塵埃の魔法少女【完結】   作:難民180301

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1. 出会い

2月1日

 やっちまった。魔法少女の活動に巻き込んで五人くらい死なせちまった。いや六人だったかな。

 

 何回避難しろっつっても動画撮影をやめなかったクソ野次馬が何人死のうが正直どうでもいいけど、世間は犠牲者を出す魔法少女には厳しい。明日の謝罪会見じゃせいぜいしょぼくれた少女を演じないと。

 

 テレビではコメンテーター共が、今回の私の対応がいかに拙劣だったか得意げに語ってる。災禍の脅威から身を挺して一般人を守るのが魔法少女の役目だと。

 

 助けられるのが当然と勘違いしてる素人どもが、災禍を全部一緒くたに考えやがって。昨日出た災禍は破滅級の「星禍(せいか)」だぞ。アホほど降り注ぐ隕石からどうやって全員守れってんだ。

 

 あーあ。こんなにかわいい美少女が体を張って戦ってるってのに、一度の失敗でこうなる。世の中狂っててやってられん。

 

 魔法少女協会から連絡がきた。会見の段取り、想定問答。しょーもない。

 

 魔法少女とかクソだ。

 

 

 

2月2日

 やっちまった。だが後悔はない、すっきりした気分だ。

 

 会見の序盤は協会の指示通り、しょんぼりした女の子を演じていた。でも無神経な質問についキレちまった。

 

 犠牲者の皆さんに対して申し訳ない気持ちはあるか、だと。ねえよ。人が血吐いて戦ってる後ろで呑気に自撮りだのSNSだのやってる連中に罪悪感覚えるわけねえだろ。まだ蚊殺したときの方が申し訳ない気持ちだわ。

 

 みたいなことをマイク片手に熱く語ると、会場が沸いた。そりゃもう沸いた。遺族の方々の目の前で同じことを言えるかだって? いくらでも言えるし、なんならオタクではどんな教育してるのかって問い詰めてやるよ。災禍が出たら即避難、魔法少女の指示に従う。幼稚園児でも知ってることをなんで教えてやらなかったのかってな。

 

 武道館ライブ並みに沸いた謝罪会見は、義憤に燃える記者たちと私の乱闘騒ぎになっていよいよ国技館レベルの盛り上がりを見せ、大盛況のうちに幕を閉じた。

 

 今、自宅でこれを書いているが、窓の外がファンでいっぱいだ。

 

 紙で包んだ石が投げ込まれた。

 

 『死ね、人でなし』『魔法少女やめろ』

 

 このファンレターは記念に貼り付けておく。

 

 今の私はなんでもできる気分だ。石を投げ返して中指立ててやるぜ。

 

 

 

2月3日

 やっちまった。

 

 ライセンスと変身機がはく奪された。変身機はなくても短時間なら変身できるが、ライセンスなしに魔法を使えば犯罪だ。私は無職になった。

 

 協会は魔法少女を使い捨てのコマ程度にしか思っていない。昨日みたいなやらかしをした私を切るのは当然だ。

 

 テレビは私の話題で持ちきりだ。『遺族会、魔法少女ダストアッシュを提訴』。昨日の会見が名誉棄損、石を投げ返したのが傷害、犠牲者を出したのが業務上過失致死らしい。

 

 魔法「少女」を訴訟? と思ったけど私は今年で二十歳だ。戦い続けて十年、もう余裕でオリに入れる年になった。笑える。

 

 久々に変身を解除したせいか、呼吸するのも一苦労だ。

 

 世の中最高だぜ。

 

 

 

2月10日

 結局訴訟はされなかった。多分、それどころじゃなくなったんだろう。

 

 私の担当区域に災禍が出た。種別は震禍(しんか)。私の後釜がいなかったせいで対応が遅れ、災害が発生。死者五百人強。

 

 この辺もかなり揺れた。数百年に一度の星禍が出て一週間も経たず震禍とは、これだから災禍は怖い。

 

 さすがに気の毒なので冥福を祈っとこう。

 

 

 

2月20日

 震禍の犠牲者が出た責任は私にある、という風潮が強まっている。

 

