今回若干グロ注意です。
「なあ、教会の上層部って言っているけど、聖女様はどうなんだ?彼女も上層部と同じ考えなのか?」
シン君が気になったのでしょう、聞いてきます。
「シン君、あれはもう善とか悪とかそう言うのがどうでもいい所にいます。あれはもう唯の厄介な存在だと思ってください。イナゴの大群みたいな物だと思ってください」
それもすり寄って来るイナゴの大群です。
シン君は今一つ理解出来ていない様子です。
「そうですね、それでは少し話を戻しますが、シン君。エミリーさんの術式は一見便利に見えますが、実はいくつかの制約があります」
全く制約無しであの能力をあの出力でやられたらそれこそ奇跡です。いや、有りでも十分に反則なのですが。
「一つ目は同種の物質どうしでしか使用出来ません」
焼き物の皿が欠けたから木の皿と『交換』で修理したりは出来ません。なので金銀財宝を『交換』で増やしたりは出来ません。
怪我の治療でも、人は人とでしか交換出来ません。たとえ相手がゴブリンやオークといった人型の存在でも魔物は別物として扱われるようです。
「二つ目に生きている相手に使用する場合、交換する両者がエミリーさんに許可をださなければ使用出来ません」
他人の身体を勝手にいじり倒したりは出来ません。
まあ、本人の意識がハッキリしていなくても許可さえ出せば良いので、酒を飲ませて酩酊状態にして無理矢理許可をとったりは出来ますが。
「シン君、これ、なーんかおかしくないですか?」
「???」
シン君はピンッ‼︎とはきていないようですね。
「良く思い出してください。先程の儀式を」
「う〜ん?」
どうやら気づいていないようですね。まぁ、こう言ったものは慣れです。その内、感も良くなりますよ。ならなければ死にます。
「良いですか?冒険者の男性を思い出してください。彼、エミリーさんに許可を出しましたか?」
「えっ?」
シン君は思わず此方を見てきます。
「彼はこう言いました。『神よ、全てを委ねます』と。コレのどこにエミリーさんへの許可がありますか?神にしか許可を出していないじゃないですか」
「……確かに、それじゃあ何で?」
不思議ですよね、うん。
「答えは簡単です。エミリーさん、彼女は本気で自分の事を神だと思っているのです」
能力の判定の成否は彼女の認識によります。彼女は潜在意識のレベルで自分を神だと認識しています。
「はぁっ⁈本当なのか、そんな事‼︎」
まぁ、信じられないですよね、こんな事。
「マジもマジです。自分をこの世界の新しい神だと本気で思っています」
シン君も本気で理解に苦しんでいます。
「神だから人間を救うのも弄ぶのも自身の持つ当然の権利だと信じて疑っていません。こんなの善悪問うのも馬鹿らしいです。ヤバい人、それだけですよ」
力も権力もある狂人は本当に取り扱い注意です。
シン君も頭を痛めています。真面目に考えると沼にはまりますよ?
さて、ゆっくり歩いて来ましたが一番下、ダストシュートの先まで来ました。
そこには先程と同じ牢屋が並んでいます。しかし、先程とは中に入っている者達が違います。
「な、何だよ、コレ⁈」
ああ、そう言えばシン君は彼等を見るのは初めてでしたね。
牢屋の中には異形の人間が多数存在しています。複数の手足がある者、口や耳が複数有り、逆に目が無い者など、およそ自然界には存在し得ないであろう異形種が入っています。
そう、彼等は以前シン君の村を襲った怪物達です。
「彼等は余ったパーツを付けられて作られた実験個体らしいですよ」
先程の男性も残った手足や内臓を切り取られ別の人間と合成されるでしょう。
「酷すぎる、こんな事して何になるんだよ。こんなの誰も救わないじゃないか‼︎何の目的があってこんな酷い事を⁈」
おや?
