自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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一般…多分一般…だと思う。


一般ポンコツ魔族の誕生

 

 

 

───勇者ヒンメルの死の40年前、魔王討伐から10年後。南側諸国森林地帯。

 

 

その日は村が騒がしかった。

 

南側諸国の中でも、中央諸国に比較的近い位置にある森の中。

人同士の争いからも、魔族との戦線からも遠い地にその村はあった。

 

森の中は魔物こそほとんどいないものの、魔物に勝るとも劣らぬ強力な野生の獣が跋扈する危険地帯となっている。 旅の者は滅多に訪れず、昔から縁のある奇特な商人が極稀に立ち寄る以外は外部との交流がなかった。

 

農耕と狩猟を生業とする村。

その日もいつもと変わらぬ日常が続く筈だったが、一人の狩人が拾って来た者によっていつもの日常は終わりを告げた。

 

「どうするよ?」

 

「いや、どうするっていってもなぁ…」

 

村の集会所。

集まった数人の村人が見つめる先には、そわそわと落ち着かない様子の少女がいた。

 

見た目は…人間で言う5歳児程度だろうか。

幼いながらも、将来性を感じさせる整った容姿をしている。 体にはボロボロの布切れ一つを身にまとい、尖った耳と、側頭部からは小さいながらも立派な角が生えていた。

 

 

───村の狩人の一人が、獣に襲われていた少女と遭遇した。

思わず助けたものの、少女は自分が何者かもわからず、森の中で目を覚ましてから今までふらふらと彷徨っていたという。

 

仕方ないので村に一度連れ帰り、今後の対応を他の住人達と相談する事になった。

幼い少女と言う事で村の人々の反応は悪くなかったが、汚れを落とすためと怪我の有無を確認するために水浴びをしてからが問題だった。

 

ぼさぼさの髪で隠れていたが、少女には小さな二本の角が生えていたのだ。

頭に生えた角は人類の天敵である魔族の証…しかし、村人達の反応は鈍かった。

 

「こんなちっこくて弱そうなのが魔族なのか?」

 

「魔法も使えないみたいだし…捨て子とかじゃないの?」

 

「角以外はただの人間じゃないか」

 

「耳は尖っているが、これだけでは何とも…」

 

なにせ、村の住人で魔族を見た事のある者は一人しかいない。

角が生えていて、人型で、言葉を喋って、強力な魔法を扱う人喰いの化物…知識としては知っているが、実物を見かけた者が今この場にいなかったのである。

 

…そう、ごく普通に暮らしていて、魔族の実物を見た事がないという人は珍しくない。

 

魔王軍が健在の頃、大陸の中で比較的魔族が多い北側諸国ですら、場所によっては魔族を見た事がないという人々がいる。

 

北側諸国から遠く、閉鎖的な田舎の村ならなおの事。

 

 

「お腹空いてない? 果物ならあるけど食べる?」

 

「うちの子のお古の服があったのよ。 サイズが合うといいんだけど…」

 

その後も村人達がああでもないこうでもないと話し合う中。

拾われた少女は、村の女性達からチヤホヤされて満更でもなかった。

 

自分の名前はわからないが、日本…という場所で暮らしていた事は覚えている。

性別は男だったような気がするが、しかし今は女の体。 しかも幼い少女のもの。

おまけに頭にはヤギのような角が生えているし、耳は…アレだ。 ファンタジーに定番の種族、エルフのような尖った耳をしている。

 

離れた場所で、魔族がどーのこーのと話し合う村人達の会話を聞いて全てを察した。

 

 

これ異世界転生じゃん、と。

 

 

自分は最初こそ森の中でサバイバルというハードモードだったが、今は良い人がいっぱいいる村に拾われたし、これはほんわかまったりスローライフ系かな。

 

いつの間にか服を着替えさせられ、目の前の皿には山のように盛られた果物の山。

少女は空腹を訴える胃を黙らせるため、果物をパクパクと食べながら暢気に考え事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅむ…」

 

老人は窓の外を眺めながら唸った。

視線の先には、外で村の子供たちに混ざって遊ぶ一人の少女がいる。 最近新しく村の住人となり、老人と暮らす事になった角の生えた少女だ。

 

 

 

 

 

老人はこの村で唯一の魔法使いであり、魔族もエルフも見かけたことのある貴重な人間だ。

 

森の深い所で薬草を集め、帰宅した際に村長に呼ばれて村の集会所へ赴いた。

そこで角の生えた少女を紹介され、魔族かどうか判断してほしいと言われたのだが…

 

