自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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一級魔法使い試験編はシュタルクが空気になってしまう…


魔法使い達の静かな休息

 

 

 

───北側諸国、魔法都市オイサースト。

 

 

無事に我々は三人とも一次試験に合格し、二次試験へと進む事が出来た。

 

 

二次試験までの3日間の休息。

シュタルクも一人で暇だっただろうし、この3日間はパーティー皆でゆっくり過ごしたいものだ。

 

…そう考えていたのだが、どうやらシュタルクは一人で過ごしていた際に、フェルンの言いつけを破ってしまったらしい。 夜中にジュースを飲んだり、夜更かししたり…おまけにフリーレンも夕方近くまで寝過ごしていたので、フェルンはそれについても腹を立ててしまった。

 

この一行内で早寝早起きが安定しているのは自分とフェルンだけなのだ。

二人とも戦いになると非常に頼りになるのだが…出来れば普段ももうちょっとしっかりしてほしい。

 

 

とにかく、今日はフリーレンの提案でオイサーストで一番美味しいお店に向かう事となった。

フェルンのご機嫌取りである。 フェルンは美味しい食べ物には目がないからな、最善の選択だろう。

 

 

 

 

 

どうやらこのお店は本当に美味しいお店だったようだ。

 

「こんなに幸せでいいのでしょうか?」

 

フェルンはショートケーキ、パンケーキ、そして巨大なプリンパフェを食べている。

フリーレンはステーキを大量に注文した。 大皿に盛られたステーキの山はどう考えても数人分はある…フェルンもそうだが、魔法使いはみんな健啖家なのだろうか。 それとも、うちの二人がおかしいだけか…?

 

「フリーレン。 これめちゃくちゃ美味いぞ」

 

この二人に対して戦士であるシュタルクは普通のオムライス一品だけだ。

普通は逆じゃないのか? なんで常日頃から体を鍛えているシュタルクがこれだけしか食べないのか。

 

不思議に思いながら、自分も注文した骨付き肉に手を出した。

自分の顔より大きな特大サイズの肉の塊。 両脇からは一本の骨が突き出ており、そこを掴んで豪快に肉にかぶりつく。

 

…うまい! おいしい!

 

フリーレンのおすすめもあって興味本位で注文したが、どうやらこの料理は正解だったらしい。

ただ焼いただけではないのだろう、骨の近くまでしっかりと味がついている。 というか骨も食べられそうだ。

 

これがマンガ肉か…前世では再現するレシピは無数にあったものの、実際にこのサイズ、この形の食用の骨付き肉は存在しなかった。 肉や骨を削ったり、肉を巻き付けて整形するなどの手間が必要だったのだ。

 

自分も一人旅の頃に試したことはあったのだが、いまいち火の通りが悪かったり味がよくなかったりで諦めていた。

 

 

───その後、ご機嫌になったフェルンを見て安堵しながら宿へと帰った。

 

 

フリーレンはヘソクリがなくなったようだ。

…仕方ない。 自分も奢って貰ったし、諦めていた美味しいマンガ肉に出会わせてくれたお返しに、とっておきの魔導書を一つ差し上げよう。

 

『トランプを上手にシャッフルできる魔法』が記された魔導書だ。

 

ザインがいた村の村長とのポーカー勝負。 あれで勝ったために貰った景品である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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なんだこの状況は…と、リヒターは目の前の状況に困惑していた。

 

「ラオちゃん、このお肉すごくおいしいよ」

 

リヒターの隣に座っているエルフの少女が、メニュー表の中にある一つの料理を指差しながらラオフェンに見せた。

 

「うわ、でっか…爺さん、これ頼んでいい?」

 

「構わん、たくさん食べろ。 野菜も忘れずにな」

 

少女二人がワイワイと食事をして、その様子をデンケンは微笑ましそうに見守っている。

どこからどう見ても孫二人を甘やかすお爺ちゃんの図だが、この三人はつい数日前に出会ったばかりである。

 

いや、目の前にいるデンケンと、その隣に座っているラオフェン。 この二人はまだいいのだ。

第十三パーティーとして組んでいたこの二人に食事に誘われ、デンケンが奢ってくれると言うのでこの店を案内したのだから。

 

