「次はここっす。本日のメイン、国立美術館っす」
食事の後、市場を再び見て回った後、街の中央にある広場にやって来ました。
マリーさんの言う美術館は広場に面した所にある大きな建物で、名前のまんま、国の運営する美術部です。
入場料は中央通りのお店でのディナーくらい。前世基準ではお高目、今世基準では良心的なお値段。
「いやー、自分のお金じゃ、なかなか入ろうと思えないっすからね〜。ありがたやーありがたやー」
マリーさんはそう言って私を拝んできます。なかなかに逞しい事です。思わず苦笑いしてしまいます。
「まあ、いいでしょう。それでは2人共、入りますよ」
そう言って3人で美術館に入って行きます。マリーさんは軽い足取りで、シン君は重い足取りで。
シン君はさっきの事を未だ引きずっていて、それを隠そうとしている様子ですが、嘘が下手なせいでバレバレです。
マリーさんもシン君の様子が変な事には気がついていますが、隠そうとしているシン君に気を使って気付いていない振りをしています。あえて明るくおどける事で空気を和らげようとしています。
何でしょう、全くタイプが違うのに昔のクロム君とヴァネッサさんを思い出しました。多分シン君も尻に敷かれるタイプですね。
そんな訳で3人で美術館の中を見て回ります。
絵画や銅像、刀剣の類など、歴史的、文化的価値の有る物を中心に集められていますが、中には新進気鋭の芸術家の作品などの新しい物もあります。
美術館側の飽きさせない工夫が見てとれます。
私はこれでも人なみ以上には美術に関して詳しかったりします。
昔、贋作作ってお金にならないかと売れない画家を雇って挑戦してみた事があるのですが上手くいかず、失敗した事があります。苦い経験です。
しかし、その時の経験で美術に関する知識と作品を見る目を養えたので全くの無駄では無かったはずです。
なので美術館は結構楽しかったりします。
そんな訳で、お2人に簡単な作品解説をしたりしながら美術館を見て回ります。そうして、この美術館の中心、メインとなる作品の部屋に来ます。
「おお〜、何回見ても凄いっすね。大迫力っす」
そこには『グランドールの戦』と銘打たれた絵画が飾ってあります。幅7.8m、高さ3.5mにもなる巨大な絵画です。
攻め入る大軍と、城塞都市でこれを迎え打つ軍勢との戦いを描いた超大作です。荒々しくも繊細なタッチで描かれた人々の鬼気迫る表情は見る者に戦争の緊迫感を伝えてきます。
「この美術館の目玉で、何でも昔の実際の戦争の様子を……、アンリさん、どうしたっすか?」
「?……どう、とは?」
「いや、見た事も無い表情をしていると言いますか、苦虫を噛んだ様と言うか、台所のゴキブリを見る様な、と言いますか、何とも言えない表情をしているっす」
思わず自分の頬を触ってしまいます。うーんいけませんねこれは。シン君も私の表情を怪訝に思っています。
「いや、この絵を見ると自分の未熟を思い出すと言いますか、羞恥心がわくと言いますか、まあ、そんなところです」
「「?」」
シン君もマリーさんもよく分からず首を傾げています。まぁ、そうでしょうね。
この絵は50年前の戦争を題材とした絵画です。そう、クロム君達と参加したあの戦争です。
そしてこの絵画に描かれている戦いは私が完了術式『サラ アップル』を発動したあの戦いです。
「実はこの絵画に描かれている戦いって実際には起こらなかった戦いなんですよ」
そう、私がキレて両方の軍隊を滅ぼしたアレです。
「この戦い、余りにも両陣営の被害が大きく、短期間で戦いが終わった事も含めて戦後壊滅した理由を調べる事になりました。結果、両方の軍隊に激しい内乱が起こった可能性が高いとなり、調査隊の結論としては戦闘中に両陣営で内ゲバの内乱が発生、互いに自滅したと結論付けられた訳です」
当たらずとも遠からずと言ったところでしょう。
「調査隊も報告を聞いた人も耳を疑ったそうです。それはそうでしょう。敵を目の前にして内部で殺し合い。しかも、それが片方だけでは無く両方で同時に起こり、両陣営壊滅です。訳がわかりません。しかし、そうとしか思えない状況だったわけです」
さぞ頭を抱えた事でしょう。
「結果、こんな情報世間に流す訳にはいかないとなりました。赤っ恥ですし、国民からの批難も凄い事になりそうですしね。それは、ボーア公国側も同じで、対外的には戦いが起こった事にしようとなった訳です」
戦時中に内ゲバで軍隊壊滅!こんなの中にも外にも言えませんよね。しかも仲良く共倒れ。
「そして、この絵画についてですが、その嘘を塗り固める為に当時の人気画家に頼んで想像で描いてもらった出まかせの超大作です」
これも一種の情報戦でしょうかね?なんでもこの絵を完成させるのに3年もかかったとか。画家の方には尊敬の念をきんじえません。
私がそこら辺の事を説明すると、シン君とマリーさんは先程までとは打って変わって微妙な表情でその絵を見ています。
しかし、私がこの絵に微妙な思いを持っているのはそこではありません。
正直私はあの戦争を後悔しているのです。
余りに効率が悪かったと。本来ならかけた時間と労力に見合っていないのです。
クロム君とヴァネッサさん、あとオマケでアーサーさんがいたから何とか黒字になっただけで、本来なら赤字も良い所です。
自分の未熟が恥ずかしい。もっと他の道があったのではないかと、今はそう思っているのです。
前世の話ですが、私が観たとある戦争映画の中で敵対する2人の兵士が何故戦争が起きたのかを言い合うシーンがありました。
それを聞いた私の感想は『え、こいつらそんなくだらない理由で戦争しているの?』です。ほとんど小学生の口喧嘩でした。稚拙で幼稚な口喧嘩で銃を撃ち合っているのです。
何が言いたいかと言いますと、戦争何てどれだけ本人達は真剣で真面目でも、関係ない第三者からしたらくだらない物だと言う事です。
時が経ち、当事者意識が薄れ、離れたところからかつての自分を見られる様になり、私自身当時の自分を恥じる様になったと言う事です。
そんな訳でこの絵画を観るとかつての未熟を思い起こされる訳です。
反省はしましたが直すつもりはありませんが。
それにしても可哀想な絵画です。描かれた理由も、描かれた題材もアレなのに、クオリティだけは高いのだから涙が出ます。
見るたびに微妙な気持ちにさせてくれる事もあって、いつか火を放ち燃やしてしまいたいところです。
いや、でも絵自体はとても良い物なので勿体ないのですよね。非常に悩ましい問題です。