TS外道転生者のガゴウ   作:般若バール

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犯罪者編6

 

「いや〜、ホント、何と言うか、凄いねぇ」

 

 私の状態を見てモラモラ医師は感嘆の声を出します。

 

「普通死んでますよ、これ。総血液量の三分の一以上は余裕で無くなっているでしょ。本当、医学の常識を無視しないでくださいよ。自分が学んできた事が正しいのか自信がなくなりますから」

 

 知りませんよ、そんな事。自分の浅学を恥じてください。

 

「とりあえず、しばらくは運動を控えて大人しくしていてくださいね。……いや、フリでは無く本当に」

 

 私は繋ぎ合わされた腕を動かしてみる。うん、相変わらず良い腕をしていますね。

 

 動けるようになったとは言え、今からミュウさんを追いかけても見つからないでしょう。時間が経ちすぎましたし、推測だけで探すのは無理があります。彼女に関しては彼方のリアクションを待つしかありませんか。

 

「私としては2人に面識があった事に驚きっすねー。お貴族様と下町の町医者がどうして?ってな感じっす」

 

 モラモラ医師を呼んで来てくれたマリーさんが不思議そうに聞いてきます。確かに普通に考えたらそう思うかもしれませんね。おっと、そうだ

 

「まぁ、ちょっとした仕事上のお付き合いです。それはそうと忘れていました。そう言えば預かり物があったのでした。これ、先日の件の分です」

 

 戸棚の奥にしまっておいた皮袋をモラモラ医師の前にドンッと置きます。モラモラ医師は中身を確認して

 

「確かに」

 

 と、懐にしまいました。

 それを見ていたシン君とマリーさんは気にはなるが、明らかに金銭のやり取りなので触れるのは失礼だろうと黙っています。うん、良識ある対応、実に結構。でも、面白くありませんね〜。

 

「別に怪しいお金ではありませんよ?ただちょっと世間の人には言えないお金だと言うだけです」

 

「いや、十分怪しいだろ、それ」

 

 シン君、ナイスツッコミです。

 

「真っ当に働いて、正しい事をして、それでも人に言えない仕事もあるのです。このお金はその誇りへの対価です」

 

 2人とも良く分かっていなさそうですね。別に話しても問題無いですし、少し話しておきますか。

 

「モラモラ医師は、先日まで問題になっていたヒ素による中毒に対する治療薬の開発と治療法の確立に成功しました。このお金はその事に対する報奨金です」

 

 そう、つい最近まで謎の病気とされていたヒ素による中毒症状、その外因の解明と治療法の確立が行われ、現在は一応の沈静化をみせています。その際に原因となった緑の衣類を作っていた業者が一斉に摘発されたりもしました。まったく、傍迷惑な人達ですね。

 

「おおー!」

 

 シン君は流石は先生と感嘆の声をあげています。しかし

 

「あれ?私が聞いた話では治療薬の開発をしたのは第3王子だったんすけど?」

 

 と、マリーさんは町で流れている噂話との違いに首を傾げています。

 

「はい、マリーさんの言う通り、公式の発表では第3王子の功績となっています。しかし、実際に研究、開発を行ったのはモラモラ医師を含め、数多くの医師の方々です」

 

 第3王子は名医として知られていますが、実際は大した事ありません。決して馬鹿ではありませんし、寧ろ賢い人ではあるのですが、それはあくまで一般人と比べた場合であって、医者としては平凡かそれ以下です。

 ついでに他の王子についても言っておくと、私主観も入りますが、上から

 

 第1王子 八方美人

 第2王子 脳筋

 第1王女 他国に嫁いでいるのでよく知らない

 第3王子 医者 王位を狙って虎視眈々

 第2王女 腹黒

 第4王子 継承権放棄 騎士として野に下る。多分1番世渡り上手

 第5王子 シン君 頑張れ

 

 となっています。

 個人的には下3人を応援していきたいところですね。上に行くほどつまらないので。

 と、話を戻して

 

「ただ、そういった人達の名前は表には出てこず、全て王子の手柄になっているだけです。第3王子の名医としての名声はそうして得た物でもあります」

 

「どうしてそんな事に?おかしいじゃないか。頑張った人間が評価されずに他の誰かが評価されるなんて」

 

 シン君が不満そうに言ってきます。マリーさんも納得いってない雰囲気です。

 

「シン君、これは決して悪い話ではないのです。寧ろ誰にとっても良い話なのです。良いですか?先ず一つ目の利点は話がスムーズに進みます。仮にモラモラ医師がこの治療法を発表しても懐疑的な目で見られるでしょう。直ぐには信用されません。多数の検証が行われ、効果があると判断されたら少しずつ世に出回るでしょう。しかし、第3王子の発表となれば違います。王家のネームバリューで早く信用されます」

 

 腐っても王家。その信頼度は高いです。

 

「そうすれば、それだけ早く治療が始まります。それだけ多くの人が救われます」

 

 早さは正義ですね。

 

「次にモラモラ医師を含めた医療関係者の方々にとっての利点は即金でまとまった現金収入がある事です。患者の治療をしたとしてもそれが即、現金化される事ばかりではありません。治療法を発見してもそれが収入になるかもハッキリとは言えませんし、お金になるには時間がかかります。ですから国に研究成果を買い取ってもらえるのは悪い話ではありません」

 

 パトロンは大切ですね。

 

「モラモラ医師の様に普段お金の無いスラムの住人を相手取り仕事をしている人は特に」

 

 モラモラ医師は苦笑いしています。彼の病院はこういった成果で成り立っています。

 

「最後に王子にとって。名声が高まり自己顕示欲が満たされます。周囲の評判が上がり、自身の勢力が拡大します。望む王位に近づく事ができます」

 

 お金で名声が買えるのなら安いものです。

 

「患者は健康を、医者は現金を、王子は名声を。誰もが皆、自分が望む物を手に出来るのです。確かに医師の皆さんが後世の人から称賛される事は無いかもしれませんが、それでも今を生きる人達に必要な事が全て満たされるのです。十分ではないですか。これ以上何を望むと言うのですか」

 

 シン君は理解は出来たけど納得は出来ていない感じですね。やはり、自分が親しい人が正しく評価されないのは分かっていても受け入れ難いようです。

 

「世の中そんな物ですと言ってしまえばそれまでですが、何より本人が納得しているのです。それに他人が口を出すのはただの我が儘ですよ?」

 

 私がそう言えば、シン君達も最早何も言えません。

 

 とは言えそのモヤモヤした気持ちは大切なものです。大人になればなるほどにそう言った気持ちは失われていきます。けれどもきっと、成長にはそう言った気持ちと向き合う事も大切だと思うのです。

 

 まぁ、私みたいに片っ端からモヤモヤを切り払って生きるのはおすすめしませんが。だから私は駄目なんでしょうね〜。

 

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