だが、リヒターの隣にいるエルフの少女。 こいつはなぜここにいるのか。

いつの間にか隣に座っており、ごく自然に眼前の二人の会話に混ざっていたので最初は自分が何か魔法にかけられたのかと思ったほどだ。

 

「(…こいつは確か、試験中に急に現れて魔物を倒したかと思ったらすぐに消えちまった奴だな。 さっきまでフリーレンと同じテーブルにいたはずだが…いや、なんでここにいる)」

 

デンケンが奢ると言うし、どうせなら一番高いものを頼んでのんびり食事を…なんて考えていたのだが、目の前のツッコミどころしかない光景にリヒターは落ち着く事が出来なかった。

 

 

ラオフェンはさっきまでドーナツをしこたま食っていた筈だが、店に来てからも3人前以上の料理を食べている。 今は追加で注文した巨大な肉をガツガツと食べているが、いつまで食うのか。

 

エルフの少女も同じものを食べているが、リヒターの勘違いでなければフリーレンの所でも同じものを食べていた筈だ。 普通は一つ食べたら腹いっぱいになりそうだが、こいつもいつまで食うのか。

 

というか、なぜデンケンはエルフの少女の分も奢ったのか。

確かに少女は魔物を倒してくれたが、リヒター達は魔力はなくとも逃げるくらいの余力はあったし、そもそも魔物に見つかっていなかったので倒す必要すらなかったのだ。 つまりは余計なお世話である。感謝する必要はないはずだ。

 

 

「(…まぁいいか)」

 

思わず各々にツッコミを入れようとして…諦めた。

眼前の光景を受け入れ、とりあえず食べかけだった手元にある料理を片付けるべく手と口を動かす。

 

リヒターは疲れていた。

 

他パーティーから隕鉄鳥(シュティレ)を奪うためとはいえ、双方魔力切れの状態だからといって殴り合いをさせられたのはキツかった。 リヒターは肉体派の魔法使いではない。 体中が痛いし、次の試験に備えて残りの期間はゆっくりと休みたかったのだ。

 

 

パーティー内で一番の老体であるデンケンは何故か元気そうだ。

殴り合いの場でも一番活躍していた…いや、そもそも殴り合いを提案したのはデンケンなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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───北側諸国、魔法都市オイサースト。

 

 

二日目の休息日。 昨日はフェルンを怒らせてしまったし、今日こそは皆でのんびりと過ごせたらいいなと思う。

 

 

朝起きてからはシュタルクと二人で軽く手合わせをしたあと、海を前にして横並びになって瞑想をする。

 

「これぞ無の境地。 よくぞ武の真髄まで辿り着いた。 お主に教えることはもう何もない」

 

…なんか知らない老人が来てシュタルクに声をかけていた。

シュタルクは老人の名も知らないらしいが、修行中に来ては毎度同じ言葉をかけて去っていくようだ。

 

自分が去り際の老人から貰った飴ちゃんを舐めていると、何か用事があるらしいフリーレンが来たので二人して宿に戻る事となった。

 

 

再びフェルンが不機嫌になってしまった。

むっすー…と、頬を膨らませている。 眉もわかりやすく吊り上がっており、昨日より不機嫌である事がよくわかる。 普段無表情なフェルンが露骨に表情を変えるのは、それだけフェルンが怒っている証拠なのだ。

 

「今日の買い出し当番私だったのに寝坊しちゃったから…」

 

「そんなのいつものことだろ。 なんで今更…」

 

確かに、フリーレンが寝坊するのは最早当たり前のこととして認識している。

この程度、フリーレンと長年旅をしているフェルンは慣れているものと思っていたが…

 

フリーレン曰く、フェルンは積もり積もった不満が一定ラインを越えるとある日突然爆発するタイプらしい。 そうするとしばらく口を利いてくれなくなるようだ。

 

 

───フェルンのご機嫌取りのために今度はお菓子を買いに行く事になった。

 

 

自分が作ってもよかったのだが、どうせならこの街でしか買えないものにした方が良いのではと提案している。

そういうわけで、街で一番美味しいと評判(リヒター談)のお店に寄って陳列されたお菓子を見ていくが、中々に良いものがなくて苦戦している。

 

いや、悪くはないのだが、今のフェルンを満足させるレベルのものとなると…

 

