自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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なぜ続いたのか。


戦士アイゼンとの出会い

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から28年後。 中央諸国ブレット地方。

 

 

ようやく、ブレット地方にある戦士アイゼンの家に辿り着いた。 が、ここまで来るのに随分と時間がかかってしまっている。

 

 

旅にアクシデントは付き物だが…一番酷かったのはアレだろう。

 

 

とある村に滞在した際、近隣で目撃されたと言う野良の木っ端魔族の討伐に協力したところ、実は相手が魔王軍の残党だったというやつだ。

 

大した強さではなかったが、仲間らしき若い魔族が複数体いた上に魔物の襲撃も重なり、村も防衛しなければいけないので随分と苦労した。

 

幸いにも村の住人に死者はおらず、家や畑、家畜等にも被害はほとんどない。

 

村の自警団がしっかりと訓練を積んでいたことや、先手で司令塔らしき魔族を始末出来たこと等…複数の偶然が積み重なった結果だった。

 

 

その中でも特に貢献してくれたのが、今、目の前で茶を飲んでいる御仁…戦士アイゼンだ。

 

「今回は運が良かったな…あの村の連中だけでも対処は出来ただろうが、確実に死人が出ただろう。 お前が真っ先に司令塔を潰してくれて助かった」

 

声音からは感謝するような意を感じられるが、顔のほとんどを覆う髭や目深に被った兜によって表情はさっぱりわからない。 ドワーフとは皆こういうものなのだろうか。

 

 

どうやらあの村はアイゼンの家から一番近い村だったらしく、あの日は偶々買い物のために立ち寄っていたそうだ。 買い物の他にも自警団の人々に戦い方を教えたりしていたらしい…今まで見て来たどの村の自警団よりも強かった理由がわかった。

 

魔族達の接近を先に感知し、先手必勝で一番魔力の大きい魔族を仕留めたことをアイゼンは褒めてくれた。

 

残念ながら魔族の襲撃そのものは止められなかったものの、残りの魔族を筆頭とした強い敵からアイゼンが順番に叩き潰して回ってくれたのだ。

 

使っていたのは自警団から借りた数打ちの剣だったにも拘わらず、最上級の名剣で斬ったかのように魔族達を次々に両断していく様は凄まじかった。

後半は剣がアイゼンの力に耐え切れず壊れてしまったが、残った魔物達は素手で文字通り捻り潰していた。

 

…身体能力には自信があったが、スピード以外は全てアイゼンが圧倒しているだろう。 さすがは魔王を討った勇者パーティの戦士と言った所か。

 

 

しかし、アイゼンはよくやったと褒めてくれるが、自分がいなくともアイゼンと村の人達が連携すれば結果は変わらなかったように思う。

 

そう伝えると、アイゼンは緩やかに首を振りながら答えた。

 

「そんなことはない。 お前がいたおかげで被害を最小限に抑える事が出来た。それは疑いようのない事実だ。 あの村の連中とはそれなりに長い付き合いだからな。 死人が出なくて、本当に良かった…感謝する」

 

 

───しばらく茶を飲みながら談笑した後、エルフの魔法使い…フリーレンを追いかけている事を伝えると、残念な事実が判明してしまった。

 

 

なんと、フリーレン一行は既にアイゼンの下に立ち寄り、そのまま次の目的地に向けて旅立ってしまったと言うのだ。

 

 

先回りするつもりだったが、どうやらブレット地方に来るまで時間をかけ過ぎたらしい。

 

幸いにもアイゼンの下を去ったのは数か月前らしく、距離は間違いなく縮まっていることがわかった。 アイゼンも、このまま後を追っていけば近い内に追い付けると太鼓判を押してくれた。

 

当然ながら、元勇者パーティのアイゼンはフリーレン一行がどういったルートで旅を進めるのかを知っている。 そんな彼の話だと、最短ルートとしてはここからリーゲル峡谷沿いの村へ行き、そこから直接北方の関所である城塞都市ヴァールを目指すのが早いらしい。

 

早ければヴァールで、遅くとも関所の先にある北側諸国のグラナト伯爵領で確実に会えるだろう、とのこと。

 

アイゼンの見立てでは時間は多少余裕があるそうなので、頼み込んで数日だけ修行させてもらうことになった。

魔王軍との第一線で活躍したアイゼンの教えは大いに勉強になると思ったからだ。

 

