「ねえ、今日、ちょっとお店に行ってみてもいいかな?」
アンリに手配書を見せられた翌日、家に来たマリーさんにお店に行ってみても良いか聞いてみる。
「おや?良いっすけど、どうしたんすか、急に?」
「ん、特に深い理由は無いよ。ただ、知り合ってから結構経ったけど、そう言えば一度もマリーさんのお店に行ったことが無いなと思っただけだよ」
兎にも角にも、先ずは本当に昨日の指名手配書の犯人がマリーさんのお父さんかどうか確認する必要が有る。アンリはそうだと言っていたが、実際に自分の目で確認しておきたい。
昨日見た手配書には似顔絵と身体的特徴が記載されていた。今日はただ確認だけ、それだけをしておきたい。別に何かをするつまりは無い。よく利用するお店に行く、ただそれだけだ。
「あー、そう言えばそうっすね。言っても普通のお店っすから特に面白い物は何も無いっすけどね。それでもよければ一緒に行きましょうか」
家を出てマリーさんの家まで2人で話しながら歩いて行く。最近どんな事があったとか、ご近所でこんな事があったとか、他愛もない話をしながら歩いて行く。
住宅街を出て、商店が並ぶ大通りまで出る。そこから一本奥の道に出ればマリーさんの家、ゴールド商店があった。見た目は他のお店と大差無い普通のお店だ。
「ようこそいらっしゃいませ。此処が我が城、まりっぺ商店っす」
そう言ってマリーさんがお店のドアを開けて案内してくれる。
中も普通の雑貨屋さんで、店番の人が1人いる、普通のお店だ。
「どうっす?普通でしょ。面白い物なんて何一つ無いっすけど」
そう言うマリーさんは言葉とは裏腹にどこか嬉しそうに話している。面白い物なんて無いなんて言っているけど、マリーさんのこのお店が好きなんだという気持ちが伝わってくる。きっとマリーさんにとってこの普通が大切なんだろう。
「おや、マリーお帰り。っと失礼。其方の方はお客様かな」
マリーさんと話していると店の奥から1人の男性が姿を見せた。歳の頃は40位だろうか?髪の色はマリーさんと同じオレンジがかった黄色だけど少し色が薄く白っぽい。身長は高く、面長でシュッと線の通った顔立ちだ。若い頃はきっとモテたに違いない。柔和な笑顔で優しそうなおじさんだ。
「ただいまっす。お父さん、此方アンリさんのところの息子さんのシン君っす。シン君、この人は私のお父さんっす」
マリーさんの紹介を受けて改めて彼を見る。確かに似顔絵と似ている。
「はじめまして、シンさん。いつもご利用ありがとうございます。ゴールド商店の店主のシルバです。今後ともどうぞよろしくお願いしますね」
そう言ってシルバさんは握手をしてくる。
「あ、どうも。こちらこそよろしくお願いします」
握手を返してシルバさんと目を合わせます。確かに似顔絵の人と似ているが本当にこの人なのだろうか?こんなに穏やかな人が犯罪者なんて信じられない。いや、信じたく無い。だって、マリーさんのお父さんなのに。
「そうだ、シンさん。今日はお昼はもう食べましたか?まだでしたらどうでしょう、是非ご馳走させて下さい」
シルバさんはそう言って食事に誘ってくる。
「おお!シン君、是非食べていって欲しいっす。こう見えてお父さん料理は上手なんっすよ‼︎」
シルバさんはそう言うマリーさんの頭を撫でながら
「まったく、お前ももう少し家事を手伝いなさい。娘もこう言っているし、どうでしょう?」
そう言って笑いかけてくる。
マリーさんも気持ちよさそうに目を細めている。
「あ、はい。それではご馳走になります」
……本当にこの人なのだろうか?
