「いたい……」
4日も経つのにまだ痛い。
今は学校で、授業も終わり放課後だが教室の机に突っ伏している。
「よう、シン。まだ辛そうだな」
そう言って声をかけられる。こいつの名前は『ナイト マック デリバー』無駄に仰々しいが純粋な貴族ではなく貴族の従者として、準貴族的な立場でこの学校に通っている。
この学校、王立アーベスト学院は基本、平民お断りだが例外がある。それが貴族の従者として入ってくる場合だ。貴族の中には従者を連れている者が多くいる。中には平民出身の者もいる。彼等は従者コースとして主人とは別々の授業を受けるが休み時間等は主人の側で仕事をしている。
ナイトもそんな中の1人だ。
因みに僕は貴族コースに通っている。自分の場違い感が凄い。
「ああ、まだ全身が痛い。あの女、ギリギリ歩けるラインを狙ってボコボコにしやがって」
4日前にアンリに全身ボコボコに殴られたのだ。
「わ、わたくしは悪くありませんわ。わたくしの責任ではありませんゎ」
真っ白な髪を縦にロールさせた女性が必死に弁明している。自分のせいではないと言っているが罪悪感を感じているのか目線を逸らしている。
彼女の名前はジェリー・コーラ。
コーラ伯爵家のご令嬢で、何とあのアンリと血がつながっているらしい。何でもアンリの甥の孫にあたるとか。
アンリの甥のクロム男爵は人望があり、その繋がりで娘がコーラ伯爵家に嫁いだとか。
ナイトの家のデリバー家の人もこの時一緒について行ったらしく、ずっと仕えているとか。
学校ではこの2人と一番仲が良くて一緒にいる事が多い。
因みに現在のジャオ家の世間の評価は人望もあり経済的にも豊かな男爵家と、人望も経済的にも上手くいっていないが何故か金回りが良い黒い噂がたえない子爵家、そして訳がわからない伯爵家の3つだ。
……うん、アンリが異質すぎる。
「ジェリーさんのせいだなんて思ってないよ。僕自身の責任だ」
「えっと、あの、その……」
そう言ってもジェリーさんはもじもじして、ナイトは肩をすくめている。
そう、そもそもの原因は不用意な事を言った僕にある。日々が順調で油断した。気が緩んでいた。アンリ相手に不用意な事を言ってしまった。
あれは4日前、家のリビングで休んでいた時だ。
『おや、珍しいですね。この時間に家にいるなんて』
普段は学校で自習しているか、モラモラ先生の所に手伝いに行っている僕がリビングで休んでいるのを見てアンリが声をかけて来た。
『ああ、先日、毎日勉強ばかりしている僕を見て友人が遊びに連れて行ってくれてね、『今しか遊べる時期はないのですからもっと一緒に遊びましょう』って誘ってくれたんだ。僕自身最近忙しかったから少しくらい休んでもいいかと思って。今日もゆっくりしているんだ。心配しなくても成績は落としていないし、しっかり現状は維持しているよ』
そう言って、最近は外で良く遊んでいると言うと
『あー、なるほど、はいはい。そうですか』
そう言って近づいて来ると座っていた僕の顔を思いっきり殴りつけてきた。
『がっ‼︎くぅ、何をするんだよ!』
椅子から落ちて非難する僕にアンリは容赦無く蹴りを入れてくる。
『いや、少し勘違いをしているようなので正しておこうかと。ご友人の意見は間違っていません。休息は必要です。遊びも必要です。何も間違っていません』
『なら、何でこんな事』
必死にガードしながら言い返す。
『間違っているのはシン君、貴方です。良いですか、シン君。この世には現状維持などと言うものは存在しません。何故なら貴方はただ立ち止まっているだけでも世界は変わらず進んでいるからです。時間は流れ、星は回り、人々は前に歩いて行くのです。立ち止まるとは即ち、後ろに下がっているのです。現状維持など存在しません。それでもあえて近い物をあげるなら、それは進歩なのです。
貴方は今、退化している』
これでも学校での武術の成績はトップクラスだ。この半年で多少、自信も出来た。それなのに必死に抵抗しても何も出来ずにただ一方的に殴られている。
『それでも、自身を省みて必要だと感じたのなら大いに結構、好きなだけ休めば良い。しかし、貴方はただそのご友人とやらに言われて楽な方に流されただけに見えます。貴方はただ逃げている。
若いうちはそんなもんと言われてしまえばそうなのでしょう。しかし、ここでもう一つ、私が気に食わないのは貴方が私の前でそんな舐めた態度をとっている事です。何度か言っていますが私は人に馬鹿にされるのが大嫌いでして、今の貴方は非常に癪に障る』
必死になって殴り返すがアッサリ避けられ再び殴られる。
『どうやら少し甘やかし過ぎた様です。予定より少し早いですが、もう少し厳しくいきましょうか』
そうして気を失うまで殴られ続けた。
「くそ〜、加減ってものを知らないのか」
翌日ぼろぼろになって学校に来た僕を見て2人が何があったのか聞いてきて事情を説明した。そしたらジェリーさんが口では自分のせいではないと言っているが責任を感じているらしく、何処かよそよそしい。
ナイトは普通にドン引きした。
「ただいま」
「お帰りなさい。シン君、少しよいですか?」
学校から家に帰る。普段は返事など無いのに今日は珍しく返事が返ってきた。
「何だよ」
ムスッとして返事を返すがアンリの表情を見て態度を改める。
笑顔なのだ。アンリが笑顔で何か言ってくるという事はきっと楽でもない事だ。
「はい、もう少し後で言おうと思っていたのですが少し弛んでいる様なので予定を早めましょう。貴方に頼みたい仕事があります」
そう言ってアンリは一枚の紙を差し出してくる。
「仕事内容は簡単です。そちらの方を捕まえてください。生死は問いません」
紙は懸賞金付きの犯罪者の手配書だった。