自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族 作:エルフの耳バーガー
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
アニメ二期が始まってワクワクしております。
───北部高原、ルーフェン地方のとある村。
魔族との戦いが終わってから数日が過ぎた。
無事に誰一人欠けることなく魔族達に勝利する事が出来たが、レヴォルテと一対一で戦っていたシュタルクは負傷しているし、ノルム騎士団が到着するまで村を守る必要がある。だからもうしばらくはこの村に滞在する予定だ。
…まぁ、シュタルクの負傷はもう治っているのだが。
それほど重い負傷ではなかったとはいえ、戦いが終わった翌々日には修行出来るくらいにはピンピンしていたからな…フェルンがドン引きしていたのは記憶に新しい。
「───私が知っている事は以上となります」
対面に座る村長が話し終えた。
自分も村長から聞いた情報を手帳に書き終え、礼を言って家を出ようとする。
「あの、本当によろしいのでしょうか?これでは報酬と言うよりは…」
いいや、情報は立派な報酬だ。
フリーレンは今回の件を、フェルン個人の一級魔法使いとしての任務と扱っている。なので普段の人助けとは違って何ら報酬を要求しないようなのだ。
だが、自分としてはそうはいかない。
今回はちょっとした人助けではなく、村一つを救う程の大きな功績だった。それを無報酬で終わるのは、自分としては納得しがたい。
とはいえ、今は村も復興中で金銭も物も出せないだろうし、だから代わりに情報を頂こうと言うわけだ。
「…そうですか。でしたら、他の村人達からも話を聞くとよいでしょう。皆もそれぞれ、仲の良い者がおりましたから…きっと、誰かに話したいと思っている筈です」
昼過ぎになる頃にはほぼ全ての村人達から話を聞く事が出来ていた。
今は残った最後の人達から話を聞くべく、同行者と共にパン屋に向かっている。
…あ、シュタルクとフェルンだ。二人とも村の子供達の相手をしている。
あの二人は魔族との戦いが終わってから四六時中一緒にいるな。なんか甘酸っぱい雰囲気がするので、自分は出来る限り二人とは別行動をとっている。
自分は気遣いの出来る大人のレディだからな!
「フフ、青春ですね…二人とも可愛いです」
フラフラと歩いて行きそうなメトーデを咄嗟に引き留めた。
自分の同行者であるこのお姉さんは、隙あらば可愛いものをなでなでしに行こうとする。が、さすがに今の二人の邪魔をするのは看過出来ない。
「わかっていますよ。今のお二人の間に挟まるつもりはありません」
メトーデはそう言うと、あっさりと自分の隣に戻って来た。
そして片手を自分の頭の上に置いてなでなでしてくる。朝に出会ってからずっとこの調子なので慣れてしまった。
…しかし、村人達からの生暖かい視線が恥ずかしい。
綺麗なお姉さんとのスキンシップは望むところだが、公衆の面前でこういう事をされるのはさすがに照れる。
「またやっているのか…お前も飽きないな」
気付けばパン屋に着いており、目的の人物であるゲナウが目の前にいた。
店は8割方修復され、現在の店の主人…ゲナウの幼馴染の男性も怪我から復帰している。
「おお、メトーデさん。エルフの嬢ちゃんもよく来てくれた…本当ならうちの自慢のパンをご馳走したいところなんだが、さすがにまだ準備が出来ていなくてな」
「運が良かったな、こいつの焼くパンはあまり美味くないんだ」
「おいおい、それは昔の話だろう。今じゃあ、この村一番のパン屋と有名なんだぞ」
「パン屋はここしかないだろうが…」
「それで、何の用だ?」
ゲナウに問いかけられたので、正直に用件を話す。
自分は今、かつてこの村に駐留していたノルム騎士団についての情報を集めているのだ。特に、あなた達二人は団長さんと仲が良かったと聞いたので詳しく教えてほしい。
あとついでに、団長さんに伝えることがあったらそれも聞きたい。
自分がそう伝えると、二人揃って怪訝そうな顔で首を傾げた。
「そんなことを知ってどうするんだい?伝えると言ったって、彼らはもう死んでいるのに」
おや、そういえば村の人達には旅の目的を伝えてなかった。
自分達は
ただ、自分は他にも会わないといけない人がたくさんいるので、騎士団の人達の特徴も把握しておかないと当日大変そうだと思ったのだ。そのための情報収集である。
