自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族 作:エルフの耳バーガー
───勇者ヒンメルの死から29年後。 北側諸国アペティート地方。
久方ぶりの町に辿り着いた。
暖かい…中央諸国よりは流石に寒いが、山の上よりは圧倒的に過ごしやすい気候だ。
物資の補充も必要なので、休息も兼ねて数日間滞在する事になった。
しかし、町に来て早々に問題が発生してしまった。
今日はシュタルクの18歳の誕生日なのだが、フェルンはそれを知らなかったようだ。 事前に教えてくれなかったと怒っているようだが、一緒に過ごしていて誕生日が気になったりしなかったのだろうか。
「フリーレン様なんて知りません」
「…この薬貴重だったのに」
フリーレンは服だけ溶かす薬をプレゼントにしたが、先ほどの件と合わせて不機嫌になったフェルンが出て行ってしまった。
部屋に残されたのは、薬で溶けた服の代わりに毛布にくるまるフリーレンと、弓の手入れをしていた自分だけだった。
フリーレンは薬の代わりに大きなハンバーグを作るそうなので、暇な自分も料理を手伝っていた。
アイゼンから貰ったと言うレシピのおかげで調理はスムーズに進行している。
「あれ、そういえばシャオはシュタルクの誕生日知ってたっけ?」
知らなかったが、自分の中では誕生日と言えばケーキと決まっている。
作るのは苺のショートケーキだ。 お菓子を作る魔法で一番最初に作ったもので、研鑽を積んだ今はどのお菓子よりも美味しく作る事が出来る。
それに加えて、別途でプレゼントを渡す予定だ。
自分が旅の途中で集めた魔道具や武器防具、アクセサリーなどもある。 その中から選んで渡そうと思っている。
「ふーん、魔道具か」
どうやらフリーレンは魔道具が気になるようだ。
自分が今まで揃えたコレクションが大魔法使いのお眼鏡にかなうか否か、気になった自分は後で見せようかと提案してみた。
「…まぁ、見せて貰えるなら見ておこうかな」
───その日の夕食時、機嫌を直したフェルンがシュタルクと共に帰還したため、皆で大きなハンバーグを食べた。 自分の顔より大きいハンバーグは食べ応え抜群だ。 おいしい。
ケーキは好評だったが、普段も食べていると勿体ないので各々の誕生日やお祝いにだけ作る事になった。
夜はフリーレンと互いに集めたコレクションを品評し合う。
フリーレンが夢中になりすぎた結果、時間が長くなってしまってフェルンにいい加減寝るようにとお叱りを受けてしまった。
フリーレンの事は年上の大魔法使いとして尊敬はしているが、一緒に過ごすうちに普段は結構お茶目というか、うっかりさんな人である事がわかって来た。
フェルンは9歳の頃からフリーレンと一緒らしいが、この分だとさぞ苦労しただろう。
これからは色々と気を遣った方が良いか、と思いながらベッドの上で毛布にくるまって眠りに落ちる。
…それにしても、服だけを溶かす薬か。 何だかとても浪漫に溢れているように思えるのは自分だけだろうか。
★☆★☆★
「はいこれ、シュタルクにプレゼント!」
「お、アクセサリーか。 ありがと…なにこれ超かっけぇ!」
夕食の巨大ハンバーグに続き苺のショートケーキも食べ終ったタイミングで、シャオは誕生日プレゼントをシュタルクに手渡した。
「剣…で、ございますか?」
それは非常に小さな剣の形をしていた。
特に色などはついていないが、柄や鍔の部分が派手な形をしている。実戦用でこういった形の剣はないだろう。装飾用としてならあるかもしれない。
「本当は黄金色で、竜みたいなやつが欲しかったんだけどね*1」
「十分カッコいいって! よし、早速ベルトに着けておこう」
シュタルクはご機嫌な様子で、斧を運ぶために身に着けているベルトに剣のアクセサリーを取り付けた。
「超似合ってる!カッコいい!」
「そうでしょうか。 何となく子供っぽいような…」
「ま、喜んでるならいいんじゃない」
───その日の夜。
シャオとフリーレンはお互いが集めたコレクションを見せあっていた。
ベッドの上には多種多様な魔道具(ガラクタ)が並べられている。
「ナニコレナニコレー!」
シャオが被っている兜は一見何の変哲もないグレートヘルムのような形をしている。
しかし、スリットから外を覗くとありとあらゆるものがキラキラと輝いて見えた。
「うー、頭がくらくらする~」