「普段はシャオが作るお菓子を食べてるからね。 生半可なものじゃ満足しないと思うよ」

 

「えぇっ、ハードル高すぎない…?」

 

「とても高いね…」

 

…さて、どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ヴィアベルに連れていかれたシュタルクを除き、宿に戻ったフリーレン一行。

途中で合流したカンネとラヴィーネを交え、フリーレンの目の前では4人の少女達が楽し気に話し込んでいる。

 

カンネとラヴィーネは、自分達が二次試験に進めたのはフリーレンのおかげだから礼をしたい…そういう理由で、先ほどの店で購入したお菓子を皆に振る舞っていた。

 

「フリーレン様。 この貰ったお菓子めちゃくちゃ美味しいですよ」

 

「(やっと機嫌直った…)」

 

このお菓子が良かった。

普段シャオの作ったお菓子を食べ慣れているフェルンが満足するレベル。 今もパクパクと食べており、機嫌もすっかり直ったようだった。

 

「この味、食感、香り…確かに覚えたぞ…!」

 

シャオは味わうように一枚一枚ゆっくりと食べている。 恐らくはこのお菓子をお菓子を作る魔法(エールトザーネ)で再現出来るようにするためだろう。

 

その様子が気になったのか、カンネが興味深そうに身を乗り出した。

 

「そういえば、試験の時もドーナツ作ってたよね」

 

「…あの魔法って魔力を使って物質を生成してるんだよな。 結構凄くね?」

 

 

ラヴィーネが言う通り、無から有を作る魔法は総じて難易度が高い。

魔法とはイメージの世界…つまり、イメージ出来ない事は実現出来ないのが基本中の基本とされている。

 

カンネは水を操る魔法(リームシュトローア)で大量の水を操れるが、水そのものを作るイメージは出来ないので水場がないと出来る事が一気に減る。

ラヴィーネは水を凍らせる魔法が使えるが、純粋に氷そのものを生み出す事は出来ない。水場がないと力を発揮できないのはカンネと同じだが、空気中の水分を凍らせる事である程度カバー可能だ。

 

 

このように、若くして三級魔法使いとなった二人でも一から物を作る魔法は難易度が高くて実戦では使えないのだ。

防御魔法が質量攻撃に弱い事もあり、今の魔法使いは二人のように既存の物質を操るのが主流となっている。

 

フリーレンが習得している、温かいお茶が出てくる魔法やかき氷を出す魔法などの民間魔法も難しいが、シャオのお菓子を作る魔法(エールトザーネ)はお菓子ごとに味、食感、香り、栄養、カロリー等が異なるので、難易度が異次元レベルで頭のおかしいものになっていた。

 

 

お菓子を作る魔法(エールトザーネ)か…なぁ、どうやってイメージしてるんだ? ドーナツ一つ作るにしても、構成してる材料も素材もイメージしないと作れないよな?」

 

「味も食感も全部イメージしないといけないんだよね。 本当にどうやってるの?」

 

「むぐ?」

 

まさか「魔族だから脳の構造が人類とは違うんです。 だから出来ます!」とか、「魔族の固有魔法なんです!」とは言えない。

 

対応に困る状況…ではなかった。

フリーレンもフェルンも以前に同じような問いをシャオにした事があったが、その時と同じ回答がされると予想したからだ。

 

シャオはお菓子を咀嚼しながら、勿体つけるようにして腕を組んだ。

 

「むぐむぐ…よし、教えてあげよう!」

 

「「うんうん」」

 

「理由はたった一つ…たった一つのシンプルな答え!」

 

「「おお!」」

 

期待の目で見る二人の若い魔法使いに対して、自称エルフの少女は自信満々で答えた。

 

「それは…私が天才だからだよ!」

 

「「えぇ…」」

 

それは理由になっているのか…と思う所だが、魔法使いは才能が重要なのも確かな事実。

出来る奴には出来るし、出来ない奴は一生涯修行したって出来ない。 そういう世界なのである。

 

「私の手にかかれば…ほらこの通り!」

 

「なっ、もう覚えたのか!?」

 

シャオが気合と共に手をかざすと、半分以下に減りつつあったお菓子の山が再び山の形を取り戻した。

たった今さっき食べたお菓子を、お菓子を作る魔法(エールトザーネ)で再現したのである。

 