 

その後は呪いの件でひと悶着あったが、最終的には良好な関係を築く事が出来たと言えるだろう。

アイゼンから旅の役に立つ餞別を貰い、言われた通りにリーゲル峡谷沿いの村を経由して城塞都市ヴァールを目指して旅を再開した。

 

 

…しかし、フリーレンと会った際の対応について、しつこいくらいに念押しされたのが気になる。

ここまでの旅で、彼女が人助けをする善良な人格者であることは人伝に聞いているし、相手は千年を生きる大魔法使いのエルフ。

万が一、角のせいで魔族と勘違いされるような事があっても、きちんと話せばわかってくれるだろう。

 

 

アイゼンから貰った餞別もある。

何も問題はないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

若き魔法使いの旅立ちを見送った後、アイゼンは歴戦の戦士らしからぬ不安を込めた溜息を吐いた。

 

フリーレンを追いかけてやって来たというエルフの魔法使いの少女。

彼女と出会ったのはアイゼンの家から一番近い村…あの村とは魔王を討伐してからの付き合いだ。もう80年近くになるだろうか。

 

 

本当ならまだ村に行く時期ではなかったのだが、かつて旅をした仲間であるフリーレンと久しぶりに会ったせいか、気分が変わっていつもより早い時期に村に行くことにしたのが始まりだった。

 

村に着く前に複数の魔族と魔物が村に接近している事を遠目で確認したはいいものの、全盛期をとっくに過ぎている自分では全力で向かっても間に合わない。

あの村の自警団は強いが、それでも自分が着いた頃には村人達に少なからず被害が出るだろう。 無論、死人が出るのも想定された。

 

それでも、何とか間に合わせようと必死に走っている時に、アイゼンの超人的な視力はそれを捉えた。

 

 

村の上空から放たれた一筋の光。

 

 

恐らくは攻撃魔法だろうとあたりをつけたが…スピードが尋常ではなかった。 老いた今の自分ではもちろん、かつてフリーレン達と前線で戦っていた頃の自分でも見切ることは出来ない。そう思わせる程の速さだった。

 

「(あれには驚いたが、おかげで助かった)」

 

狙っていたのは魔族側の司令塔だったらしく、アイゼンが村に着いた頃には、統制を失った数人の魔族は碌に連携をとれずに個々で戦い始めていた。 魔物もバラバラに動いているせいで自警団の戦士に次々と討ち取られている。

 

それでも戦力的には自警団側が多少劣っていたが、偶々訪れていた腕の良い魔法使いが防衛に積極的に協力し、さらにアイゼンが加勢した事で勝敗は完全に決した。

 

防衛戦に協力してくれた魔法使いは、どうやら司令塔の魔族を殺した魔法使いだったようだ。

 

最初に放った魔法で魔力を大量に消費していたようだが、高い身体能力を駆使して村の中を超高速で跳びまわり、剣と弓矢、そして魔法を使って大暴れしていた。

彼女が防衛と攪乱に徹してくれたおかげで、アイゼンは余裕をもって魔族達を確実に潰して回る事が出来たのだ。

 

 

───村で戦いの後始末をした後、アイゼンに色々と話を聞きたいという要望があったので自宅に招く事になった。

しばらく談笑した後にフリーレンを追っている理由について聞いてみたが…そこで少女から衝撃的な話を聞かされたのだ。

 

少女が言うには、幼い頃に魔族によって攫われて魔法の実験台にされた結果、魔族と同じような角が生える呪いにかかってしまったと言う。

 

普段は少女の育ての親であり、師匠でもある魔法使いから伝授された角を隠す魔法…一種の変身魔法で誤魔化しているらしい。 魔法を解くと、少女の側頭部には立派な二本の角が現れた。

 

「(あの時は悪い事をしてしまったな)」

 

…前もって口頭で説明はされたが、戦士としての本能で体が勝手に反応してしまったアイゼンは危うく少女の顔面を殴り潰しそうになってしまった。

寸止めはしたものの、少女は目を見開いたまま気絶。 意識が戻った後も恐怖でギャン泣きしてしまい、その日は結局話の続きは出来ずに一日が終わってしまった。

 

