自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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転生前からポンコツだったんじゃないかな


真の勇者ヒンメルの伝説

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国シュヴェア山脈。

 

 

山の天気は恐ろしい。

麓で長い冬を越えたと思ったが、本格的に山に入ると再び激しい吹雪に包まれた。

 

今度はフリーレンが寒さにやられてしまい、フェルンが背負って運んでいる。

途中でシュタルクが代ろうとしたがフェルンに断られてしまったため、今度は自分が申し出た。 純粋な魔法使いのフェルンと比べ、戦士としても鍛えている自分の方が体力は上だ。

 

「この角…ちょうどいい所にあるね」

 

背中のフリーレンが、自分の側頭部にある角を握っている。

自分の角はハンドルではないのだが…「あまい匂いがする」匂いを嗅ぐのもやめてほしい。

 

 

 

 

 

吹雪が落ち着いた頃になって、ようやく目的地である集落に辿り着いた。

 

「ここが剣の里か…」

 

「知っているのですか、シュタルク様?」

 

シュタルクの説明によると、ここは剣の里…勇者の剣を守っていた里との事。

 

里の近くにある聖域には女神様が授けたとされる勇者の剣が刺さっていたという。

その剣は歴史上誰にも抜くことが叶わなかった…80年前、勇者ヒンメルが抜くまでは。

 

シュタルクは勇者の逸話について随分勉強したんだな。 まるで勇者博士だ。

 

「いや、これ結構有名な話だからな」

 

謙遜する兄弟子に尊敬の念を深めつつ、49代目の里長だという少女の家へ向かった。

 

暖炉で冷えた体を温めつつ、里長から話を伺う。

どうやら、勇者ヒンメル一行がかつて訪れた際に、フリーレンに半世紀後にもう一度来て里周辺の魔物退治をしてほしい、という依頼をしていたようだ。

 

里の住人の為にも早めに済ませたいのだろう、フリーレンの意向によって魔物退治は明日に行う事となった。

 

 

 

翌日、準備万端で出撃する。

雪はほとんど降っておらず視界は良好。

 

さあ、魔物退治の始まりだ。

 

里の近くだと言うのに、周辺には大量の魔物がうろついている。

馬よりも少し大きい程度の、白い狼のような魔物。 防御力は貧弱だが、素早い動きと鋭い牙と爪が武器のようだ。魔法は使わないようだし、数で攻めてくるタイプなのだろう。

 

フリーレンは上空から、フェルンはシュタルクを盾にして確実に魔法で倒していく。

 

シュタルクは時折咬まれたり爪で引っかかれたりしているが、僅かに掠り傷が付く程度でダメージにはなっていない。 頑健さは師匠であるアイゼンに似ているようだ。

 

 

さて、このパーティにおける自分の役目は他の皆のサポートだ。

前衛だがシュタルクのように敵の攻撃を受けるのではなく、スピードと手数を活かして敵を攪乱、行動を阻害して皆が戦いやすい様に援護する。

 

狙いは足だ。魔物の間を高速で駆けまわり、足を切りつけて機動力を削る。

貧弱な防御力かつ近距離攻撃しか出来ないので、動きが鈍ってしまえばただの的だ。

 

 

 

時間は30分もかからなかっただろう。

里周辺と言いつつ、魔物達は聖域周辺に集まっているので移動する手間が省けた。

 

…奇襲を察知したのでシュタルクに警告する。

上から降って来た一際巨大な狼の魔物…山の主の攻撃に合わせ、シュタルクが斧を一閃。

 

山の主は左腕を切り飛ばされ、苦し紛れの攻撃もフェルンが完璧に防御、最後はフリーレンの一撃で消し飛んだ。

 

まさに秒殺。 山の主という大層な肩書のわりには呆気ない最期だった。

 

 

 

───その後、抜かれたはずの勇者の剣が刺さったままの理由について、フリーレンから説明があった。

 

 

なんと、勇者ヒンメルは勇者の剣を抜けなかったらしい。

 

魔王を倒して世界が平和になるのなら、倒す者が本物だろうと偽者だろうと関係ない。

その言葉通り、勇者ヒンメルは勇者の剣なしで本当に魔王を倒してしまったというわけだ。

 

