TS外道転生者のガゴウ   作:般若バール

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Side ラリー

 

 暗い夜道を歩いていく。田舎の村だ。人の声は聞こえず、虫の鳴く声だけが聞こえてくる。周囲にはポツポツと民家の明かりがある以外には月明かりと手に持つランプの光しか明かりはなく、1人で歩いていると何とも言えぬ不安な気持ちになってくる。

 そんな取り留めのないことを考えていると目的の場所に到着した。一軒の酒場だ。旅の宿も兼ねている。この村は町と町の間に位置し利用者も多く、村の規模に比べて大きい酒場だ。

 

「いらっしゃい」

 

 酒場の家の娘に迎えられいつものカウンター席に座る。今日も人はそこそこ、村人と旅人がそれぞれに集まって話をしている。

 

「オヤジ、いつもの」

 

 そう言って店主に注文をする。この店に通うようになって長い、いつもの安酒を注文する。

 すると店主は何も言わず酒の入ったジョッキを置いて去っていく。

 

「20年か」

 

 出された酒を飲みながらつい独り言ちる。

 いつもの事だ。1人になるとついつい口をついてしまう。あれから20年、何度同じことを考えただろうか?意味の無いことだと分かっていてもつい考えてしまう。毎日毎日、日雇いの仕事でその日暮らすだけの金を得て余った金で酒を飲むだけの日々。昔は違った。もっと輝いていた。何でこんな風になっちまったんだ。

 そんな事ばかり考えて1人酒を飲んでいると

 

「お隣よろしいですか?」

 

 そう言ってローブを被った怪しい奴が声をかけてくる。声からして女だろう。しかも若い。服装は旅用のローブを被っているがズボンや靴は相当仕立ての良い物だ。金を持った商人か身分の高い家の娘だろう。

 

「他に席はいくらでも空いてる。他所にいきな」

 

 こんな飲んだくれに身分の高い女が話しかけてくるなんて怪しさしかない。面倒ごとはごめんだ。そう言って女を突き放す。

 

「まぁまぁ、そう言わずに。一杯奢りますから。すみません、ワインと何かつまめる物を。それと彼にこの店で1番良い酒を」

 

 俺の言葉を無視して強引に隣りの席に座り注文をとっていく。俺が何を言っても聞きやしないのだろう。俺は黙ってそれを受け入れるしか無かった。

 それから直ぐに注文の品が置かれる。1番良いと言っても田舎の村だ大したものじゃないが普段の俺じゃ飲めない酒だ。

 

「それで、いったい何の用だ」

 

 出された酒を飲みながら女に話しかける。

「あら、思ったより美味しい!」なんて言いながら酒を飲んでいる女は此方を見て

 

「おや、いきなりですね。回りくどいのはお嫌いですか?」

 

「うるさい。態々俺みたいな人間に話しかけてきたんだ。何か用があるんだろう?さっさと要件を言え」

 

 そう言って要件を言うように促す。正直さっさと帰りたい気持ちなんだ。怪しすぎる。

 

「せっかちですね〜。まぁいいでしょう。実は貴方にお願いしたい仕事がありまして、成功すれば大きな利益が出るお話です」

 

 話を聞けばまぁ予想通り怪しげな勧誘だ。

 

「悪いがそう言った話は他をあたんな」

 

 そう言って断れば

 

「いえいえ、他の方ではなく、是非、貴方にお願いしたいのです」

 

 そう言って食い下がってくる。

 

「はっ、こんな貧乏なおっさん捕まえたところで金に何てならないぜ。詐欺なら他をあたりな」

 

 そう言うも

 

「そんなことはありません!貴方には他の方に無い大きな魅力があります!」

 

 そう言ってまたしても食い下がってくる。

 

「はっ!あんたが俺の何をしっ「良く知っていますよ、ラリーさん」

 

 俺の言葉に被せ、食い気味に言ってくる。

 

「テメェなんで俺の名前を」

 

