アーリア正教はとある乾燥地帯から始まりました。
その地域は年間の降雨量が少なく気温も高い。植物が育ちにくい謂わゆる砂漠地帯です。当然人が暮らすのも大変な厳しい環境でした。
前世の宗教でもそうでしたが、こう言った環境下で生まれてくる宗教には厳しい戒律がある事が多いです。生き残る為には環境に合わせて合理的に生きていかなければいけませんからね。戒律もそれにあった厳しいモノができます。
アーリア正教も当然そういった戒律ができました。
しかし、この世界には前世とは大きく違う要素がありました。それは魔物の存在、更に言えばダンジョンが存在した事です。
理屈は分かりませんがダンジョンが生まれ、そこから魔物が湧き出てくる。ダンジョンの種類次第では内部に大量の植物が自生しています。
それは資源の乏しい砂漠地帯において貴重な収入源で命綱でした。まさにオアシスや油田の如く。
生きていく為には魔物と戦い、その肉や毛皮を得る事。ダンジョンを探索し植物を採取する事。コレらを強く推し進める必要が出てきました。
結果、宗教には珍しく殺生に対して大らかと言いますか、簡潔に言えば魔物殺すべし、慈悲は無い。と言う宗教観が出来上がりました。
アーリア正教は、当時は違う名前で呼ばれていましたが、兎も角、彼等信徒は魔物は人に仇なす存在として、積極的に戦い、また、多く殺せば殺しただけ天国に行けるとして、徳の高い行いだとしてきました。
こうして多くの資源を手に入れると同時に、当然多くの死者を出してきました。しかし、それは同時に少ない食料で生き残る為の口減しの役割を果たしていきました。
弱き戦士は死に、生き残った強い戦士が多くの妻を娶り、多くの子を残し、強い遺伝子だけを継承していく。
そんな文化が生まれてきました。
因みに、現在もその名残でアーリア正教の勢力圏ではハーレムは一般的です。寧ろ、余裕がある裕福な層は積極的に娶るべし‼︎ってな具合です。
男性の勇者が自身のパーティーメンバーを女性で固めてハーレムパーティーを作る事があるのもこれが原因です。
まあ、死傷率の高い世の中で形成された文化的側面として見れば許されるような気も、……いや、やっぱり前世の倫理観が邪魔をしますね。無いなぁ〜。
兎も角、そんな感じで生まれた宗教圏の中にある日1人の少女が登場します。彼女の名前はアーリア。後の初代聖女にして最初の勇者です。
しかし、その肩書きは彼女の死後に与えられたもので、彼女が生きている間は決してその様な大層な身分ではありませんでした。
そもそも彼女は歴史に残る何かしらの偉業を成し遂げた訳ではありません。彼女が生涯に渡りなした事は唯の復讐でした。
両親、兄弟が魔物によって殺された。こう言っては何ですが当時ではありふれた理由で彼女は魔物と戦う道を選びました。
そうした人は当時は他にもたくさんいました。ただ彼女は他の人とは違う特別な力を持っていました。
その力の内容は割愛しますが、彼女はその力でもって、その生涯に渡って戦い続けました。倒した敵の数は他者とは比べ物にならないくらい多かった事でしょう。
その過程で沢山の人を救いもしましたが、結局のところそれはついでであり、彼女にとっての本来の目的はやはり復讐だった事でしょう。
彼女の死後、その存在は徐々に忘れ去られて行きました。
しかし、大分時が経った時代に彼女の存在が再び世に出て来ました。それは、その当時に彼女の出身地域一帯を治めていた国王が彼女の事をプロパガンダに使用したのです。
当時他国から攻められていた国王は国民の意思を一つにする為、彼女を生涯に渡り戦い抜き、人々を護った英雄として、救国の象徴として祭り上げたのです。
彼女の生涯は美化され人々の間に流布していきました。
教会も当時は一地方の宗教にすぎず、自身の信仰が広がるならばと大目に見ていましたし、自身も、やれ勇者だ、やれ聖女だと噂を煽って行きました。
しかし、彼等の予想を大きく超えてコレらの話は広がっています。それこそ数百年後の現在では世界宗教と呼ばれる宗教になったほどです。
最早彼等の制御が効かなくなり、ドンドンと話は大きくなりました。
それはまるで死したアーリアの意思が働いているかの様でした。
今やかつての宗教の名前は失われ、彼女をプロパガンダに使った国はアーリア聖光国に飲み込まれています。
現在この宗教は大きく広まり、様々な地域に進出して行きました。それに合わせ一部の戒律や価値観に変化が見られました。
しかし、その根底。魔物を倒す。その価値観だけは現在も変わらずに多くの地域に広まっています。
環境から生まれ、個人の憎しみで燃え上がり、権力者の都合で歪み、濁流となり世界を飲み込んでいる。それがアーリア正教です。
「と、コレがアーリア正教です。分かりましたか?」
そこら辺の事をかいつまんでシン君に説明します。
「な、生々しい。宗教なのに神聖さの欠片も無い」
「そこら辺は教会の方々の並々ならぬ努力によって保たれていますから大丈夫です。今日、これから見に行く聖女なんて、その際たる者です」
ここら辺の事情は一般的には知られていませんからね。何も知らずに教会の教えだけ聞いていると、とても神聖な物に感じられます。
凄いですよねー。