が上空に滞留するから気温が下がるんだっけ?」
「そそ。当初の予想だと100発辺り1〜3度の気温低下って言われてたけど、ここまで打ち込まれたらどれぐらいの気温低下なのか、見当がつかない」
実際に使われてしまった以上、どうしようもないと思っているし、彼の国の状況を鑑みれば使って当然なのだが個人的に懸念しているのは使用後の気象についてだ。
前世において、核兵器が使われたのはWW2時の広島と長崎に投下された原爆2発分だった上、言い方は悪いが未成熟な兵器だったが故に被害も周辺地域にいた人達に影響が出ただけの限定的な兵器だった。
また、当時の保有国がアメリカだけだった為に核兵器による報復が行われる核戦争が発生しなかったし、その後の歴史において核戦争が発生しかけたのはキューバ危機ぐらいだった。
少なくとも、前世の俺が生きていた時代は実験以外では冷戦時から核兵器が使われる事はなかったとは言え、実際に使われた場合の事を考えるのも人間と言う事である程度の想定はされていた。
その想定も、あくまで人間同士が互いの国家が消滅する核戦争レベルのものか、消滅とは行かなくとも大ダメージを与える程度のものかであり、深海棲艦を相手に大規模な熱核攻撃を行う事を想定していなかった。
そもそも、深海棲艦が長い年月を経て大規模な侵攻を行う事すら想定できていなかったから仕方のない事ではあるのだが、推定で1,000発以上の核兵器を使った後の気象がどうなるかは研究者じゃない俺からすれば見当が付かない。
ただ、巻き上げられた粉塵が上空に滞留して太陽からの熱と光を遮るから、気温低下と日照不足のダブルパンチで農作物にかなりの影響が出るのは確実な為、農作物の生産不足からの食料品を中心に値上がりする事はほぼ間違いない。
「予め、食料を自給できる体制を作っといてよかったね」
「元々、政府から自分達で食料を生産しろっつーお達しがあったからねぇ。偶然の産物とは言え、運が良かった」
「問題なのは日本全土でやってるかどうかだと思うよ?」
「そうなんだよねぇ。国がどこまでやってるかだ」
一応、インド洋に遠征する艦隊を派遣した際に製作した水耕栽培用の建物を拡充しながらフル稼働して、共同基地への食料供給に影響が出ない様にするつもりだが核兵器を使用した事でどこまで寒冷化するかがわからない以上、こちらのできる事に限りがある。
その為、共同基地の代表として政府に水耕栽培の促進を提言するつもりだが、危機的状況に対して下手な考えで逆に足を引っ張る様な事になったら日本も終わりだなと思う。
何しろ、国が崩壊するのは決まって国民を困窮させて食料と娯楽、言い方を変えるとパンとサーカスを与えられなくなった段階で国民からの暴動は必至だし、国が混乱すればその隙間を狙って他国が攻め込んでくる場合が多いから碌な事にならない。
政治家は兎も角、各省庁の官僚もその事に気付かない筈がないし、気付いても言い出せなければこちらから強く提言するつもりだ。俺はまだ、政府に不満はあっても見放してはいないしね。
☆☆☆☆☆
「ここに来るまでに見た街中は酷い状況ですね」
「近々、戦時に移行するって話だからな。その影響か、関東地方の会社や企業も休業して街は失業者で溢れかえっている。場合によっては強制疎開からの一次産業及び二次産業の働き手にするかもしれない」
「戦時を言い訳にした強権的なやり方ですね。とやかく言える立場ではないので何も言いませんが」
「そうでもしないとやってられん。何しろ、A国の代わりに
「ですね」
資源が少ない日本にとって、海外との貿易は車などの輸出と石油などの輸入によって成り立っているのだが食料に関しては輸入に頼っている部分が大きい。
野菜などの生鮮食品は国内自給で賄える範囲が広いのだが、畜産系は飼料となるトウモロコシなどの殆どをA国などから輸入している為、どこか1ヵ国でも輸入がストップすれば買い付ける値段が上がって、それが商品価格に上乗せされてしまう。
それは化石燃料も同じであり、兵器を大量生産大量消費しているR国を始めとしてC国やI国で化石燃料の需要が高まっている為、石炭や石油の自給率が皆無な日本にとってはかなりの痛手になる。
それに加え、輸出産業も欧州が滅んでA国が内戦状態になった事から需要減からの生産ライン縮小と言うコンボが決まってしまい、仕事がなくなった事でリストラにあって失業者が増えたとの事だった。
「所で、君の所に身を寄せている艦娘の調子はどうだった?」
「話を聞いた時はかなり荒れましたね。欧州で建造された艦娘を中心に、ですが」
「彼女達の反応は当然だ。メンタルケアは入念にな」
「承知しております」
定期報告として毎月、報告書を政府の方に挙げているのだがそれとは別件でオフレコも含めた内容を定期的に対面で話す様にしているのだが、首相補佐官から派遣が近い事を暗に伝えられたのでそこは抜かりない様にしないと、後で色んな部署から詰められるのでしっかりやるつもりだ。
そんな思いと共に、首相補佐官と幾つか話してから帰路に着いたのだが都心から九十九里浜に向かう為の高速道路に乗るまでの道中、人が閑散としていて数年前まで世界で最大規模の都市の活気が消えていた。
「辛気臭くなったな」
「………あぁ、どこもかしこも不景気だからな」
「なら活気を取り戻さないとな」
「あぁ」
その光景を見て、同伴してきたスーツ姿の長門が相槌を打ってきたので決意を固めた。
共同基地は民間軍事会社である以上、食料は勿論だが娯楽も提供できない以上は深海棲艦の大規模侵攻を終わらせて、世界規模で復興に向けた活動を行わせる為の一端を担う会社として活動を行うつもりだ。
その為にはまず、海外艦娘達のメンタルケアをどうやってするかなと思いながら共同基地へと向かった。