自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族 作:エルフの耳バーガー
───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国アルト森林。
村長との死闘を制し、取り返したシュタルクとザインの装備、そして戦利品として貰った魔導書を持ち帰る。
皆には概ね礼を言われたものの、フェルンには少しだけ怒られてしまった。
フェルンはギャンブルがあまり好きではないようだ。 普通に遊ぶ分には問題ないそうなので、今度からは賭けなしでやろうと思う。
…そう言えば、自分は賭けに勝ったのだがザインは仲間になってくれないのだろうか。
「俺が負けたのは村長だからな。 残念だがそれはそれ、これはこれだ」
「装備も取り返してくれたのに?」
「…さぁて、収穫祭の準備に行かないとなぁ」
しれっとした顔で去ってしまった。
まぁいいだろう。 賭けで仲間にするよりは、説得して話し合った上で加入して貰ったほうが良い。その方が蟠りも残らないだろうし。
収穫祭の準備を手伝ったりしながら、毎日ザインの下へ通って説得をする日々。
どうやらフリーレンは相当やる気のようだ。今日も説得の材料を探すためにザインの兄である神父様の所へ訪れた。
ザインの好きな物を聞いた所、酒とタバコとギャンブルが好きだと返答があった。
残念だがそれは既に知っている。 他に何か新情報はないのだろうか?
「あとは…年上のお姉さんが好きですね」
「最早破戒僧じゃねーか」
年上のお姉さん…だと…?
なんだ、それなら簡単な事ではないか。 このパーティにはフリーレンと自分、年上のお姉さんが二人も揃っている。
「兄貴。 新しい鎌小さくない?これじゃ草刈も…」
ちょうどザインが帰って来た。
フリーレンも考えがあるようなので、先鋒は年上に譲る事にしよう。
「師匠から教わった色仕掛けを使う時が来たようだね」
そういうとフリーレンは、ちゅっ♡、と投げキッスをした。
自分は驚愕した。 これが色仕掛けだとは…もしやと思っていたが、フリーレンは歳のわりに情緒が幼いのかもしれない。
「エッチすぎる…」
「…」
案の定ザインには呆れられたが、意外にもシュタルクとフェルンは戦慄している。
二人はまだまだ子供のようだ。 仕方がない、ここは自分が一肌脱ぐしかないだろう。
ザインに中腰になるよう指示し、そのまま目を瞑って貰う。
よし、まずは上着を脱いで、次に…「お待ちください」フェルン?
「何をしているのですか?」
何って、文字通り一肌脱ぐのだ。
フェルン程ではないが、自分もそこそこの物を持っている。 これでザインの顔をぱふぱふと…*1
「えっちすぎます!それはただの痴女です!」
怒られた。
───その後、なんやかんやあってザインが一行に加わった。
説得の決め手は神父様の一喝だった。
自分達は手を差し伸べる事は出来たが、ザインは踏ん切りがつかなかった。 その背を押したのは他ならぬ実の兄。
…結局の所、この兄弟が互いに腹を割って話し合えばすぐに終わる事だったわけだ。
こうして新たに僧侶のザインが加わり、フリーレン一行は人数を5人に増やして旅を再開したのであった。
★☆★☆★
ザインとシュタルクがパンツ一丁で震えていた頃。
さて、装備をどうやって取り返そうかと話し合っていた時に、ザインがポーカーをしていた酒場から一人の少女が出て来た。
「あれ?皆何やってるの?」
両手にザインとシュタルクの装備を抱え、頭の上には魔導書を一冊乗せている。
「シュタルクの装備をどうやって取り返すか話し合い中…でも、それは必要なかったみたいだ」
「あの村長に勝ったのか。 とんでもねぇ嬢ちゃんだな…」
ザインは装備を受け取ろうと近寄ったのだが、少女…シャオはザインの装備を返そうとしない。
「…すまん。 返してくれないか?」
「やだ。 だって勝ったのは私だもん。 これは私のものだよ」
それを聞いたザインは、流れるような動作で地面に両膝と両手、そして額を置いた。
「お願いします。返してください」
まさかの土下座であった。
通りすがる村人達はパンツ一丁で土下座する男をチラリと一瞥した後、「なんだザインか…」とでも言いたげに呆れたような顔で通り過ぎていく。
「あ、うん…返すね」
「すまん。 恩に着る」
