自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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南の勇者が人気すぎる。
やっぱり人気の秘訣はあのちょび髭なのだろうか。


思い立ったらすぐ動くよ

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国、ダッハ伯爵領。

 

 

久方ぶりに大きな街に到着した。これほどの規模の街はオイサースト以来だろうか。

 

 

物資の補給も必要だし、これだけ栄えている街なら掘り出し物が見つかる可能性もある。

いつもならそれなりの期間滞在して英気を養うところなのだが…今回ばかりはフリーレンの様子がいつもと違った。

 

「補給が終わったらすぐに出るよ」

 

「なんだよ、のんびりして行かないのかよ」

 

フリーレンは何故か焦っている様子で、一日も滞在する気がないみたいだ。

シュタルクが説得を試みているがいまいち反応がよくない。魔法店にすら興味を示さず、目立たないようにコソコソとしながら物資の買い出しに行こうとしている。

 

「なんだか様子が変ですね」

 

「いつもなら大きな街に来たら数か月は平気で滞在しようとするのに」

 

まったくである。一体なんだというのか。

二人と共に様子のおかしいフリーレンについて話し合いをしていると、自分達の横を馬車が通りかかった。馬車は少し先に進むと止まり、中から一人の男性が降りて来る。

 

身なりの良い男性だ。グラナト伯爵の屋敷にいたような執事みたいな恰好をしている。

男性は自分達の傍…正確に言えば、フリーレンの傍に来たかと思うと丁寧なお辞儀と共に話しかけて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。

自分達はダッハ伯爵の城のようにでかい屋敷に招かれ、夕食をご馳走になっていた。

 

ダッハ伯爵の曾祖父が領主をやっていた頃、かつての勇者ヒンメル一行に領地を救われたのでその恩返しがしたい、との事だった。馬車でやって来た男性はダッハ伯爵の執事だったようだ。

 

「うめぇなこれ」

 

うむ。確かに出される料理はどれも美味しい。

食べ物が美味しく、街も栄えていると言う事はダッハ伯爵は領主として優れた手腕を持った方なのだろうな。感心感心。

 

「フリーレン様。曾祖父の代はお世話になりました」

 

伯爵がにこやかに話しかけてくる……ただ、なぜかフリーレンはいつものしょぼしょぼ顔をしていた。

あの顔をする時はいくつかパターンがある。自信がない時とか、嫌な事がある、もしくはあったとか、気の進まない状況になるとか…すると、ああいう顔をするのである。いい加減覚えた。

 

「ご用件は?」

 

「話が早くて助かりますな。実は家宝の宝剣が魔族に盗まれてしまいましてね」

 

 

───夕食を終えると、ダッハ伯爵からの依頼を遂行するべく、自分達は魔族の行方を追った。

 

 

家宝の宝剣が魔族に盗まれてしまったため、それを取り返してほしい、という依頼のためだ。

80年前にも同じ事があったらしく、その際は勇者ヒンメル一行が盗んだ魔族を倒して宝剣を取り返したのだと言う。

 

盗まれた宝剣は、元々は名のある魔族が持っていたものだそうだ。

フリーレンが言うには、魔族にしかわからない魅力があるんだろう、とのこと。

 

なお、フリーレンがダッハ伯爵領をすぐに出ようとしたのは、ここの歴代の領主が無理難題を押し付けてくる厄介な一族だから、絡まれる前に去りたかった、というのが真相だ。

 

 

…しかし、宝剣かぁ。

基本的に魔族が持っている武器や杖は、魔族本体を倒してしまえば一緒に消えてしまう。にも拘らず現在も残っているとは…魔力で作った物ではなく、きちんと一から作り上げた武器、と言う事になるのだろうか。

 

魔族にも鍛冶屋のような存在がいるのだろうか…興味深い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野営を挟みつつも、宝剣を盗んだ魔族を追っていたフリーレン一行。

すると、酷く荒れ果てた村に辿り着き、そこで旅の僧侶を名乗る一人の女性と出会った。

 