フリーレンも言っていたが、ヒンメルという人物はまさに本物の勇者なのだろう。

何かを成すために生まれた者が勇者なのではなく、何かを成した者こそが真の勇者。資格の有無など関係ない、と言う事か。

 

その後、里長を筆頭とした剣の里の住人達に別れの挨拶を交わす。

魔法都市オイサーストへの道のりはまだまだ長い。 これからも未知の冒険が待ち受けている。

 

 

…しかし、あれが勇者の剣か。

 

遠目から見ただけだったが、何だかとても気になると言うか、興味を惹かれると言うか…不思議な気分である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最小限の魔力、最低限の威力の一般攻撃魔法(ゾルトラーク)で魔物を撃ち抜いて行く。

淡々と魔物を処理する中、フェルンはいつもと違う感触に僅かな戸惑いを抱いていた。

 

「(やりやすい)」

 

剣の里周辺にいた魔物達は狼のような姿と、それに見合った能力を持っている。

馬より大きい巨体に似合わず非常に俊敏で、積もった雪の上でも動く事に全く支障はないようだった。

 

数も多く、常に周囲を囲まれた状態だ。 気を抜けば死角から攻撃される恐れがある。

シュタルクという前衛がいるとはいえ、これは油断出来ないなと思っていたのだが…

 

「…これでは魔法の練習にもなりませんね」

 

魔物達は次々と足を斬られ、自慢の機動力を発揮出来ずに呆気なく倒れていく。

中には足を全て斬り落とされたものもいる。 藻掻く様はいっそ哀れですらあった。

 

原因は、新しく一行に加わった一人の少女だ。

左手に杖を、右手に短めの剣を持って戦場を高速で動き回っている。 スピード自慢の魔物が手も足も出ないような超高速移動だ。

 

 

それを見ていると、グラナト伯爵領を出てからデッケ地方に入る直前の事。

本格的に実力を確認しておこうと、フリーレンの提案で少女とシュタルクが模擬戦をした時の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも用意はいい?」

 

模擬戦はシュタルクと新人である少女の一対一。

 

互いに殺さない程度に手加減するが、魔法も含めて何でもありの実戦形式だ。

一行には戦士がシュタルクだけだったので、対人で近接戦の模擬戦が出来るのはシュタルクの戦力向上という点でもありがたい事だった。

 

「じゃ、はじめ」

 

フリーレンが開始の合図をすると、少女は左手に杖、右手に剣を持ったまま頭を下げた。

 

「よろしくお願いします!」

 

「お?おう。こっちこそよろし「チェストー!」あぶねぇ!?」

 

「(うわぁ…)」

 

まさかの不意打ちであった。

思わず挨拶を返そうとしたシュタルクに対し、少女は全力の一撃を叩き込んだのだ。

 

フェルンは内心で少し引いた。

 

「わが必殺の飛雷〇斬りを避けるとは、さすがは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)…全力で殺らせていただきます!」

 

「ちょ、ま…お、おおおおおお!?」

 

少女はシュタルクの周囲を高速で動き回りながら絶え間ない連撃を浴びせる。

フェルンでは目で追う事が出来ない程のスピード。 周囲には斧と剣がぶつかり合う甲高い金属音が鳴り響いている。

 

「瞬間移動…いえ、速く動く魔法でしょうか」

 

「正解。 高速で移動する魔法(ジルヴェーア)…南側諸国の山岳民族に伝わる民間魔法だね」

 

少女は魔法無しの純粋な俊足、高速で移動する魔法(ジルヴェーア)、さらに飛行魔法も交えて三次元的に動き回っている。

 

飛行魔法の扱いが非常にうまいが、これは飛行魔法が元々魔族の魔法だからだろう。

人類は飛行魔法を原理不明の状態で使用しており、魔族が使用した場合と比べて応用が利かない。

 

少女の体(脳)が魔族だからこそ、ここまで上手く飛行魔法を使えるのだとフェルンは分析した。

 

「シュタルク様は勝てるでしょうか?」

 

「どうかな…アイゼンは魔法込みならあの子の方がシュタルクより間違いなく強い、って手紙に書いてたけど」

 

アイゼンが知っているシュタルクの強さは三年前のものだ。

シュタルクはリーゲル峡谷沿いの村に滞在していた際、毎日修行をしていたのでアイゼンの予想が外れる可能性もある。

 

「っ速いな…けど、慣れて来た!」

 

