僕、レオン ブレイブが『セラム•バーン』の世界に転生したと気がついたのは物心がついて直ぐのことだった。
ある日突然前世の記憶がよみがえったのだ。
前世の僕は気弱でオドオドしていて、それが原因で学校でイジメられていた。
何とかしようとしたができずに、最終的には引きこもってしまったのだ。
家族はそんな僕を心配してくれて、無理しなくていい、一緒にゆっくり考えようと言ってくれていた。
そんな家族に申し訳ないと思うと同時にもうどうしようも無いと言う諦めの気持ちもあった。
結局前世の僕の死因はつまらない事件だった。
夜、コンビニに出かけた時に、偶々僕を見かけたイジメグループが僕に暴力を振るい、加減を間違えて殺してしまった、それだけだった。
怒りもある。悔しさもある。でも、それ以上に家族がどう思っているだろう、どんな気持ちだろうと、そればかりが気になって、申し訳ない気持ちになった。
前世を思い出した僕は今生こそは上手く生きようと思った。
家族に心配をかけない、今度は胸を張って生きていこう、そう決意をした。
そうして、この世界のことを調べていくうちに、この世界は前世にあった『セラム•バーン』と言うゲームによく似た世界であることに気がついた。
時代こそ違うが、国の名前や文化、地図がそっくりだったのだ。
幸いにも前世の引きこもり時代にそれなりにやった事があり、この世界のことはよく分かっていた。
生まれも伯爵家の次男と恵まれていて、家族との仲も悪くない。
この地位と前世の知識を合わせれば上手くやれると、そう思ったのだ。
実際、上手くやれた。家の事は長男である兄に任せて、自分は将来騎士になる事を目指し、前世の知識を使い効率良く自身を鍛えてきた。安全なレベリング、効率的な金策、希少なアイテムの収集などを家の力も借りて行ってきた。
その甲斐あって16歳ですでに国では並ぶ者がいないほどに強くなった。
ゲーム時代と違い明確なステータスなど無かったが、間違いなく僕はゲーム終盤位の実力を手にしていると思う。
ゲームではレベルが1から始まり最高が100だったが今の僕はレベル70は超えているだろう。何故ならゲーム中にはレベル制限のある装備もあり僕が今装備している『流星刀』もその1つで、装備には70レベルが必要だった。
ゲーム中のネームドキャラを除く一般NPCのレベルは高くても30レベルで、周りの人を見てみて、それはこの世界でも変わらないだろうと思う。故に僕が負けることはないだろう。
また、同年代には皇太子もおり、家の家格も足りていたため学校では親交を結ぶ機会も多く、今では親友と呼べる仲にまでなった。
そうして僕、いや、私は若くして騎士団に入隊し、瞬く間に隊を持つ地位まで上り詰めた。
18歳の現在、既に大隊を率いれるまでに上り詰めた。
個人の実力はともかく指揮者としての能力は不足していたが、それは実家が有能な補佐官をつけてくれたおかげで補えた。
複数のダンジョン制覇、民を困らす厄介な魔獣の討伐、高貴な家の出、皇太子の推薦等、反対する者は実力と家柄、交友関係で抑え込んだ。
危険な魔獣や盗賊を多く討伐し、民衆からの人気も高く、ヒーローの様に扱われた。
仕事、学業、家族関係、交友関係、周囲の評判、全てが上手くいっていた。
そんなある日、隣国のアルバ王国が我が国に攻めてきた。
理由は理不尽な八つ当たりだ。こちらの意見を聞かず、一方的な宣戦布告。
こんな事はゲームの設定には無かったが、これまでの経験からこの世界はゲームに属してはいても色々違う事を知っていたからこそ、そこまでの驚きは無かった。しかし、一抹の不安を感じた。
現在既にゴルビア王国と戦争状態の我が国にとってこれは非常に厳しい物だった。
実際、初めの頃は連戦連敗だった。
最初の頃は私は戦場に出ることは出来なかった。私のことを良く思わない古参の騎士は多く、その妨害にあったのだ。
しかし、この状況を打破しようとする大公の命で戦争に参加する事になったのだ。
そこからは連戦連勝。
私が先陣をきりそれに兵が続く形で敵将を何人も討ち倒してきた。
この世界は前世の世界よりも個人個人の力の差が大きく、1人の強者が戦争に与える影響は非常に大きかった。
私は一騎当千の兵として大きな戦功を挙げていった。
最早騎士団での私の地位は揺るぎない物になっていた。兵士からも国民からも信頼を得ていた。
ここで大公は勝負に出た。
ゴルビア側の防衛兵力以外の可能な限りの戦力を集め攻勢に出る事にしたのだ。
その先陣として私が大将に選ばれ、輜重隊等の非戦闘職も含めれば4万人にもなる部隊を率いる事になったのだ。
「頑張れよ、兄弟」
「おう!」
出陣前、私は皇太子であるラガーランと拳を合わせて挨拶をする。
「あ、あの、ご無事で帰って来てください」
そう言って挨拶に来てくれたのはラガーランの妹のアイリス姫だ。
輝く金の髪が目を惹く美少女だ。
先程のラガーランの兄弟発言は友好の証だけでは無い。公表はされていないが実はアイリスとの婚約が密かに決まっているのだ。
今回の遠征が上手くいったあかつきには、その功績をもって大々的に発表することになっているのだ。
「はい、必ずや良い知らせを持って帰って来ます」
そう言い私は遠征に出たのだ。
そう、上手くいっていたのだ。
これまでの経験から今のアルバ王国に私に匹敵する戦士はいない事は分かっていた。
私が戦場に出れば負けることはないだろうと確信していた。
唯一の懸念点はこれでアルバ王国を倒せば歴史は変わり、ゲームとは大きくかけ離れた物になるだろうと言う事だけだ。もしかしたら主人公は生まれてすらこないかもしれない。
しかし、それも事前に悪政を敷く王が生まれるのを防いだと思い目を瞑る事にしたのだ。
国境線の敵の砦を少ない被害でおとし、その後も順調に進軍をしていたのだ。
しかし、進軍の途中、古びた使われなくなった砦があり、念の為、事前に斥候を出し敵の軍がいないことを確認し素通りしようとした時、それはおきた。
「死ねぇー‼︎」
「テメェが死ね!」
「くたばれ!このっ!」
「お前の面が気に食わなかったんだよぉ」
「クソ、くそっ、糞がー‼︎」
突然戦闘が発生したのだ!
それも、敵に襲われたのでは無い!
味方同士が殺し合いを始めたのだ。4万人全員、騎士から輜重兵まで全員が突如として隣りの人間に襲いかかったのだ!
「やめろ!やめてくれ!止まるんだ‼︎」
私が何を言っても誰も争いをやめない。骨が折れようと腕が斬り飛ばされようと、全員が戦い続けている。動きを止めるのは死んだ人間だけだ。
何が、何が起きているんだ⁈
訳もわからず襲いかかって来る味方を斬り捨てた私の耳に何処からか、ゲラゲラゲラゲラと甲高い笑い声が味方の怒声に混じって聞こえてきたのだった。