私は今笑えているでしょうか?平静を装えているでしょうか?それが問題です。
「よく来た。我が国は貴殿等の来訪を歓迎しよう」
現在、謁見の間ではタリスカー陛下がランセア連邦からの客人に歓迎の言葉を送っています。
「感謝いたします。この度はこの様な場を設けていただき此方としても……」
ランセアのお客人は現首長の長男とその妻、そしてその護衛と身の回りの世話をする使用人ですが、この場には長男とその妻、それと最低限の護衛だけがいます。
そのお客人は何やらお礼の言葉とかを述べている様ですが、私にはその内容が一切耳に入ってきません。何故なら
『舐めてくれやがりまして、あのカビ菌共が……』
首長の息子とその妻、奴等ポンジさんとミュウさんですね。間違いありません。次期トップの体を乗っ取っています。
先日の造反劇から一月と半、それしか経っていないのに奴等は私の前に堂々と姿を現しました。完全に私のことを舐めています。それも公の場で立場ある自分に危害は加えないだろうと言う保身からくる油断では無く、増長からくる傲慢で私のことを舐めています。
「……、〜〜ーー、?ー」
何やらずっとごちゃごちゃ話していますがどうでもいいです。ここまで腹にきたのはレオン君に戦況をひっくり返された時以来です。今すぐこの場でゴミにしてやりたいところですが、それを抑えるくらいの理性はあります。そもそもここであの2人をぶち殺しても本体である金貨と靴がこの場には見当たりません。きっと新しく別の体を乗っ取って終わりでしょう。
これ以上この場に居たら手を出してしまいそうです。この場から退出して少し頭を冷やしてきましょう。奴等が何の目的で来たとかどうでもいいです。スクラップにするのは決定事項です。ガラクタの用途に興味はありません。
私は城から出て近場の酒場に入って強目の酒を飲みます。飲まにゃやってられません。あーもーイライラする。
そうして、しばらく飲んでいると
「失礼します。お隣よろしいでしょうか?」
と、1人の女性が話しかけてきます。
「……貴方ですか、構いませんよ」
私が許可を出せば
「それでは失礼します」
そう言って隣の席に腰掛けます。
「それで、何の用ですか?サラ アップルさん」
私はそう言って話しかけます。
このサラさん、しれっとポンジさんとミュウさんのお付きのメイドの中に紛れていました。2人と同じく受肉した様ですが、どうにもあの2人とは様子が違って気にはなっていました。
「先ずは2人から頼まれた用事から。今夜、此方の宿に部屋をとってあるそうで、そちらに来て欲しいとの事です」
そう言って宿の名前と時間が書かれた紙を渡されます。
「まぁ、分かりました。……それで、本題は何ですか?これを渡すだけが目的では無いでしょう?」
本題は多分そちらでしょう。
「ええ、これは私個人のお願いなのですが、手を組みませんか?」
意外……って程でもありませんね。あの2人の目には私に対する蔑みの感情がありましたが、彼女の目にはそれはありません。寧ろ私に対する警戒心や怯えが見てとれます。
「手を組むと言っても具体的には?あと無理に敬語を使わなくても構いませんよ。余り慣れてないのでしょう?」
と言うか面倒くさそうなので。
「そうね、まぁ助かるわ。そうさせてもらうわね。それで具体的な内容だけど、私からは可能な限り彼方の情報を流させてもらうわ」
おやおや、これは面白くなってきましたよ。
「代わりに貴女には私の本体である指輪を取り返してもらいたいの」
はーん、話が見えてきましたよ。
「私が肉体を得たのは半月程前、元々あの2人のそば付きだった者の体よ。2人は私のことを仲間だ、同胞だと言っているけれど明確な格差が有るの。私の本体はあの2人に奪われて逆らえないのよ」
なるほどなるほど。となるとあの2人の目的も見えてきました。何故わざわざ私に会いに来たのかも。
「あの2人はね、今、全能感に酔いしれているのよ。だってそうでしょう?誰にでもなれるのよ。王様だって、俳優だって、芸術家だって、成功者の体を奪えばいい。そうすればその人の功績も一緒に奪える。たとえその後失敗しても、また別の人になればいいだけなんだからリスクも何も無い」
私の場合は私である事に意味があると思っていますし、そう言う技術なのでそこら辺の感覚は想像するしかありませんが、まぁ、そんな物なんでしょうか?分かりませんね。
「寿命も無いし、本体さえ無事なら死ぬことも無い。おまけに常人とは比べ物にならないくらい強力な魔術まで使える。調子に乗るのも、まぁ、分かるわ」
いや、おまけって、それがあなた方の本質なのですが?
「ただ、私としてはそんな事に付き合わされるなんて、真っ平ごめんなの。私の本体がとられていなければ、さっさと縁を切って何処かに行っているわ」
「貴女は彼女達みたいに何かしてみたい、なってみたい者は無いのですか?」
先程から言っている事はサラさんにも当てはまります。貴女自身には何か欲望は無いのですか?
「無いわね。私は私よ。確かに寿命が無いのは嬉しいし便利よ。他人を殺すことには勿論、罪の意識は芽生えるわ。でも、それを上回るくらいの安心感もある。それでもやっぱり人を殺す事に無邪気にはなれないわ」
うーん、真っ当。
「それにね」
そう言って大きくため息を吐くと
「私には前世の記憶は無いわ。私がどんな人間だったかは分からない。それでもね、私の魂が言っているの。複雑な人間関係はもうこりごりだ、ってね。魂にまで刻まれるなんてどんな人生だったんだか。
自由になって静かに暮らしたい、私の願いはそれだけよ」
ふーん、なるほどなるほど。まぁ、話は分かりました。彼女の話を全て信じると言う大前提になりますが、悪い話ではないでしょう。私はこの申し出を受けようと思っています。彼女は嘘をついてはいないでしょう。根拠は私の勘です。
「分かりました、その話をお受けしましょう」
私がそう言うとサラさんは露骨に安心した空気を出します。
「そうだ、覚えていないと言った貴女の前世をお話ししましょうか?」
しかし私がそう言えば
「遠慮するわ。絶対ろくな人生おくってないもの。知りたく無いわ」
そう言って嫌そうな顔をするのでした。