「え〜それでは、戦争終結と色々あれこれお疲れ様でした。カンパーイ」
そう言ってジョッキを掲げます。
現在アルバ王国の実家に一番近い無事だった町の居酒屋でクロム君、ヴァネッサさん、アーサーさんの3人とお疲れさまの飲み会中です。
まぁ、今後の話とかもしたいですしね。
「かんぱ〜い。いや〜なんだかんだ結構長い仕事になりやしたが、漸くいち段落っすか。いいっすねー」
アーサーさんは落ち着いた調子で気楽に話しています。やはり大人ですね。切り替えが早い。自分のした事を、過去をウジウジ引き摺らない。クロム君やレオン君は是非彼を見習って欲しいものです。
「……」
ヴァネッサさんは相変わらずですね。静かに食事をしています。彼女も過去を引き摺らないタイプですね。ケロッとしています。
それに比べて
「……」
同じ沈黙なのにクロム君の負のオーラですよ。情け無い。終わった事をウジウジと。殺しに正当性を求めるからそうなるのです。仕事とキッパリ割り切りましょう。
「あー、ところで姐さん。あっしらは今後はどうなるご予定で?」
会話を自分から振ってくれるのはありがたいですね。あと、素面のうちに事務的な連絡は済ませておこうと言うあたり、酒を思いっきり飲む気ですね。記憶が残っているうちに。
「この後ですか?そうですね、戦災復興で領地は忙しくなりそうですから手伝ってくれたら助かりますが、契約は終了してますし国に帰ってくれても構いませんよ?」
そうなんですよね。契約は満了して支払いも済ませています。ここからどうするかは彼等の自由です。
「まぁ、私はこの後、新しい仕事で2、3ヶ月遠出をするので頼むのはクロム君次第になりますが」
と、そこでクロム君が此方を見てきます。聞いてない、そんな顔ですね。それは、言ってませんからね。
「ちょ、ちょっと待てよ!じゃあ実家の領地はどうなるんだよ‼︎誰が復興指揮をするんだよ?」
クロム君が慌て聞いてきますが
「ああ、安心してください。実は貴方のお兄さん、次男の方ですね。彼が生きていたそうで、家督は彼が継いでくれるそうですよ」
そう、他の家族は死んでしまった様ですが唯一次男だけは逃げ出したらしく生きていたんですよね。
それを聞いたクロム君は静かに
「そうか……、良かった、生きていたんだ」
とホッとして力が抜けた様で、嬉しそうにしています。
「まぁ、そんな訳でどうするかは貴方達次第ですね。今は1人でも人手が欲しいので他にやる事がなければ歓迎しますよ?」
とまぁ軽く勧誘しておきます。
「あっしは一度国に帰るつもりですが、まぁ、考えときますよ。それより、この忙しく時期に新しい仕事とは大変ですなぁ」
「まったくです。どんな仕事か気になりますか?」
「いえ、まったく」
アーサーさんは首を横に振りながら酒を飲んでいます。
「実はですね、このあ……もがっ!」
アーサーさんが体を乗り出して私の口を手でふさいできます。
「何をするんですか?」
口をふさぐ手をどかしてアーサーさんに問いかけます。
「いや何ですね、姐さんとそれなりに付き合ってきて分かったんですがね、姐さんがろくでもない事を言い出しそうになったら無理にでも止めないと酷い目にあいそうでしてね。聞かない、知らない方がいい気がしたんで止めさせてもらいましたよ」
何て酷い言いがかりでしょう。
「まぁ良いでしょう。それより国に帰ると言うなら1つお願いしたい事があるんですけど?」
「お断りします」
「そうですか、実はお願いしたい事はですね……フッ‼︎」
再び私の口をふさごうとするアーサーさんの手を掴んで止めます。
テーブルの上でお互い笑顔で睨み合います。
「分かりましたよ、受けるかどうかは分かりませんが話だけは聞きますよ」
先に折れてくれたアーサーさんがそう言って体を戻します。
「ありがとうございます。いや、何、そんな難しい事では無いですよ。ただ先に帰った傭兵の皆さんがどうしているか教えてくれれば」
そう言えば、アーサーさんは難しそうな顔で
「あー、そりゃ自分を見限った連中に報復でもする為で?」
私がスキーム公爵にした事を知っているアーサーさんはもしかしてと思い聞いてきます。ヴァネッサさんとクロム君も此方を見てきます。
「いえいえ違いますよ。私がそんな酷いことするはずないじゃないですか!」
何ですか3人共、その白い目は。まるで信じていませんね?仕方ない、ここはしっかりと誤解を解かなくては。
「この金貨に見覚えはありませんか?」
そう言って私はポケットから1枚の金貨を取り出します。長い下ベロを出した髑髏の絵が彫られた金貨です。
「あー、こりゃ、連中が帰って行く時に渡してたのと同じ金貨で?」
はい、その通りです。帰る傭兵さん達にこれまでの給金として渡した物と同じ物です。柄は悪いですが歴とした金です。これを99枚渡しました。皆さん納得して帰ってくれました。
「はい、実はこの金貨、ちょっとした曰くつきでして。私も持て余していたところなんですよ」
「曰く、ですかい?」
「はい!実はこの金貨、所有者を破滅させると言われているんですよ。何でも過去の所有者は全員不審な死をとげているとか。……私以外‼︎」
そう言えば、皆んな疑わしい目をして金貨をじぃっと見ています。
普通なら信じられないゴシップ程度の扱いですからね。
「そんな訳で、あの薄情者共が痛い目を見ているか確認して欲しいのです」
「まぁ、それくらいなら。正直信じられない話ですねぇ」
アーサーさんもヴァネッサさんも何とも言えない表情で金貨を見ています。ただの柄の悪い金貨にしか見えませんからね。こんな話、普通なら信じられないのでしょう。しかし、その話をしているのが他ならぬ私ですからね。もしかして、と思ってしまうのでしょう。
そして、その予感は実に正しい。
何せこの金貨の製作者は他ならぬ私なのですから!