防戦一方なのは変わらないが、シュタルクは先ほどより余裕をもって攻撃を防ぐ事が出来ている。

勝てると確信したのか、戦闘中には珍しくシュタルクの顔には笑みが浮かんでいた。

 

「───わりぃけど、兄弟子としてカッコつけさせてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けちゃった…」

 

「疲れたー…」

 

そこそこ長く続いた模擬戦は少女の勝利で終わった。

しかし、負けたシュタルクは悲し気な顔だが体力には余裕があるようで、勝ったはずの少女は疲れた様子で地面に寝転がっている。

 

少女の速さに慣れたと確信し、シュタルクが渾身のカウンターを放った瞬間にさらにスピードを一段階上げ、不意を突かれたシュタルクが斧を弾かれて首に剣を突きつけられたのだ。

 

「殺し合いになったら結果は変わるかもしれないけど、魔法ありならシュタルクより一枚上手かな」

 

「妹弟子だけど、私の方が経験豊富な年上だからね! 当然の結果だよ!」

 

「私と戦った時のアレはなんだったの」

 

「い、いやぁ、あの時は緊張してたから…その…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(私のような魔法使いとは相性が悪い…フリーレン様は初見で彼女に勝ったというのですか)」

 

フェルンは魔物の数が減ったタイミングで、チラリと上へ視線を向けた。

敬愛する師、フリーレンは今も広範囲攻撃魔法である破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)で魔物達を殲滅している。

 

「さっむ…早く終わらせて山降りよ…」

 

「(さすがです。 フリーレン様)」

 

 

普段は面倒くさがり屋で、朝早く起きられなくて、魔導書を買うために散財して…日常生活では結構なポンコツである師だが、そこはやはり魔王を倒した元勇者パーティの伝説の魔法使い。

 

やる時はやる人なのだ。

 

 

「(路銀には余裕があるし、次の町に着いたら何か好きな物を買ってあげましょう)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリ…じゃない!シュタルク上だ!」

 

「うおっと!」

 

少女の警告に反応したシュタルクが、上から奇襲をかけてきた山の主の攻撃を紙一重で回避しつつ、斧で左腕を切り飛ばした。

 

「助かったぜ。けど、最初に何て言おうとしたんだ?」

 

「う~ん………わかんない」

 

「わかんないかぁ」

 

二人が気の抜けたやり取りをしている間に、山の主を消し飛ばしたフリーレンとフェルンが近づいて来る。

 

「これでお役目は終わりだね」

 

「あっ、そうだフリーレン。ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

シュタルクは先ほどチラリと見えた聖域の中をもう一度覗き、怪訝な顔でフリーレンに尋ねた。

 

「なんで勇者の剣が刺さったままなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュタルクの問いに対し、フリーレンが勇者の剣のせいで魔物が集まっている事や、勇者の剣が何故刺さったままなのかについて他の皆に説明した後。

 

一旦、里まで戻って小休止を挟んだのち、再び吹雪く前に山から下りて次の町を目指す事となった。

 

皆が里へ向かって歩き始めた時、一人だけ聖域の前で足を止めている事に気付いたシュタルクはその人物へ声をかけた。

 

 

「───シャオ!」

 

 

「…?」

 

シャオと呼ばれた人物…自称エルフの少女は、ぼんやりとした顔で振り向いた。

魔物は殲滅したというのに杖と剣を手に持っている。 まるで何かと戦おうとしていたようだ。

 

「何やってんだよ。 ほら、皆行っちまうぜ…なんで武器出してんだ? もう魔物はいないだろ」

 

「…あ、うん」

 

「おいおい、大丈夫かよ…疲れたなら里まで背負ってやろうか?」

 

「だいじょうぶ…」

 

シュタルクの指摘を受けて武器をしまい、少女はふらふらと里へ歩き出した。

怪訝に思いながらも、シュタルクは色々と危なっかしい妹弟子を追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリーレン様。 どうかされましたか?」

 

「…いや、なんでもないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




高速で移動する魔法って燃費が悪そうですよね。

魔力切れじゃなくて、高速で移動する魔法を使えるだけの魔力が残ってないって言ってたし。数回しか使ってないっぽいのに。


やっとオリ主ちゃんの名前が出ました。
我ながら可愛い名前だなって思います。
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