塵埃の魔法少女【完結】   作:難民180301

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百合、GL要素強め注意


おまけ

4月×日

 いいおもちゃを見つけた。

 

 カガネだ。最近、私への接し方がやけにぎこちなくて面白い。

 

 車いすを押してくれるときとか露骨に首筋を見て赤面しているし、抱っこしてくれるときなんか血圧が心配になるレベルでドキドキしている。

 

 女同士何を恥じるところがあるものか。

 

 あたふたしてるのは見てて楽しいので、これからもぐいぐい行こうと思う。

 

 

 

4月×日

 スイ母と話をした。今後の私の仕事について。

 

 今までと同様の基礎講習に加えて、魔法少女を対象とした魔法教室などを考えているらしい。

 

 協会がサボってきた教育や啓発の穴埋めみたいな役割といって、スイ母は申し訳なさそうだったけど、貰えるものを貰えれば文句はない。災禍とやり合うよりはずっと楽だし。

 

 せいぜい長生きしよう。

 

 

4月×日

 パソコンの勉強をした。大人はみんなこれで仕事をするそうだ。講習で使う資料を自分で作れるくらいにはなりたい。

 

 眼が疲れたのでエンチャしようとしたけど、我慢した。生かされている身だから節約しないと。

 

 私えらい。

 

 

 

4月×日

 カガネにサービスした。

 

 ちょっと恥ずかしかったけど、今の私に返せるものはあのくらいだ。望むならどこでも見せるし、触られてもいい。

 

 喜んでくれてたらいいな。

 

 

 

4月×日

 豚の角煮を食べた。舌の上でとろけるあの食感は狂ってる。アオイのやつ、私の嫁になってくんないかな。

 

 と言ってみたら、なぜかカガネの方が激しく反応していた。

 

 嫁発言にそこまで敏感になるとは、思春期め。

 

 

 

 

 

 

 この日記を読んでいる君へ。

 

 これを読んでいるということは、直接私に読んでいいと言われたか、こっそり勝手に無断で誰の許しも得ず人目を忍んで読んでいるかのどちらかだろう。

 

 前者ならいい。

 

 後者なら、君にはやるべきことが一つある。

 

 全力でお尻にエンチャしなさい。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 赤根カガネは思い悩む。木村への接し方が分からない。

 

 木村は元最強の魔法少女であり、翠ケ原を守るカガネたち現役魔法少女三人の師匠でもある。儚い外見とは裏腹に物腰は不敵かつふてぶてしく、そのくせ時折優しくもなる奇妙な人柄で、カガネたちは木村を師匠として、仲間として慕っていた。

 

 しかし春のある日のこと。

 

『君は強く優しく、世界一最っ高の女の子だ』

 

 まっすぐに、なんの含みもなくそう告げられたあの時から、木村を妙に意識してしまう。傍にいればしぜんと心臓が高鳴るし、言葉を交わせば胸が弾む。小さな仕草の一つ一つに目が惹かれるし、車いすを押しているときなどは、長い白髪の隙間に見える白い首筋をじっと見てしまう。授業を受けている間も、家族と話しているときも、頭の片隅に木村がいる。

 

 何か変だ。カガネは一人で悩む性格ではなく、木村以外にもっとも頼れる二人に相談した。

 

 しかしこれが間違いだった。

 

「なんだ、そんなこと? 私だってあいつのことはよく考えるわよ。おかげであいつの『おいしかった』には四種類あることが分かったわ」

「どういうこと?」

「少し味が薄い、もう少し濃くてもいい、焼き加減に改善の余地あり、あとは普通においしいの四つね」

「アオイちゃんこわい」

 

 魔法少女ブルーアビスこと青芽アオイは木村の胃袋を掴むことに特化しており、カガネの抱えるときめきに似た思いとはまるで方向性が違った。

 

 ではもう一人はどうかというと、

 

「もちろん木村さんのことは毎秒考えてますよ~。聞きます~?」

「だよね、知ってた」

 

 翠ケ原スイは木村の熱烈な支持者、むしろ信奉者だった。魔法少女大全に掲載された木村のページを開いて迫りくるスイの瞳には、暴風めいた木村への想いがあって、それもカガネの悩みとは何か違った。

 

 が、ここでカガネは勘違いしてしまう。

 

 二人とも木村が大好きでいつも彼女のことを思っている。自分も二人と同じで、だから普通のことなのだと。

 

 もしクラスメイトにでも相談していればカガネのもやもやした熱い思いの名はすぐに判明しただろう。最初の相談相手の二人もまたそういった方面に疎いために、カガネの勘違いが訂正されることはなかった。

