「アイリス様、新公王御就任、並びに御成婚おめでとうございます。バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ‼︎」
アイリスさんとレオン君の前で両手を挙げて喜びを表現する私を、アイリスさんは瞳孔ガン開きで睨みつけ、レオン君は気不味さから目線を下に落としています。
現在公国の城の一室で私とアイリスさんとレオン君の3人で秘密の会談中です。
とりあえず会って直ぐにお祝いの言葉を送ったのですが、どうやらお気に召さなかった様で、殺意のこもった視線をいただきました。
「コチラお祝いの品です、お納め下さい」
スッと手の平サイズの小箱を取り出し、パカッと開いて差し出します。
「コレは?」
その品を見たアイリスさんが疑問の声を上げます。
中には1枚の金貨が入っています。細長い下ベロをだした髑髏が刻まれた不吉な金貨です。
「所持する人間を破滅させるという曰く付きの金貨です」
「いりません‼︎」
バシッ!と投げ返されました。世界に100枚しかない貴重品なのに。
砦での戦いから半年が経ちました。
今ではレオン君と(私は)楽しく会話が出来る関係を築く事が出来ました。
何故こうなったのか?一つずつ順を追って思い返してみましょう。
先ずはレオン君と会う前、アーサーさんに荷物の配達をお願いしたところから。
「アーサーさん、先ずはコレを着けて下さい」
そう言って、スッと手の平サイズの木で出来た人形を差し出します。
「こりゃあ、『身代わりの樹』ですかい?初めて見ましたよ」
驚きながらヒョイと受け取ってくれました。
この『身代わりの樹』と言うアイテム、ゲームにも登場するアイテムで、毒だろうが混乱だろうが、あらゆる状態異常を一度だけ肩代わりしてくれる使い捨てのアイテムです。見た目は木の棒に忍者の服が着せられています。古典忍者ですね。
ゲームに於いては一周で最大5個しか入手出来ない貴重品で一度使うと壊れてしまうので使いどころが難しいアイテムでした。
さてこの世界ではどうかと言うと、ゲームより入手が難しく、値段も高い代物になっています。
何故なら生産数が少ないのに、需要が多いからです。
先ず何故生産数が少ないかと言うと、原料となる樹木が国内に一本しかなく、その木の枝から作っているので年間の生産量が10〜20個しか無いのです。
それなのに貴族達からは、毒による暗殺対策として需要が多く、特に後ろ暗い所が多い貴族なんかはこれ無しでは食事も出来ないと、非常に人気で、完全予約制で10年待ちの高級品になっています。
勿論、私も予約待ちしました。転売ヤー、駄目、絶対。
「それでは、彼女を運んで下さい」
そう言って私は先程こっそり拾ってきた人を地面に転がします。
立派な鎧を着けた身なりの良い女性です。今は両手足を後ろで縛られ、目隠しと猿ぐつわを着けられ、意識を失っています。
「あー、一応聞いときますがこの方はどちらさんで?」
「はい、敵軍の指揮官の1人ですね。子爵家の出身で、名前は、えっと、あー、モブ子さんです」
「いや、絶対違うでしょ」
仕方ないじゃないですか、鎧の家紋で身分は分かりますが名前までは分からないんですから。
「まぁ、兎に角、彼女を運んで欲しいのです」
そう、名前などどうでも良いのです。
「そりゃ構いませんが、どちらに運べばいいんで?」
それは勿論
「後方で迎撃準備をしているスキーム公爵の所まで。私の名代として敵将を捕虜にしたと」
そう言って彼に私の名代と分かる我が家の家紋入りの短剣を渡します。
現在スキーム公爵は後方の城塞都市で籠城戦の準備中です。確か現在近隣から集めた兵も合わせて2万人くらいで、遠方にも増援を呼びかけているとか。
そこに彼女を届けて欲しい、それだけです。
「ちょ、ちょっと待ってくだせぇ、いくら何でもそりゃあ無理ってもんですぜ」
慌てて断ろうとしてきますが
「あぁ、心配いりません。実際には彼女を都市の中に放り込んで来てくれれば、それで十分です」
「はい?」
「彼女、既にサラさんの呪いにかかっていますから。あ、『身代わりの樹』は絶対に離さないで下さいね。貴方にも感染しちゃいますから」
そう、彼女は既に術式サラ アップルに感染しています。
先程ちょっと下に降りて、他の人に殺される前にこっそりと意識を刈り取って拉致してきました。
「いや、イヤ、嫌、ちょ、ちょっと待ってくだせぇ。もし本当にそうなら、そんな奴を味方の中に放り込んでこいっ、てんですかい!何でそんな事を⁈」
まぁ、当然の疑問ですよね
「ムカついたからです」
そうキッパリと言い切ります。
「はいぃ?」
「ムカついたからですよ。あの公爵、自分の無能を棚に上げて私を侮辱してきましたからね。やり返さないと気が済みません」
そう、必ずやり返すと決めましたから
「そんな理由で……」
信じられないと言う表情で私を見てきます。
私はそんな彼に近づき、彼が持っている『身代わりの樹』をガシッと握ります。
「勿論、嫌なら断ってくれて構いませんよ?」
私はそう言いながら手に力を入れます。
『身代わりの樹』がミシミシと音を立てています。
「それで、どうしますか?」
悲鳴をあげる『身代わりの樹』を見ながら、彼は引き攣った表情で頷いてくれました。