自分をエルフだと思い込んでいる一般ポンコツ魔族   作:エルフの耳バーガー

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呪いには勝てなかったよ…


呪いになんか負けない!

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国バンデ森林。

 

 

ちょうど商人の乗る馬車が通りかかったため、護衛と引き換えに荷台に乗せて貰うことが出来た。

 

商人はこの先の村で代々装飾品店を営んでいるという。

しかし、興味があるのは自分とフェルンだけみたいだ。 フェルンはお年頃だし、女性として着飾るための装飾品に興味があるのだろう。

 

自分の場合は趣味だ。 キラキラ輝くカッコいいアクセサリーが好きなのだ。

 

「あれ?ブレスレット新しく買ったの?」

 

「えっと…これは…」

 

フリーレンの指摘する通り、フェルンの左手首には真新しいブレスレットが着用されている。

恐らくシュタルクが誕生日プレゼントとして送ったのだろう。 可愛らしい花の意匠がされたブレスレットはフェルンによく似合っている。

 

「えーと…どこにやったかな…」

 

「もー…整理整頓しないから…」

 

フリーレンは同じ意匠の指輪を勇者ヒンメルから貰ったらしく、鞄の中身をひっくり返して探している。

出て来た鞄の中身に視線が吸い寄せられる。 む…これはまだ見た事ない奴だな。 どうやらフリーレンは自分に全てのコレクションを見せたわけではなかったようだ。

 

 

───瞬間、微かな羽音と風切り音が聞こえた。

 

 

どうやら鳥型の巨大な魔物に馬車が捕まったらしい。

轟音とともに一瞬の浮遊感。 すると外の景色は見慣れた森から、日が落ちる少し前の夕暮れ空になっていた。

 

咄嗟に声を上げたものの、残念ながら警告は間に合わなかった。

…フリーレンのコレクションに見とれて注意を怠ってしまった。 本当に申し訳ない。

 

「いいよ、私も魔力に気付かなかったし」

 

「捕まっちまったもんは仕方ないさ」

 

皆…なんて優しいんだ。

どうにかして失態を補う程の功績をあげなければ。

 

「とりあえず魔物は倒すとして、あとは飛行魔法でなんとかならないのか?」

 

飛行魔法! 飛行魔法は自分が得意な魔法ベスト5に入る魔法だ。

 

…その後の話し合いの末、魔物を倒した後に落下した馬車を、地面に衝突する寸前に飛行魔法で浮かせる事になった。

 

確かにこの案なら何とか行けそうだが…自分は自分なりのやり方で貢献するとしよう。

と、考えている内にフリーレンが魔物を一般攻撃魔法(ゾルトラーク)で撃ち抜いた。 よし、やるか!

 

「いきなり落とすなよぉぉぉ!!」

 

シュタルクの悲鳴が響き渡る中、自分は飛行魔法で素早く馬車の下に潜りこんだ。

姿勢を伸ばし、両手を馬車の底面に添える。そして…

 

 

魔力で身体能力を強化! 飛行魔法を調整! 馬車を…持ち上げる!!

 

 

軋む音と共に、馬車の落下スピードが遅くなっていく。

 

「お、やるね。これならどうにか………あっ」

 

このままゆっくり降ろしていけば………あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は木に登り、自身への無力と魔物への怒りに燃えていた。

抑えた場所が悪かったのだろう。 バキッという音と共に支えていた床板が抜け、自分はそのまま荷台に突っ込み、幌を突き破って一人だけ上空にすっ飛んでいってしまった。

 

魔物の襲撃を察知する事も、迎撃する事も、馬車を守る事も出来ず…狩人として、戦士として、そして魔法使いとしても役目を果たせないなんて。

 

 

…生き恥

 

 

───屈辱に塗れながら、今は木の上で先ほどのような魔物が来ないか警戒している。

 

 

すると、先ほどの魔物と同種と思われるものが通りかかった。

距離は遠くて魔力探知の範囲外だが…こちらに対する敵意と殺気は隠せていない。

 

 

自分は愛用の弓矢を取り出し、渾身の力で弦を引き絞った。

 

…逃がさん! お前だけは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ちろ! カトンボ!」

 

気合の入った掛け声と共に矢が放たれ、一筋の光となって空の彼方へ消えていく。

残心と共に矢を見送った少女は、矢の行き先を十数秒ほど見つめた後に拳を握った。

 