(つるぎ)の魔族に滅ぼされた村の人達を弔っていたというその女性が、村人達が埋葬された場所まで案内してくれた…が、埋葬地に村人達の死体が埋まっていない事を見抜かれたフリーレンによって、この女性が僧侶のフリをした(つるぎ)の魔族本人である事が看破された。

 

すぐさま戦いが始まったが、四対一である事も相まって(つるぎ)の魔族は秒殺されてしまった。*1

 

「…数多くの村を滅ぼしたにしては弱かったですね」

 

「どうかな。たぶん、この村が滅ぼされたのはつい最近の事だ。魔力も大したことなかったし、村人達の抵抗を受けて消耗していたんだと思うよ。木っ端の魔族が侵入できるほど、ダッハ伯爵領の警備は緩くないからね」

 

そんな二人の会話を聞きながら、シュタルクは魔族の一撃でえぐれた地面を見ながらしみじみと呟いた。

 

「すげぇ威力だな…これが宝剣の力って奴か」

 

たったの一振り。ただそれだけで地面は爆発したかのようにえぐれている。普通の人間が受けたら粉みじんに吹き飛んでしまうだろう。シュタルクは冷や汗を流していた…が。

 

「あの、どう考えてもシュタルク様の攻撃の方が強いと思いますけど」

 

「そうだね。この程度じゃシュタルクの一撃の三割くらいの威力しかないよ…シャオ?何してるの?」

 

二人がシュタルクに呆れた視線を送っていた時、いつの間にか地面に落ちていた宝剣と鞘を回収したシャオ。

シャオは静かに手に持った宝剣を眺めていた。いつもと違って非常に真剣な表情で食い入るように見つめている…雰囲気が少しおかしい。

 

「(…宝剣には魔族にしかわからない魅力があると思ってたけど、もしかしてあの子も何かを感じ取っている?)」

 

「おい、どうしたんだよシャオ…うぉ!?」

 

心配したシュタルクが近づこうとした瞬間、シャオは鞘から宝剣を抜き放った!

驚きに目を見開くフェルンとシュタルク。フリーレンは警戒して杖を構えたまま目を細めた。

 

そんな三人を横目に、シャオは宝剣の両端をそれぞれ持つと───

 

 

「ふんぬらば!!」

 

 

───裂帛の気合と共に、自身の膝に剣の腹を叩きつけた。

魔力で強化した身体能力、そして宝剣が細身であったことも災いし、家宝の宝剣はあっさりと折れてしまった。

 

「折っちゃったよ…」

 

「なにやってんの…」

 

「意味がわかりません…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすんだよぉ…このまま帰ったら極刑だよ俺達…」

 

「逃げる…いや、まだ物資の補給は済んでないし……こうなったら伯爵を脅して…!」

 

絶望に涙を流すシュタルクと、今後の対応に頭を悩ませるフェルン。ヘタレのシュタルクはともかく、今回ばかりはさすがのフェルンも動揺を隠しきれていなかった。

 

()だだだだだっ!折れちゃう!折れちゃうよ!」

 

「別に折れてもいいでしょ」

 

「角より先に首の骨が折れちゃうからぁ!待って!言い訳させて!お願い!」

 

いつかラヴィーネがカンネにやっていたのを覚えていたのか、フリーレンは張り倒したシャオの背中に跨って、両手で角を握って思いっきり引っ張っていた。

 

「いいよ、聞くだけ聞いてあげる」

 

「だ、だってだって!あの剣が魔族に盗まれたせいでたくさんの村が壊滅しちゃったんでしょ!?だったらあんな剣ない方がいいって絶対!これならもう盗まれないし、魔族に使われることもないでしょ!?わ、私は悪くない!良い事した!」

 

「………はぁ~」

 

言い訳を聞いたフリーレンは深々と溜息を吐き、一瞬強く角を引っ張ったかと思うと唐突に角から手を離した。

 

「すぅ…ふんっ」

 

「もぺっ!?は、はにゃがあああああ!!」

 

突然解放されたせいで、シャオは顔面を勢いよく地面に叩きつけてしまった。その際に鼻が石にぶつかったらしく、鼻を押さえながら地面をゴロゴロと転がっている。

 

