自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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いやぁ、断頭台のアウラは強敵でしたね…


結成!新たなる旅の仲間

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から28年後。北側諸国デッケ地方。

 

 

次の目的地である魔法都市オイサーストを目指し、まずはシュヴェア山脈を越えるべく猛吹雪の中を進む。

 

しかし本当に酷い吹雪だ。 一度は通った事のあるフリーレンすら道を見失うとは…仕方ないので麓にある避難小屋に向かう事になったが、あまりの寒さでシュタルクが眠ってしまった。

 

フェルンと協力してシュタルクを運びつつ、先導するフリーレンを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………今現在、自分はフリーレン一行に加わって大陸最北端のエンデを目指している。

 

 

あの日、グラナト伯爵領近郊で自分とフリーレンは戦った。

まさに死闘。互いに魔法を撃ちあい、時に切り結び、汗と泥に塗れ、血を流した。 両者一歩も譲らぬ激しい戦い…フェルンとシュタルクの介入があと少し遅れていれば、どちらかは確実に死んでいただろう。

 

二人の介入でお互いが相手を魔族と誤認していた事が発覚し、伝説の戦いは終わりを告げた。

 

 

その後も慌ただしい時間が続いた。

 

シュタルクが庭師を処刑人と誤解して気絶したり、フェルンと共に破壊された街の施設を直したり、アウラの支配から解放された亡き戦士達の弔いをしたり。

 

…フリーレンに角の呪いを調べて貰ったが、残念ながら何もわからないと言われてしまった。 彼女程の大魔法使いでも無理ならこれからどうすれば…そう悩んでいた時、フリーレンからある提案をされた。

 

「私も魔族の呪いで苦しんだ時期があるからね、君の苦労はよくわかる。 そこで提案だ。 今は無理でも、時間をかけて解析すれば解呪に至る可能性はあると思うんだ…だからさ、私達と一緒に来ない?」

 

───断る理由などなかった。

 

すぐさま旅への同行を承諾し、フリーレン一行と改めて自己紹介を行う。

食事を共にして親睦を深めると、グラナト伯爵領でしばしの休息と物資の補充を兼ねて数日間滞在した。

 

「動かないでね。 もうすぐ終わるから………よし、これで大丈夫」

 

旅立つ前日。

呪いの件でフリーレンに呼ばれ、そこで呪いへの対策として一つの魔法をかけられた。

 

自分の首にかけられたこの魔法。 これはどうやら呪いが齎す体への影響を調べるためらしい。 呪いによって何らかの悪影響が出た際は、すぐさまフリーレンに伝わるようになっているとの事。

 

ありがたい。ここまで気を遣ってくれるなんて、やはりフリーレンは評判通りの人格者であるようだ。

 

「万が一の時はこれで───」

 

「ほへ?」

 

「…何でもないよ」

 

 

…とにかく、出会いこそ少々険悪な空気が流れていたものの、今では非常に良好な関係を築けていると自認している。

 

その後も話の流れでフリーレンに魔法使いとして弟子入りし、フリーレンを師として、フェルンを姉弟子として仰ぐ事となった。

 

「年齢的には私の方がずっと年下ですから、あまり畏まらないでください。 気楽に接して頂いて構いません」

 

この師にしてこの弟子ありか。 フェルンは自分より年下にも拘わらず、魔法使いとしての実力は既に熟練の域にある。十代の少女と侮った者は痛い目を見るだろう。 さすがはフリーレンの一番弟子。

 

性格は真面目でしっかり者。 一行の空気が緩くなりすぎないように適宜引き締めてくれるし、表情こそわかりづらいが気遣い上手だ。 シュタルクに対して少々辛辣な気がするが…あれは好意の裏返しだろう。きっと。

 

 

「いや~、まさか俺に妹弟子が出来るなんてなぁ。しかも魔法も使えて前衛もこなせるんだろ?マジでありがたいよ」

 

心底助かった、という顔で話すのはわが兄弟子、竜殺しの戦士(ドラゴンスレイヤー)シュタルクだ。

…実を言うと、シュタルクに関しては想像していたものと違うので少し戸惑った。

 

