「まぁまぁ、落ち着きたまえよ、クロム君」
肩で息をする甥っ子の背中を叩きながら笑いかけます。
「歩きながら話そうじゃないか」
そう言ってアスカラ村に向かって歩き出す。
「先ず結論から言うと。君、売られちゃったの」
「なっ、嘘だ!父さんがそんな事する筈が無い!」
後ろからついて来ていたクロム君が詰め寄って来る。
「勿論、実際に売られたわけじゃないよ?ただ1番しっくりくる表現がそれってだけ」
どうどう、と肩を叩きながらクロム君を宥める様に言う。
「そうだね、最初から順番に話していこうか」
納得いかなそうだが黙って話しを聞く事にしたらしい。表情にはそんな筈はないと言う思いと、若干の不安が見て取れます。
「先ず最初に、君のお父さん、あそこ村の連中と同じで財産騙し取られたのは知っているかい?」
そう言ってアスカラ村を指差す。
「ああ」
クロム君は苦虫を噛み潰したような顔でそう答えた。まぁ、うん、そうですよね。息子といえど擁護し難いですよね。
「それでね、お金を貸してくれって言うから条件をつけたの」
「……まさか」
「そ、そのまさか。お金を貸すから息子さんをしばらく貸してください、ってね」
クロム君は目を見開いてこっちを見てきた。
「……何でそんな事を?」
おや、若干元気が無くなりましたね?
まぁ、当然でしょう。ショックでしょうしね。親の尻拭いで親戚にとは言え売られちゃったのは。
家族仲は良かっただけに余計に。
「いや〜、実は個人的に依頼を受けていてね。ジャオ家とは別に私も戦争に参加する事になったんだ」
これは嘘。参加するのは自分の意思。まぁ、細かいことは気にしない。
「で、参加するのはいいけど私が直接矢面に立つのは後々仕事に影響が出そうでね、私の代わりに良い旗頭を探してたわけさ。そう、要するに君だ」
そう言ってクロム君を指差す。因みにこれは本当。目立っても良い事無いですしね。
「安心してくれたまえ。身の安全は保障するし、なんなら戦争で出来た功績は君に譲ろうじゃないか。どうだい?悪い話じゃないだろう?」
そう言って彼の肩を叩くが
「上手い話すぎて逆に怪しいわ。つい先日それで我が家は痛い目を見たばっかなんだ、誰が信じるか、そんな話」
そう言って手を弾かれてしまった
「君のお父さんは信じたけどね〜。まぁ、どのみちもう決まった事だから諦めたまえ」
そう言うと先程の倍は渋い顔をしだした。若者がする表情じゃないですね。苦労しているんだね、可哀想に。
「ついでに言えば、私達がこうやって内乱の鎮圧をしているのは私からのサービスだね。息子さんを貸してくれるならついでに領地の治安回復も協力するよ?お金無くって大変でしょ?協力するよ?ってな具合に。本番前に傭兵さん達の実力も確認がてら、君を戦場に慣らしておきたかったしね」
そう言ってクロム君を見ると彼は無理矢理切り替えて、もしくは現実から一旦目を背けるためにかな?私に聞き返してくる
「それも聞きたかったんだけど、傭兵っていうけど彼等はどう言う人達なんだ?やけに若いのが多いけど?」
まぁ、気になるよね。半数以上が10代前半だし。
「彼等はランセア連邦の傭兵達だね。私が個人的に雇ったんだ。若い子が多いのは今回の依頼は慣らしに丁度良いからね。新人教育の為に連れてきたんだろうね。おかげで大分安く済んでるよ」
そう言えばクロム君は不思議そうに
「慣らし?」
と聞いてくる。
「そう、慣らし。彼等彼女等はね、訓練も受けて技術も有るし、魔物との戦闘経験もあるけど、人間を殺した事は少ないんだ。中には殺した事が無い子もいる。傭兵だからね。いつかは必ず経験しなきゃいけない。覚悟はしているだろうけど、実際に経験しているのといないのではいざ戦場って時に大分違うからね。そんな訳で今回の私の依頼は丁度良いわけだ。弱い相手で安全に経験が積める、それも複数人に」
まぁ、私も新人料金で思っていたより安く済みましたし文句はありません。
「はぁ〜。なんて言うか、傭兵も大変なんだなぁ」
そんな事をしみじみと言っていますが
「他人事みたいに言っているけど君にも関係ある話だからね⁈」
「えっ?それってどういう」
聞き返そうとしてくるが
「おっと、もう着いたね。やあやあ、そこのガール、今どんな状況?」
村の近場まで来たので話を打ち切る。
そして丁度目に入った弓を持った女の子に話し掛ける。歳の頃は10代半ば15、6ってところでしょうか?真っ白な髪を肩口でそろえている女の子だ。傭兵にしておくには勿体ないくらいには美人だ。そっち系の業界でも十分やっていけそうなのに勿体ない。
「問題無い。現在奇襲をかけ順次制圧中。相手は混乱を起こし組織だった動きは無し。降伏は時間の問題。私はここで援護と見張り」
ぶっきらぼうだけどしっかりと報告はしてくれますね。会話は好きではないが仕事はきっちりこなすタイプですか。
「そうですか。分かりました。それじゃあ私はしばらくお茶でも飲んで待ってますか」
そう言って、ドカッ‼︎っと手近な民家のドアを蹴破る。
「おじゃまします」
そう言ってから民家に入り台所を物色する。おっ、お茶っ葉発見。台所でお湯を沸かしてお茶の準備をする。
ふと、視線を感じ入り口を見れば、先程の少女とクロム君が胡乱な表情でこちらを見ている。
「何か?」
そう問えば
「いや、なぁ」
とクロム君は何とも歯切れが悪い。少女は
「無用な掠奪は禁止では?」
と訝しげに聞いてくる。
「おっと、そうだった。じゃあ」
そう言って机の上に銅貨を1枚のせる。
「お茶代です。これで良し」
それを聞いた2人は顔を見合わせてため息をついています。解せぬ。
「ほら、少女はさっさと仕事に戻る。クロム君は彼女について行ってしっかり色々見て回ること」
そう言って2人を家から蹴り出しました。