自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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南の勇者の名前が明かされる日は来るのだろうか…


名も無き南の勇者の伝説

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から29年後。ザンフト大森林。

 

 

湿原を抜けた後は、広大な森林の中をのんびりと進んでいる。

 

 

自分はフリーレンとフェルンと共に川の水で体や髪を清めていたのだが、今は一人で川を探検…じゃなかった。お昼の食材となる物がないか見て回っていた所だ。

 

すぐ先に街道がある影響か、この辺は危険な魔物もいないようだ。

もうしばらくは平和な時間が続きそうだな。北に行けば行くほど危険になるそうだし、こういうのんびり出来る時間は貴重なものになるだろう。

 

しっかし、この川は生き物がいっぱいいるな。

川魚もいるし、カニとかエビみたいな生き物もたくさん泳いでいる。ある程度集めれば海鮮鍋が作れるかもしれない。

 

…あ、でっかいカエルだ!

毒の反応もないし、お昼ご飯にちょうどガッツリ肉肉したものが食べたいと思っていた所だ。せっかくなので捕まえよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…戻って来たら何だか微妙な雰囲気になっていた。なんで?

 

 

お昼を食べて再び歩きだしたが、やっぱりパーティー内の雰囲気がちょっとおかしい。

 

どうやら、シュタルクが水浴び中のフリーレンとフェルンを見てしまったらしい。そのせいでフェルンの機嫌が悪くなって雰囲気がよろしくないと…?

 

「思ったんだけどさ。もしかして今ちょっと空気悪い…?」

 

「そうかも。フリーレンもそういうのわかるようになってきたのか。ちょっと感動…」

 

むむ?フェルンはいつも通りに見える…ちょっとだけ照れてるような気がするが、まぁ大した変化ではないだろう。別に機嫌が悪いわけではないような気がする。

 

「たまにこういう事あるよね。二人って相性悪いのかな」

 

「そうは思わないけどな」

 

自分が首を捻っている間も、フリーレンとシュタルクはどんどん妙な方向へ会話を広げていった…二人が気にし過ぎているだけだと思うのだが…。

 

 

結局微妙な雰囲気のまま、街道沿いにあった宿屋で一泊する事に。

港が近くにあるせいか、活気に包まれた宿屋の中では思いもよらなかった者達と再会する事になった。

 

「フリーレンじゃねぇか。意外と早い再会だったな」

 

まさかのヴィアベルと再会である。

一級魔法使い試験で組んでいた他の二人も一緒だ。どうやら海路で北の果てへ戻ろうとしているらしく、帝都の港までは三人で向かう事になったらしい。

 

道筋こそ違えど、自分達とほとんど同じ日程でここまで来たのだろう。

 

「それでシュタルク、あの話は考えてくれたか?」

 

「あの話?」

 

…ふむふむ。

 

 

北の果てでは戦況が悪い?

 

前衛が圧倒的に不足している?

 

だからシュタルクを引き抜きたい?

 

 

………ほわ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィアベルが熱心にシュタルクを勧誘している間、シャオは宿の外でエーレと共に試験当時の話で盛り上がっていた。

 

「エーレは一次試験でフェルンと戦ったんだよね?フェルン言ってたよー、『凄く手ごわい人がいて危なかった』って」

 

「どうせお世辞よ。私じゃ相手にならなかったもの…あの子が最初から殺す気で戦ってたら私は今生きてない。それくらいの力の差があったわ」

 

「そうかなぁ?フェルンはこういう事でお世辞を言うタイプじゃないと思うけど」

 

エーレにとって、フェルンとの戦いは苦い経験となっている。

フェルンが使っていた魔法は基本的な一般攻撃魔法と防御魔法のみ。エーレも全力は出していなかったとはいえ、石を弾丸に変える魔法(ドラガーテ)などの質量攻撃で隙あらば倒そうとしていた。

 

しかし、エーレの攻撃魔法のほとんどはただ単純に回避され、全力を出す暇すら与えて貰えず一般攻撃魔法で一瞬のうちにやられてしまったのだ。

 