少女からの哀れみの視線に心へダメージを受けながらも、ザインは受け取った装備に着替えた。
兄への謝罪と話し合いを終え、ザインはフリーレン一行の下へやって来た。
普段は気弱で温厚、一度もザインに対して手を上げた事のない兄が、初めて平手打ちと共にザインを叱りつけた。
ショックはあったが、兄に手を上げさせてしまったのは自分の責任。 自業自得だ。
しかし気分は良かった。 初めて兄と腹を割って話し合った結果、ザインの曇っていた心は晴れ晴れとしたものになっていたからだ。
「フリーレン。 俺、冒険者になる事にしたよ。 あいつを追いかける」
あいつ…10年前に冒険に出て行った親友の戦士ゴリラの事だ。
一緒に冒険者になろうと手を差し伸べてくれたゴリラの手を、ザインは取る事が出来なかった。
3年後には帰って来るといい、10年経っても帰ってこない親友…死んだと思って再会を諦めていたが、フリーレンの説得もあり探しに行く事を決意したのだ。
「まだ10年しか経ってねぇしな」
「そう」
ザインの旅は親友のゴリラに会うまで。
フリーレン達とは途中で別れる事になるだろうが、それまでこのメンバーで冒険するのは中々面白そうだと、ザインは少年だった頃のように心が躍った。
「ねぇおじさん、あとで二人きりの時にぱふぱふしてあげようか?」
「頼むからやめてくれ。 あっちの嬢ちゃんに殺されちまうよ…」
★☆★☆★
───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国ラート地方。
「いつもきつく当たりやがって!! そんなに俺のことが嫌いかよ!!」
もういい!! 師匠の所に帰る!!…そう言ってシュタルクは部屋を出ていってしまった。
せっかく大き目の街についてゆっくり過ごせるかと思いきや、またもや問題が起きてしまった。
原因は、今日がフェルンの誕生日だったのにシュタルクがプレゼントを用意していなかった事だ。 それにフェルンが腹を立てて、いつも以上に辛辣な言葉をシュタルクにぶつけてしまった。
…今度はフェルンの誕生日で問題発生とは、このパーティは本当に飽きないな。
フェルンがシュタルクを追いかけて部屋を出て行った。
さて、自分もこっそり二人を追いかけるとしよう。
「私も行くよ…勇者ヒンメルならそうするからね」
そう言ってフリーレンも部屋を出る。
『勇者ヒンメルならそうする』…何とも便利な言葉だ。 フリーレンは照れ屋なのか、人助けをする際や損得勘定抜きで誰かのために行動する際は勇者ヒンメルを引き合いに出す。
どうせ、二人の事が心配で内心ハラハラしているのだろう。可愛い師匠である。
とりあえず屋根を伝ってこっそりと二人を追いかけよう。
フリーレンはフェルンを追いかけるようなので、自分はシュタルクを追いかける事にした。
見つけた時、シュタルクは一見すると普段と変わらぬように見えた。
いつものように街の人々の困りごとに首を突っ込んでいるらしい。
疲労で動けない老婆を背負って坂道を上ったり、子供達の遊び相手になったり、お店の人の荷物運びを手伝ったり。
しかし宿から遠くへは行かないようで、しばらくふらふらした後に勇者ヒンメルの銅像がある広場で立ち止まった。
所在なさげに立ち尽くし、ぼんやりと銅像を見ている様子。
少しするとフェルンが追いついてきた。
通りを挟んだ向こう側を見ると、フリーレンが屋根の上から追いかけて来るのが見える。
合流したシュタルクとフェルンを追いかける。
二人は互いにあっさりと謝罪を済ませ、いつものように…いや、いつもより柔らかい雰囲気を纏って街の中を歩いていく。
どうやら、自分の助力はいらないみたいだ。
追いかけるのはこの辺にしておこう。
ところで、フリーレンはザインと合流したようだ。 二人で何かを話している。
二人の話を邪魔したくないし、自分はしばらく一人で暇をつぶしていよう。
…そういえば先ほど、猫が数匹集まっている溜まり場を見つけたのだ。街の人に可愛がられているようで、中々に人懐っこそうに見えた。
これは行くしかないだろう。
───その後、猫と戯れてからフリーレンとザインの下へ向かった。
フリーレンがザインの頭を撫でていたが、何かあったのだろうか。
気になって聞こうかと思ったが、何やらザインが質問がある様子なので話を聞いてみる。
…え、自分の出身について? 呪いの件も含めて詳しく?