「凄い…今食べたばかりなのに」

 

「ふっ、私も自分の才能が怖いよ」

 

この不思議で奇妙でポンコツな魔族と一緒に過ごして1年と少々だが、この少女を見ているとフリーレンはヒンメルを思い出して不思議な気持ちになってしまう。

 

時に面倒臭くなるくらい自信過剰で、でも優しくて、明るくて…いつでもヒンメルの周りには誰かしらの笑顔があった。

 

 

 

 

 

…一次試験が終わった後、フリーレンはシャオにこっそりと聞いた事がある。

シャオは勇者ポイントを稼ぐべく他の受験者達を助けていたが、それはつまり、ポイントを稼ぐためだけに人助けをしていたのかと。

 

もしもポイントが稼げないとわかれば助けなかったのかと。

 

それを聞いた少女は一瞬だけキョトンとした顔をすると、次の瞬間にはパッと笑顔で答えた。

 

『ポイントは関係ないよ。目の前で誰かが困っていたら、助けるのは当たり前だもん』

『…じーちゃんも村の皆もそういう人達だったから、っていうのも、あるかもしれないけどね』

 

えへへ、と照れ臭そうに頭を掻きながら語るその姿が、フリーレンにはどうしようもなく───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょー!!」

 

部屋に響いた声に驚いて考え事を止める。

意識を目の前に戻すと、両手両膝をついて悔しがるシャオ。 そして首を傾げながらお菓子を食べるカンネとラヴィーネの姿があった。

 

「これで60点なのか。 アタシには違いがわからねぇ」

 

「うーん…でもちょっと風味が違うような気も…いや、どうだろう」

 

どうやら、シャオが今しがた作ったお菓子をフェルンが試食したようだが、思いのほか厳しい評価が下されてショックを受けたらしい。

 

「60点です。 これ以上の点数はあげられません」

 

フェルンはいつものぼんやりとした顔でお菓子をむしゃむしゃと食べながら言う。

さすがに食べて数分と経たずに完璧に再現するのは難しいのだろう…フェルンの採点が厳しいだけかもしれないが。

 

「(…ま、いいか。 考えるのは後にしよう)」

 

時間はいくらでもあるしね…フリーレンはそう結論付けると、再び作られたお菓子の山を減らす作業へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───一級試験は例年通りなら第三次試験まである。 次からは敵同士だな」

 

「そうだね」

 

楽しい女子会も終わりに近づいた頃、次の試験の事を考えて自然と空気が重いものになっていた…1名を除いて。

 

「次? えっと、次も皆で頑張ろうね!」

 

「さっきのアタシの話聞いてたか?」

 

聞いていなかったのだろう。

シャオは今日食べたお菓子を再現する事に夢中だった。

 

「でも、次も協力出来る試験かもしれませんよ?」

 

「そんな都合のいい話……ん? なんだろう?」

 

途中で窓がコンコンと叩かれた。

窓の外には便箋を足に掴んだ一羽の鳥が来ている。どうやら、次の試験について大陸魔法協会から連絡が来たようだ。

 

便箋を受け取ったフェルンが内容を読み上げる。

第二次試験の会場、日時…そして、担当の試験官の名前。

 

「試験官はゼンゼか。 ツイてねぇな…」

 

「どういうことですか?」

 

「ゼンゼの担当した試験は過去4回。 いずれも合格者は0人だ」

 

ラヴィーネは僅かに諦めの入った溜息を吐き、カンネは眉を下げて俯いた。

二人の反応で次の試験が厳しいものになると予想したのか、フェルンも、そして珍しくフリーレンも気を引き締めている。

 

「参ったねこれは───」

 

さすがにシャオも険しい反応を…

 

「───つまり私達が、ゼンゼの試験に受かった最初の受験者になる、ってわけだ」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべた。

口にはお菓子の食べかすがついており、その姿は背伸びした子供の様にしか見えない。

 

 

…この子の自信はどこから湧いて来るんだろう。

シャオ以外のこの場の4人が、まったく同じ思いを抱いた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初から最後まで食いっぱなしの回でした。


フェルン程ではありませんが、主人公ちゃんも下半身は結構ムチムチです。
容姿の元ネタであるドラゴンズクラウンのエルフちゃんも下半身は結構太…たくましいからね。

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