輝きすぎて視界が悪いし、ついでに目にも悪い。
目が回ったのか、兜を脱ぐと酒に酔ったように頭をふらふらさせている。
「こう、魔力を込めて…出来た」
対して、フリーレンは手に細長い筒のような物を持っており、それに魔力を込めると筒の先端から光の剣が生えて来た*2。
「………」
フリーレンは無言で光の剣を振り回した。振った際に鳴る独特の音が癖になる。
ちなみに、この剣は何も切れない上に魔力効率が非常に悪い。 並みの魔法使いでは10秒程度しか使えないが、1000年以上を生きた魔法使いであるフリーレンならば数時間以上は使用できる。 特に意味はない。
二人揃って子供の様に騒いでいたが、ブチ切れたフェルンによる極寒の視線と無言の威圧を受けた結果、そそくさと魔道具を片付けて静かにベッドで眠りについた。
★☆★☆★
───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国アルト森林。
次の街を目指す途中、ついでに森の中で薬草などを手分けして集めた。
魔物や獣がいる場所にある薬草や食材は、普通の人では取りに来るのが難しいので店に行けばそれなりの値段で買い取って貰える。 少しでも路銀の足しにしたいところだ。
「物資の補充がしたいから、今日中に大き目の街に行きたいんだよね」
「そうか。なら気を付けてな。ここら辺は危険な毒性生物が多いから」
フリーレンに底なし沼から引き抜いてもらった僧侶の男性に別れを告げ、僧侶の男性が住んでいるという近場の村を素通りして次の街へ向かう。
が、シュタルクがあっさりと蛇に噛まれてしまった。
数分と経たずにシュタルクの鼻から血が流れ出した。 あの蛇は毒を持っていたのだろう。
次の街へはまだまだ距離があるので、仕方なく素通りした村へと飛行魔法で戻る事になった。
「シャオは周囲の警戒よろしく」
無論だ。 自分は飛行魔法が得意中の得意。
例え強力な魔物が来ようと、先手を取って矢で撃ち落として見せよう。
「手遅れですね」
ダメだった。
教会の神父様に診て貰った所…シュタルクが受けた毒は数時間で死に至る猛毒だったようで、もう治療が間に合わないらしい。
「数時間後には脳が溶け始め、鼻から全部流れ出て、死にます」
「すごく怖い!!」
初期段階でしか対処は無理だったそうだが、やって来た神父様の弟のザイン───先ほど会った僧侶の男性だ───が片手間に治療してくれた。
フリーレンと神父様が語るところによると、ザインは僧侶として天性の才能を持っているらしい。
神父様は、フェルンを拾って育てた男性…勇者ヒンメルと共に戦った凄腕の僧侶ハイターに認められた、この地方では最も優秀な僧侶だ。
その神父様が手に負えない毒を、ザインはちょっとした擦り傷を治すかの様に一瞬で治してしまった。
「どうかあの子を、この村から連れ出してやってはくれませんか?」
───神父様とザイン、二人の兄弟の事情を聞いた後、神父様からザインを一行に誘って貰えないかというお願いをされてしまった。
全員で話し合いをしたが、フリーレン以外の我々三人は概ね賛成だ。
ザインとは少ししか話していないが、村人からの評判は悪くない。 それに我らのパーティには回復役がいない。 今回の様な事があった時に備え、凄腕の僧侶を加えるのは大歓迎だった。
…とはいえ、自分は呪いのせいか毒にはとても強い。 生肉、生魚などはそのままで食せるし、毒キノコなどの毒性を持った植物等も問題なく食べられる。 これだけは呪いに感謝していた。
フリーレンは同族嫌悪とやらですぐには動きそうにないので、自分とシュタルクが先に説得に向かったのだが…
「座れシュタルク。 俺に勝てたら仲間になってやるよ」
「おう、やってやるぜ…シャオ、お前はそこで俺の雄姿を見届けてくれ」
ザインの提案でポーカー勝負をする事になった。
シュタルクは自信がありそうだ。 これはもしかすると、あっさりスカウトが成功するかもしれない。
★☆★☆★
ザインと出会う少し前。
フリーレンとフェルンが薬草、シュタルクとシャオがキノコなどの食材を集めていた時の事。
「これとー、これとこれと…あとこれも!」
「待て待て待て待て」
「?」
置いてある籠にシャオがポンポンと食材を放り込んでいくが、看過できないものがあったのでシュタルクは思わず声をあげた。
