この世界、と言うかこの時代の通信方法は非常にローテクです。手紙が主流です。スマホが恋しいですね。
とは言え前世には無い方法もあります。『伝心』と言うスキルによる伝言ゲームによる方法です。この『伝心』のスキルは一定の範囲の任意の相手にテレパシー的な力で意思を伝えるスキルです。このスキルの持ち主を国の各町、各村に配置して高速で情報を送るという方法です。PHSかな?
しかしこの方法、早い事は早いのですが、信頼度が低いのが欠点で余り使われていません。伝言ゲームですからね。さもありなん。本当に緊急時のみ使われます。
そんな訳で、普段は人による手紙の運搬が主流で、急ぎの場合は伝書鳩的な方法がとられています。
今、私が読んでいる手紙も鳥に運んでもらった物です。送り主はアイリスさんで、現在のゴルビア王国の情報が書かれています。
グシャッ‼︎
手紙を読み、そこに書かれていた情報を読んだ時、久しぶりのイラつきに思わず手紙を握りつぶしてしまいました。
「あー、大丈夫かい?」
近くにいた山賊の頭領さん(名前をオーハさんと言うそうです)が聞いてきます。
私は現在、予定通りゴルビア王国の町で火事場泥棒に勤しんでいるところです。
ここでの収入が今後のクロム君の活動資金になるので頑張っていたのですが……
「ええ、大丈夫ですよ。大丈夫ですが予定変更です」
そう言って、パンッパンッ‼︎と手を叩きます。
「集合ー!皆さん集まってください」
町に散らばった部下の人達を集めます。
「予定変更です。本当はまだまだ探索をしたかったのですが今すぐに帰還します。急いで準備をしてください」
私がそう言えば
「何かあったんで?」
オーハさんが聞いてきます。
「はい、ゴルビアとボーアで休戦協定が結ばれました。予想外です。協定が結ばれた事も、こんなに早くに事態が終息する事も」
以前に話した通り、ボーア公国はこの機会にゴルビア王国を潰す位の気持ちでむしり取ろうとしていました。時間はボーア公国の味方です。ドッシリ構えて対応していく予定でした。
「そりゃ、意外だな。一体どうして……?」
本当にそうですね。まさか
「勇者ですよ。勇者様御一行が絡んできました」
ゴルビア王国から国境線を3つ超えた場所に『アーリア聖光国』と言う国があります。今回、このアーリア聖光国が戦争の仲裁に入ったのです。
アーリア聖光国はアーリア正教と呼ばれる宗教の聖地にして総本山がある宗教国家です。
アーリア正教自体は大陸最大の権勢を誇る宗教で、人々に広く知られています。
その総本山たるアーリア聖光国も、大陸屈指の強国です。
しかし、このアーリア正教、前世の宗教ほど他国の政治に影響を及ぼしません。むしろ他国の政治に介入する事も、される事も嫌っています。周辺国家に対して中立を宣言しています。
それはこのアーリア正教の意義、教義が関係してきます。簡単に言えばアーリア正教は魔物の根絶を掲げる宗教であり、人間同士の争いに加担するのは教義に反するからです。
魔物の脅威からの人類の解放をうたうこの宗教にとって、人間同士の争いに興味はありません。対魔物に反さない限り他国の政治、まして戦争に関わって来ることはありません。
しかし、今回は強大な魔物とその軍勢が出てきた事で事情が変わります。
アーリア正教としてはこの魔物の討伐を第一に考えています。その為の戦力を送りたいのですが、そんな事をすれば他国からゴルビア王国に加担したと見られてしまいます。
故に、先ず最初にゴルビアとボーアの間に入り、戦争の仲裁を行ったわけです。
自分達よりはるかに強大な国家の意見を無碍には出来ず、交渉の席に着いたわけです。
結果、和平案はゴルビア王国はボーア公国に対して今回奪った領土と攫った国民の返還、返還出来なかった民間人の遺族に対する慰謝料を支払うという形で決着しました。
どちらにとっても不満の残る決着となったわけです。
「そんな訳で、ゴルビア王国の軍隊が帰ってきます。更に追加で勇者パーティーも付いてきます」
勇者とはアーリア聖光国が保有する聖剣に選ばれた者で、国の威光を背負った存在です。
また、その仲間たる勇者パーティーは各分野のトップを集めた、まさに最強のチームです。
アーリア聖光国は基本的に他国に軍隊は派遣せず、この勇者パーティーを派遣します。流石に5、6名では侵略には見えませんからね。余計なトラブルを回避する為にも彼等だけの派遣です。
基本、彼等は現地の戦力と協力して魔物の討伐を行います。
これまでの歴史でも何度も行ってきた実績もあります。彼等のことは皆、信頼しています。
「態々、遠路はるばるご苦労な事です。お陰で急いで帰らなくてはなりません」
まだまだ稼げると思ったのに。と言うか、この短期間で来るとかどんな情報網と移動速度をしているのですか⁈
大国恐るべし。
原作のゲームではアーリア正教自体は出てきましたが本編には深く関わりませんでした。だから関わってこないだろうとの油断があったのでしょう。
勇者なんて影も形もありませんでした。
残念ですが今回は隠密が第一。見つかる前に急いで帰宅しましょう。