アイゼンの弟子にして豪快に斧を振るう優れた戦士。

もっと筋骨隆々の厳つい男だと思っていたが、実物は思っていたより普通というか…いや、外見で判断するのは良くない。実績で判断すべきだろう。

 

庭師に驚いて気絶したり、フェルンの辛辣な言葉に涙目になったりしていたが、あれらはフェイク。 魔力を隠匿して弱く見せるとの同じく、気弱な男を演じて油断を誘っているに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

 

避難小屋までフェルンと共に気絶したシュタルクを運んでいるのだが…これも高度な駆け引きなのだろう。魔物の襲撃が来ればすぐに目を覚まして戦う筈だ。たぶん。

 

と、考え事をしている内に避難小屋らしきものが見えて来た。

周囲は暗くなりかけている。 あと数分もすれば視界は限りなくゼロになってしまうだろう。間一髪だ。

 

 

───しかし妙だ。 避難小屋から人の気配を感じる。

それにこの感じ…相当な強者と見た。 わが師、偉大なるアイゼンに匹敵するか、下手をすれば超えているかもしれない、そう思わせる圧倒的なオーラを感じる。

 

その事をすぐさま二人に伝えるが、反応が鈍い。 純魔法使いのフリーレンとフェルンでは、この戦士特有の気配を感じる事が難しいのかもしれない。

 

念のためフリーレンが杖を取り出し、警戒しながら進んでいく。

小屋のすぐ手前に来た時に、ようやく二人も気配に気づいたようだ。

 

なお、吹雪に紛れて聞こえづらいが、自分の耳には男性の叫び声が断続的に聞こえてくる。

 

「…確かに人の気配がしますね。先客がいるのでしょうか?」

 

「まさか魔族って事はないだろうけど…とにかく入るしかないよ。 このままじゃ氷漬けになっちゃう」

 

万が一を警戒し、シュタルクを自分が背負ってフェルンをフリーの状態にする。

フェルンが見守る中、フリーレンが避難小屋の扉をゆっくりと開ける。

 

するとそこには───

 

 

 

「ふんッ!!ふんッ!!」

 

 

 

───上半身裸の変態がいた。

変態は汗をまき散らしながら、威勢の良い掛け声と共にスクワットをしている。

 

「いいッ!!いいぞぉ!!温まって来たぁ!!」

 

 

…これはどうしたものだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───時間は戻って、グラナト伯爵領での休息中。

 

「どうしたもんかな…」

 

フリーレンは宿の窓から見える広場を見下ろした。

その広場では、街を救った英雄として慕われているシュタルクが、集まって来た小さな子供達の相手をしている。が、その中に一人の異物が混ざっていた。

 

特徴的な巻き角は魔法によって隠れているが、フリーレンはその人物がつい先日戦ったエルフの少女…ではなく、魔族である事を知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、グラナト伯爵領近郊でフリーレンは巻き角の魔族と戦った。

 

否、戦いと呼べるものではない。

フリーレンが終始圧倒…今までのどの魔族との戦いと比べても楽なものだった。 その証拠として、フリーレンは僅かな魔力を消耗しただけで無傷、対して巻き角の魔族は満身創痍。

 

…フェルンとシュタルクの介入があと少し遅れていれば、巻き角の魔族は確実に屠られていただろう。

 

フリーレンが巻き角の魔族を生かし、旅の仲間に加える決断をしたきっかけ。 それは、アイゼンからフリーレン宛に書かれた一つの手紙だった。

 

恐らく戦闘中に巻き角の魔族が落とし、戦闘の余波で吹き飛んでしまったのだろう。 それを偶然フェルンが拾ったのだ。

 

手紙の内容を要約すると、巻き角の魔族の事情や、出来れば面倒を見てやってほしい、というもの。

どうやらアイゼンはこの魔族が本当に呪いにかかったエルフなのか、それとも魔族なのか確信を得る事が出来なかったようだ。

 

しかしフリーレンにはわかる。 この少女はエルフではないし、角も呪いによるものではないと。

 

