地元に帰ってきたことですし、ついでに約束通りクロム君の様子でも見てこようと思ったのですが
「いない?」
「ええ、まぁどうせいつもの様に川か何処かでサボっているのでしょう。まったく、あの無能め」
いつもの様にお金を持って実家に寄ってクロム君の様子を現当主のキースさんに尋ねたら何処かに行っていると言われました。
それに妙にキースさんのクロム君に対するあたりが強いのが気になりますね。そんなに仲悪かったですかね?もっと良好な関係だったと記憶しているのですが。
「サボリ?」
「ええ、いつも私の足ばかり引っ張る上に、すぐに何処かに行ってサボるのです。まったく困った事ですよ」
はて?足を引っ張る云々は兎も角、仕事をサボる程に不真面目では無いと思うのですが?一体何があったのでしょうか?直接クロム君に尋ねた方が良さそうですね。
「それと、アンリさん。今、我が家は復興活動で忙しいのです。お金を入れるだけではなく、実際に領地の為に働いてください。我が家は最早男爵ではなく子爵なのです。そこら辺の自覚を持って相応しい振る舞いをしてもらいたいものです」
……ほう、この小僧。
……まぁ、今はいいです。先ずはクロム君に話を聞いて状況確認からです。
一体全体どうしたのか?先ずはそれからです。
そんな訳で実家を出て地元の町を歩いている訳ですが、先ずはキースさんが言っていた様に町の近くを流れる川にでも行ってみますか。
……って、おや?
「おやおや、お二人共どうしたのですか?」
町の外に出ようと歩いていると正面からヴァネッサさんとアーサーさんが歩いて来ました。
「ああ、姐さん。お久しぶりです。いや何ね、あっしらはついさっきこの町に着きましてね。宿を探しつつクロムの所に行こうかと」
詳しく話を聞くと、何でも国に帰ったら国は凄く荒れていたとか
「いや、酷いもんでしてね。何でもお偉いさん方が争い始めたらしくて、しかも金や政治だけじゃなくて、実際に武力での殺し合いに発展していたんですわ。危険だってんで国外に伝がある奴はほとぼりが冷めるまで国内から逃げているんですわ。幸い、あっしもヴァネッサも元は孤児で身内はいない。2人でクロムの伝を頼って避難してきたってわけですわ。あと、クロムの奴が普通に心配でしてね、力になれないかと」
「なるほど」
身軽な立場の良い所ですよね。フットワークの軽いところ。
「そう言や、先に帰った連中、どうやら争いに巻き込まれたらしくて、あっしらが着いた時には死んじまってやしたよ。いや、正直信じてなかったんですがね、本当にあの金貨は呪われてるのかもしれやせんね?」
おやおや、そうですか。実際は争いに巻き込まれたのではなく、争いに巻き込んだのですけど。
「それで、クロムは今どうしているの?」
と、ここでヴァネッサさんが聞いてきます。
「いや、それがですね……」
そうして、先程の実家でのことを2人にお話します。
「そりゃ、心配ですな」
「ええ、そんな訳でお2人にも探すのを手伝ってもらいたいのですが」
「勿論、構いませんぜ」
そんな訳で先ずは近場の川から探索です。
お2人には下流に向かって探してもらい、私は上流に向かって探していきます。
それにしても何でしょう?クロム君、また残念な目にあっている気がします。クロム君って呪われてるのでしょうか?ろくな目にあってませんね。少しは優しくしてあげましょうか?
……う〜ん、自分の思考に少しびっくりです。こんな風に考えるなんて、思ったより愛着がわいているのかもしれませんね?
そんな益体もない事を考えながら歩いていると
「おーい、姐さん。見つかりやしたぜー」
そう言ってアーサーさんが後ろから追いかけてきます。
「おや、そうですか。それで、クロム君はどんな感じでしたか?」
「あ〜、いや、その何ですね〜」
と何とも歯切れの悪い感じで曖昧な表情です。
……???
まぁ、実際に見てみましょう。
「何ですか?あの灰色の物体は?ゴミ?」
「姐さん、言い過ぎ」
現場に着いた私が見たものは、川辺で体育座りをして顔を埋めているクロム君でした。ピクリとも動かず、作り物の様です。
しかも、何故か彼の周辺だけ彩度が低く見えます。
灰になったボクサーの様です。
ヴァネッサさんも何て声を掛けて良いのか分からずに黙って一緒に座っています。
どうやら私達の存在に気付いてもいない様です。自分の殻にこもってしまっています。
しかし、クロム君の心情など、私には関係ありません。さっさと話を進める為に現実に帰ってきてもらいましょう。
そんな訳でネリョチャギ、またの名をかかと落としを頭に叩きこみます。
優しくする?はて、何のことやら?