「
「そうだな…まぁいいさ。少しだけなら話してやる」
四人でテーブルに着くと、メトーデが魔法でお茶を出してくれる。
自分も茶請けとしてお茶菓子をいくつか出し、手帳を取り出して話を聞く姿勢をとった。
「───だが伝言は不要だ。あの人には、この村が無事だった事さえ伝えれば…それで十分さ」
★☆★☆★
フリーレン一行が旅立つ前夜。
村人達の手によってちょっとした宴会が開かれる中、村の子供達が集まっている一角があった。
「しかと見るがいい…我が魔法を!」
子供達の中心にいる少女…シャオは何か魔法を使うようだ。
決め顔を作り、右手で顔を抑えるような独特のポーズをとっている。
「───
シャオが魔法を使うと、背中の肩甲骨辺りから一対の翼が生えて来た。
それを目にした子供達が歓声をあげると、シャオは得意げに翼をばっさばっさと動かした。
『ねーねー!あの魔法教えてよ!』
『あの魔法?』
つい先日、亡くなった騎士団団長についての話が終わった後。
妙に興奮した様子のシャオが、ゲナウに魔法を教えて欲しいと頼み込んできた。
『ほらあれだよ!背中から羽が生えるやつ!』
『…
ゲナウは使用する魔法に拘らない、生粋の実戦派の魔法使いだ。
他の一級魔法使いのように特筆した才能があるわけではない。そのため、亡くなった団長から近接戦のイロハを教わり、杖なしで戦えるように修練し、一般攻撃魔法をメインとして基本的な魔法だけで遠近中すべてに対応出来るように鍛えあげた。
ゼーリエに特権として空中戦にも対応出来るような白兵戦向きの魔法を望んだところ、
はっきり言って、現代の魔法使いが作れるような魔法ではない。
ゲナウがこの魔法を使えるのはゼーリエの
『───だから習得するのは無理…』
『やだやだやだやだ!私もかっちょいいポーズで使ってみたいのだー!』
『いや、あれはただのルーティンで…おい、暴れるな』
床でジタバタしながら駄々をこね始めた。
自身より遥かに年上のエルフの姿か?これが……ゲナウは困惑しながらも、メトーデや幼馴染からの説得もあって魔法を教える事になったのだった。
シャオは感覚派の魔法使いであり、理論派のゲナウは魔法を教えるのにかなり苦労した。
では、その苦労の甲斐もあってシャオが無事魔法を習得出来たのかというと……そうではない。確かに才能はあるようだったが、さすがに一日で習得するのは無理な話である。
結局シャオは
今シャオの背中から生えている翼はただの鳥っぽい翼である。色も白いしモフモフしている。
…ぶっちゃけ本来の術式とは完全に別物になっているので、これから研鑽を続けたとしても
「すげぇじゃん!これゲナウが使ってた魔法だろ?俺もカッコいいと思ってたんだよ」
「でしょでしょ?やっぱりシュタルクはわかってんねぇ!」
何か心に来るものがあったのか、少し興奮気味のシュタルクが近づいて来た。
「あれも出来んのか?羽根をこう、なんか飛ばすやつ!」
「それは無理」
…まさかの即答にシュタルクは一瞬固まったが、気を取り直してもう一度問いかけた。
「え?あ、そうなのか。じゃあ翼で岩を切り裂いたり…」
「それも無理」
「…と、鳥みたいに飛んだり」
「翼だけでは飛べないかな。飛行魔法を使えば飛べるけど、ちょっと強い風が吹いたら流されてどこかに飛んでっちゃう」
「じゃあ何が出来んのそれ…」
それを聞いたシャオはフッ、とニヒルな笑みを浮かべ、飛行魔法でふよふよと飛んでいく。
飛んで行った先は村の老人達のところだ。到着すると、シャオは胸の前で手を組んで穏やかな笑みを浮かべた。
…何かと勘違いしたのか、老人達はありがたがるように手を合わせ始めた。
神父のおじいちゃんもやってきて祈りを捧げている。
「め、女神様ごっこ!?」
「神父様もノリが良すぎませんか?あんなことしたら罰が当たりますよ」
フェルンはお馬鹿な子を見るような呆れた目をしていた。
騒ぎに気付いたのか、フリーレンもシャオの下にトコトコと近づいていく。
「私は(女)神だ。知りたいこと何でも教えよう」
「私が知らない事をシャオが知ってるとは思えないよ。それにまた変な魔法覚えてるし…覚えるんだったらせめてまともな民間魔法を覚えようよ。頭のリソースは有限なんだからさ。特にシャオの頭は」
「……フリーレン。君が知りたいことはわかっている。教える事は出来るが、残念ながら君には無意味なのだ。君の胸は生まれついてのものであって、ミルクを飲んだり体操しても今後大きくなることはない。絶対にだ」