 

───儂だって魔族は一度しか見た事ないのに…急にそんな事言われても…

 

 

老人は一度しか魔族を見た事がなかった。

 

かつて中央諸国の王都近くまで侵攻した強大な魔族…腐敗の賢老クヴァール。

彼の魔族には数多くの魔法使いや戦士が立ち向かった。 その中に老人も加わっていたのだ。

 

幸運にも老人は生き残り、勇者ヒンメル一行の魔法使い(フリーレン)がクヴァールを封印する瞬間を遠目で見る事が出来た。

 

なので、魔族もエルフも見た事はある。

それは間違いないのだが…比較対象が3m超えてそうな大きさの、パッと見て人外とわかる魔族しかいないのだ。

 

対して、件の少女は角と耳以外は普通の人間にしか見えない。

感じる魔力は微弱なもので、魔法についても何もわからないと来た。

 

老人は魔法使いだが、かつて旅の魔法使いから基礎的な魔法を教わり、後はほとんど独学で魔法を身に着けている。

才能はあったが、基本的には戦士か狩人がメインなので、魔法は補助的なものと割り切っていた。

 

つまりは実戦に重きを置いており、研究にはあまり積極的なタイプではなかった。

 

詳細に調べようにも、どう調べればいいのかわからない。

村の外に魔法使いの知り合いもいないし、80を超える老齢で少女を連れて中央諸国の王都や聖都までの長旅は厳しかった。

 

 

 

 

 

村長らと相談した結果、もしもの時にも対応できる老人が監視も兼ねて少女を預かる事となった。

 

老人は確かに村の中でも高齢で、いつの間にかご意見番のような立場になっていたが、根っこの部分は他の村人達と変わらない…賢者でも聖人でもない、普通の人だった。

 

最初は互いにぎこちなく、老人も不安で眠れぬ夜もあったが───

 

「ハグリ〇ド!…じゃない、じーちゃん!」

 

「どうした、シャオ」

 

「みてこれ!でっかいカブトムシ!」

 

───数か月が経つ頃には、少女はすっかり村の中に溶け込んでいた。

老人の事をじーちゃんと呼び慕い、毎日よく遊び、よく食べ、よく眠った。

 

老人には子供がおらず、妻には先立たれて久しい。

慕ってくれる少女はまるで本当の孫のようで、寂しかった生活に潤いと活気が与えられていた。

 

少女も今の所は普通の人間と変わらず、村人達との関係も良好だ。

 

 

 

…なお、少女の名前については村の子供が持っていたとある絵本から拝借されている。

 

かつてこの村を通りがかった一人の戦士。

魔王に立ち向かった勇者の一人だが、短い滞在だったので村の誰も名前を憶えていなかった。

 

ちょび髭を生やしたその戦士は、当時の村の子供に一冊の絵本を与えていた。

 

魔族によって呪いをかけられ、角を生やされてしまったエルフの少女が、仲間と共に世界中を旅する冒険譚が記された絵本だ。

 

その主人公と少女がよく似ていたために村の子供達がそう呼んだ結果、いつの間にかそのまま正式に採用されていたという話だ。

 

 

 

…ところで、老人を含め、村で狩人として働いている者は殺気などの害意に非常に敏感だ。

 

村人達は知らない事だが、魔族が悪意を持って人間を喰い、殺すという事はまずない。

魔族には悪意がないのだ。 だが、獲物に対する殺意は持つし、餌に対して食欲を向ける事はある。 その点は野生の獣と魔族は非常に似ており、もしも少女がそう言った意思を村人達に向けていればすぐにバレて殺されただろう。

 

だが、少女はそういった意思を村人達に向けなかった。

少女は『この世界』の常識は全く知らなかったが、『前の世界』での常識は覚えていたのだ。

 

 

 

───え、人間食べるとかあり得んでしょ。常識的に考えて。

 

 

 

 

 

…もっとも、大きな理由は他にあったのだが。

 

少女には魔族が持つ筈の殺人への本能がなかったのだ。

 

その生物が本来持つはずの本能を持たずに生まれた個体。

 

 

それは進化と呼べるものではなく、どちらかというと───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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───勇者ヒンメルの死の20年前、魔王討伐から30年後。南側諸国森林地帯。

 

 

少女…シャオが村にやって来て20年の月日が経った。

 

 

シャオは十代半ばの美しい少女の容姿に成長したものの、それ以上は体が変化しなかった。

老人の下でこの世界の常識と魔法を学び、戦士としての技を鍛え、村の狩人達と狩りに出かける事で狩猟の腕も身に着けて行った。

 

今ではすっかり絵本の主人公と境遇を重ねられ、自他共に呪われたエルフとして認識するようになっている。

 

老人も呪いの可能性について研究はしたが、残念ながらさっぱりわからなかった。

けど魔族との共存はどう足掻いても不可能なのが常識だし、こうして共存出来ている時点でこの子は魔族ではないと結論づけた。

 

 

───儂にはなーんもわからん。 もう呪いって事でいいんじゃない?