「今のやつ毒あるよね? ほら、これ食った事あるもん。 師匠と修行してた時期に間違って食ったけど三日くらい意識なくなったんだよ。 やべぇよこれ」
シュタルクが籠の中からキノコを一つ取り出して語った。
当時がトラウマになっているのか、シュタルクは顔を蒼くしている。
「でもおいしいよ?」
そう言って、シャオはキノコから土を払いのけるとそのまま口に放り込んだ。
リスの様にほっぺを膨らませながら、美味しそうにキノコをもぐもぐと咀嚼している。
「ちょっ、毒がっ」
「昔から毒とか効かないんだよねー。肉とか魚も生で食べてお腹壊した事ないし」
「すごぉい…」
これも呪いのせいかなぁ、などとぼやく少女。
シュタルクはドン引きしたが、よくよく考えれば別におかしな事ではない。
魔族は人語を操るが、生物としては根本的に魔物と変わらないのだ。
そして魔物は基本的に何でも食べる…
そして当然、魔物はいちいち獲物を調理しない。
人間も人間以外も大概は生でそのまま食べる。
根本的に肉体の造りが人類とは異なるので、人類に効く毒が通用しなくても不思議ではなかった。
「(普段はただの子供にしか見えないけど、こういう所はやっぱ魔族なんだなぁ)」
★☆★☆★
「うぅ、寒いよぉ」
「酷い…誰がこんな事を…」
シュタルク達の帰りが遅かったので、フェルンとフリーレンは迎えに行くべく酒場がある村の広場へ来ていた。
しかしそこには、パンツ以外の身包みを全て剥がされ、地面で無様にしくしくと涙をながすシュタルクの姿があった。
「悪く思うなよ。 大人ってのは汚いもんなんだぜ」
「身包み剥がされてる!?」
シュタルクの近くには同じように身包みを剥がされたザインが座っている。
ニヒルな笑みを浮かべながら煙草を吸っているが、パンツ一丁なので全く様になっていなかった。
フリーレンがかつてヒンメルとした会話を思い出しながら勧誘したが、ザインには結局断られてしまった。
しかしザインの様子に思う所があるのか、フリーレンがやる気を出して何が何でもザインを一行に加えようと決意した時。
「…そういえば、シャオ様がいません」
妹弟子の姿が見当たらず、不思議に思って疑問を口に出したフェルンに対してザインが答えた。
「あぁ、あの嬢ちゃんか。 あの子は村長と戦ってるよ」
「どうしてそんな事に…」
「あの子は大したもんだな………最初にシュタルクじゃなくて嬢ちゃんが相手だったら、俺は文字通り賭けに負けて、今頃はお前らの仲間になってただろうな───」
「…お嬢さん。 あんた正気かい?」
「ふっ、正気だぜ…私はこれでいく」
シュタルクとザインがほぼ同時に脱落した後、自分も遊びたかったシャオは村長と一対一のポーカーに興じていた。
シャオの前には配られたカードがそのまま乱雑に置かれている。
恐るべきことに、ディーラー役となった村人から配られたカードを一度も見ないまま勝負に出たのだ。
「(間違いなく役は出来ていないはずだ。 だがしかし……)」
額に汗を浮かべながら、村長は少女の手元へ視線を移した。
少女の手元には、いつの間にかジュースの入ったコップが置かれている。 美味しそうに飲んでいるが…それはあり得ない事だった。
「(あれは先ほど注文してカウンターに置かれてあったはず……魔法は使っていないようだが、これはどういう…?)」
村長は若い頃に魔法使いを目指していた事がある。
結局才能がないと諦めたが簡単な民間魔法ならいくつか使えるし、目の前で魔法を使われたなら感知出来る筈であった。
しかし、離れた所にあるジュースが一瞬で少女の手元に移動するという、不可解な現象が起きている。
魔法でないとすればどうやったのか? 方法はわからないが、問題はジュースの時と同じ手段で配られたカードをすり替えた可能性があるという事だった。
すなわちイカサマであるのだが…
「(バレなきゃあイカサマじゃない、か。 見抜けなかった方の負け…しかし儂とて生粋のギャンブラー! 逃げるわけにはいかぬ!)」
「さあ! 勝負するのかい!? 村長さんよぉ!!」
「舐めるなよ小娘が……いいだろう! この勝負、受けて立つ!」
今ここに!
天才ギャンブラー二人による熱い戦いが幕を上げた!
シュタルクは毒喰らっても回復したらその度に耐性獲得してそう。
なんでも食べられるのでサイバイバル適性が高いオリ主。
偶に、「あれ?この呪いってメリットの方が凄くね?」とか思ってるけど深くは考えない。あとすぐ忘れる。ポンコツだから。