本気を出していなかった、全力を出せなかった、フェルンの魔法が早すぎた…それは言い訳に過ぎない。

魔法学校の首席というエリートとはいえ、実戦経験が不足していては磨いた魔法も技術も活かす事は出来ないと言う、ごく当たり前の事を痛感したものだ。

 

「あの子は面接にも受かってる…私に足りないものをあの子は持っているって事よね。一体何が違うのかしら…」

 

才能の一言だけで片付けるのは思考停止だ。

そもそも、エーレだって一級魔法使いの祖父から教えを受け、才能を遺憾なく発揮して二級魔法使いになり、魔法学校の首席と言う立場にもある。世間一般で言えば十分天才に分類される『持っている側』の人間のはずだった。

 

「ふむ…確かに、一万年に一人の大天才、天下無双にして最強無敵である私が落ちてるから。才能以外にも何か原因があるんだろうね」

 

…エーレは他の落ちた受験者達と同じく、一級魔法使いになった自分の姿がイメージ出来ないから、という理由で面接を落とされている。しかし、目の前ですっとぼけた事を言っているこの少女は、きっと自己評価が高すぎて落とされたんだろうな、と思った。

 

 

大正解である。

なお、シャオはゼーリエの助言(というか説教)を聞き流していたので、相変わらず自己評価は高いままであった。

 

「ところで、あなたはこんな所で油を売ってていいの?ヴィアベルの勧誘がうまくいったら、あのシュタルクって人はそっちから抜ける事になるけど」

 

大丈夫?と問いかけると、シャオは露骨に狼狽えながら答えた。

 

「だだだだだダイジョウブダイジョーブ!私達は固い絆で結ばれた旅の仲間だからね。まさかシュタルクが私達をす、捨てて、他のパーティーに行くなんて、そんなはず…そんな、はずは………」

 

「すっごい声震えてるし、目が泳いでるけど、本当に大丈夫?」

 

「………大丈夫じゃないかも」

 

 

 

 

 

その後、行っちゃやだああああ、とギャン泣きしながらシャオがシュタルクに縋りついたせいで、宿の中はちょっとした騒ぎになった。

 

シャオが泣きつく前に、シュタルクはあっさりとヴィアベルの誘いを断っており、シャオとフェルン、フリーレンはホッと一安心しながら翌日になって宿を出発したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国、ファーベル村。

 

 

村に到着すると、丸眼鏡をかけた村長から勇者様の銅像を磨く依頼を受けた。

 

 

報酬は、背中の痒い部分を掻く魔法だ。

…これは地味に便利な魔法ではないだろうか?背中に大きな荷物を背負っていて、両手が塞がっている時でも背中を掻く事が出来るのだから。

 

「ヒンメル様の像ってどこにでもありますよね」

 

「まあ、こういう細々した仕事も楽しいんだけどな」

 

何やらシュタルクが張り切っているが、銅像を磨くのは魔法でパパっと終わらせてしまうので残念ながらシュタルクの出番はない。

 

…まぁ、偶には素手でやるのもいいかもしれないな。

何事も魔法でやってたら味気ないし。今日は自分とシュタルクに任せてほしい。

 

「ふーん…ま、そういうのもいいか。なら私とフェルンが錆びを落とすから、二人は磨いてね」

 

「よーし!いっちょ綺麗にしてやるか!」

 

「力入れすぎて壊さないでよ」

 

 

 

 

 

さて、そうして意気揚々と広場にある勇者の銅像前まで来たわけだが…

 

「って誰このおっさん!?」

 

「ヒンメル様ではありませんね…」

 

そこにあったのは勇者ヒンメルの銅像ではなかった。

ヒンメルよりも背が高く、腰に二本の剣を携えた剣士の銅像だ。若々しい青年と言った風貌のヒンメルとは違い、ちょび髭を生やしたダンディな感じの大人の男性である。

 

「南の勇者だよ。魔王を倒したのはヒンメルだけど勇者は一人じゃない。色々な勇者が魔王討伐に挑んだんだ」

 

 