 

 そうしてカガネの受難が始まる。

 

 放課後、講演を終えた木村を公民館まで迎えに行く。平日の当番は日替わりで、残った二人と後輩はいつもの場所で修行をすることになっている。

 

 カガネは弾む足取りで公民館へ向かい、「えっ」と気の抜けた声を出した。

 

「迎えありがとー。さあさあキリキリ押してー」

「う、うん。でも木村さん、その髪……」

 

 木村は腰まで伸びる白髪を後ろでひとくくりにしていた。いつもチラ見えしているうなじが丸見えだ。

 

 木村は「ああ」と思い出したように言って、意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「誰かさんはこの方が嬉しいだろうと思ってね。見たいなら好きなだけ見な」

「ななななんのことかな!? 地元で一番煩悩が少ない私には見当つかないなっ!」

 

 とぼけても無駄だった。木村はくすくす笑ってから車いすの背を向ける。カガネの視線はむきだしの細い首に吸い寄せられ、帰り道の間はずっと顔が熱かった。

 

 またある日のこと。

 

 放課後の修行の帰り道、木村とアオイが料理の感想を言い合っている。

 

「あの豚の角煮はすごかったよ。超おいしい。食感が、こう、あれ、やばい」

「ふふん、でしょう。あんたの舌に合わせた究極のレシピを使ったんだから!」

 

 木村の恐ろしく知性の低い食レポに対し、アオイはとても得意げにつつましやかな胸を張っている。

 

「いぃーやぁー、まーじでアオイはすごいよ。いい嫁になる。なんなら私の嫁にくる?」

「だ、ダメっ!」

 

 真っ先にカガネが反応した。言ってからハッとして口を押さえるがもう遅い。

 

 微妙な空気の中、きょとんとしていたアオイは不意に相好を崩す。

 

「まあ、そうね。服を全部裏返して洗濯に出すのを止めるなら考えてあげるわ」

「うぉい、無理難題すぎんだろ」

「かなりの譲歩だと思いますよ~?」

 

 その後、洗濯物を裏返さずに出すことがいかにめんどくさいか木村が力説を始めたので、カガネの反応についてはうやむやになった。が、正体不明の気持ちはより強く燻るようになる。

 

 それとは別の日、休日のこと。

 

 修行でも実戦でも三人そろっていることが多いものの、常にそうではない。その日はカガネだけがたまり場となっている木村の部屋を訪ね、休日の余暇を過ごしていた。

 

 木村は机に向かい、パソコンで熱心に作業中だった。いつになく真剣な横顔から目が離せない。

 

 穴が空くほど凝視していると、一段落したのか木村が背伸びする。

 

「今日は冷えるなー」

 

 それから自身の腕を抱き、身震いした。四月とはいえ、冬の寒さは思い出したように顔を出す。春の装いであるカガネも少し肌寒い。

 

 一方、木村はほとんど初夏の恰好だった。薄手の長袖ワンピースにカーディガンを羽織っているが、下は生足である。

 

「ひざ掛け持ってくるね」

「いや、それよりも」

 

 すぐに動こうとしたカガネを呼び止めて、

 

「タイツ履かせて」

「うん、分かっ……は、履かせる!?」

「まあせっかくカガネがいるし。嫌ならエンチャして一人でやるけど」

 

 木村は魔力によるエンチャで身体能力を底上げし、ハンデを独力でどうにかしている。しかし他者からもらわなければ魔力は減ったまま戻らない上、ゼロになれば即死だ。故に、可能な限り節約することが望ましい。

 

「い、嫌なわけない! 待ってて!」

 

 木村の寝室から厚手の黒いタイツを持ってきて、木村の正面にかがむ。

 

 白く、なめらかな質感の生足が二本、目の前にある。足首は細く、カガネの片手で楽につかめそうだ。ピンク色のきれいな爪先は、誰に整えてもらったのだろう。

 

「なにじーっと見てんの」

「あ、いや、えっと……ま、魔力をうまいことやって治せないかなー、なんて」

 

 誤魔化すように言ってから、悪くない考えのように思う。

 

 魔力は非常に応用の利く不思議な力だ。うまく使えば木村の体をもっと治せるかもしれない。

 

 これに対し、木村は首を横に振った。

 

「無理無理、戦禍の地雷踏んだから。物理じゃなくて概念が死んじゃってるの。変身で出力上げれば無理くり動かせるけど、そしたら一瞬で魔力切れだし」

「そうなんだ……」

 

 カガネはしょんぼり肩を落とす。

 

「自分で聞いといて暗くなるんじゃない。もう、やっぱり自分で履こうか」

「ごめんすぐやる!」

 

