……ネカフェに行こう。
「良くない者がついていますよ。今すぐにお祓いをしましょう」
はい、今日も元気にお仕事お仕事。
「此方の壺を買っていただいて玄関に飾っていただければ悪い物は去っていきますよ」
最近の私のお仕事は、平日の昼間、時間とお金を持て余したご婦人を相手に壺を販売する商売です。昔、美術商で失敗した時に量産した高級品っぽい雰囲気の壺です。倉庫の肥やしになっていた物がはけて非常に助かります。
霊感商法ではありません。今生の私は魂の専門家です。実際に悪い物が付いているのです。ただ付けたのも私だというだけで。
事前に裕福なご家庭のマダムにこっそりと魂にデバフをかけておきました。疲労感や倦怠感を感じるだけで、それ以上の実害はありません。
しかし、魂の領域は普通の魔術師では関与出来ません。解呪は難しいでしょう。
そうして困った人々は教会に助けを求めてやって来ます。この国は一応アーリア聖教が主流の宗教なので首都には当然教会があります。
そこに私が登場します。現在私が働いているのはギリギリ教会の敷地の外。教会には属していない、それっぽい雰囲気の民家です。
教会に入る前にインターセプトして壺を売っています。
ホットリーディングとコールドリーディングのキャリアは50年以上あります。弱った心に入り込むのは難しくありません。
服装も修道服っぽい物を着ています。便利なのはこの世界の修道服にはベールがある物も存在していて、私が顔を隠していても不自然ではない事です。
勿論、教会には話を通してあります。収益の一部を横流しする事で見て見ぬふりをしてもらっています。教会の敷地内で行われているわけではありませんからね。教会に関係ない人物が外で何をするにもしても、個人の自由があります。
この商売には金銭以外にも教会にとっての利益があります。
それは購入者はそれ以降実際に体調が回復するのです。私が解呪しただけとも言いますが、兎も角、それにより購入者は勘違いにより教会に対する信心が強くなるのです。
しかも富裕層です。教会も笑顔で有耶無耶にしています。
信仰を広める為と言う大義名分を与えてあげれば後は軽く背中を金銭でポンッと押してあげれば熱心な下っ端神官は兎も角、実際に運営を行っている人達は黙ってくれます。
しかし、ここまで色々やっていますが、今のところ成功している一番の要因は他にあります。
成功の要因、それはこの教会には現在、聖女が在籍している事です。
「シン君、これから教会でミサをやるので一緒に行きましょう」
私がそう言ってシン君を誘えば
「教会?ミサ?」
と、胡乱な目で私を見てきます。イントネーションは『きょ→↑かい↓→、みさ→↑?』です。
「なんですか?私が礼拝に行く事がそんなにおかしいですか?」
まったく、失礼な。
「うん、おかしい。寧ろ神は死んだ‼︎とか言っている方がしっくりくる」
本当に失礼な。
「別に私は宗教に対して否定的ではありませんよ?人々の心のより所として、道徳規範を広める役割として一定の評価をしています」
と言うか、私自身が転生したと言う事実からもしかしたら神の様な上位者がいるかもしれないと思っています。
「しかし、確かに私は宗教に心は寄せていません。社会を維持する役割だと思っています。私が教会に関わるのも私の利益の為です」
そこら辺はしっかりと割り切っています。
前世日本より宗教の力が強い社会ですからね。付かず離れずほどほどに。それでも隙があれば毟ってやろう。そんな感じ。
「ですから、行きますよ。面倒ですがこれも人付き合いです」
そう言ってシン君を急がせます。
「そうだ、ついでに言っておきますが、私は貴方に沢山の人と知り合ってもらいたいと思っています」
その為に色々と仕込みもしてあります。
「良いですか、シン君。自分を成長させる為には自分を知る必要があると思うのですよ。そして、自分を知るには他人を見る事が大切だと思うのです。どれだけ坐禅を組んで考えようが、自分を論理的に分析しようが、自分自身は見えてこないのです」
あくまでも自論ですし、反論はあるでしょうが、私の考えは私の考えです。知った事ではありません。
「他人の目は鏡です。私を写す姿見です。他人の中にしか自分を見る事は出来ません。そして、多くの人の中の自分を見るのです。特定の人との交流だけだと偏った姿しか見れません。割れた鏡に写る自分、歪んだ鏡、綺麗な鏡、豪華な鏡に、様々な鏡に写る自分を上から下から正面から、色々な角度から見るのです」
私が関わってきた鏡は9割くらいは商品にならない歪な物でしたが
「そうすれば、自分の姿が良く見えてきます。そうすると、不思議と自分の事が好きになってきますよ」
そして、行き過ぎると自己中心的になってしまいます。
「物語の主人公は冒険をして多くの人と出会い成長していきます。これは人との関わりで自分が見えてきたからだと私は思っています。成長には人との出会いが必要なのですよ」
シン君はよくわからない様で首をひねっています。
「さて、無駄話がすぎました。さっさと教会に行きましょう。これも出会いです。多分良い出会いにはならないでしょうが無駄ではありませんよ。……多分‼︎」
先ずは、聖女様とでも会わせてみますか。絶対に良い影響は与えてくれないでしょうが、これも又経験です。