ポンポンと良い音が部屋に鳴り響きます。
ゴルビア王国から撤退してから半年の月日が経ちました。あの後私は無事に国境まで撤退することに成功しました。国に帰ってからはキースさんとの交渉、国の役人との交渉、傭兵さんとの交渉、難民との交渉と、クロム男爵新領地の運営の為に奔走していました。
その努力の甲斐もあってクロム領は先日から運営を開始しました。これからはクロム君や皆んなの頑張り所でしょう。
さて、私が今現在何をしているかと言うと私は再びゴルビア王国を訪れ、適当な廃棄された民家をお借りしてポップコーンを作っています。このポップコーン、先日貿易をしていた時、偶々交易品の中にトウモロコシを見つけ、しかもちょうど良く爆裂種だったので購入しておいたトウモロコシを使用しています。
ゴルビア王国は現在勇者一行と協力して魔物の駆逐作戦を行っています。
戦況は良好で現在、ほとんどの都市を取り返し、残された最後の魔物の軍勢と最後の戦いを控えた状況です。
そんな訳で、私は最後の戦いを見学しにゴルビア王国まで戻ってきました。そして、やはりアクション映画の鑑賞にはポップコーンだろうと、民家をお借りしてポップコーンを作っている訳です。
キャラメルは無いので塩味しかありませんし、炭酸飲料も無いのが残念ですが、そこは目をつぶりましょう。
出来上がったポップコーンを紙袋に入れて戦場が良く見える位置まで移動します。
予定では今日の昼前には魔物の軍勢と勇者一行が接敵するはずです。それまでに良い位置をとっておきましょう。
そんなこんなでお昼前、私は戦場が見える位置にある林の手前でギリースーツを被り潜んでいます。
地面に胡座をかいてポップコーンを食べながら戦闘を見ています。
戦いは予定通り魔物を平野に引っ張り出して開戦しました。
魔物の軍勢はこれまでの戦いで数を減らしていて残りの千体程度。対するゴルビア軍は3倍以上の三千五百といったところでしょうか。しかし、まだまだ油断は出来ません。魔物は強力な個体もいますから。
しかし、戦況は人間側の優勢で進んでいます。戦場になる予定の平野にはあらかじめ簡易な防壁を用意したり、罠を設置してあり、それらを駆使して有利に戦いを進めています。
魔物は魔物らしく猪突猛進に突っ込んできては、被害を出しています。
勇者一行の活躍もめざましく、勝利は時間の問題に見えます。
しかし……
「な〜んか、おかしくないですか?」
そう、余りにも上手くいきすぎています。そもそも平野に釣られたのも、あんな簡単な罠に引っかかるのもおかし過ぎます。
私が感じた狼男さんの印象からかけ離れています。
私は彼に高い知性を感じました。こんな簡単な罠に引っかかるとかあり得ません。むしろ、罠にかける位の事はしてくる印象でした。
「いや、待てよ。罠、そうか罠か。あ〜しまった〜、やられた」
私は思わず天を仰ぎました。
「そうだよ、そうですよ。私が今日、ここに来るであろう事は容易に考えつきますよ」
後ろの林からガサガサと音が聞こえてきます。
「私が彼を観察していた様に、彼も私を観察していたのですから」
私の直ぐ真横にまで後ろから誰かが歩いて来ます。
「お久しぶりです。狼男さん」
「ああ、久しぶりだな。くそ女」
そう言って彼は私の横に、ドスンッと音をたて座ります。
「おや、驚きました。人の言葉を喋れるのですね」
「ああ。捕らえた人間を使って勉強した。結構便利だぞ。喋れないふりをしていれば目の前で大声で作戦を叫んでくれるからな」
そう言いながら彼は私の持つ袋に手を伸ばして中のポップコーンを食べています。
「不味いな」
「それはそうでしょう。狼向けには作っていませんから」
私もポップコーンを食べながら話します。
「それで、何か言いたい事があるのでは?あそこで戦っている彼等は囮ですよね。態々ここまでしたのです。それなりの目的があるのでは?」
視線の先では今も魔物と人間が戦っています。
「まあ、な。ダンジョンから外の世界に出て、仲間を作り、人間と戦い、多くの事を学んだ。そうして理解した。今の俺達では人間に勝てないと」
前を見据えながら彼は話しています。
「人間は強い。積み上げてきた技術も歴史も、俺たちとは段違いだ。だから、今回は逃げる事にした。逃げて、別の地で仲間を増やし、力を蓄えて再度挑もうと。まぁ、大半の奴等には反対されたけどな」
後ろの林から複数の物音が聞こえます。
なるほど彼等が狼男さんに賛同した者達で、あそこで戦っているのは反対した者達と。
「学ぶ事、それが今の俺たちの武器だ」
これは
「お前の前に来たのは言っておきたい事があったからだ」
想像以上に
「俺たちは必ず帰って来る。お前に弄ばれた仲間の無念の為に。そして、俺たち魔物が生き残る為に。もう一度、帰って来る。それだけを伝えておきたかった」
そう言って彼は立ち上がって林の方に向かって歩いて行きます。
「それではそうですね、50年後までは私はこの周辺の国にいる予定です。ですからその頃にもう一度来てください。それを過ぎたら何処かに行ってしまっているかもしれませんので」
私がそう返せば、彼は手をヒラヒラさせて林の中に入って行きました。
「おや?」
紙袋を見れば中身は空っぽになっていました。
不味いとか言っておきながら、実は結構気に入っていたんじゃないですか。
再び前を見ます。
どうやら戦いは人間の勝利に終わりそうです。
しかし、想像以上でした。彼は必ず帰って来るでしょう。きっと今とは比べ物にならない位に強くなって。
彼だけではありません。
今回の戦争で多くの人が死に、多くの憎しみが生まれました。国々はより力を求めるでしょう。
この地方一帯のアーリア聖光国と勇者の影響力も強まった事でしょう。
ばら撒かれた金貨は人間の世界に大きな不和をもたらすでしょう。
そして、ゲームの主人公が、敵キャラが生まれてきて、大きな変化をもたらすでしょう。
それだけではありません。ラリーさんもクロム君もヴァネッサさんもアーサーさんもレオン君もアイリスさんも、みんなみんな、きっと何かしらの変化を与えてくれるはずです。
英雄が勇者が魔王が暴君が黄金が商人が傭兵が凡人が、愛が鬼が魔が人が、ゲームには無かった、新たな時代を作っていくでしょう。
さぁ、種まきの季節は終わりです。
ここからは50年後にやってくれる新時代に備えて準備の時間です。
きっと楽しい時代がやって来る事でしょう。