Tell her to make me a cambric shirt,
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Without no seam nor fine needlework,
And then she'll be a true love of mine.
※
次の日、僕は先輩を迎えにアパートまでやってきた。建物の前には数台のパトカーと警察。物々しい雰囲気だ。僕はたくさんいる野次馬のおばさんの一人に話しかけた。
「あの、何かあったんですか」
声をかけるとおばさんは水を得た魚のようにしゃべりだす。
「それがね、アパートで心中ですって、なんでも部屋の中で男女の手首が見つかったって、もともと住んでた女の子の方も失踪したとか言われててね…」
僕はまくしたてるおばさんとの話を切り上げ、お礼を言ってその場を離れる。
失踪した女性のの住人。 僕は嫌な予感がして急いで先輩に電話をかける。
何度も鳴り続けるコール。1秒が長く感じる。長いコールの後やっと応答があった。先輩じゃない。
「もしもし、あのその携帯、大類先輩のじゃ」
電話に出た相手は警察だった。なんでも昨夜、彼女の部屋に泊まっていた先輩は、調べた結果を彼女の家族へ報告したらしい。その後、彼女の部屋へ集まることになったが到着しても先輩の応答がなく、家族は警察を呼んで部屋の中に入ったそうだ。
部屋が荒れていたため警察は応援を呼んで今に至ると。失踪の相談をしていた為か少し大事になったようだ。あのおばさん何が心中だよ。手首が見つかっただよ。
※
彼女の家族に昨日先輩と一緒に捜索を手伝ったと話すと、部屋の中に入れてくれた。警察はすでに撤収しており、今後は失踪事件として捜査を続けるそうだ。
部屋の中は昨日来た時と打って変わって荒れている。…荒れているというか何かから逃げる際にぶつかって、ものが倒れたような。ただ明確に故意に破壊されたと分かる、モニターの割れたノートPCはその部屋の中でも異質だった。
モニターが割れているだけで、本体は無事だったのだろう。壊れたPCから音楽が流れだす。
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Remember me to one who lives there,
For she once was a true love of mine.
『Scarborough Fair』日本ではサイモン&ガーファンクル版が映画の挿入歌として有名になったロマンチックな歌だ。
しかし、もともとはイギリスの物語と一緒に伝えられるバラッドの一つだったはずだ。
伝えられる物語。スカボローフェアへ行くのかと尋ねる男。
Parsley, sage, rosemary and thyme,ハーブの名前を答える。
そこに住むある人によろしく言ってくれ。
伝言を頼まれる。
どこまでも嚙み合わない会話。
彼女はかつての恋人だったから。
自分で伝えればいいのに。
※
家に帰る。テレビをつければ今日も失踪者のニュースだ。まだまだ増えているようだ。
先輩のことは心配だが自分もそろそろレポートに取り掛からなければならない。机に向かいPCの電源をつける。
立て続けに起きる失踪、全国でどんどん増えている。何か得体のしれないことが起こっているような。
時計を見れば午前3時、作業は全然進んでいない。少し気分転換が必要なのかもしれない。
タスクバーには起動中のアプリアイコンが並んでいる。その中のひとつのチャットアプリがメッセージを受信していることを示していた。
大類先輩とのチャットルームに新着メッセージがある。
「!!先輩っ」
メッセージは一つ
タ ス ケ テ
音楽プレイヤーが起動して『Scarborough Fair』が流れ出す。
Are … going t…carboro… Fair?
Par…y, sage, rosem… and thyme,
…emember me to one who l…s there,
F…she once was a t… love of mine.
とぎれとぎれに流れる『Scarborough Fair』
「先輩!何が言いたいんですか!今どこにっ!」
チャットルームにメッセージを送る
今 何処にいるんですか?
※
お昼のニュースです
今年の失踪者数が今月の時点で12万人を超えました。
これは昭和31年から記録している総数の中でも、過去最多となっており
………
※
部屋に人が入ってくる。僕の両親だ。
学校にも行っていない、連絡も取れない僕を心配してきたんだろう。
僕は何とかして伝えたい。
今の僕にできることはPCを起動するくらいだけれど。