★☆★☆★
「お前たちはいつもこうなのか?」
ゲナウはシュタルクとフェルンに問いかけながら、村中の人間の視線を集めている一角を指差した。
「痛い痛い痛い!ちぎれる!ちぎれちゃうよぉ!」
「大丈夫だよ。これは魔法で作ったんだから、ちぎれたって血が出たりはしないから問題ない…はず。だから安心していいよ」
「なにも安心できない!」
フリーレンがシャオの翼を根元から握りしめ、背中を踏みしめながら思い切り引っ張っている。
村人達は困惑していたが、仲間であるシュタルクとフェルンが慣れた様子で眺めているので、いつもの事なのかと判断して宴会の続きをしていた。
「まぁ、最近はわりといつもやってるよな」
「オイサーストを出てから…いえ、出会ってからもずっとこんな感じですね」
「そうなのか…」
しばらく騒ぎを眺めていたゲナウが、突然ぽつりと呟いた。
「あれが魔族だとはな。今もまだ信じられんよ」
「「っ!」」
…シュタルクとフェルンは驚いた。
オイサーストではシャオの事について、結局ゼーリエから何も言われなかった…少なくともフェルンは何も言われていないし、試験だって最後まで受けさせてくれた。
一級魔法使い達から攻撃されることもなかったし、てっきりフリーレンが話をつけてくれたと思い込んでいたのだ。
「ゼーリエ様からお前以外の一級魔法使いに対して通達があったんだ、フェルン。師曰く、フリーレンと同行しているエルフの少女は魔族の呪いを受けており、肉体が魔族と同質のものになっているとな」
僅かに警戒する二人を置いて、ゲナウの話は続いた。
「人間の肉体を魔族に変えてしまう呪いなんて聞いたことがない。それに、神話の時代から生きているゼーリエ様が今までその呪いを知らなかった、なんておかしな話だ。そんな危険な呪いを扱う魔族がいるなら、一級魔法使いに対して討伐命令を出すか、少なくとも調査を命じている筈だ」
だが…と、肩を竦めながら言う。
「だがゼーリエ様からの命令はこうだ。
『対象がフリーレンと共にいる間は手出しは禁止。監視も不要。呪いを扱う魔族については私が対処するから気にするな』
…明らかにおかしいだろう。監視ぐらいは最低でもつけるはずだ。正直、呪い云々よりは、魔族がエルフのフリをしている、と考える方が自然だ。他の連中もそう考えている者がほとんどだよ」
…しかし、話している内容に反してゲナウからは敵意や殺意は感じない。
困惑する二人に対し、安心させるように柔らかな笑みを浮かべたメトーデが語りかけた。
「ご安心ください。ゼーリエ様の言いつけを破るような方はいませんよ。試験の内容を知っているゼンゼさんを始めとして、理解を示している方は少なくありません。ゲナウさんだってそうでしょう?」
「………まぁ、今はな」
「若い子を脅すのは良くないですよ。ゲナウさんはただでさえ無表情で怖いんですから」
「お前はいつも本当にはっきりと言うな……まぁいい。私から一つ警告しておくから聞け」
ゲナウは僅かに憂いを滲ませた声で二人に告げた。
「───北に行けば行くほど魔族との戦いは激しくなっていく。当然、被害も大きくなるから魔族に対して憎しみを抱いている奴は多い…中央諸国の比じゃない程にな」
「それは、もしかして…」
「あぁ…一級魔法使いが敵対せずとも、それ以外の人間は違う。あいつが魔族だってことはバレないようにしろ…絶対にな」
…熟練の魔法使いからの警告。
ゲナウの言う通りだった。
今まではなんやかんやうまくやってこれたが、ここから先もそう都合よく行くとは限らない。
より一層、気を引き締める必要があるだろう。シュタルクとフェルンは顔を見合わせ、神妙な顔で頷いた。
「痛いって!このままだと本当にちぎれちゃ……アッー!」
「あ、取れた」
…地面に横たわってビクビクと跳ねている少女を見詰め、
「二人とも本当に可愛い…やっぱり私もついて行っては駄目でしょうか?」
「…この人自由すぎない?」
「ゼーリエ様も苦労してるんだ。引き取ってもらっても構わんぞ」
「いらないのでお返しします」
シャオは新たな力、新魔法『翼を操る魔法』を獲得した!
女神様ごっこも出来るし、夜寝る時に翼にくるまればポカポカ暖かい!
これなら北の寒い夜もへっちゃらだ!
取り外せば他にも色々使えるよ。
外す時は千切るしかないけど、千切る時はタンスの角を足の小指で思い切り蹴った時くらい痛いんだ。とっても痛くて泣いちゃうからやめてあげようね。