 まあ実際、私が星禍に完封勝利するか、会見で我慢できていればよかったんだろう。あの程度の震禍ならクソカス野次馬を庇いながらでも楽勝だし。

 

 とはいえ、罪悪感はまるでない。不思議だ。普通なら責任を感じそうなものだけど、一回キレておかしくなったのかな。

 

 いや、違う。

 

 私は元々、世の中の役に立つために魔法少女になったんじゃない。災禍で親が死んで、協会の連中に勧められるまんま魔法少女になった。たぶん最初は災禍に復讐したかったんだろうが、今はもう覚えてない。

 

 なんとなく魔法少女になって、なんとなく戦ってた。誰かを守り、助けようなんて考えたこともなかった。

 

 なるほど、あのファンレターはまったく正しい。

 

 私はとんだ人でなしだ。

 

 

 

3月1日

 地方の町に引っ越した。家を囲っていたファンたちは災禍への対応に手いっぱいで、追いかけてくるやつはいなかった。

 

 この町、翠ケ原(みどりがはら)市はとても静かだ。大きな川とほどほどに栄えた繁華街、市街地、さびれた工場と畑のある郊外。魔法少女はいないが、災禍の発生率も相応に低い。住人は穏やかで優しく、かといって田舎のように窮屈な人付き合いはない。

 

 九歳で魔法少女になって、今年でもう二十歳になる。しばらくは貯まった給料で隠居生活を送ろう。

 

 

 

3月20日

 マージでやることがない。暇すぎる。

 

 テレビは私の悪口ばかりで飽きた。本や漫画は一時間で目が疲れる。ごはんは何食べても味がしなくてつまらん。

 

 結局、ほとんどの時間は鏡の中の私とかいう美少女を眺めまわすのに使った。私はかわいい。

 

 が、いくらかわいくてもずっと見てれば飽きる。飽きた。

 

 明日から何しようか。

 

 

 

4月1日

 やっちまった。

 

 あまりにも暇すぎて散歩に出かけたら迷子になり、挙句坂道で車いすが暴走してひっくり返った。

 

 だけどケガの功名。自力で車いすに乗れず苦労してたら、中学生くらいの女の子が助けてくれた。この子がとてもいい子で、住所を伝えたら送ってくれた。

 

 名は赤根カガネ。道中に話した感じ、明るく、まっすぐで、思いやりに溢れているというツチノコ級のいい子。しかもかわいい。赤毛のサイドテールと子犬みたいに丸い瞳、ころころ変わる表情は少女らしい無邪気さに溢れている。

 

 私の見た目のせいか、学校や家族のことを聞かれた。私は学校に行く年じゃないし家族もいない。そう言うと、赤根さんはたいへん困惑していた。

 

 あんなに見た目も性格もいい子は地元にはいなかった。知り合えたのは運がいい。

 

 また会いたいな。

 

 

 

4月2日

 なんてこった。

 

 昨日暴走事故を起こした土手の下の広場で、また赤根さんに会った。

 

 暇つぶし雑談に付き合ってもらったのだけど、赤根さんは魔法少女になりたいそうだ。

 

 正気じゃない。災禍が出るたび命懸けだし、少しでも手抜かりがあればバッシングされる。給料が良い以外に何一ついいところがない仕事だ。

 

 魔法少女協会は、『人々を守る正義の味方』とか『みんなを助けられるのは貴女だけ』とか聞こえのいいことを言う。その言葉を真に受けて、わずかに素質のある少女たちが魔法少女を志し、あっけなく災禍に殺される。そんな子たちをたくさん見てきた。

 

 そういったことを懇切丁寧に、これで分からねえならママの胎内からやり直せってくらい言葉を尽くして説得した。見えている貧乏くじを引きに行くなと。

 

 なのに赤根さんは「それでも!」と聞かなかった。

 

 今この町に魔法少女はいない。災禍が出たらたくさんの犠牲が出る。だから素質のある私がなるしかない、と。

 

 歪んだ承認欲求、選ばれた少女の使命感。そういうんじゃなくて、もっと純粋で熱い何かが──私にはなかった何かが、赤根さんにはあった。

 

