何が何だか分からない事ばかりだ。
村が野盗に襲われたと思ったら今度は明らかに危険な女に追いかけ回されて、両親は殺され、村は滅茶苦茶。何とか命からがら隣村にまで逃げてきて、やっと一息つけると思ったら今度はその村の人達に売り飛ばされた。
もう何が何だか分からない。分からないけどリリだけは守らないと。
色々疑問だらけだし悲しい事だらけだけれど今は、今だけは考えない様にしよう。
リリを守る。今はそれだけを考えよう。
「いや〜、話の分かる人達で良かったですね。手間がかからないのはとても良いことです」
リリと2人、並んで座らされていると、後ろから女が僕たちを抱き抱える様にして密着してくる。蝋燭の灯りで浮かび上がる表情は笑顔だが本当には笑っていない気がする。
今は村長の家の一室で2人共に手を後ろで縛られ拘束されている。
日の出と共に村を出るとの約束で、それまではこうして3人で部屋から出ない様に言われている。
話しかけてくる声色は明るくて、優しく、気さくな感じに話しかけてくるがまったく親しみを覚えない。むしろ嫌悪しか感じない。
「あの、貴女はどちら様でしょうか?もしかして先程の女性のご家族だったりします?」
リリが顔を引き攣らせながら必死に問いかける。少しでも情報が欲しいのだろう。
相手の機嫌を損ねない様に戯けた態度をとって諂っている。
確かにさっき僕たちを追いかけてきた女に良く似ている。妹だろうか?流石に親子ではないだろう。
「いえいえ、違いますよ。先程貴女に思いっきりお腹を刺された張本人ですよ」
そう言いながらリリのお腹をつまんでプニプニと遊んでいる。
「えへへ、冗談ですよね?さっきとは年齢が違いすぎるじゃないですか〜、アハハ」
盛大に引き攣った笑顔をしている妹は必死に冗談めかして話を振っている。
知らなかったが、どうやら我が妹は思っていた以上に胆力が凄いらしい。
「冗談ではありませんよ〜。先程貴女にやられた傷を治したらこんな年齢になってしまったんですよ。まったく身体が小さくて不便ですよ。はっはっはっ」
貼り付けた笑顔で笑いかけてくる。
緊張で息が詰まりそうだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。最初から言っているじゃないですか。貴方達に害はなさないと、保護する為に来たと」
追いかけられている時そんな事を確かに言っていた気がするが、てっきり単なる出任せだと思っていたけどそうじゃ無いのか?
「あの、どうして?いや、そもそも何で村を襲ったんですか?何で私達だけこんな風に捕まえようとしたんですか?そもそも貴女は誰なのですか?」
確かに気になっていた。何で自分達がこんな目にあわないといけないんた?
「う〜ん、そうですね。簡単に説明しておきますか」
女はそう言ってようやく離れて僕たちの正面に座った。
「先ず、事の発端は3年前になります。隣国ナチウドラの更に北、幾つかの小国を挟んだ先、人による開拓があまり進んでいない地域から大規模な魔物の軍勢が攻めて来ました」
いきなり話が飛んで思わず目が白黒してしまう。何でそんな事が出てくるんだ?
「あ、質問は後にして下さい。一々答えるの面倒なので。話を戻して、魔物の軍勢は自身を魔王軍と名乗り次々と小国を滅ぼして行きました。流石に危機感を持った各国はナチウドラを盟主に連合を組みこれに対抗しました。アーリア正教もいつもの如く参戦してきて人と魔の戦争になった訳です。これがここ最近の世界情勢です。分かりましたか?」
とりあえず首を縦に振る。まぁ、へー、そうなんだとしか思えないのだが。それが僕たちに何の関係が?
「さて、当然我が国もこの連合に参加している訳ですが、まぁ遠いので派遣する兵隊は最小限、主には金銭や物資での援助がメインですね。
しかしここで1つ問題が発覚しました。良い感じの道路がですね、なかったんですよ。いや、道自体はあるのですよ。ただ、大規模な輸送部隊が通り易い大きな整備された道路が無かったんですよ。
北方は過去に攻められた事もあって敵に利用される恐れもあって開発が遅れてきた訳です。ですが」
パンッと手を叩き続ける。
「そうだ、折角だしついでに新しく道路を造っちゃうか!今後どれだけこの状況が続くか分からないし、整備された道はあって損は無いしね。となった訳です」
へー、そうなんだ。うん?ふと隣を見るとリリが何やら顔色がどんどん青ざめていっている。何だ?どう言う事だ?
「そうして工事が始まりました。とは言ってもやる事は地面を平らに慣らして道が雨で泥濘ま無い様に砕いた石を混ぜるだけですが。公共事業を起こし、失業者を雇い、国民の所得を増やす、素晴らしい政策です。
しかしですね、ちょっとした問題が出てきまして。工事予定の範囲にですね、邪魔な村があったんですよ」
え、は?ちょっと、待って。
「村を迂回するのは面倒だ。かと言って村を取り壊すのは村人の反発もあるし、仮に移住が決まったとしても新しい環境を用意するのも面倒くさいわけです。そうして、お偉いさん方はこう思った訳です。『あー、いっそ野盗にでも襲われて滅んでくれないかなぁ』と」
理解が出来ない、いや、理解したくない。
「じゃあ、私達の村が襲われたのって、お父さんがお母さんが殺されたのって……」
リリが絶望した表情で話している。
「はい、道路工事の為です」
思わず力が抜け、目の前が真っ暗になっていく。