かつてアルバ王国内に1人の山賊がいました。彼の名前はポンジ。5人程度の少人数でチームを組み街道で旅人や商人を襲い生計を立てている、何処にでもいる、何処に出しても恥ずかしい、そんな山賊でした。
ある日、いつものように商人を襲い、仕事を終わらせ、戦利品を漁っていた時でした、その中に大量の金貨がありました。その数100枚。
彼等は思わぬ大金に喜びました。これで当分の間豪遊出来ると。
しかし、ポンジは違う考えでした。
これだけの金があればもう命懸けの盗賊業等しなくても暮らしていける。唯の民間人として何処かの町で人生をやり直せると、楽をして暮らせると、そう思ったのです。
元々山賊に等なる人間です。自分勝手な考えの持ち主です。彼の中ではもうその金貨は自分だけの物でした。
その後彼は酒を飲み泥酔している仲間達を殺害し金貨を奪おうとしました。
しかし、そこで彼は思わぬミスをしました。仲間の中に彼と同じことを考えた者がいたのです。
酔い潰れた仲間を殺害後、彼等は殺し合い、結果2人は相打ちになりました。
腹を刺され、死にかけながらポンジは金貨の入った袋に縋りつき
『これは俺の金だ、俺だけの物だ』
そう言って死んでいこうとしました。
しかし、それでは終わりませんでした。その一部始終を見ていた者がいたのです。
そう、私です。
私は確信を持って彼に近づき、彼に忘却の魔術を発動。彼の魂から一切の情報を消去していきました。
そうして思ったとおりに、彼の魂には金貨に対する執着だけが残りました。
更に彼の魂はそのまま、死体が抱いていた金貨に乗り移っていったのです。
唯の普通の金貨には髑髏の模様が、彼の死顔が刻まれ、呪物と成り果てました。
そうして生まれたこの金貨は所有者に、ある強い感情を抱かせます。
すなわち
『この金は自分の物だ』と
この金貨を手にした者は最初は何ともありませんが、徐々にこの金貨に魅了されていきます。この金貨に恋でもしているかの様です。
そして、そのうち周囲の人間が自分からこの金貨を奪おうとしているのではないか?と人間不信に陥っていき、攻撃的になっていきます。
さらに、この金貨にはもう一つ、大きな特徴があります。
それは、この金貨は100枚で1つだと言う事です。
元々1人の魂が分割され乗り移った存在です。彼等は1つに戻ろうと引かれ合う性質があります。
金貨の所有者は金貨の奴隷です。金貨の意思に従って残りの金貨を集めようとします。
金貨の所有者は金貨の奪い合いを始め、殺し合いになります。
更に所有者は周囲の人間も自分から金貨を奪おうとしていると攻撃し始めます。
そうなれば待っているのは破滅だけです。
そうしてこの金貨は次の者の手に渡り、持ち主を破滅させながら、巡り巡って1つに集まっていきます。
今頃、傭兵さん達は金貨の奪い合いでもしているのではないでしょうか?
また、治安維持機構に押収された金貨はそこの職員を魅了し、更に大きな争いになっているでしょう。
ランセア連邦は今や内乱同然の大変な事になっているでしょう。
何事も途中で投げ出してはいけません。彼等には残りの人生、金貨に全力投球してもらいましょう。