 私は何も言い返せなくて、一人で帰った。

 

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 

 

 

4月3日

 いい暇つぶしができた。

 

 赤根さんは無事、魔法少女になった。協会に素質を申請して、変身機とライセンスをもらえばなるのは簡単だ。

 

 なので、私が修行をつけることにした。

 

 赤根さんがうっかり死なないように、というのは建前。本音は暇つぶしだ。他にやることもないし。

 

 私が元魔法少女なのを明かすと、赤根さんはびっくりしてた。ずっと変身後の姿でメディアに出てたから、素の私を見ても分からなかったみたい。

 

 さて、修行は立ち合いによる魔力運用の指導とかいう面白くもない内容だったので省略として、肝心なのは赤根さんの変身後の姿だ。

 

 エロい。とってもエロい。きわどい角度の白いレオタード、炎を象った赤いマフラーに、太ももを締め付ける白ニーソ、ロングブーツとグローブ。体のラインが丸見えだ。なんなら見えちゃいけないとこも見えそう。制服の上からじゃ分からなかったが、実は安産型のでか尻なのも判明した。災禍に色仕掛けが通じるならワンパンで勝てるだろう。

 

 というわけで、眼福な一日だった。

 

 

 

4月20日

 今日も夕方から暗くなるまで赤根さんをいじめた。

 

 エロい恰好の美少女をしごくのは楽しい。ビシバシやるたび上達していくのも見ていて楽しい。土手を歩く人たちも暇なのか見物していた。中にはご自慢のスマホで撮影しているのもいた。

 

 なんか腹立ったのでシバいてやろうと思ったら、撮影野郎は近くの人に窘められてすぐにやめてくれた。

 

 ちょっとこの町が好きになった。

 

 

 

4月25日

 初心者いじめたーのしー

 

 

 

4月30日

 災禍が発生、赤根さんの初陣となった。

 

 種類は珍しく蝗禍(こうか)。郊外に畑が多いからだろうか。最悪放置してもちょっと害虫が出る程度なので、練習にはちょうどいい。

 

 危なげなく勝利した。訓練の成果だ。

 

 しかし楽勝過ぎたせいか、赤根さんはお調子に乗っていた。町の人に拍手喝さいを受けチヤホヤされたのも原因だろう。「自分の才能が怖い」だの「千年に一人生まれる究極の天才である私なら当然」だの、やかましい。

 

 とりあえず尻をシバいておいた。

 

 狙いやすいし手触りがいい。今度の修業からもっと尻を狙おう。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「いったー……」

 

 脱衣所の鏡に映った自身の裸体を眺めながら、赤根(あかね)カガネは痛みに顔をしかめた。友人からもよく大きいと言われるふくよかなお尻に、もみじのような手形がくっきり刻まれている。

 

 手形の主は「おしおき」と言っていた。確かに多少いい気分になっていたかもしれないが、少しは褒めてくれてもいいのに。

 

 頬を膨らませながら、カガネは尻ビンタの犯人である不思議な少女との出会いを思い返す。

 

 彼女は先日魔法少女『レッドエッジ』として協会に登録し、本日初めて災禍と戦いを繰り広げ、見事勝利を成し遂げた。

 

 災禍とは災害の化身。発生と同時に小さな厄災をまき散らし、放置すれば台風、地震、落雷、火災など、大規模な災害に転じる。非実体ゆえに一般人が抗う術はなく、唯一魔法少女だけが災禍と戦い、被害を未然に防ぐ力を持つ。

 

 カガネは魔法少女に憧れていた。みんなを傷つける災禍を倒し、人々を助ける正義のヒーロー。テレビで流れる協会のCMでも「魔法少女は正義の味方」「素質のある君はみんなのヒーロー!」と宣伝されていて、魔法少女はこの町の少女たち全員の憧れの的だった。

 

 そんなヒーローに自分もなれると知らされた。中学の健康診断で素質が見出されたのだ。

 

 友達の反応は祝福と心配半々だったが、不安はなかった。戦うといってもそんなに激しくはないはず。平和な暮らしに慣れた者特有の根拠なき楽観だった。

 

