怖い、怖い怖い、怖い怖い怖い、何で、何で何で、何で何で何で?
訳が分からない、どうしてこんな事になっているの?
私を引っ張っているのは誰?何でこんな事になっているの?私はこんなの知らない。こんなのゲームで見たことない。
私には前世の記憶がある。ある日突然思い出したのだ。とはいっても特別な何かがある訳でも無い。ただの学生だった。むしろ前世の記憶があるだけ今の暮らしの不便さが辛いだけで、逆に思い出したく無かったくらいだ。魔法の存在がある分、前世の中世とか昔の時代よりははるかにマシだけど、それでもやっぱり辛いものは辛い。
それでも思い出して良かった事もある。
私はこの世界の事を少しだけ知っている。この世界はゲームの世界だ。そして私は主人公の義理の妹だ。名前はリリ。一応パッケージにはいたと思う。
私はこのゲームを直接遊んだ事が無いので記憶は曖昧だ。
今世では妹の私だが、前世では姉だった。弟と私の2人兄弟だ。
弟がリビングでこのゲームをしているのを見ながらスマホをいじったり、宿題を片付けていたのでなんとなく覚えている。
とは言え、最初の頃は興味があってよく見ていたが、途中からは興味が薄れて勉強をしていたから良く覚えていない。
そんな訳で、序盤は良く覚えているけど途中からは良く覚えていない。
必死になって覚えた英単語よりも弟がやっていたゲームの知識の方が人生で役にたつのは非常に納得がいかない。不条理だ。
しかも思い出した記憶も最悪で、このゲームの始まりは主人公の、私の兄の成人の日(この世界の成人は16歳)に村が滅びるところから始まるのだ。
最悪だ。思い出したくなかった。でも思い出して良かった。何とかしてこの未来を回避しなければ。とは言え子供の私に出来る事は少ない。正直に話しても信じてもらえないだろうし、むしろ心配されるのがオチだ。
何とかして皆んなを助けたい。せめて両親だけでも助けたい。兄の成人までまだまだ時間はあるけどこのままだとどうしようもない。
自分に出来る事はないかと色々探していたけれど、正直手詰まりを感じていた。
そんな時、村を山賊が襲ってきたのだ。ゲームの開始までまだ3年以上ある。今はまだ大丈夫だろうと思っていた。
案の定、偶々村に滞在していた冒険者だろうか?強そうな人達によって山賊は追い払われていって、もう安心だと思った直後だった。
何かに後ろから引っ張られたのだ。いや、正確には何も引っ張られてはいないのだ。ただそう感じるだけで。
私だけじゃない。家に一緒にいたお兄ちゃんも、お父さんもお母さんも同じ様に何かを感じている。そして多分村中で。さっきまで聞こえていた外で話す村人の声が一切聞こえない。みんな黙って動けないでいるんだ。
怖い。何が起こっているのか分からないのもそうだけど、それ以上に、この何処とも分からない所から湧き上がってくる不吉な雰囲気が凄く怖い。
家族全員が恐怖で固まっていると
バキッ、バキッと何かを壊す音が遠くから聞こえてきた。しばらくするとまたバキッ、バキッと音が聞こえてきた。その音は段々と此方に近づいてきている。
そこでようやく分かった。これは誰がドアか壁を壊している音だ。
逃げないと!
そう思っても体がすくんで動かない。私が内心でパニックになっていると
ガンッ‼︎とすぐ近くで音が聞こえた。
そちらを見るとお父さんが自分の顔を自分で殴っていた。
「大丈夫だ。ほら動けるだろう。怖くない。こんなの単なる気のせいだ。ほら、怖くない怖くない」
そう言ってニッと笑いかけてきます。
それを見て私もさっきまでの恐怖が引いていくのを感じた。後ろを振り返っても誰もいない。体も動く様になっている。
「リース。兎に角2人を連れてここから逃げよう」
お父さんがお母さんにそう言って私とお兄ちゃんの手をとります。
「シン、リリのことをちゃんと守ってやるんだぞ」
そう言ってお兄ちゃんと私の手を繋がせます。
「うん、分かった」
お兄ちゃんがそう言ったその瞬間
バキッ!バキッ!
