転生一般人は深海棲艦や艦娘と静かに過ごしたい(旧題:何故か、深海棲艦がたむろする様になりました。) 作:八雲ネム
翔鶴姉妹が来た後、当然ながら離島棲姫達との生活は順調に進まなかった。
何しろ、短絡的な妹とそれを止めれない姉に対して旅館だった建物に住み着く事が目的の離島棲姫達とでは、認識の齟齬から考え方が真逆だったりと艦娘と深海棲艦の違いが浮き彫りになったからだ。
その為、担当者との何度目かの打ち合わせでその事を伝えるとかなり言い難そうだったが、噂話であるとの前置きを言ってから話してくれた。
「実は軍内部は勿論、政府からしても艦娘廃止論が持ち上がっているんです」
「時代遅れの艦娘に変わって自分達で国を守る、或いは古い兵器はコスト的に無駄、と言った感じですかね」
「それもありますが何より、今は軍の方針として深海棲艦よりも近隣諸国を仮想敵国にしている節があります。公式上、深海棲艦は存在しない、或いは人類の前には姿を現さないとしているので」
「なるほどなぁ。いない敵よりも目の前の敵に集中する。当たり前の反応だわな」
要は、先の大戦で深海棲艦は海底に引き篭もっていてそう簡単に姿を現さない以上、近隣諸国を仮想敵国として活動しているので艦娘を不要とする派閥の意見も相待って、手持ち無沙汰な艦娘をこっちに寄越したと言う事である。
身近な例で例えるなら、災害のリスクがあると言われても普段からそれを意識して生活している人がどれだけいるか、と言う話になってくる。政府の役人でもなければ軍人でもない庶民の俺からすれば迷惑な話になるが。
とは言え、国の決定である以上は余程の事がない限り、従うしかないので話を変える事にした。
「そう言えば、補助金の話とかって何か進展ありましたか? そろそろ具体的な案が出てもおかしくないと思いますが」
「確定事項ではないのですが、一人当たり年100万まで出る案が有力ですね。レシートなどの証拠を提出してもらう必要がありますけど」
「その額が多いか少ないかは別として、貰えるだけでもありがたいですね。彼女達が増えれば増えるほど、生活に必要なお金は増えますから」
「彼女達は日頃、どうしてますか? 周りには何もないと思いますが」
「普段は浜辺に行って海水浴や釣りなんかをしてますね。やはり、生活の基盤が海と言う事もあって寒さ耐性はかなりあると思います」
正直に言って絶賛、苦労している最中なのだが瑞鶴達を替える様に何度も頼んでも他に担当がいない、との一点張りらしいのと様子見で他の艦娘来るかとも思って待っても殆ど来ないので半ば諦めている状態だ。
割りかし、離島棲姫を拾っただけでどうしてこうなったと思わなくもないがその反面、良い事もあって政府が過疎化している街の買い取りを積極的にしているとの話を聞く事ができた。
今までは綺麗な浜辺ぐらいしか、街の観光産業がなかったのに深海棲艦が現れた事によって、研究施設が立ち並ぶ政府直轄の街に様変わりする予定なので用地の買収を積極的に行なっているらしい。
法律による煩雑さと住民の反対意見が出るかもしれないが、そこは札束でぶん殴る事で解決するだろうなぁと思いながら、担当の女性と必要なやり取りを終えて見送ろうと玄関に向かうと、今も深海棲艦と言い争いをしていたであろう瑞鶴が担当の人に食ってかかった。
「ちょっと! いつまでここに居ろって言うのよ!」
「それを決めるのは貴女の上官である松浦中将です。文句を言うならそちらにどうぞ」
「言えないから聞いてんじゃない!」
「なら私からは何も答えられません」
ここまで、瑞鶴が食ってかかるには理由があって艦娘になる前は都心の方で暮らしていた普通の女子中学生だったのだが、高校受験の際に受ける身体検査で艦娘の適性がかなり高かったらしい。
その為、待遇や給与面に惹かれて艦娘になって海軍に入ったはいいが中身は人を見下す様な女学生だったので、休暇中は給与の範囲ではあったがかなり散財していたらしい。
普通なら、上官やら周りから咎められるのだが彼女は学校での成績が優秀だったのに加えて、人に取り入る事が巧かった為にここに来るまで咎めようにも本気で咎められなかったらしい。
その結果、松浦中将の秘書艦と言う地位を得る事ができたのだがそんな彼と共に、深海棲艦が現れたとの事で俺の所に来たのが運の尽きで冴えない風貌の俺に対して、話が進まない事に苛立って拳銃を持ち出したのが決定的になった。
それまで、松浦中将も含めて溜まりに溜まった不満が噴出してお礼参りじみた様々な証言によって、それまでの評価が反転してここで深海棲艦の監視任務に就くと言う転落劇の主人公をする事になった。
これが創作物の中なら、復讐なり見返したい気持ちなりでのし上がっていくんだろうが、所属している組織が軍隊である以上はそいつ個人に突出した能力がないと難しいだろうな。
しかも、現実では最初に踏み台にされるであろう俺の周りには深海棲艦が多数いるので、未知の兵器を搭載した某宇宙戦艦や宇宙空間で数千隻が1つの艦隊として動く某英雄伝説に出てくる戦闘艦とかじゃないと難しいだろうし。
それでも、復讐や見返したいのであれば地道に実績を上げるか、軍を抜け出して独自の道を行くしかないのだが今の視野狭窄に陥っている瑞鶴には難しいだろうな。手っ取り早い方法でやりたがっているし。
その為、キレてる瑞鶴は翔鶴と担当の女性に任せて集積地棲姫に貸し与えた部屋に向かった。
「どうだい?」
「ソコソコノ利益ガ出ル様ニナッタ。コノママ、上手ク行ケバ費用ノ足シニナリソウ」
「ふむ、確かに順調に増えてるな。その内、本格的に任せるかもしれないからその時はよろしく」
「ワカッタ」
彼女に任せているのは離島棲姫達、深海棲艦が来る前からやっていた投資やらの仕事の一部であり、資産の一部を専用の銀行口座に避難させて大損をこいて素寒貧になった際、新たに使う種銭の1つである100万を彼女に預けたのだ。
期間は1年、その間に可能な範囲で資産を増やす様に伝えた結果、最初は赤字だった物のすぐに黒字になってたった数日で1.5倍の150万まで増えていた。
たかが50万、と思うかもしれないが投資の世界において素人が稼ぐには大き過ぎる金額なので、定期的に見守りながら期間内は彼女に任せながら集積地棲姫と話し込んでいると翔鶴がおずおずとノックをしてきた。
「どした?」
「話が終わりました」
「それで結果は?」
「当面はここに居る様にとの事でした」
「そうか」
正直に言って、こちらとしても一刻でも早く瑞鶴を引き取ってもらいたいのだが、軍としてもそう簡単に吐いた唾は飲めないと言う事なのだろう。
面倒事は続くよ、どこまでもとため息混じりに思いつつ、話を続けた。
「話は分かった。担当の人は帰ったんだよな?」
「はい。車で帰るそうです」
「なら問題なかろう。それよりも夕飯の支度を手伝ってくれ。1人だと時間が掛かるんでな」
「かしこまりました」
この世界に転生し、深海棲艦を通して艦娘と触れ合える様になったけどここまでネガティブな要素を知ると、転生前の艦娘でハーレム築きたいと言う願望が木っ端微塵になりそうで困るんだよな。ただでさえ、ベコベコに歪んでいるんだけどさ。
あぁ、早く解放されてぇと思いながら翔鶴と共にこの旅館に住まう住人達に振る舞う夕食の準備をするのだった。