───フリーレン曰く、南の勇者は人類最強の勇者と言われた偉大な人なのだそうだ。

 

 

たった一年で魔王軍の前線部隊を壊滅させ、北側諸国の要所を支配していた七崩賢の内三人を討ち取った猛者中の猛者。

しかも一対一で戦ったのではなく、魔王の腹心である全知のシュラハトと七崩賢全員と同時に戦った上で三人を討ち取ったと言う。相討ちだがシュラハトも倒しているので、魔王軍の主要な幹部四人を単独で倒したことになる。

 

当時の勇者ヒンメル一行ですら七崩賢を二人しか倒せていないというのに…。

まさに人類最強の称号に相応しい戦績だ。ヒンメル達が劣っているとは思わないが、少なくとも戦闘力の一点に関しては南の勇者が最強なのは間違いないのだろう。

 

 

そんなフリーレンの説明を聞きながら磨き終え、ピカピカになった銅像を四人で眺めていると、自分はなんだか不思議な気持ちになった。

 

この違和感……やっぱりだ。

自分は南の勇者を見た事がある…気がする。

 

「そういえばシャオは南側諸国の出身だったね。向こうにも南の勇者の銅像があったのかな」

 

「…私の記憶にはありませんね。幼い頃の記憶なので朧気ですけど」

 

いや違う。銅像ではないのだ。

 

「直接見たって事か?」

 

「…それはあり得ないよ。南の勇者が死んだのは当時の私達が旅に出たばかりの頃だ。シャオはまだ生まれてすらいないのに」

 

いいや、直接見たわけでもない。

 

自分が暮らしていた村に、この南の勇者とよく似た人の写真があったのだ。

当時のじーちゃんが魔法で撮ったもので、今でも村の集会所に写真が飾ってあるし、自分も写真を一つ貰っている。じーちゃんは写真を撮る魔法が苦手だったので、少しぼやけているのだが。

 

「…どういう事?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ちょっと待っててね、確かじーちゃんが撮った写真がこの辺りに……あった。ほら、この人だよ」

 

シャオはゴソゴソと鞄を漁ると、中から簡素な作りのロケットペンダントを取り出した。

中には一人の男性が写った写真がある。少しぼやけているが、確かに南の勇者と似ているかもしれない。

 

「よく似ていますね。この方はどのような方なのですか?」

 

「んと、私の名前が絵本の主人公から取られたって言うのは前に話したでしょ?これは、その絵本を置いてったちょび髭の戦士の写真なんだよ」

 

まさかこんな偶然があるなんてね~、などと暢気なことを言っているシャオを前に、フリーレンは人知れず頭を悩ませていた。

 

「(確かにちょび髭の戦士って言ってたけど……ちょび髭の戦士なんてそんなに珍しくないし、ただの見間違いって可能性もある…でも)」

 

…考えれば考える程、ちょび髭の戦士が南の勇者である可能性が高い気がしてくる。

 

そもそもの話、渡して来た絵本の内容がピンポイント過ぎるのだ。

以前に絵本の内容を簡単に聞いたことがあるが、絵本の主人公の仲間は魔法使いが二人と戦士が一人、あとから僧侶も加入して合計五人のパーティーとなっているらしい。

 

僧侶はいないが、それ以外は現在のフリーレン一行と近い。

いや、今は離脱しているがザインも含めれば、まさに絵本の主人公パーティーそのまんまとなる。ちょび髭の戦士が村を訪れたのもシャオが生まれる前、まだ魔王が健在だった頃…時期も合う。

 

 

 

…怪しい。とても怪しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の村での夜。既にフェルンとシュタルクが眠ってしまった頃。

フリーレンとシャオが、前の街や道中の迷宮(ダンジョン)などで集めた魔道具をこっそりと見せ合いっこしていた時の話。

 

「…そういえばさ、絵本の主人公とシャオってどう似てるの?見た目とか?」

 

「んー?んー、そだよ。見た目がそっくりなんだよね…性格は全然違うけど」

 

「どういう性格なの?」

 

フリーレンが問いかけると、シャオは覗いていた魔法の万華鏡を目から離した。よっぽど夢中になっていたのか、目の周りにはくっきりと跡が残っている。

 