 

翌日以降は、怖がらせてしまった詫びと村を守ってくれた礼も兼ねて、今後の道程についてアドバイスしたり、少女の旅を円滑にするための餞別を渡したり、戦士としての戦い方の修行をつけてやった。

 

まぁ、数日しかないので本当に軽くだが。

 

 

村に滞在した際に、北方の関所が通れなくなっていると聞けたのは幸いだった。

フリーレン達ならどうとでもなるだろうが、この若いエルフの少女が通常の方法で関所を通る事は難しいだろう。

仮にヴァールでフリーレンに追いつけなかったとしても、自分が渡した餞別を城代に見せれば恐らく関所を通過して追いかける事が出来る筈だ。

 

戦う者としての実力も及第点。経験はまだまだ浅いものの、油断しなければグラナト伯爵領までは危うげなく到達出来る筈だ。

 

 

ただ一つ。 どうしても気になった事がある───

 

 

「(呪いか。嘘を吐いているとは思えんが…)」

 

確かに、魔法で角を隠してしまえば、尖った耳や整った容姿をしているのでエルフっぽく見えるが…魔族と長年戦っていた経験と戦士としての直感は、少女を魔族と判断していた。

 

しかし、少女の行動が魔族としてはあり得ないものであるためにアイゼンは大いに判断に迷った。

 

喜怒哀楽はわかりやすく、僅かだが破壊された村の施設をほとんど一人で修復している。

アイゼンが冒険の話をしている際は、村の小さな子供のように瞳をキラキラと輝かせていた。 精神年齢ならフリーレンの弟子であるフェルンより間違いなく下だろう。

 

『髭がもじゃもじゃで背も小さい…もしかして男?』

 

『それ以外にどう見えるんだお前は』

 

村で自己紹介した際はなぜか容姿に驚かれたりした。

ドワーフとしては平均的な外見だと自負しているつもりだが…一体何に驚いたのだろうか。

 

『昨日は本当にすまなかったな。 泣かせるつもりはなかったんだ』

 

『なっ、泣いてない!あれは目汁だから!涙じゃないから!』

 

泣かせてしまった翌日はアイゼンにビビり倒していた。

本人は強がっていたが、半日止まらなかった体の震えは少女が感じたであろう恐怖の大きさを表していた。本当に申し訳なかった。

 

『どうですか、ししょー!』

 

『ふむ。 村での戦いでわかってはいたが、戦士としての筋も悪くないな。 若いのに大したもんだ』

 

『私、凄いですか!?』

 

『凄いぞ』

 

『やったー!』

 

少女はアイゼンに褒められ、喜びと共にぴょんぴょんと跳ねていた。

 

…どうやら彼女の育ての親は、魔法使いでありながら近接戦闘も出来る中々の猛者だったようだ。

教えを受けたと言う少女の力量は高く、魔法も加味すれば総合的な戦闘力は自身の弟子であるシュタルクを超えているだろう。

 

少々慢心気味というか、自信過剰な所があるように思えたがそこはまだまだ若いせいだろう。 魔族や魔物と戦いつつここまで単独で来ているし、フリーレンと合流さえ出来れば大きな問題にはなるまい。

 

 

───と、少女と過ごしたここ数日の出来事を思い返す。

 

外見は間違いなく魔族。 アイゼンの経験と直感も少女を魔族と判断した。

行動は間違いなく人間。 アイゼンの理性と感情は少女を人間と判断…いや、人間であれば良いと思ったのだ。

 

少女が本当にエルフなのか、それとも特殊な魔族なのか、別れる最後までアイゼンはどちらの確信を得ることも出来なかった。

 

 

結果、悩みに悩んだ末にアイゼンは全てをフリーレンに丸投げする事にした。

 

 

…なぁに、フリーレンは自分より遥かに年上の熟練の魔法使いだ。

戦士である自分にわからなかっただけで、フリーレンならば一目で呪いかどうかを判断する事が出来る筈だ。多分。

 

餞別の中にはフリーレン宛の手紙もある。 それを渡して、あとは落ち着いて対応すれば問題はないだろう。 フリーレンが如何に魔族に対して容赦のないエルフかは何度も伝えたし…大丈夫だ。へーきへーき。

 

 