斧でも叩きつけたのでしょう。その音と共に、玄関の扉に縦に細長い穴が空いた。
その穴から顔半分を覗かせながら家の中を誰かが覗き込んでいる。
穴の向で真っ赤な瞳がキョロキョロと動き、部屋の中を見回している。
そうして私達を見つけると、
ニィッと嬉しそうに瞳を歪める。
みぃつけた
声は出ていないのにハッキリとそう言ったのが聞こえてきた。
「3人共裏口から逃げろ!早く‼︎」
お母さんが私とお兄ちゃんを引っ張って逃げようとする。
「お父さん‼︎」
1人残っているお父さんに呼びかけると
「大丈夫だ。必ず後で追いつく!」
そう言って玄関を壊している襲撃者に飛びかかっていく。
私達は必死で家を飛び出した。兎も角村の裏手にある林に逃げ込んで身を隠そうと林に向かって走っていく。
すると
「あ、リリちゃん」
「あ、本当だ」
「シンもいるぜ」
道の途中で村の友達に声をかけられました。思わず立ち止まってそちらを見てしまいました。その声は今の状況に相応しくない明るい声でした。
そして何より異常なのは
「見て見て、凄いでしょ。おっきなお人形。さっきお姉さんにもらったの」
そう言って彼女達は大人の死体を私達に見せてきます。
明らかに異常です。正気ではありません。死体を人形だと言って遊んでいるのも、大の大人を子供が引きずったりしているのも、どう考えても異常です。
「いやー‼︎」
私は全力で逃げ出しました。一心不乱に逃げ出しました。お兄ちゃんとお母さんも私と一緒に林の中に逃げ込みました。
兎に角身を隠しながら逃げて、疲れて動けなくなるまで逃げました。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁー」
3人で大きな木の影に隠れながら切れた息を整えます。
「大丈夫か?リリ」
お兄ちゃんが心配して聞いてきますが
「大丈夫?大丈夫なわけないじゃない‼︎何なのあれ⁈何がどうなってるの!わけがわからない、何でこんな事になってるのよ!」
思わず語気を荒げてしまう。
「……ごめんなさい」
叫んで少し冷静になってお兄ちゃんに謝る。
「大丈夫、気にするな」
そう言って頭をポンポン撫でられます。お母さんの微笑ましいものを見る視線で余計に恥ずかしくなります。
しかし
「リースさん、シンさん、リリさーん。何処ですかー。出てきて下さ〜い。私にあなた方と敵対する意思はありません。保護しに来たのです」
追いかけてきた追手の声が聞こえてきた。
「シン。よく聞いて。このまま真っ直ぐ進めば林を抜けて道に出られるわ。そしたらそのまま隣の村に着くからそこで助けを求めるのよ。いいわね?」
お母さんがお兄ちゃんの手をとり言います。
「お母さんは⁈」
「お母さんは貴方達とは反対の方向に逃げて時間を稼ぐわ。シン、リリの事をお願いね」
「駄目だよ!お母さん、一緒に逃げよう!」
お母さんは優しく笑って私の頭を撫でると台所から持ってきた包丁を握りしめて何も言わずに走って行きました。
「リリ、行くよ!」
「待って‼︎お兄ちゃん、お母さんが、お母さんが」
泣き叫ぶ私の手を引っ張ってお兄ちゃんが走り出します。
どれだけ走っただろう。街道に出るとお兄ちゃんは一度足を止めて振り返ります。
「誰も追ってきていないな。リリ、あと少しだ。頑張って歩こう」
そう言って隣村に向けて歩きだそうとしたが
「いやいや、いくら何でも楽観的すぎますって」
何処からともなく聞こえてきた声と共に私の足が何かに掴まれた。
「ヒィッ⁈」
足下を見れば地面から出た手が私の足を掴んでいた。
いや、よく見れば地面ではない。いつのまにか地面には真っ黒い水たまりが出来ていた。そこからゆっくりと真っ赤な髪の女が這い出てくる。
「今日は月がよく出ていて良かった。おかげで貴方達の表情がよく見える。はじめまして、お二人共。私はアンリ ジャオといいます。以後お見知りおきを」
そう言って礼をした女を見て私は声にならない叫び声をあげた。
何故ならその女は全身を血で真っ赤に濡らし、顔の左半分には手斧が突き刺さり、お腹には包丁が刺さっていたからだ。
それなのに何事も無い様に女は話しかけてくる。
「さぁ、共に来てください。大丈夫です。私は貴方達を守護る為に来ました」
そう言って女は血に濡れた手を差し出してきた。