「主人公はすっごい自信家なんだけど、かなりドジでおっちょこちょいなんだよ。すーぐ早とちりするし、ビビりだし、礼儀もちょっと微妙な感じ」

 

私とは全然違うよねー、なんてケラケラ笑うシャオを見て、フリーレンは眠気で働かない頭を再び悩ませることになった。

 

「(性格もシャオと同じ……やっぱり絵本は南の勇者が置いてったのかな)」

 

だとしたらなぜ…どうしても気になったフリーレンは、眠る寸前に最後の質問をした。

 

「…その絵本の主人公って最後はどうなるの?」

 

「むにゃむにゃ…え?えーと、どうだったかなぁ…確か───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間みたいな魔族がいたら?』

 

南の勇者の突然の問いに、フリーレンは不思議そうな顔をした。

曰く───人を殺さず、喰わず、人と仲良くなれるような、優しい心を持った魔族がいたとしたら…フリーレンはどう対応するか。それが知りたいらしい。

 

『そんな魔族は存在しないよ。第一、人を喰わない事をどう証明するの?そいつが嘘を吐いていないってどうやって証明出来るの?…どう考えても、人を喰うためにそういう方向に進化した魔族としか思えない』

 

『そうだな。だからこれは、もしもの話だ』

 

『ほんとに変なこと言うね』

 

フリーレンは薬草を集めていた手を止め、少しだけ考えるように目を瞑ると、氷のような無表情で淡々と告げた。

 

『仮にさっき言った事を全て証明出来るとして…そんな魔族がいたとしたら人類の魔族との戦いに支障が出る。人類に友好的な魔族、という存在を認める事は絶対に出来ない』

 

魔族の中にそういった存在がいる、という可能性そのものが問題なのだ。

魔族と戦う人間側に心の迷いが生まれるかもしれないし、他の魔族が擬態の一つとして友好的な魔族の真似をして来て、それを万が一にも受け入れてしまったら…予想出来る被害は計り知れない。

 

『ならばどうする?』

 

馬鹿馬鹿しい話。しかし南の勇者は真剣な目をしている。

フリーレンは立ち上がり、南の勇者がどうしてこんなに真面目に話しているのか理解できないまま、自身の考えを語った。

 

『人類に友好的な魔族なんて絶対に存在しない、だから私はそいつを魔族だとは認めない。そいつはきっと、変な呪いにでもかかって魔族の姿に変えられてしまった間抜けなんだと思う』

 

『あくまで魔族ではなく、魔族の姿をした人間と解釈するわけだな…そうか』

 

『でもなんでこんな事聞くの?未来がわかるなら、私がどう答えるかも知ってたんでしょ?』

 

不思議そうな顔で聞いて来るフリーレンに対し、南の勇者は小さな笑みを浮かべながら答えた。

 

『ただの確認さ。相手が誰であろうと、困っている人は放っておけないのが勇者の性って奴だからな』

 

『…なんの話?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよぅ…」

 

翌日の朝、フリーレンは珍しくフェルンに叩き起こされることなく、自力で起きてしょぼしょぼ顔のままベッドに腰かけて座っていた。

 

「おはようございます、フリーレン様。今日は早起き…ではありませんが、遅くもないですね。何かあったんですか?」

 

「ちょっと変な夢を見ちゃってね。ほんの90年くらい前の事なんだけど」

 

フェルンに髪を梳かされながら、フリーレンは小さくぽつりと呟いた。

 

 

「…どこまで知ってたんだろうね。あいつは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人類に友好的な心優しい魔族なんて存在しない(認められない)ので、逆説的にそいつは魔族じゃないよね、という話でした。完全に屁理屈です。

…え?人を喰わない事をどう証明するのかって?
フリーレンが監視してればいいんじゃないかな。魔王を倒した勇者パーティーの魔法使いなら信頼出来るはず。

もちろん、監視期間はその魔族が死ぬまで。
魔族よりエルフの方が寿命長いし、多分大丈夫でしょ。

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