 慌てて木村の足と向き直った。

 

 一つ深呼吸を挟み、足首をそっと掴む。爪先をフットレストからタイツへ差し込み、もう片方も同じように。ゆっくりとタイツを上げて、足首、スネ、膝の頭まで来て、止まる。

 

「よいしょ」

 

 木村が肘掛に手をついて腰を浮かした。しかしカガネは動かない。

 

 視線が一点に釘付けになっている。タイツを上げた拍子にワンピースの裾がめくれ、足の付け根まで見えていた。少し開かれた太ももと、その奥。

 

「腕がぁ……」

「ごめん!」

 

 ずっと体を浮かせている木村が苦しげな声を上げ、カガネが我に返る。しっかりタイツを腰元まで履かせ、ぱっと弾かれたように離れた。

 

 細く、でも柔らかそうな太ももが目に焼き付いている。

 

「まったくとんだスケベ小僧だなぁ」

「な……っ!?」

 

 無論、バレバレだった。

 

 木村は上目遣いでニマニマと底意地の悪い笑みを浮かべ、ワンピースの裾を指でつまむ。

 

「おかげであったかいよ。お礼にもっと見せてあげようか?」

「い、いい! あと小僧じゃなくて小娘だもん!」

「スケベは否定しないんだ」

 

 カガネは羞恥で顔を真っ赤に染め、俯いた。何も言い返せない。

 

 悶々とする気持ちのままに顔を両手で覆っても、先ほどの絶景は視界から消えない。ますます顔が熱くなる。

 

 すると、頭に優しい感触。

 

「気にしてないよ。履かせてくれてありがとうね」

 

 小さな手がゆっくりと頭を撫でる。その感覚が気持ちいいと感じる反面、悔しい思いもあった。

 

 一人で慌てて一人で恥ずかしくなって、慰められている。まるきり子供と大人だ。

 

 自己肯定感の化身であるカガネは子供である自分を恥じないし、子供扱いされることにも抵抗はない。なのに、木村にそう思われることだけは、耐えがたいもやもやを感じる。

 

 きっとアオイとスイも同じ思いを抱えている。悶々としてもどかしいこの思いは誰にでもありふれたものだ。

 

 そうして木村のイタズラに弄ばれ、どぎまぎする日々を送っていると。

 

 災禍のように唐突に、木村の過去が牙をむいた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 日曜の午後。予定が空いたため、カガネは木村宅を訪れた。

 

 翠ケ原の魔法少女にとってそこはもはや第二の実家だ。合鍵を使い、勝手知ったる中へ入る。

 

「あ、寝てる」

 

 木村はベランダから差し込む春の日差しを浴びながら、車いすの上で午睡に耽っていた。膝の上には愛用の日記帳、床には鉛筆が転がっている。

 

 アオイとスイの姿はなく、二人きり。春風がカーテンを揺らし、日記のページをめくって緩やかに吹き抜けていく。木村の穏やかな寝息が微かに聞こえる。

 

 起こさないよう、息を潜めて近づいていく。寝顔を覗き込んでみると、大人らしからぬ童顔が安らかに眠っている。楽しい夢でも見ているのか、口元がわずかに緩んでいた。

 

 瑞々しい唇に目を奪われる。今は二人きりで木村も意識がない。

 

 ごくりと喉を鳴らした。露見すればサンタさんのいい子リストから除名されることは間違いのない、邪な思いが頭をもたげ──

 

「わっ?」

 

 視界が白く染まった。

 

 風にめくられた日記帳のページから、何か白いものが顔めがけて飛んできたのだ。ちょうど目隠しになるように風で張り付くそれを手に取る。

 

 しわくちゃのA4用紙だった。折り目がついており、日記帳のどこかに畳んだ状態で挟まれていたようだ。

 

「おっとと」

 

 さらにもう二枚、同じページから畳まれた用紙が飛んでくる。

 

 クラスメイトによれば、日記にレシートやチケットなどを記念に貼り付けることもあるらしい。

 

 果たしてどんな素敵な思い出だろうかと、少しの罪悪感と共に用紙を開いてみる。

 

 まずは一枚目。

 

『死ね、人でなし』

 

「……え?」

 

 思考が停止した。

 

 用紙いっぱいに、太字の油性インクで殴り書きされたその言葉。純粋な悪意が凝縮されたような筆跡と内容を理解すると共に、カガネの額に冷や汗が浮き出る。

 

 微かに震える手で二枚目、三枚目を開く。

 

『魔法少女やめろ』『くたばれゴミカス』

 

「何、これ……?」

 