 

 

老人は真相を知る事を半ば諦めていた。

 

シャオには絵本の物語のように、邪悪な魔族による魔法の実験台にされ、呪いによって角を生やされてしまったエルフ………なんじゃないかなぁ、多分、と伝えた。

 

「ほぇー、そうなんだぁ」

 

シャオはあっさりと納得した。

敬愛するじーちゃんを疑った事は一度もなかったのだ。

 

…まぁちょっとアホだけど素直で良い子だし。 儂の孫だし(孫ではない)。 おいしいお菓子食べさせてくれるし、毎年誕生日ケーキ作ってくれるし。

 

こんな子が魔族なわけがない…全部呪いをかけた魔族が悪いよ魔族が。 はぁー、魔族許せねぇ。

 

 

しかし悩み事はある。

老人にはドワーフの血が流れており、そのせいか常人と比べて寿命が長い。

それでも100歳と言う大台に入ってから、もうあまり先が長くないと感じていた。

 

シャオがエルフと仮定すると、彼女はこの先も数百年、あるいは数千年と生きるのだろう。

今は自分や村の者がいるからいいが、それもずっと続く保証はない。 一人になっても生きられるように、対策を講じる必要があった。

 

 

この世界の常識はもちろん、生きるための術を身に着けなくてはいけない。

 

 

老人が知りうる限りの魔法の知識を授けた。

 

残念ながらシャオは理論的な魔法の習得が苦手だったが、『魔法の神髄はイメージだよ』と伝えたらなんかうまく出来た。

 

感覚的な才能に優れていたようだ。

お菓子を作る魔法(エールトザーネ)とか本人もどうやって作ったか覚えてないらしいし、感覚派ってそういうものなんだろう。知らんけど。

 

 

次に、体が成長してからは戦士としての戦い方を教えた。

 

老人はゴリゴリのパワーファイターだったので、あんまり技を教える事は出来なかった。 しかしシャオは体が頑丈で、素で身体能力が高くて身軽なので、老人と修行をするうちに独自の戦い方を身に着けて行った。

 

村の狩人達の狩りに同行させた結果、狩猟の技術も上達した。

特に弓の腕は村一番と言える程に成長した。シャオが言うには、エルフと言ったら弓だからこれぐらい当然、との事だ。

 

エルフって弓が得意なんだ…老人は初めて知った。

 

 

───そうして穏やかながらも楽しい日々が過ぎていく。

 

老人は呪いに関する研究を中止し、残りのリソースの全てを新魔法の開発に注いだ。

 

シャオの角を隠し、仮に角がバレても魔族ではないと証明出来るような魔法だ。

新たな魔法の開発なんてした事がなかったが、孫の将来を思えば諦めるという選択肢は思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうかな。 うまく出来てる?」

 

「…うむ。ちゃんと出来ておるな。 角はしっかりと隠れておる…よくやったな、シャオ」

 

しわがれた手で少女の頭を撫でてやると、えへへ、と嬉しそうにはにかんだ。

老人はすっかりベッドの住人となり、寿命は風前の灯となっていた。

 

 

───少女が村に来て、半世紀近い年月が流れていた。

 

老人は満足していた。

自分が作り上げた魔法を、少女はきちんと使う事が出来ている。

 

つまり、この少女は魔族ではなかった、というのが真実だったわけだ。

 

魔族ではないと確信はしていたが、改めて実感出来てホッとした老人は一気に体の力が抜けていくのを感じた。

 

 

持ちうる全ての技術と知識を教えた。

呪いを解くための心当たりなど、今後しばらくの活動の方針となるものも与えた。

 

自分の手で呪いを解けなかったのは残念だが、きっとあの大魔法使い(フリーレン)なら何とかしてくれるだろう。

 

 

若い同族だし、こんな良い子を魔族と誤解して争いに発展するような事も無いはずだ…ないよね?