辺りにシャオの「あああああああああ!!」という叫び声が響く中、フリーレンは折れて二つに分かれた宝剣を眺めながら呟いた。

 

「こんなものがなくても魔族が村を襲うことに変わりはないのに…仕方ないな。とりあえず伯爵に報告しに行こうか」

 

「冥土の土産は貰えるかな…」

 

「闇討ちしますか!?」

 

「しないよ。あと冥土の土産もいらないから……いいから一度戻るよ。私の予想なら、伯爵はこれくらいなら気にしないから大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構いませんよ。家宝と言っても元は魔族が使っていた代物です。我が家の権威の象徴に過ぎない物ですから…壊れたら直せばいいだけです。とにかく、取り戻してくださりありがとうございます。フリーレン様」

 

ダッハ伯爵は器の大きい人で、シャオの蛮行を笑って許してくれた。

…実のところ、宝剣そのものよりも魔族の討伐の方が優先事項であったので、魔族さえ討伐してくれたのなら宝剣の一本や二本は大した事はないのである。

 

さらに言えば、フリーレン一行に依頼したのは「魔王を倒した勇者パーティーのエルフの魔法使いが、動きが活発になった魔族の討滅の為に再び北側諸国に訪れている」と言う情報を民衆に知ってもらうためでもあった。

 

エルフの大魔法使いが魔族と戦うために来てくれたと知れば、魔族に怯える民衆は安心し、戦う兵士達の士気もあがるだろうという打算があったのである。

 

「ほ、本当に許してくれた…」

 

「ほらね、言ったでしょ?」

 

「それはそれとして、シャオ様はきちんと謝りましょうか」

 

「は、はい、ごめんなさい…」

 

せめてものお詫びとして、シャオが魔力切れになるまで作りまくった大量のお菓子を詰めた箱…つまりは菓子折りを渡し、フリーレン一行は再び旅立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国、エトヴァス山地。

 

 

火山地帯に入り、以前フリーレンが話してくれた、温泉に入れると言う村に辿り着いた。

 

 

…辿り着いた筈だったのだが、村があったはずのその場所には一件の小屋しか見当たらない。

住んでいた住人達に話を聞くと、どうやらここにあった村は30年も前に廃村になってしまったと言う事がわかった。

 

この辺りの温泉もとっくに枯れてしまったため、温泉に入るのはまだまだ先になりそうだ。

 

次の街までは一週間はかかるとの事。

温泉がお預けになった事に肩を落とすフェルンを見かねて、シュタルクが住人に近くに温泉がないか尋ねた。

 

「そういえば祖父に聞いた話なのですが、裏手の山には秘湯があると言っていました。これまた30年以上前の話ですが」

 

「エトヴァス山の秘湯だね」

 

秘湯か…何とも心躍る響きだ。

しかし、フリーレンは秘湯に行った事があるそうだがそれも80年前の話だ。今も存在しているか分からないし、次の街を目指した方が確実だと言う。

 

「せっかくここまで来たんだから、行ってみようぜ」

 

説得力のある話だが、今回は珍しくシュタルクが反対した。

何やら理由がありそうだが…まぁいいか。自分も秘湯にはぜひ入ってみたかったのだ。

 

「まぁいいか。二人が行きたいって言うのなら行こうか」

 

 

───その後、小屋の住人達に別れを告げて秘湯へ向けて出発した。

 

 

しかし、流石は秘湯と呼ばれるだけあるのか、道順を知っているはずのフリーレンの案内があってもなお、道のりは困難を極めた。

 

近くに目印があるわけではないので、定期的に上空から周囲を確認しないと迷子になりそうだ。

出現する魔物も強いものばかり。魔法に強い耐性がある魔物も多く、シュタルクと自分は大忙しだった。

 

 

…これだけ苦労したのだから、秘湯には是非とも期待したいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こいつ紅鏡竜より強くないか!?」

 

魔物の剛腕から繰り出される爪の振り下ろしや嚙みつきを辛うじて捌く。

シュタルクの役割は物理アタッカーであり、同時に敵の攻撃を引き受けるタンクでもある。後衛フェルンとフリーレンに攻撃が行かないよう、恐怖に体を震わせながらも必死に戦っていた。

