何があったの?
さて、クロム君の隣りに座り肩に手を回します。
「クロム君、貴方に良い話があるのですが」
私がそう言えばヴァネッサさんが、スッとクロム君の耳を塞ぎます。
いやいや、大丈夫ですよ、今回は、本当に。
「クロム君、独立しませんか?」
ヴァネッサさんの手を退けながら聞きます。
「独立?」
クロム君は訳がわからないといった表情で聞き返してきます。
「そう、独立です。具体的には、先の勲章を理由に男爵位をむしり取って来るのでクロム新男爵として新しく領地開拓しませんか?」
クロム君は驚きで変な顔をしています。
「場所は現ジャオ領の端っこ、魔の森と呼ばれる地域をもらいましょう」
クロム君はようやく再起動して慌てて聞いてきます。
「いやいやいや、無理だってそんな事。そもそも男爵位が貰えるとは思えないし、仮に男爵位が貰えたとしても兄さんが不要な土地とは言え領地を割譲するとは思えないって⁈」
「大丈夫です。国には現在の領地経営の状況を伝えて、現状では管理仕切れないので土地を小分けにして管理しやすくする方針だと伝えます。安心してください、私、文官の皆さんと仲が良いのですよ」
これは本当です。スキーム公爵の部下だった時代にこっそりと情報を横流しして関係を構築したんですよ。黒魔術便利ですよね、警戒心を削いだり、印象操作に。いざと言う時の記憶消去による証拠隠滅にも。
「キースさんの方はもっと大丈夫です。そもそも手一杯で放置している土地です。そこを渡すだけで家督を狙う厄介者を合法的に放逐出来るのですから安い物でしょう。クロム君が失敗しても損失はありませんし、なんなら失敗したところを支援してあげれば内外に器の大きさを示すチャンスですよ、とでも言っておけば調子に乗って許可をくれますよ。まぁ任せてください、上手く丸め込んで見せますよ」
私がそう強くおしてもまだまだ不安な様で
「いや、でも、あれだろ、魔の森って魔物が多く危険だからって開発が後回しになってる森だろ。何でそんな危ない所を?それにそんな所もらったって何をする気だよ?」
まぁ、当然の疑問ですね。答えも当然の回答ですが、少しは自分で考えましょう。
「何でって、そんな場所じゃなきゃキースさんくれませんよ?良い立地の所なんか無理無理です。それで、何をするかですが、森を切り拓いて開発事業です。先ずは林業から始めますか」
「いやいやいや、無理無理!先ず人手が足りない。林業の経験も無いし、それに森の魔物はどうするんだよ‼︎元々それが原因で開発が遅れていたんだろ⁈」
確かにそうですね。しかし、大事な事を忘れています。
「国内で破産した人を格安で雇いましょう。今は失業者が国中にワラワラいます」
何なら奴隷を買っても良いですね。
「林業にかんしては任せてください。経験者に心当たりがありますので」
先日ゴルビア王国からの帰り道に襲って来た山賊の皆さん、失業した元木こりらしいのです。ボコボコにした後身ぐるみ剥いで放り出しましたが、殺してはいないのでまだあの近辺にいるはずです。
是非とも捕まえて再就職の斡旋をしてあげましょう。彼等も泣いて喜んでくれるでしょう。
「魔物についてですが、なんと!先程良いニュースが届きました!何でも近隣のとある傭兵国家で内戦が起きているらしいのです‼︎その結果一部の人達が疎開先を探しているらしく彼等に衣食住の提供と魔物の討伐の仕事を斡旋しましょう。身内で戦っているよりよほど良いでしょう。きっと来てくれますよ」
ヴァネッサさんとアーサーさんが苦虫を噛み潰したような顔をしています。
「いや、でも、衣食住ってそんなの無理だろ。あそこら辺民家とか無いし」
なかなか粘りますねクロム君
「ご心配なく。実は少し森に入った所に大規模な建築物があります。100人単位で居住可能です。魔物避けの魔道具もバッチリ完備です」
これ、以前に私が経営していた武器工場の建物です。内部の施設は粗方撤去しましたが建物だけは壊さずに残しておいたものです。居住区画と作業場がバッチリあります。
「何でそんな物あるんだよ……」
その質問は笑顔でスルーします。
「しかも、近くには海までつながる川が流れています。輸送面もバッチリです。これで貿易も出来ます。海運業についてはご心配なく。私にバッチリノウハウがありますので」
密輸中にしっかり学ばせていただきました。
「さらに、近場には未報告ですが、小規模ダンジョンがあります。出てくる魔物はゴブリン等の低位の魔物ばかりですがこれで安定した魔石の供給ができます。子供達の訓練をかねて働かせてはどうでしょう?」
これは狼男さんの実験をしていたダンジョンですね。実験が終わって用済みなので、本来の形で役に立ってもらいましょう。
どうです?実はあそこ武力さえあれば結構好立地なんですよ。
「いや、でも先立つ物が無くて……」
むむ、本当に粘りますね
「それもご安心ください。本当につい先程、お金になる案件が出来ましたので‼︎」
おの狼男さんはきっと役に立ってくれるはずです。
「どうですか?家を出て独り立ちしてみては?そうすればもうお兄さんに邪魔者扱いされる事も無い。以前お父さんにされた様に無茶な命令で命懸けの戦争に参加する事も無い。最初は大変ですが私も協力します。どうですか?今を逃したら次は無いかもしれませんよ?」
畳み掛けるように説得します。
クロム君の心は揺れています。
まぁ、嘘は言っていません。ただ、この開発事業が上手くいったとして、キースさんが黙っているか?と言う話です。
彼、絶対に成功した土地の主権を主張してきますよ。そうなった時クロム君がどうするか?と言う話です。
仮にクロム君がそれを良しとしても実際に開発に携わった人達は反発しますよね。当然です。自分達が頑張って開拓した土地に何もしてない人間が入り込もうとするのですから。
そうなった時どうなるか?
クロム君の決断に興味があります。