さすがに同族かどうかは魔法で調べなくともわかるし、呪いに関しては僧侶の分野だが、呪いか、そうでないかくらいはわかる。

そして案の定、角は呪いによるものではなく、ごく自然に備わっているものだと判明した。 肉体も完全無欠に魔族。

 

それが発覚した時点で選択の余地はないが、かつての仲間の頼みを断るのも憚られた。

 

それに、会話をすればするほど、この少女が一般的な魔族の常識から外れた存在であると否応なく認識してしまう。

魔族に感情がある事も、会話をする事が可能なのも知っている。 しかし魔族は根本的な部分で人類とは相容れない。

 

 

言葉は人類を欺くための。

人以外も喰えるのに本能的に好んで人を喰らう。

殺す必要がなくても人を殺す。 腹が一杯でも関係ない。

脳と精神構造が人類と違うが故に人に共感する事も出来ない。

 

 

人の形をしただけの化物。 それ以上でも以下でもない。

人の声真似をするだけの言葉が通じない猛獣…それが魔族。

 

 

だが、あの少女はどうだ?

 

フリーレンに殺されそうになった恐怖で涙を流し、祝勝記念で街がお祭り騒ぎになった際は楽しそうに屋台を回っていた。 リュグナー達の所業を聞いた時は怒り、魔族との戦いで命を落とした兵士達の死を悲しんだ。

 

今は広場でシュタルクと模擬戦をしている。 本気ではなくお遊びのような軽いものだが、子供達は瞳を輝かせ、それを見た少女は嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

最後のひと押しとなったのが、少女が使用している角を隠す魔法だ。

少女の育ての親である魔法使いが作った魔法で、既にフリーレンは術式を全て解析している。

 

「まだあの子を疑っているのですか?」

 

「フェルンはどうなの」

 

「…私には、まだよくわかりません。 でも、先日戦った魔族達とは違うと思っています」

 

フェルンは魔族という生物について、育ての親であるハイターと師であるフリーレンから徹底的に教育を受けている。

 

だが、実物を見て、実際に言葉を交わし、戦ったのはつい最近の事。 魔族が人類と相容れない存在であるとは知っているが、フリーレンと比べればまだまだ実感が薄い。

 

だからこそ、比較的すんなりと少女を受け入れる事が出来ていた。

 

「それに、あの子が使っている角を隠す魔法が何よりの証拠になります。 体は魔族でも、心は…」

 

「…魔族にしか使えなくて、魔族では決して使えない魔法、か。 あんな魔法を作った奴の顔が見てみたいよ」

 

角を隠す魔法。 あれこそがフリーレンの判断に大きな影響を与えた。

 

少女からあの魔法が記された魔導書を受け取って解析したところ、習得の難易度そのものはそれほど高くない事が分かった。 とはいえ、角を持たない人類には無用の長物なのだが。

 

問題は、使用するにあたって一つの条件があった事だ。

 

「───自分を心の底から『人類である』と信じていないと使えない。 少なくとも、アレ自身は自分を無意識レベルで人類だと、エルフだと思い込んでいる」

 

「この条件はかなりシビアです。 精神に作用する魔法で強制的に思い込ませるのも無理なんですよね?」

 

「そうだよ。 外部からの干渉や他の魔法による影響があると条件を満たせなくなってる。 しかも、少しでも条件を弄ったら途端に術式が破綻して効力を失ってしまう…こんなに酷い魔法は久しぶりに見た」

 

 

───悩んだ末、フリーレンはアイゼンの願い通りにこの特異な魔族を見守る事にした。

 

 

この魔族が一体何なのか、考えてもすぐに答えを出す事は出来ない。

現時点でもいくつか仮説は思い浮かぶが、どれもまだまだ妄想の域を出ないのだ。

 

幸い、フリーレンにもこの魔族にもまだまだ時間がある。

観察を続ければ何か答えが出るかもしれないし、魂の眠る地(オレオール)に行けば亡き師であるフランメから助言を貰えるかもしれない。

 