 

 

秘湯を目指している途中、厄介な魔物がいる縄張りを通り抜ける必要があった。

とはいえ、フリーレンがいる以上、剣の魔族の時のように、大した苦戦はしないだろうとシュタルクは高を括っていたのである。

 

…シュタルクはよく考えるべきだったのだ。

勇者ヒンメル達と行動していた頃のフリーレンから見ても『厄介』『難易度が高い』という評価がされる魔物。そんな魔物が簡単に倒せるような雑魚であるはずがないのだ。

 

案の定、現れた魔物は今までで一番の強敵だった。

 

紅鏡竜と同程度の大きさの三つ首のドラゴン。

あくまで翼を含めた紅鏡竜と同程度なので、純粋な体格や重量はこちらの三つ首の方が上だ。腕や足の部位もガッシリしており、ドラゴン特有の頑強な鱗もバッチリ備えている。

 

「これだけ直撃させているのに…ダメージはあるはずですよね?」

 

「私達の攻撃は通ってるよ。ただ、こいつはとにかくタフなんだ。しかも一度縄張りに入った者を執拗に追いかけて来る…ここで倒しておかないと、秘湯までついてくるよ」

 

「なんて面倒な…」

 

魔法耐性は紅鏡竜程ではないが十分に高く、物理防御に関しては紅鏡竜を優に超えている。

クリティカルヒットすれば並みのドラゴンを一撃で倒せるシュタルクの攻撃にも耐え、フェルンとフリーレンが放つ攻撃魔法にも余裕で耐えていた。

 

「わ、私は長期戦は苦手なんだよー!シュタルクもっと頑張って!何とかしてぇ!」

 

おまけに三つ首は互いが互いをカバーしており、シャオが目を狙って矢を放っても回避されるか鱗で防御されてしまう。今はちょこまかと死角に回りつつ剣で斬りつけているが、鱗のない場所を狙っているのに浅い傷をつけるのが精一杯だった。

 

 

…秘湯に行きたいと言い出したのは自分だ。それに、師匠と同じ景色を見てみたい!

シュタルクはかつてアイゼンが見たという景色を仲間たちと見るべく、斧を握る手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~気持ちいい~」

 

数々の強力な魔物や険しい道を乗り越えて、フリーレン一行はようやくたどり着いたエトヴァス山の秘湯で疲れを癒していた。

 

…まぁ、秘湯と言っても足湯にしか使えないような浅い温泉だったのだが。

 

「次の街に行けば、今度は足だけじゃなくて全身温泉に浸れるよ」

 

「足湯だけでも十分気持ちいいですからね。温泉に入るのが楽しみになって来ました」

 

「…そうだなぁ」

 

ここまで来るのに随分と苦労したが、皆が笑顔になっているのを見て、心の底から来てよかったとシュタルクは思った。

 

しばらく全員でのんびりとしていると、体が温まったタイミングでシャオが突然呟いた。

 

「…かき氷が食べたい」

 

「どうした急に」

 

「温泉で温まりながら冷たいデザートを食べるなんて贅沢……やってみたいです」

 

「フェルンは正直だね…」

 

 

───その後、フリーレンが魔法で出したかき氷にシャオがお菓子を作る魔法(エールトザーネ)の応用でシロップをかけ、皆で色とりどりのかき氷を食べながら景色を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちなみに帰りもあの魔物と戦うからね」

 

「あいつっていっぱいいるの!?」

 

「帰り道も過酷ですね…」

 

「…やっぱり労力と割に合わないかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
漫画で言うなら2ページ分である。




剣の魔族さんをちょっとだけ盛りました。
魔族との戦線が近い北側諸国の領主の屋敷から家宝の宝剣盗むとか、並大抵の実力では出来ないと思うんですけど。なんで瞬殺されちゃったんですかね。

あと、そこはかとなく未亡人感が漂うあの見た目が好きです。
角も巻き角っぽくて可愛い。あっという間にお亡くなりになったけど。


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