そんな事を考えていると、シルバさんは店番の人に一言言って店の奥に入って行く。マリーさんと僕もそれに続いて奥に入って行く。
店の奥はマリーさん達の生活空間になっていて、僕はリビングに通された。
「直ぐに用意するからちょっと待っててね」
シルバさんはお茶を持ってきてくれると台所に入っていく。
僕がお茶を飲みながらキョロキョロと家の中を見ていると
「そんなに見ないで欲しいっす。なんだか恥ずかしいっす」
と向かいのマリーさんに言われてしまった。
「あ、ごめん」
少しバツが悪くなって謝れば
「まあ、良いっすけど、面白い物なんて何にも無いっすよ」
何とも言えない感じになって2人して苦笑いで見つめ合ってしまう。
それからしばらく2人でマリーさんの家の事について話していると
「マリー、いつものソースを切らしてるみたいで、ちょっと買ってきてくれないかい?」
シルバさんが台所から顔を出して言ってくる。
「えー、まあ、しょうがないっすね〜。シン君ごめんっす、5分位戻って来るからちょっと行ってくるっす」
マリーさんは財布を持って立ち上がると走って出て行ってしまった。
どうしよう、手持ち無沙汰だ。
「あ、そうだ。シン君、少し良いかな?」
台所からシルバさんの声が聞こえてくる。
「はい、何ですか?」
「君、アンリさんに言われて私を殺しに来た刺客かな?」
一瞬、驚いて声が出なかった。不味い、兎に角しらを切らなければ。
「あ、えーっと、何の話でしょうか?」
「いや、いい。今の反応で大体分かったから」
そう言ってシルバさんは手をフキンで拭きながら台所から出てきて僕の向かい側に座る。
「駄目だよシン君。私みたいな後ろ暗いところが有る人間に猜疑心のこもった目を向けては。そこら辺敏感だからね、簡単に分かってしまうよ」
これはもうしらを切るのは無理そうだ。
「……どうしてアンリが刺客をおくると思ったんですか?」
「?おや?聞いていないのかい?アンリさんに話を持ちかけられた時に『そうですね、1人だけ私から貴方に刺客を送り込みますので楽しみにしていて下さい』って言われたんだけど」
アンリー‼︎そう言った情報は事前に教えてくれ!知っていたらもう少し慎重に行動したのに‼︎
「ハハハ、どうやら知らなかったようだね。先ずは、安心してほしいのだけど私に君を害する気は一切無いよ。さて、マリーが帰ってくるまで時間もあまり無い。さっさと本題に入ろうか。私から君に言いたい事は1つだけだ。もうこの家に来ないでくれないかい?」
当然の要求だ。僕だってそうしたい。でも
「その前にどうしても確認しておきたい。本当に貴方が何人も人を殺したんですか?」
これだけはハッキリとさせておきたかった。
「うん?ああ、本当だよ。全部で12人殺したかな」
思わず拳を強く握ってしまう。
「マリーさんはその事を知っているんですか」
目を見て問いかける。
「うん?知る訳ないじゃないか。あの子は何の関係も無いよ。こんな事教えられる訳ないじゃないか」
思わず少し安心してしまう。
「じゃあ、何でそんな事したんですか?」
「うーん、私がどうしようもない人間だからとしか言えないかな?」
答えになっていない
「そん「安心してほしい。これから先、私はもう一回しか人を殺すつもりは無い」……えっ?」
僕の声に被せるようにして話しかけてくる。安心?一回しかって、それってもう一度は人を殺すって宣言だろ⁈安心なんか出来る訳がない。
「他所様に迷惑も決してかけないと約束するよ。実際私はこれまで不要な殺しはした事が無いし、この国に来てからは誰一人として危害を加えた事は無い。だから安心してほしい、君が何もしなくても誰にも迷惑はかけないと約束するよ」
何を言っているんだ?こいつは?
「迷惑はかけないって、もう一度殺しをするんだろう⁈それで、誰にも迷惑をかけないって何めちゃくちゃ言っているんた‼︎」
「言ったろう、他所様にはと」
?……!まさか‼︎
「私が最後に殺すのはマリーだ。その後は決して誰も殺さないよ」
何で?
「何で、マリーさんを殺すなんて、自分の娘でしょう⁈何で!」
あんなに仲が良さそうだったのに⁈
「確かにマリーは私の実の娘だし、私はマリーを愛している。「じゃあ‼︎」だけどね、それはそれ、これはこれ。どうしようもないんだ」
分からない、理解できない、何を言っているんだ?
「それにね、マリーは私の娘だ。きっと私の事を分かってくれるさ」