 ニコニコと笑顔で言ってくる女に疑問を投げかけるが

 

「名前だけではありませんよ?貴方の事は良く知っています。ラリー ラットン。アルバ王国のラットン商会の長男として生まれる。御年36歳。幼少期から両親からの強い期待を受け勉学や経営だけでなく、魔術や芸術なと様々な教育を受け、また家業の手伝いもしつつ育つ。14でゴティス魔導学園に入学。優秀な成績を収め周囲からも期待されていた。しかし、16の頃に起こした詐欺事件で逮捕される。多くの破産者を出し中には暴力事件や自殺にまで発展することもあり多くの人から恨みを買う。その後国へ賠償金として個人の財産の全てを支払い、実家も多額の賠償金を支払うもそれによって事なきを得る。しかしこの一件で実家は事業を縮小することに。この事件により実家から勘当され実家は次男がつぐ。財産を全て失うが牢に収監される事はなく世に出るが、恨みを買った本人や家族、遺族に命を狙われる事になり国外に逃亡。方々を転々として定職に就くこともなくその日暮らしの日々をおくる。……あってますか?」

 

 早口で一気に捲し立ててくる。身体の芯から冷えてくる、底冷えするような恐怖が込み上げてくる。飲んだ酒もすっかり抜けてしまった。

 

「お、お前、な、何が目的だ」

 

「おや?最初に言いませんでしたか?お仕事の依頼ですよ?」

 

 また笑顔のままそう言ってくる。おっかねぇ、おっかねぇが

 

「悪いが他を当たってくれ。もう懲り懲りなんだ」

 

 そうだ、もう嫌だ、あんな想いは。この女が誰か知らないが直ぐに村を出よう。この村にはそれなりに長く住まわせてもらったが、こんな怪しい奴に目をつけらたんだ。もう居られないだろう。他の場所でまた隠れて暮らすしかない。

 

 席を立ち出口に向かおうとすると背後から

 

「悔しくないのですか?」

 

 そう聞かれ思わず立ち止まってしまう。

 

「何っ?」

 

「ですから、悔しくないのですか?」

 

 そう言って立ち上がって詰め寄ってくる。

 

「悔しくないのですか?成功に彩られ、多くの人に期待されて、輝かしい人生を歩んでいくはずだったのに。今や誰からも見向きもされない。いつ来るかも分からない復讐に怯えて隠れて暮らすだけの日々。日雇いの仕事で何とか食い繋ぎ明日をも知れぬ日々。自分から全てを奪っていった国も、自分を見捨てた家族も、裏切っていった同僚も仲間も、憎くはないのですか?悔しくないのですか?それで良いのですか?」

 

 そう言ってもう一歩詰め寄ってくる。

 叫びたいのに声が出ない。涙が滲み出る。

 

 良いわけがない、悔しくないわけがない、憎くないわけがない!

 分かっている、分かっているんだ。コレが逆恨みで、悪いのは俺だってことは‼︎でも、それでも‼︎

 

「人生を取り戻したくはありませんか?」

 

 そうだ、もう嫌なんだこんな人生‼︎

 

「どうぞ、座って下さい。貴方に良いお話しを持ってきました。どうです?話しだけでも。損はさせませんよ」

 

 そう言って椅子を差し出してくる。

 そうだ、どうせもう失うものなんて何も無いのだ。ならこんな怪しい話だって……

 だが、その前に

 

「その前に名前くらい教えろよ。誰かも分からない奴と仕事何て出来るか」

 

 そう言えば、キョトンとした顔をして

 

「いや〜、すみません。私の方が知っているものですから、ついお互いに知っているつもりになってしまっていました」

 

 そう言って女がフードを取ると真っ赤な長い髪が出てくる。年齢は20歳くらいだろうか。

 

「私の名前はアンリ。アンリ ジャオといいます。それではラリーさん、お仕事の話をしましょうか」

 

 そう言って、笑顔で手を握ってきたのだった。

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