「……………ヨシ!」

 

「当たったのですか?」

 

「何にも見えねぇけど」

 

「失礼な! ちゃんと当たったよ!」

 

そう言うと、シャオは再び木の上で魔物の姿がないか探し始めた。

額には青筋が浮かんでおり、少女の魔物に対する憎しみの深さが見て取れる。

 

「絶対に許さないんだから…一匹残らず駆逐してやる!」

 

「いや、もういいって。 それより食い物だよ食い物。 さっきでかい猪がいたから、捕まえて鍋にしようぜ」

 

「鍋だー!」

 

既に完成した猪鍋の姿を思い描いているのか、涎を垂らしながらシュタルクの後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国ラオブ丘陵。

 

 

パーティに色っぽいお姉さんが足りない…というザインの至極どうでもいい嘆きを聞き流しつつ歩いていると、次の村が見えて来た。

 

しかし、村に着いたら問題が発生した…いや、既に発生していたという方が正しいか。

 

村の住人達は道端に倒れ、見渡す限りは全員眠ってしまっているようだ。

フリーレンとザインの調査によると、これは呪いと呼ばれる魔法の一種との事。

 

すなわち自分が受けている角の呪いと同種のものと言う事だ。

 

「そう…だったか」

 

「そうかな…そうかも…」

 

…? ザインとフリーレンに不思議な反応をされた。

 

まぁいい。自分の呪いと違って呪いの種類と発信源が割り出せるらしく、今はザインが詳しく調べている。

その間、フリーレンから僧侶という職種と、女神様の魔法についての講釈があった。

 

曰く、女神様の魔法は呪いと同じく原理が不明で、聖典所持者にしか使えないらしい。

聖典があっても資質がないと扱うのは難しいが、資質がある者は呪いに対して強い耐性を持っているそうだ。

 

…待てよ? ならば自分が僧侶になれば、強力な呪い耐性で角の呪いを解けるのではないか?

 

「あ、あー…残念だが、嬢ちゃんには僧侶の適性はなさそうだな。 聖典を持ってても簡単な魔法一つ使えないだろう」

 

諦めろ、と言われた。

 

とっても悲しい。

 

「よしよし」

 

しょんぼりしていると、フェルンが頭を撫でてくれた。

そのまま何となく抱き着いた。 ふかふかで柔らかい…フリーレンとは大違いだ。

 

 

 

 

 

その後、呪いの解析が終わったザインからの提案により、呪いの発信源を直接叩く事になった。

この村は呪いの効果範囲に入っており、今もなお我々は呪いによってじわじわと侵食を受けている。

 

「フリーレン様。 シュタルク様が…」

 

「…寝ているね」

 

最初に脱落したのはシュタルクだった。

呪いへの耐性の強さを強い順からいうと、ザイン、フリーレン、自分、フェルン、最後にシュタルクと言ったところか。

 

ザインの魔法では5秒しか目覚めさせる事が出来ない。

あまり時間をかけない方がよさそうだ。

 

 

その後も呪いの発信源である魔物の下まで急ぐ。

が、残念ながら途中でフェルンが脱落してしまった。

 

「フェルンも眠っちまったか…」

 

「これはいよいよ不味いね」

 

シュタルクとフェルンを結界で隠す…あ、そうだ。

自分だけ一旦戻り、二人の体勢を少し変えた。 フェルンを地面に寝かせ、その上にシュタルクを被せたのだ。

 

シュタルクは体が頑丈だし、もしも結界が壊れて獣に襲われてもシュタルクがフェルンの盾になってくれるだろう。

 

 

その後もザイン達と急いで歩いていくが…

 

「二人とも…一人で戦っちゃダメだよ…」

 

なんと、自分より先にフリーレンが眠ってしまった。

馬鹿な…あり得ない。 大魔法使いであるフリーレンが自分より先に…

 

 

そんな事を思っていると、とうとう自分にも恐るべき眠りの呪いが襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人なら何とかなるか…?」

 

「…」

 

「ん? おい嬢ちゃん!」

 

呪いの発信源…混沌花の亜種の下までたどり着いた。

僧侶にも戦闘用の魔法はある。 シャオも起きていたので二人がかりなら安定して倒せると思ったのだが…

 

「んぅ~…?」

 

「(ダメだこりゃ…魔族だから人間よりは耐性があったんだろうが、この分だと戦えそうにないな)」

 

