杖で床を叩いて、ベットに座ります。そしてぼぅとします。
私の夜までの生活は、退屈そうだ、とよく言われます。でも、私はそうは思っていません。何の才能もなく、目も見えない私ですが、どうやら、ぼぅとすることと、耳を澄ませることには自負があります。
なので私は、朝から昼にかけて、ずっとぼぅとしときます。
そして、偶に聞こえてくる動物たちの鳴き声や、この建物内の人の声や生活音などに耳を澄ませれば、あっという間に夜ご飯の時間になります。
このような日々を私は恐らく15年ぐらい続けています。
もちろん、誰かが私に話しかけたり、何かしたりをする時もあります。
ほとんどはあまり変化がない日々を送っています。だから、今日のように色々ないつもはないことが起きる日というのは、限りなく少なかったように思います。
鍵がまた開きます。そんなふうに鍵が開くのは朝と夜しか普段はないのですが。
「おはよーう!」
女か男かよくわからない中性的な声が部屋に響きます。恐らく、いつもの医者でしょう。
「久しぶりだね。フォルトゥナちゃん」
やっぱり。夜に、私にいつも変なことばかりするミセランという医者です。
確か昨晩も私と彼は会ったはずですが。
「どう?最近お腹が空きやすくなったり、吐いたりしなかった?」
「お腹は減ります」
「ふむふむ。どれどれ、ちょっと確かめようかな。さ、さ、ベットに横たわって。」
どうやらいつの間にか、私の隣まで来ていたらしく、私が横になる手助けをしてくれます。彼は足音をあまり鳴らさないので、どこにいるのかが予測しづらい人の1人です。慣れましたが、やはり相手がどこに居るのかわからないというのは、少し怖く感じます。
私が横たわると、私のお腹あたりが少し温かくなります。
恐らく何かしらの魔法を使っているのでしょう。今は夜でもありませんし、あの部屋に居る訳でもないから、変なことはしないと思いますが。やっぱり怖いです。
「お、予想通りだ。ちょっと残念だけど。」
彼の声はどこか嬉しいと残念の2つの感情が混じっているようです。
何が予想通りなのか、何が残念なのか、知りたいところですが、こういうのには口を挟まない方が良いと私は知っています。
「フォルトゥナちゃん、これから頑張ろうね」
優しい言葉が投げかけられます。何を頑張るのかはよくわかりませんが、とりあえず頷いておきます。
「ん〜!それにしても可愛いなぁ〜」
彼が私の頭を撫でてきます。彼はよく私をこんなふうに撫でたりして可愛がってくれます。
「こんな綺麗で触り心地のいい白髪!肌とかも白くてすべすべだし。ぜったい栄養とか足りてないと思うのにねぇ。」
彼が私の短い髪をすきながら、私の閉じた瞼にキスをしてきます。
「フォルトゥナちゃんはどんな目をしていたんだろうねぇ。こんな器量よしなんだから、別の子が使われば良かったのに。」
心底残念そうな声で彼は言います。彼は時々、私が無知なのをいいことに今のように変なことをいいます。でも、自分で言うのもなんですが、周りの人達からはよく可愛いとは言われます。もっとも、私は自分の顔なんて見たことないのですが。
「まぁ、また夜会おうね。」
彼は名残惜しそうにして、私を抱きしめたあと、鍵を閉めました。本当に足音がまるでないことには感心します。
私は横たわったまま、ぼんやりと考えます。彼が私に対して言った言葉の意味を、無知なりに考えるのです。夜までは、まだ長いですし。
私は目が見えません。なので、些細な言葉さえも無視したくないのです。
曇らせはまだ。