 魔法少女になるのは決定事項だったものの、とにかく両親に報告しないと。

 

 そうして家路を急いでいるとき、その少女に出会った。

 

「ふぎゃあ!?」

 

 痛そうな悲鳴、何かが転がり落ちる音。

 

 立ち止まって見てみると、土手の下に通じる坂道の上で少女が倒れている。傍らにはビニール傘が投げ出され、逆さになった車いすが車輪を空転させている。大事故である。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 魔法少女のことが頭から抜けた。慌てて駆け寄り、少女を助け起こす。

 

 瞬間、奇妙なイメージがカガネの頭をよぎる。

 

 誰かのすすり泣き、独特の匂い。火葬場の匂いだ。高熱でひび割れた遺骨を、喪服の人々が囲っている。

 

 その遺骨がなぜか、抱き起こした少女に重なった。髪も肌も、右目を覆う眼帯も白く、左目の虹彩は白っぽい灰色。不安を覚えるほどに薄くて軽い矮躯に、白のワンピースを纏っている。だからだろうか、すでに燃え尽き、役割を終えた者。そんな印象が刻まれたのだ。

 

「いてて……いやぁ、へへ、アクセルとブレーキ間違えちゃったかぁ……?」

 

 少女の照れくさそうな言葉に、カガネはハッと我に返る。

 

「大丈夫、傷は浅いよ! すぐに救急車を呼ぶからね!」

「大げさだって。ちょっと転んだだけだし……ああでも、あれに乗せてもらえると助かるよ」

 

 あれ、と指さされたのはひっくり返った車いすだ。

 

 若干逡巡するも、見たところ少女に大きなけがはなく、受け答えもしっかりしている。言われた通り車いすに乗せて傘を拾い渡すと、少女はにへらと笑った。

 

「ありがとう。君はいい人だねぇ」

「でしょ? この町で一番優しさにあふれたいい子として有名だよ!」

 

 親にもよく言われることだ。胸を張って自慢すると、少女がなんともいえない苦笑を浮かべた。

 

「お、おう……いい人ついでにもう一つ、ここがどこだか分かる?」

「どこって、翠川(みどりがわ)の土手だけど……あ、迷子?」

「かもしんない」

 

 少女の伝えた住所を聞いてカガネは耳を疑った。およそ二駅分は離れている。車いすでよくここまで来られたものだ。

 

「散歩に熱が入っちゃって」

「いいよね、散歩。私もたまにするよ」

「ごめんウソついた。実は何一つやることなくてぶらぶらしてただけなんだ」

「それ、散歩でしょ?」

「徘徊でしょ」

「どっちも同じだよ!」

「同じかなぁ……?」

「うんうん。ところで、おうちの電話番号分かる?」

 

 少女は首を横に振った。

 

「うちには誰もいないから」

「……じゃあ私が案内するね!」

「えっ」

 

 戸惑う少女を押し切って、カガネは少女の家まで連れ帰った。

 

 道中、いろいろなことを話した。実は少女が成人済みであること。引っ越してきて間もないというので、寄り道出来る範囲でスーパーやコンビニ、電気屋に駅などの位置を教えた。聞き上手な少女は絶妙なタイミングでふむふむと相槌を打ち、カガネは気分を良くして地元の町をたくさん紹介した。

 

 そうしてしばらく共にいると、ますます少女のことが気になってくる。

 

 少女は先ほど、うちに誰もいないと言っていたが。

 

「えっと……一人暮らしなの?」

「うん。あいにく、世話してくれる家族も友人もいないからねぇワハハ」

 

 おそろしくあっさり答えるので、カガネはどう反応すべきか分からない。

 

 多少空気を重たくしながら、市街地の片隅に建つマンションにたどり着いた。

 

 別れ際、少女が微笑む。

 

「今日は助かったよ、ありがとう。私は木村。君は?」

「あっ、赤根カガネだよ。すっかり忘れてた」

 

 互いに苦笑し、最後は笑顔で別れた。

 

 それが、遺骨を思わせる白い少女との出会い。

 

 このときはまだ、木村が魔法少女の鬼教官になるとは想像もしていなかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 木村との再会は翌日だった。