シャオは寝ぼけ眼でふらふらとしており、とてもではないが戦えるようには見えない。

仕方ないので木の根元に寝かせたフリーレンの隣に並ばせ、ザインは一人で魔物の前へと飛び出した。

 

混沌花はザインを認識すると、自身の呪いが効かない相手と感付いたのか、凄まじい勢いで蔓を伸ばして攻撃してくる。

 

ザインは混沌花の攻撃をうまく避けつつ、一瞬の隙をみて攻撃魔法を使った。

 

『女神の三槍!!』

 

僧侶が使える攻撃魔法の一種で、三本の光線が槍のように鋭く混沌花へ向かった…が。

 

「(なにっ!?)」

 

混沌花はその土地の原生植物と交わる事で亜種を生み出す。

目の前にいる混沌花の亜種は表面が鏡面のようになっており、攻撃魔法を反射させる事が出来たのだ。

 

ザインの発動した女神の三槍はすべて反射され、二つは明後日の方向へ、最後の一つはフリーレンとシャオのいる場所へ向かっていく。

 

 

「(しまっ───)」

 

 

───煙が晴れると、そこには防御魔法による壁が展開されていた。

 

「ん~…ふわぁ…」

 

欠伸をすると、少女はそのまま木にもたれ掛かって再び眠ってしまった。

 

 

「…借りを作っちまったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。 このご恩は忘れません」

 

村の人々からの感謝の礼を受けながら、一行は再び旅を再開した。

 

あの後、かつてのハイターとの話を思い出したザインは、一か八か、目覚めの解呪でフリーレンを起こすことにした。

 

「起きた瞬間にピンと来たんだよね。 これ魔法反射するやつだって」

 

「お前って本当に凄い魔法使いだったんだな」

 

目覚めの解呪では5秒間しか起きて居られないが、瞬時に状況を判断したフリーレンによって混沌花の亜種は(コア)を破壊され、呪いにかかっていた人々は無事に目を覚ました。

 

 

村の宿で一泊して少しだけ物資を補充した後に、再び一行は次の目的地を目指して歩みを進めている。

 

「シュタルク…」

 

「ん?なんだよ小声で」

 

「起きた時フェルンとはどうだった?」

 

「な!?」

 

シュタルクは顔を赤らめ、咄嗟にシャオを連れてフェルンから距離をとった。

…呪いから目覚めた時、シュタルクの体はフェルンの体に覆いかぶさるように寝かされていたのだ。まるで押し倒しているかのように。

 

フェルンが起きるのが少し遅かったため、辛うじてその場は誤魔化せたが…まだまだ初心な少年のシュタルクには刺激が強すぎた。

 

「役得だったでしょ?」

 

「んなわけあるか!フェルンにバレたら殺され…」

 

「私がどうかしましたか?」

 

「いいいいいや、何でもありませんよフェルンさん!」

 

わちゃわちゃと、まるで本当の兄妹姉妹のように仲睦まじい様子の三人を見ながら、ザインはぽつりと呟いた。

 

「そういや、俺が魔法で攻撃したら反射されちまってな。 嬢ちゃんが庇ってくれなかったらお前死んでたかもしれん」

 

「急に怖い事言うね」

 

「あぁ…まぁ、そもそも嬢ちゃんが寝なければ済んだ話ではあるんだが」

 

「…え?」

 

キョトンとした顔で振り向くフリーレン。

ザインはタバコを口から離し、何とも言えない顔で答えた。

 

「嬢ちゃんには呪いが効いてはいたが、眠る程ではなかったんだよ」

 

「じゃあなんで…」

 

「これは恐らくだが……思い込みだろうな」

 

「は?」

 

「思い込みだよ。自分より格上のフリーレンが抗えなかったんだから、自分も眠らないとおかしいってな」

 

つまりは、一種のプラシーボ効果というやつである。

本来なら呪いに耐えて混沌花と戦う余裕があったはずだが、自分から進んで呪いを受け入れてしまったせいで急速に侵食を受けてしまったのだ。

 

「そんなことある…?」

 

「あったんだなぁ、これが」

 

二人は揃って溜息をつき、今日も頭空っぽな顔をしている少女を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔族が呪いに対してある程度耐性があるというのは独自設定です。
さすがに素の魔法抵抗力は人間より上かなぁと思ったので。


集中力が散漫になりがちで油断しまくりな主人公。
一人旅より楽しいから仕方ないね。


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