★☆★☆★
他人との距離感がわからないフリーレンが、一行の中で唯一まとも(?)な大人としての感性を持つザインと話をしていた頃。
「なぁフリーレン。 ちょっと聞きたいんだが」
話も終わり、色々あってザインの頭を撫でていたフリーレン。
何だかしんみりとした空気の中、静かにタバコを吸っていたザインが唐突に問いかけた。
「シャオの事なんだが…あの子は何者なんだ?」
「…」
「村にいた時から違和感はあったんだがな。 もしも俺の予想が正しいなら、あの子は…」
フリーレンはそこで、あ、と気づいた。
…そういえば、シャオの事情をザインにはまだ伝えていなかったと言う事に。
話を聞くに、どうやらザインは村にいた時から薄っすらと勘付いていたらしい。
しかし、あまりにも普通に人間の中に馴染んでいるので、何かの間違いかと思って今まで言い出せなかったようだ。
「ごめん。 言うの忘れてた」
「えぇ…それは忘れていいような事じゃないだろ」
ザインは完全に呆れているようで、いつも自分がシャオを見るような目で見て来る。 すなわち、ポンコツを見るような目だ。
先ほどはせっかく年上のお姉さんらしさを見せつけたというのに…
「邪悪な魔族に呪いをかけられて、角を生やされてしまったエルフなんだよ」
「それは嘘だろ。 あの子から呪いの気配は感じられなかった」
呪い…人類が未だに解明出来ていない魔族の魔法。
現在の人類では原理も解除方法もわからない魔法であり、基本的には僧侶が使う女神様の魔法でしか対処出来ないとされている。
「…そうだね。 お察しの通り、あの子は魔族だよ」
「やっぱりそうなのか。 兄貴は気づいていなかったから、てっきり俺の頭がおかしくなったのかと思った」
ちょうどいいだろう。
フェルンとシュタルクが宿に帰って来るまではまだ時間がありそうだし、話題の人物であるシャオも今ここに向かって来ている。
角を隠す魔法を筆頭として、シャオが普通の魔族とは違う証拠、心は人間である事などを簡単に説明した。
「───私達はあの子の事を人間として扱ってるし、そう思うようにしてる。 そうしないと、『他の魔族の中にもシャオと同じようなやつがいるかもしれない』って思って、魔族との戦いに支障が出るからね」
「人の心を持った魔族か…ったく、世界は広いな。 田舎の村で暮らしていると、魔族と関わる事なんて滅多にないからなぁ」
「詳しい事が知りたいなら本人に聞くといいよ。 もうすぐここに来るし」
そう言ったフリーレンの視線の先には、件の少女が屋根をぴょんぴょんと跳ねて向かって来る様子が見えてた。
「あ、本人は自分をエルフだと信じてるから、その辺は話を合わせてね」
「マジか…」
★☆★☆★
少女は首を傾げた。
腕の中には猫を一匹抱え、さらに頭の上には小さな子猫が乗っている。
「え、私の出身と呪いの事?」
「フリーレンから簡単に聞いたが、改めて詳しく聞いておきたくてな」
「ふーん…まぁいいけど」
そう言って少女は腕の中にいる猫を撫でながら屋根に腰かける。
わざとらしい咳ばらいをした後、妙に憂いを秘めた顔で語り始めた。
「あれは今から36万…いや、70年ほど前の事だったかな」
36万という数字はどこから出て来たのか…ザインは早速不安になったが、口を挟まずに静かに話を聞く。
なお、フリーレンは少女の頭から降りて来た子猫と戯れていた。
「具体的にいつ生まれたのかはわからない…気づいたら私は知らない森の中にいて、わけもわからないまま獣に食べられそうになっていたから」
だから、故郷の村にやって来た日が誕生日なのだと少女は語る。
「右も左もわからない私を、村の人々は快く迎え入れてくれた。 そしてそこで、私はじーちゃん…爺様と出会ったんだ」
ザインの再登場はいつになるんだろうか。
次回はポンコツ魔族が如何にして育ったのかが語られます。
育てた人間はいったい何を考えて魔族を育てたのか、そしてなぜこんなにポンコツになってしまったのか。
…育て親がポンコツだった可能性?まさかそんなわけ…