「マリーさん、下層区画にモラモラさんと言う、腕の良いお医者様がいるので連れてきてもらって良いですか?」
私は今シンくんに壁から下ろしてもらい、そのままソファーに寝かされています。
「分かりました、直ぐに呼んで来るっす‼︎」
マリーさんはそう言って出て行きました。
幸いにも手足は残っているので腕の良い回復魔法の使い手なら接合くらいなら出来るでしょう。
シンくんは部屋の片付けをしながらチラチラと剣を見ています。多分、私を仕留める千載一遇の好機だけどリリさんの事もあるので悩んでいるとかそんな所でしょう。
ここでノータイムで私の首を切り落とせたら合格点をあげるのですが。まぁ無理でしょう。
……さて、あのゴミが。
私は今、久しぶりにキレています。リリさんにお腹を刺された時以来です。……結構最近ですね。
平静を装っていますが血管が切れるほど怒っています。
つい数時間前、昨夜の事を思い出します。深夜に私の所に3人の刺客が送り込まれてきました。
来ることは予想出来ていたので事前に用意しておいた『ミュウさん』で迎撃、3人を罠に嵌めました。
『ミュウさん』は対象を強制的にダンスに参加させる術式です。一度術式にかかれば自分では決して止められずに、足の皮がめくれようと、骨が折れようと死ぬまで踊り続ける術式です。
一定以上の広さがある室内でしか使えず、踊れるスペースがなければ発動しないので、部屋のキャパシティをオーバーする人数が来ると発動しなかったりと扱いが難しい術式だったりします。
また、部屋の隅は観客のスペースなので、術式の対象外だったりします。なので私は部屋の隅で待機していた訳です。
3人組は罠にハマり踊り出しました。ここまでは良い。予定してた通りです。しかし
『……あれ?今笑いませんでしたか?』
社交ダンスはペアで踊ります。なので参加者が奇数の時、生前のミュウさんの幽霊の様な存在が現れて最後の1人の相手をします。この時も最後の1人とはこの霊体が踊っていたのですが、観ている私に向かって笑いかけた様に見えたのです。
こんな事は今まで一度ありませんでした。ですので私はきっと見間違いだろうと思いました。
しかし
『は?バカな?何で⁈』
私の手と足が独りでに動き出したのです。私は部屋の隅にいました。ミュウさんの術式範囲からは外れています。それなのに明らかに私に対して術が発動しています。
咄嗟にミュウさんの霊体を見ると、やはり、此方を見て笑っています。
『シャドーエッジ!』
シャドーエッジは闇属性の基本魔法の一つです。魔力の刃を飛ばして敵を斬るだけの魔法です。
猶予はありません。私は即座に自身の両手足を切断しました。このまま手足を操られる方が不味いと判断しました。
『なっ‼︎』
その瞬間操られていた内の一人が投擲した剣に私は胸を貫かれ壁に磔にされました。
(バカな⁈暴走?あり得ない!術は正常に発動している。いや、それよりも……)
私は即座に部屋の中のセキュリティーを起動します。この家は私の家です。当然防犯の為に各部屋に色々仕込んであります。
更に即席で可能な限り魔術による防御を自身の回りに展開します。
(まずい、意識が……)
そこで私の意識は一度途切れました。
そしてシン君に起こされ今に至る訳ですが、訳が分かりません。術が私の魔術耐性を突破してきた事は問題ありません。私の魔力で稼動していた魔術です。私の耐性を突破してもおかしくはありません。
問題は正常に稼動していた術式が何故私の意に反する挙動をしたかです。他者による外部からの干渉は感じられませんでした。
周囲を見れば死体が2人分転がっています。1人足りません。ミュウさんの靴も見当たりません。まさか最後の1人が何かした?いや、それは無いですね。彼?彼女?顔を隠していて体型も分かりづらい服装で見分けがしにくかったんですよね。兎も角あの人も明らかに操られていました。
となると後考えられるのは、ミュウさん自身の自我?彼女の霊体の笑顔が思い出されます。魂の消し残しがあったのか?いや、それは無い。完璧に術式部分以外の余計な物は消去してありました。私は何度も他者の肉体を奪っています。その際にその人の自我を感じた事はありません。消去は上手くいっているはずです。
後考えられる可能性は進化?まさか自身の術式を基に自身の魂を再構築した?これまでに私は幾度かミュウさんを使用してきました。その際に操った対象から命を奪い、自らの手で自我を形成したのか?ツギハギの自分自身を?
進化、進化ねぇ……。
はぁ⁈
冗談でしょう?アレ等は所詮死体から生えたカビみたいな存在ではないですか。その程度の存在が自我を持ち、あまつさえ私に反旗を翻してきたですって⁈地面に生えたキノコから手足が生えて殴り飛ばされた気分です。いりませんよ!そんなミラクル体験‼︎
グォォォー‼︎そんな理不尽許されるかー!
はぁ、はぁ。兎も角切り替えましょう。一個づつ考えていきましょう。先ずは彼女の目的です。おそらくこの場に死体が無い最後の1人はミュウさんに体を乗っ取られたと考えて良いでしょう。あの段階では私の魔力で稼動出来ていましたが、その魔力が尽きれば何も出来なくなります。そうならない為には新しい寄生先が欲しくなります。その為に1人だけ生かして後は殺害したのでしょう。
そしてもう一つ奇妙な事は、私が気を失った後に私に対して攻撃を行った形跡がない事です。私のはった防御魔術にも、部屋のセキュリティーにも発動した形跡がありません。つまり、邪魔な2人を殺害後、直ぐに逃げた事になります。私に対して危害を加える手段が無かった、突破は不可能と判断して即座に逃げを選択した?う〜ん、微妙なところですね。何か手がかりになる物は……
部屋の中をキョロキョロと探してみると
「おや?」
一つ不自然な物が
「シン君、すみませんが落ちている私の腕を持ってきてくれませんか?」
「え〜〜〜」
嫌そうな顔しないでください。気持ちは分かりますが。
嫌々ながらシン君は私の腕を拾って持ってきてくれました。
やはり間違いありません。指輪がありません。それもただの指輪ではありません。完了術式が刻まれたサラさんの指輪です。
「仲間集めがねらいか?」
ミュウさんだけではなく、他の魂が刻まれた呪具にも自我が芽生えた可能性が有るのでしょうか?
仲間集めが目的だと仮定して、であれば彼女の目指した行き先は
「ランセア連邦ですか」
あそこにはポンジ金貨があります。そこに向かった可能性が出てきました。
「あれ?と言うかもしかして……」
もし仮に、もし仮にですよ、ポンジさんも自我に芽生えたと仮定した場合、誰の体を乗っ取っているかと言う話になります。
私が最後に確認した限り、最も多くの金貨を保有していたのはランセア連邦の党首、事実上の国王だったはずです。これってもしかして……
「ランセア連邦乗っ取られた?」
最悪の場合、国王本人もしくはその周辺の人間が乗っ取られた可能性が出てきました。
まったく意図せずに国家転覆が行われた可能性が出てきました。
「ハイィ⁈」
め、面倒くさい!余計な面倒事が増えた予感ごしますよ!