 

「ゴホッ、ゴホッ」

 

「じ、じーちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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───勇者ヒンメルの死から10年後。南側諸国森林地帯。

 

 

シャオは遠くなった故郷の村を振り返り、ここ数年の事を思い返していた。

 

敬愛する育ての親を亡くしてから数年。

旅立ちへ向けての準備も終え、村の人々への別れの挨拶も済ませた。

 

やりたい事、行きたい場所はたくさんある。

なにせ異世界ファンタジーの世界だ。 自分以外の異種族とも会ってみたいし、ドラゴンとかのファンタジー定番の生き物も見てみたい。 魔王城とかこれ以上ないインスタ映えスポットでしょ。

 

あと可愛い子とキャッキャッしてみたかった。

村の子はちょっとそういう対象にはならない…もはや今の村人達はほとんどが自分より年下なのだ。 赤ちゃんの頃から面倒を見ている子もいたし、ちょっとそういう目では見れなかった。

 

大陸中を見て回った後は、海底や宇宙にも行ってみたい。

魔法があるんだし、どうにかすれば行けるんじゃないかと思った。 方法はこれから調べる予定だ。

 

 

…とはいえ、最初の目標は決まっている。

 

自分の同族にして、勇者ヒンメルと共に魔王討伐を成し遂げた偉大なる魔法使い、フリーレン。

 

老人は言っていた。

フリーレンならば角の呪いについて何か知っているかもしれない、と。

 

大陸中を冒険するにしても、この角は色々な意味で目立つ。

魔法で隠せるとはいえ、何かのトラブルで魔法が使えなくなったり、万が一見つかって魔族と勘違いされたら誤解を解くのも一苦労だろう。

 

自由になるためにも、まずは呪いを解くのが先決。

 

 

 

 

 

「行ってきまーす!!」

 

少女は天国にいるであろう亡き老人に一言告げると、元気よく走り出した。

 

まずは中央諸国の王都を目指そう。

そこでフリーレンについて情報を集めるのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷った!」

 

…意気揚々と出て行ったものの、道を間違えたり好奇心に逆らえずにあっちへふらふら、こっちへふらふらと、初めての一人旅は順調とはいかなかった。

 

 

「貴様…見ない顔だな。魔法使いがここで何をしている!どこから来たか言え!」

 

「ヒェ!」

 

「逃げたぞ!敵のスパイか!?」

 

南側諸国の紛争に巻き込まれ、必死こいてトンズラしたり。

 

 

 

「宝箱だー!何が出るかな♪何が出るかな♪」

 

「キシャー!」

 

「あっ………だ、誰か助けてー! 暗いよー! 怖いよー!」

 

初めてのダンジョンでミミックに喰われたり。

 

 

 

「地図なくしちゃった…あっ、村があるー!って、何か見覚えがあるような…」

 

「あら? シャオさんじゃない! わぁ、久しぶりー! 何年ぶりかしら?」

 

「…帰って来ちゃった」

 

いつの間にか故郷の村に戻っていたり。

 

 

 

 

 

「大陸…魔法きょーかい? 魔法使いの…資格!? えぇ!? 魔法使いって資格が必要なの!?」

 

王都に辿り着いたはいいものの、魔法使いである事を公的に証明するには資格が必要と聞き、必死に勉強して聖都シュトラールで何とか5級魔法使いの試験に合格したり。

 

「へぇ、去年は史上最年少で3級に合格した子がいたんだ…え、その時にエルフを見かけたって? ちょっと詳しく───」

 

 

………結局、中央諸国に来るまでに大幅に時間がかかった。

 

本格的にフリーレンを追いかけ始めたのは、旅に出てから20年をとっくに超えた頃になってしまった。

 

「魔法使いの資格ヨシ! 路銀ヨシ! 着替えヨシ! 食料ヨシ!」

 

しかし、中央諸国に来てから短期間でフリーレンの情報を得る事が出来た。

これは運が向いてきたぞ…少女は期待に高鳴る胸を抑え、改めてフリーレン探しに旅立った。

 

「銅像は見たけど、フリーレンって結構ちっちゃい子なのかなぁ。 エルフの成長速度ってどうなってるんだろ」

 

ふっしぎ~と呟きながら、少女はルンルン気分で街道を歩く。

 

 

───これは、自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族が、フリーレン一行に出会う前の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こうしてポンコツ魔族はポンコツになりました。

分身魔法とかは一人旅に慣れていなかった頃に作りました。
話し相手が欲しかっただけで、戦闘目的じゃないからアウラ(フリーレン)戦ではああなりました。

なぜいきなり実戦で使ったのか?

…おバカだからしょうがないね。
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