「それはですね」
どうやら話している内に追いつかれたようですね。
「私の妹を救う為です」
そう言ってエミリーさんが現れます。
「お疲れ様です。お仕事は終わりましたか?」
「ええ、次の方はとても素直で協力的でしたので」
いや、多分びびっていただけだと思いますけどね。
「妹ってどう言う事だよ?」
エミリーさんはシン君の質問に少し考えて
「そうですね、シンさん少しついてきてください」
そう言ってエミリーさんは廊下の一番奥、この地下の終わりに有る扉に向かって行きます。
「どうぞお入りください」
エミリーさんが扉を開けると其処にはこれまでとは違う、綺麗な部屋がありました。
豪華なベッドにフカフカな絨毯、調度品も一通り揃っています。
そして、ベッドの回りには様々な医療機器が置いてあります。ベッドが膨らんでいる事から誰かが寝ている事が分かります。
「ナナリー、今日はね、貴女に会いたいって人が2人も来てくれましたよ〜」
エミリーさんはそう言ってベッドで寝ている相手に話しかけます。
「ヒィッ‼︎」
ベッドの相手を覗き込もうとしたシン君が思わず悲鳴を漏らして尻もちを着きます。まあ、それも仕方ないでしょう。ベッドの中の彼女は両目が無く、鼻は削ぎ落とされ耳も無い状態で寝ているのですから。掛け布団で見えないですが両手両足も無く、喉も潰れて声が出せない状態です。
「ね、可哀想でしょう?」
エミリーさんが聞いてきます。
「あ、ああ、こんな……」
あー、駄目ですね。シン君、何にも理解していない。あんなに分かりやすく説明してあげたのに。エミリーさんを未だに分かっていない。妹のナナリーさんがこんな状態にである事に同情しています。エミリーさんの言う可哀想はそこではありません。
「こんな…「こんなに脆い生き物だなんて」…は?」
おーう、思わず額に手を当てます。全く噛み合っていません。未知との遭遇ですね。
「私の妹であるにも関わらずこんなに普通の人間だなんて、こんなにも姉妹で差が出るなんて。でも大丈夫です、お姉ちゃんは決して貴女を見捨てません。必ず貴女を天使にして上げますからね」
シン君は訳がわからず固まっています。
あまりにも理解が出来なくて思考を放棄していますね。
エミリーさんの妹、ナナリーさんをこんな状態にしているのは他でもないエミリーさん本人です。エミリーさんがナナリーさんの手足を切り落としたのです。
自身を本気で神だと思っているエミリーさんは、唯の人間であるナナリーさんの事を本気で心配しているのです。
そこでエミリーさんはこう考えました。私が何とかしなければ、と。
そして脆弱な人間の肉体を新しい完全なものにしようと考えました。
その為に数多くの人間を使って実験を繰り返しナナリーさんを人間以上の存在にしようと考えました。
人を超えた存在、すなわち天使に。
手足を切り落とし、目をくり抜いたのは質の悪い粗悪品ではなく、もっと良い物と取り替える為です。
コレの何がタチが悪いかと言えば、この行動原理が愛である事なんですよね。
彼女に悪意はありません。
父が娘の頬にキスをする様に、母が息子を抱きしめる様に、彼女は妹の目をくり抜き、耳と鼻を削ぎ落とし、手足を切り取ったのです。
私は他者の魂を観測する術を持っていますが、私が知る限り、エミリーさん以上に透き通った魂の持ち主は見たことがありません。普通これだけ暴力を振るっていれば、もっと濁るものなのですが。
多分彼女の中では、殺しとは私達で言うところの抱きしめるに近いのではないでしょうか?
シン君も余りにも自分と価値観が違いすぎる彼女を見て恐怖しています。そうですよね、分からない物は怖いですよね。
いや、本当に何でこんな面倒くさい存在に育ったのか?始めて会った時は死にかけの奴隷でしかなかったのに。見た事ない変わった術式を持っているっぽいから助けて、軽く発破をかけただけなのに?
しかも、どうやら私に好意を向けているご様子。本当に面倒くさい。
まぁ、シン君には良い勉強になったのではないでしょうか?世の中には自分には分からない価値観や感情で生きている人間がいると知れたでしょう。
最初の相手にしてはフルスロットル過ぎましたかね?