まだまだこの魔族を信用していないフリーレンは、監視も兼ねて首に特殊な魔法をかけた。

 

かつてヒンメル達と出会う随分と昔。

まだフリーレンが一人旅をしながら魔族と戦っていた時期に、とある遺跡で見つけた魔導書に記されていた古い魔法。

 

魔法をかけた対象の位置をいつでも把握し、フリーレンの意思によっていつでも首をねじ切る事が出来る。

 

相手が承諾しないと使えないし、魔法を刻み込むまでの時間も10分は必要なので戦いに使えるものではなかったが、万が一に備えるには最適な魔法だった。

 

 

 

まるで本当の兄妹のようにシュタルクと戯れる少女を見て思う。

 

 

「人間であればいい…か。私も少しだけそう思うよ、アイゼン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避難小屋でフリーレン一行が生活を始めてから数日が経とうとしていた。

小屋で出会った半裸のエルフ、武道僧(モンク)のクラフトとも打ち解け、今は5人で賑やかな夕食を摂っている。

 

「これだよこれこれ! 俺が昔食ったジャンボベリースペシャル! やっぱ街で食ったやつは小さかったんだなぁ」

 

「甘い物はあまり得意ではないが、久しぶりに食べると中々悪くない。 しかし、本当に良く出来た魔法だな」

 

「でしょー? この魔法はね、私が一番最初に作った魔法なんだよ」

 

少女は胸を張ると、自慢げな顔で自身の魔法について語りだした。

 

「最初はショートケーキしか作れなかったけど、今では食べたほとんどのお菓子を再現出来る! 込める魔力を調整すれば栄養成分もカロリーも自由自在!」

 

…通常、魔族はそれぞれが固有の魔法を持ち、その魔法一つを長い生涯をかけて研鑽する事に誇りを持つ。 当然と言うべきか、少女も固有の魔法を持ち、それを研鑽し続けている。

 

その名も───

 

 

「これがお菓子を作る魔法(エールトザーネ)!私だけが使える究極の魔法だよ!」

 

 

───お菓子を作る魔法(エールトザーネ)

恐るべき事にこの魔法は七崩賢の魔法と同等の領域に達している。

すなわち人知も人の理も超え、生物的な構造の違いから人類には決して扱えない魔法だ。

 

「フリーレン様」

 

「なに」

 

「連れて来て正解でしたね」

 

小声で話しながら、フェルンははちみつたっぷりのパンケーキを切り分けて口に運んだ。

かつて交易都市ヴァルムで食べたものと同じ味。 フェルンの16歳の誕生日の日にフリーレンがヘソクリで奢ってくれたものだ。

 

「まぁ…そうだね」

 

フリーレンは目の前に置かれた、器にのせられた好物であるメルクーアプリンを見つめた。

 

少ない魔力なら味、食感、匂いだけを再現。 栄養もカロリーもないし、食べてもお腹に溜まらない。 お菓子の形と味をした魔力を食べるようなものだ。 逆に魔力を多く使用すれば、栄養とカロリーを付加して完全に実体化する事も出来る。

 

今日作った各種スイーツは栄養とカロリーのないものだ。

栄養とカロリーが自由自在…これが何を意味するのか。 それがわからないフリーレンではなかった。

 

「物資の補充が難しい状況でも食糧難にはならないし、こんな環境でも甘い物が食べられる」

 

「いくら食べても太らないし、これが毎日なんて…連れて来て本当に良かったですね」

 

 

フリーレンはプリンを食べながら考える。

今は友好的だが、これが凄まじく高度な擬態である可能性もある。 油断は出来ない。 魔法で監視しているとはいえ、いつ寝首を搔こうとしてくるかわかったものではないのだ。

 

「(まぁでも、このプリンは確かにおいしい。 それは認めてあげてもいいかな)」

 

 

───フリーレンはひとまず考えを棚に上げ、次に作って貰うお菓子について悩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の名前が明かされる筈だったのに…

魔法の名前は二つの単語を混ぜた造語。
育ての親の誕生日にケーキをあげたくて作ったらしいです。



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