 

 学校からの帰り道。木村は昨日ひっくり返った土手の上をゆっくり進んでいて、カガネの姿を認めると「やあ」と手を上げた。

 

「昨日はありがとねえ」

「どーいたしまして。また一人でここまで来たの?」

「道は覚えたからもう大丈夫だよ。それよりずいぶんご機嫌だね。いいことでもあった?」

 

 指摘を受け、カガネは相好を崩した。

 

 魔法少女について両親に相談すると「とても名誉なこと」と称賛された。後は協会に出向いて素質を申請し、変身機を受け取れば正式に魔法少女になれる。この後家に荷物を置いてすぐに協会へ向かうつもりだ。

 

 もうすぐ憧れの魔法少女になれると思うと、カガネの足取りはスキップでもしそうなほどに軽くなっていた。

 

 という事情をちょっと自慢気に話すと、木村は唖然としていた。

 

「木村さん?」

「……いぃやぁ~……やめといた方がいいと思うけどねぇ~」

「へ?」

 

 絞り出すような木村の声に、今度はカガネが呆然とした。

 

 魔法少女はとても素敵なお仕事だ。せっかく素質があるのにやめた方がいいなんて、どういうことだろう。

 

「えっとねぇ、魔法少女は正義の味方と協会は言うよね?」

「う、うん」

「いくら正義の味方をしても、正義は味方になってくれないんだよ」

「う、うぅん?」

 

 まるで意味が分からなかった。

 

 カガネが首を傾げていると、木村は胸の前で両手をぱたぱたさせて、必死に言葉を探しているようだ。

 

「えっとえっとぉ……魔法少女は誰かを守ったり、助けたりするよね?」

「今度は分かった! うんうん、災禍を倒してみんなを守るよ!」

「だけど、誰かを守るとか助けるとか決意すると、同時に誰かを見捨てる覚悟もしなきゃダメなの」

「また分からなくなった!」

 

 カガネは頭を抱えた。木村の言うことはいちいち難しい。なぜ守り助けることが見捨てるのと同じになるのか。

 

「国語で百点をとったことのある私でも分からないなんて……!」

 

 ただ、意味が分からずとも意図は伝わった。魔法少女は思ったより大変だからやめた方がいいよ、と忠告してくれているのだ。

 

 小学生のような背丈の木村はこれでも二十歳で、天涯孤独の身の上らしい。色々なことを知っているだろう。もしかしたら実際に魔法少女だった時期もあるのかもしれない。そう思わせるだけの重みが、カガネには分からない言葉に宿っていた。

 

「難しいことは置いといて、木村さんの気持ちは伝わったよ!」

「じゃあ……」

「それでも、私は魔法少女になる」

 

 一瞬明るくなった木村の表情がまた曇る。

 

「どうしても……?」

「今、この町に魔法少女は一人もいない。災禍が来たらみんな困るし、もしかしたら死んじゃう人もいるかも。だけど私が魔法少女になれば、みんな守れるんだ。悲しい思いをする人がいなくなる。みんなを助けられる! それってとっても素敵なことじゃないかな?」

 

 みんなを助ける。災禍と戦い、町を守る。困っている人を見捨てないカガネの純粋な気持ちを、正面から木村にぶつける。

 

 しばし二人は見つめ合うが、木村はふっと脱力して目を逸らした。見ていられない、という風に。

 

 そのまま車いすを反転させて進みだす。

 

「帰る」

「あ、それなら家まで……」

「一人にして」

 

 心底疲れたような声音だった。振り返ることなく、カガネから離れていく。

 

 小さくなっていく背中を追いかけることはできなかった。木村の言葉の重みも、抱え込んだものも分からないまま話しても、きっと通じ合えない、助けになれないと直感したからだ。

 

 いつか必ず力になることを誓って、カガネは木村を見送り──その足で協会に出向き、魔法少女になった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 そして魔法少女になった翌日。

 

「ワハハ、ザコめ。その程度の力で誰を守れるって? おん?」

「ひーん!?」

 

 修行をつけると言い出した木村に捕まり、こてんぱんにされたのだった。 




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