「ぬぉぉ、アガッ‼︎ギイイィ!」
痛みで地面をのたうち回るクロム君に追加で蹴りを入れようとしたらヴァネッサさんに止められてしまいました。
女性に守られるとは何と情け無い男でしょう、クロム君は。
「くそっ、一体何だ‼︎……あれ?みんな、何でいるの?」
痛みから復活したクロム君はようやく私達の存在に気づいた様です。
「私は約束通り様子を見に来たのです。お2人は貴方を心配して来てくれたのですよ。それで、一体どうしたのですか?灰色になって?」
そう問えば
「うぅ、ありがとう、みんな。……実は」
クロム君の話は簡単に言えば馬鹿が調子に乗っている、と言う話でした。
「そもそもキース兄さんはロットン、あぁ長男のことね、兎も角ロットン兄さんの予備である事にずっと不満があったらしくて……」
優秀な自分が何故予備に甘んじなければいけないのか?そう言った不満があったらしいのです。
それが今回の件で自分が新しく当主になった事で舞い上がっていたらしい。
家族の死を喜ぶとはなんて酷い人でしょう。
更に
「自分が新しく当主になった途端に昇爵した事で、これは自分の功績だと思ったらしくて……」
「いや、これは単なる領地の再編成の為のものでしょう。そもそも彼、逃げてただけじゃないですか。何処に功績が?」
「そんなの、俺が知りたいよ……」
どうやらキースさんの中では何かしらの功績があるらしい。
結果やはり自分は優秀だ。自分ならジャオ家をもっと発展出来る、と思っているらしい。
しかし
「けれど、いざ復興作業、親領地経営となった時当然上手くいかなくて」
まぁ、当然ですね。ノウハウ無いですし。人も無いですし。資産も人望も能力も、何もかも無い無い尽くしです。
「それで上手くいかないのは俺のせいだって事になって」
優秀な自分がこんなに失敗するわけがない。上手くいかないのは誰かが足を引っ張っているからだ。そうなったわけですね。
聞いた話によると、クロム君は指示通りに仕事をこなしていたようです。主に現場仕事だった様なのですが納期は守っていたそうです。
そもそも土台無理がある話なのです。上手くいく訳がありません。失敗しながら学んでいくしかないのです。
しかし、プライドがそれを認められなかったと。なまじ昇爵なんかしちゃったもんだから自分は周囲に期待されていると思って失敗を恐れたと。そうして、失敗の責任を自分以外に求めた結果がクロム君だったと。
……不味いですね。ちょっとワクワクしてきました。
「それで、それで?どうなったのですか?」
「……何でちょっと嬉しそうなのですか。はぁ、それからは俺に対する当たりが強くなって、いや、俺だけじゃなくて周囲の人かな、兎も角周りに当たり散らす様になって」
ふむふむ、それで周囲の人の心が離れていっていると。周りの人達は先代からの付き合いがありますから早々見捨てられることはないとは思いますが、それもこのままでは分かりませんね。
「そこに追い討ちをかける様に、俺に国から戦争での活躍に対する勲章が渡されて」
ああ〜
「そう言えば、贈りましたね。そんなの」
私が思い返して言うと
「贈った?」
ヴァネッサさんが疑問に思って聞き返してきます。
「いや、戦争に参加させて結局何も無しでは可哀想だと思って、伝を伝って勲章を送ってもらったんです。大した意味はありませんが、雀の涙程度の年金がもらえますよ」
私にしては珍しく裏の無い善意だったのですが
「ところがそれが兄さんの逆鱗に触れて、何で自分じゃなくて無能のコイツに、ってな具合に更に当たりが強くなって」
凄いですね。ここまで来ると逆に凄い。私は今キースさんに感動を覚えています。
「周りの人達も兄さんより俺の方が新しい当主に相応しくないか?とか言い出して。しかもそれが兄さんの耳に入ったらしくて」
周囲の人に当たり散らすから
「遂にはこの前、刺客が送られてきて」
思わずガッツポーズをしてしまいました。素晴らしいキースさん。よくぞそこまで見下げ果てました。
ヴァネッサさん達が白い目で見てきますが気にしません。
「刺客とはいっても単なる町のチンピラで簡単に撃退出来たけど、俺、もう、どうしたら良いのか分からなくなって。……何でこんな事に」
そう言って再び体育座りで地面を見つめ出しました。
仕方ないですね。まぁ、私にも、ほんのちょっぴり、髪の毛一本分くらい責任があるかも知れませんし、協力してあげましょう。
それに、途中で諦めた御家事情での闘争が出来るかもしれません。初志貫徹、いや良かった良かった。
ありがとうキースさん。それと、私に上から目線で説教した分をしっかりやり返してあげましょう。