「あとは頼んだぞ、フリーレン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐか…銅像でしか見たことないけど、実物はもっと可愛いんだろうなぁ」

 

無事に城代から通行許可を貰った旅人は、北方の関所を超えてグラナト伯爵領を目指していた。

 

残念ながら城塞都市ヴァールでフリーレン達に追い付くことは出来なかったが、城代から聞いた話ではついこの前、フリーレン一行が関所を越えて行ったばかりだという。

 

追いつくのも時間の問題だ。

 

「ししょーはやっぱり凄い!」

 

アイゼンから貰った餞別には、旅人の身元を保証するという内容の血判を押された証書と、関所を通してやって欲しいという旨が書かれた手紙があった。

 

城代が呼び寄せた魔法使いが調べ、書いたのが戦士アイゼン本人だと確認出来るとすんなり関所を通る事が出来たのだ。

 

 

勇者ヒンメル達が魔王を討伐してから約80年が経ったが、魔王を討伐した勇者パーティの一員が持つ影響力は今でも大きいのだと、師の偉大さをひしひしと感じる事が出来た。

 

…弟子をやっていたのはほんの数日だが、旅人の中では既にアイゼンは師匠として扱われている。

 

 

「美少女二人旅に躊躇なく加わるとか…さすがは我が兄弟子と言った所か」

 

リーゲル峡谷沿いの村では、斧を扱う赤毛の戦士の話を聞いた。

名をシュタルク。 アイゼンの下で修行した若き戦士、旅人にとっては兄弟子にあたる人物だ。

 

十代という若さで紅鏡竜を単独で討伐した、強くて優しい立派な戦士だと村人から聞いたが…旅人は違う所が気になったらしい。

『シュタルクが主人公の異世界ラブコメファンタジーの世界だったりしないよね?』などと呟く旅人。

 

「すっぱ~い!夕飯のデザートにしてはすっぱすぎるよこの葡萄…………っ!な、なにこの魔力!?」

 

アイゼンから貰った葡萄を食べて文字通り酸っぱい顔をしていた旅人。

しかし、突如として遠方から膨大な魔力を感じ取り戦慄する。 人間ではあり得ない魔力量…恐らくは魔族と判断した旅人は、気付かれないように、しかし最大速度で偵察に向かう。

 

 

 

───その先に、どんな絶望が待ち受けているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪われたエルフは邂逅する───

 

「こ、これは…!?」

 

辺り一面に広がる、首から上が無くなった死体。

それは強大な魔族へ立ち向かい、力なく敗れた勇敢な戦士達の屍だった。

 

そして戦士達の屍に囲まれながら、眉一つ動かさず超然と佇む者がいる。

 

「…」

 

500年を生きる大魔族。

 

七崩賢、断頭台のアウラ。

 

 

「…させない」

 

 

グラナト伯爵領の街は目と鼻の先だ。

ここでアウラの侵攻を止めなければ多くの血が流れる事になるだろう。

 

 

「これ以上、お前の好きにはさせないっ………!」

 

 

───少女は立ち向かう。

人々の平和な暮らしを守るため、これ以上の犠牲を出さないため。

 

 

「(フリーレン…あなたに会えなかったのは残念だよ)」

 

 

…そして、アウラに殺された魔法使い、亡きフリーレンの為にも。

 

 

「(いくぞアウラ! 全身全霊でお前を倒す!)」

 

 

今、戦いの火蓋は切られた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(くっ、隙がない!さすがは大魔族。でも負けない!街の皆は私が守る!)」

 

「(今更増援…?こっちは疲れてるのに…はぁ、面倒だけどやるしかないか)」

 

 

 

今、戦いの火蓋は切られたのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公が村の防衛戦で使ったのはゾルトラークではありません。

魔力を純粋に光と熱に変換したなんちゃって光線です。
マス〇ースパークみたいな。

速度と射程距離はゾルトラークを圧倒していますが、威力がしょぼいので大量の魔力で滅茶苦茶に強化して使用しています。
今回使用した時の威力では一日一回が限度です。防御魔法で簡単に防がれるので実質不意打ち専用。


次回、断頭台のアウラとの戦い…になるらしい。
角を隠す魔法は、感情が昂ったり魔力を全開にすると解除されちゃう事があるんだって。
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