 心臓が早鐘を打つ。頭が理解を拒んでいる。

 

 とっさに用紙から目を逸らした先には日記帳がある。風は止み、用紙の挟まっていたページが開かれていた。その中に決定的な記述を見つける。

 

『今、自宅でこれを書いているが、窓の外がファンでいっぱいだ。

 

 紙で包んだ石が投げ込まれた。

 

 このファンレターは記念に貼り付けておく』

 

「石が……!?」

 

 動悸がした。木村を意識してどぎまぎするようなそれとは大きく異なる、ひたすらに不愉快な息切れだった。

 

 脳裏をよぎるのは一年前、魔法少女ダストアッシュの引退を巡る騒動のこと。今でこそ「キレても仕方なかった」と言われているものの、当時は感情を爆発させたダストアッシュに批判が集まり、災禍を倒したにもかかわらず悪者にされていた。だがここまで悪質で直接的とは知らなかった。

 

 自宅に群衆が詰めかけ、石を投げ込む光景を想像する。木村は一人で日記に向き合いながら、投げ込まれた悪意を忘れないように、取っておいたのだろうか。

 

「この……っ」

 

 怒りで頭の中が真っ赤に染まる。呼応するように、体から赤い魔力が迸る。もう過去のことだと分かっていても、感情は抑えが利かない。今すぐこれを投げ入れた者のところへ行ってひっぱたいてやりたい気持ちに駆られる。

 

「うへへ……ごはんおいしい……」

 

 が、呑気な寝言に出鼻をくじかれる。カガネの思いなど知ったこっちゃなく、木村は幸せそうによだれを垂らしていた。

 

 カガネはそののほほんとした寝顔をじっと見て、少しずつ怒りを抑えていく。用紙を破り捨てたい衝動に駆られながらも、折り目通りに畳んで元のページに挟み、閉じておく。それから木村の手を握ってしばらくすると、「これスイちゃんが見たらシャレにならないな」と考えられる程度には冷静になっていた。

 

 木村の手は小さくて、思い切り握れば壊れてしまいそうだ。背は低く、体つきは華奢で、折れそうなほど頼りない。

 

 そんな体一つで、どれだけ多くのものを背負ってきたのだろう。日記に押し込めた過去の重さと痛みを分けてくれるのは、一体いつになるだろう。

 

 静かに考え込んでいると、木村が目を開けた。

 

「あれ、カガネ……? 来てたんだ」

 

 小さくあくびを漏らし、寝ぼけ眼でカガネを見やる。

 

 目をぱちぱちさせて首を傾げた。

 

「なんか神妙な顔だね? イメチェン?」

「木村さん」

 

 木村の手を握ったまま、カガネはまっすぐに言った。

 

「私、もっと頑張るよ。地元で一番最強で素敵な私が、ちゃんと世界一最高に素敵な私になるために」

「お、おう。がんばれ」

 

 今の平穏は当たり前ではない。木村が死を覚悟して戦ってくれたから、翠ヶ原は無事でいられる。理不尽な災禍が発生すればすぐにでも壊れてしまう。

 

 だから改めて決意表明。木村が言ってくれた通り、地元から世界レベルに進出して、当たり前の平穏を守り抜けるくらい強くなる。ふわふわした気持ちにかまけている場合ではない。

 

 熱い気持ちを滾らせて暫し見つめていると、木村が胡散臭そうに目を眇めた。

 

「ところでさ、私のお膝に日記帳があるわけだが」

「うん」

「見たら殺すって言ったよね?」

「うん」

「ぶっちゃけまた見た?」

「ミテナイヨ」

 

 カガネは地元で一番、ウソをつくのが下手だった。

 

 木村が据わった目で告げる。

 

「傘と手ェ、どっちがいい?」

「ち、違うんだよ! 風が吹いたの、ほら見ろよって言うみたいに吹いたんだよ!」

「そんな都合のいい風があるかっ! 素直にごめんすれば許すつもりだったのに、もう怒った」

 

 せめてもの慈悲だろうか、傘ではなく平手を振りかぶり、

 

「待って、お願い話を──いったああぁぁいっ!?」

 

 カガネの尻めがけて振り抜いた。前回のような隠しごとの負い目がない分その一撃に慈悲はなく、出会いから幾度となく尻をシバいて磨かれた技巧により、エンチャもしてないのにやたらと痛かった。

 

 この感じ結構久しぶりかも。そんな風に思う余裕があったのはほんの一瞬で、カガネは懐かしい痛みに飛び上がり、どったんばったんと床を転げ回ったのだった。







おしまい
読んでくれてありがとうございました。
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