Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Remember me to one who lives there,
For she once was a true love of mine.
※
「先輩、まだ連絡取れないんですか?」
同じサークルで親しくしてくれている大類先輩の彼女と連絡が取れなくなってもう5日になる。
「ああ…」
先輩の声も暗い。彼女との仲の良さはサークル内でも有名だったから突然音信不通になって心配なのだろう。
「今日は付き合ってくれてありがとうな」
僕たちは今、先輩の彼女が住んでいるアパートへ向かっている。成人した人間がちょっと連絡が取れなかったからと言って警察は取り合ってくれなかった。先輩は何か手掛かりがないかと彼女の部屋を調べるというのだ。
「鍵は家族に借りてきたから、やっぱり家族にも連絡来てないらしい」
成人してるんだから彼女とお互いに合い鍵を持ち合えばいいのに、変に硬いところがある。こういう所が彼女の家族にも信用される理由なのかもしれない。
「そろそろ向かいましょうか、ナビお願いします」
話によると彼女の部屋はそう遠くないらしい。僕は暗い空気を纏っている先輩から目を背け、ハンドルを握った。
※
到着したのは新しめな4階建てのアパートで、僕たちは来賓駐車スペース車を置いて部屋へ向かった。アパート自体も手入れが行き届いていて廊下も明るい。自分の安アパートとは大違いで、彼女はずいぶんと家族に愛されていたんだと思う。
階段を上って2階の一番奥が彼女の部屋だった。
「ここだ、入るぞ」
鍵は抵抗なく鍵穴へ刺さっていく。
部屋に入り見えるのはソファーにローテーブル、上にはノートPCとマグカップ。奥にもう一部屋あってそこが寝室らしい。良く言えば片付いているが、あまりものがない質素な部屋。
「先輩、この部屋にはよく来るんですか?」
「前に来たのは1週間前かな、泊りでさ」
泊りでということは先輩は彼女が失踪する前日まで一緒にいたことになる。
「その時と今とで部屋の中に何か違和感ありますか?」
いなくなってから誰も入っていないとしたら、この部屋は失踪した時点のままだろう。
「ああ、うん…ええと…あ、マグカップ。あいつ几帳面だからさ、出かけるならカップは片づけるはずだし」
ローテーブルの上に置いてあるマグカップ。中には飲み残しのコーヒーが入っている。
先輩の言う通りなら確かに違和感を感じる。片づける暇がないほど急いでいたのか、それとも…。
「あとパソコン、いつもなら使い終わったら閉じておくはず」
もしかしたらパソコンを調べれば、彼女が何をしていたのか分かるかもしれない。僕と先輩はちらりと目配せして、パソコンの電源ボタンに指をかけた。
※
パソコンはスリープモードになっていただけだった。特にロックもかかっておらず、簡単に起動する。画面には普段使っているチャットアプリ、音楽プレイヤー、レポート用のofficeソフトがある。
「先輩、何かわかりますか?」
先輩は首を横に振った。多分直前まで作業していただろう書きかけのレポート、チャットアプリの履歴も通話も最後は先輩からだ。音楽プレイヤーが起動しっぱなしだったことも作業中だったと感じさせる。
その後も二人で探索をしたが特にめぼしいものも見つからない。ただ寝室に彼女の携帯電話があったことから、先輩は彼女が事件に巻き込まれたのではないかと疑っているようだ。
「俺、今日は此処に泊まって明日もう一度警察に相談に行くよ」
そう言う先輩を残して僕は自宅へと帰るのだった。
※
自宅に帰りテレビをつける。ニュースでは今年度の失踪者数が過去最多になっていると報道している。多くは認知症など病気が原因か家庭環境による家出か…しかしほとんどの人は見つかっている。
スリープ状態のPC、起動したままの音楽プレイヤー。普段はサブスクリプションを利用しているのだろう、保存されている曲はなかった。いや1曲だけプレイリストに登録されていた曲『Scarborough Fair』何か意味があるように思える。
生活感を残したまま失踪するなんてまるでホラー小説じゃないか、そんなことを考えながら僕はベッドの中で目を閉じた。
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Have you been to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Remember me from one who lives there,
For he once was a true love of mine.