ここに来てから半年が経った。
その間に新しく2人の協力者を得ることができた。今後は同室のアルファさんを含めて4人で協力して脱出を目指していくことになるでしょう。
そして先日、約束通りお兄ちゃんが来てくれた。何やら雰囲気とでも言えばいいのだろうか?纏う空気が洗練されたものになっていた。ただ少し疲れた様子でもあった。
そして
「コレが事前に頼んでおいたこの刑務所の図面です」
そう言って私は他の3人の前に、ドンッとブーツを置きます。
現在私は仲間達3人とお昼の自由時間に刑務所の運動場の隅で作戦会議中です。
この位置の良いところは身体で隠せば何をしているか周りからは見えないところです。
「コレが?」
アルファさんが尋ねてくる。
アルファさんは元レジスタンスらしい。何でも作戦行動中に見つかり仲間を逃がすために捕まったそうだ。
「はい、このブーツの底を……」
このブーツはお兄ちゃんが持ってきてくれた物で、王都に有る人気革靴専門店の『ドクトルマーティー』と言うブランドの製品だとか。黄緑色の糸と分厚い靴底が特徴の老舗ブランドだとか。
……パチモン臭が凄い。
お兄ちゃんからの差し入れはこの靴と、ビンに入った飴玉だった。刑務所では甘いものを手に入れるのは非常に難しく、恋しく思っていたのでこれは素直に嬉しかった。
兎も角、建前は妹に頑丈な靴をと差し入れてくれたけど本命は別で、分厚い靴底を捻って外せば中にはトランプサイズの空洞があり、その中にコレまたトランプの様に何十枚もの紙が束になって入っている。それが両方の靴底に入っている。
この紙のすみには番号がふられており、コレを順番に並べることによって刑務所の見取り図になるのだ。
更に裏面には上下水道等の生活インフラの配管の見取り図が描かれている。
「ほう、少しサイズは小さいが十分じゃな」
向かいに座る初老に入りかけた位の年齢の男性が言います。彼の名前はガルバスさん、元鍛治氏だそうだ。
何か犯罪を犯した訳ではなく、お偉いさんからの依頼を納得いかないとして断った結果、無理矢理難癖つけられてここに入れられたのだとか。つまり無実の人間だ。
「まあ、そうだな。先ずはコレを元に色々調べるか」
最後に大柄で30代後半位の筋骨隆々の茶髪の男性。彼はピストさん。元海賊だそうで、その凶悪な人相通りの堂々たる悪党だ。本当は仲間にしたくはないが贅沢は言えない。やる気があって能力もある人間は貴重なのだ。
私を含めてこの4人で脱獄を目指す事になる。
「うん?ねぇ、リリちゃん、コレは何?」
そう言ってアルファさんが図面を指さします。
そこにはとある建物を丸で囲み『上を見ろ』とだけ書かれている。
???何だこれ?この字はお兄ちゃんの字ではないから多分アンリだと思うが、何だろう?
「うーん、分からない?とりあえずこの後行って確かめてみるわ」
さて、そんな所で本日は解散。私は丸印の場所に確認をしに行くことにした。アルファさんも私も気になるからとついてきてくれます。他の2人は流石に目立つからと別行動だ。
印の場所は刑務所のほぼほぼど真ん中でこの刑務所で1番高い建物だ。
5階建のコンクリート製の建築物で村では勿論、王都行った時も王城以外ではこれ程高い建物は見なかった。前世では見慣れた物だったが。
何でもほんの数年前に以前の建物が老朽化で取り壊され新しく造られたそうだ。聞く所によると当時の最新技術を取り入れられて建てられたとか。
1階は倉庫に、2階は図書室、3、4、5階は職員用の階層で5階は所長室にもなっている。1、2階は誰でも入れるが3、4、5階は立ち入り禁止だ。それと5階に直通のエレベーター(囚人力)がある。5階と屋上は見晴らしがいいので監視塔の役目も兼ねている。
普通刑務所の図書室って模範囚とかしか入れないのでは?いや、刑務所についてそこまで知らないけど、こんなところからも囚人に対する無関心が感じられる。
「リリちゃん?」
とりあえず、書かれている通りに下から1番上を見上げて見たが、何か、妙な、違和感を感じる?何だろう?アルファさんは特に感じていない様だが。
建物の5階はカンチレバーでつくられている。カンチレバーとはあれだ、海賊の板歩き刑や水泳の高飛び込みの台みたいな造りの建物だ。
珍しいけど前世ではよく見たし、うーん分からない?
「いえ、何でもないです。気にしないで下さい。とりあえず中に入りましょう」
とりあえず中の天井でも見てから考えよう。
3階以上は入れないので1階と2階を見ているのだけれど特にコレと言った物は無い。と言うか身長が低いので天井が遠くて細かい物だったら分からないぞ。
1階は精錬前の鉱石等が保管されている。特に不審な物は無い。
2階も小さいながらも図書室があり、空いたスペースには色々な物が雑多に置かれた物置きになっている。ここにも、コレ!と言った物は見当たらない。
看守に不審に思われない様に注意しながら探すが何も見つからない。
「うーん?」
頭を使ったら糖分が欲しくなったので、懐から飴のビンを取り出す。飴は貴重だからね、盗まれないように常に持ち歩いている。
「リリちゃん、どお?何か見つかった?」
そう言って、いつのまにか後ろにいたアルファさんに肩を叩かれた。
「アッ‼︎」
咄嗟の事で手から飴のビンを落としてしまう。中から飴が出て地面に転がる。
「あ、ごめんごめん」
そう言ってアルファさんは転がる飴を拾い出す。
……転がる?
……転がる‼︎
「まさか⁈」
私は地面にうつ伏せになり地面を見る。次に体を反転させて天井を見上げる。
「リリちゃん⁈」
私は咄嗟に外に飛び出す。
そうしてもう一度上を見上げる。
間違いない。違和感の正体はコレだ、長い!
「リリちゃん、どうしたの。何か分かったの?」
後ろから追いかけて来たアルファさんが聞いてくる。
「はい、分かりました」
冗談でしょう⁈ここまでする⁈どうやって仕込んだのよ‼︎
「この建物、いつ壊れてもおかしくない欠陥住宅です‼︎」