魔術を発動する方法は、『魔術回路に魔力を流して発動する』これが基本です。例外もありますが、今回はそれは忘れて、兎に角これが大前提です。
その際に補助的な役割を担う道具や工程を踏む事で威力や精度の底上げをします。代表的なのは魔術師がよく持っている杖や、呪文の詠唱等があります。杖も呪文も無くても魔術は使えますが有れば様々な恩恵が望めます。別に呪文も長々とした物だけでは無く『ファイヤーボール』などと技名を言うだけでも多少の威力アップがあるので魔術師の中でも声に出すのは一般的です。
しかし、逆に滅多にお目にかかれないものもあります。それは『舞』です。舞は魔力に合わせて、頭の天辺から指先まで注意を払い、決まった動作を淀みなく行わなければいけません。大変な練習が必要となります。なので使える人はとても少ないです。
舞は発動までの時間もかかります。どんなに短いものでも1分以上かかります。長いものだと丸一日踊り続けるものすらあります。
以上の理由から舞は基本的には祭事の場などで見る以外には基本的には見ることはありません。戦いの場などで見ることは先ずあり得ません。
そう思っていたのですが……
「なるほど、周辺の民間人を捕らえ、ミュウさんの術式で舞を舞わせているのですか」
私が魔力で周囲を覆い、状況を把握した結果は、私は今現在包囲されていると言う事でした。
正面の宿屋の各部屋は勿論、周囲の民家の中でも複数の人達が舞を舞っています。おそらくは予め用意しておいた魔法陣が描かれた敷物を置き、その上でミュウさんの術式で舞を踊らせているのでしょう。本来は大変な時間と労力をかけて習得する舞をミュウさんの術式でクリアし、高い威力と精度の魔術を実現しているのでしょう。
舞はその難易度に見合うだけの術式の底上げをしてくれます。民間人でもこれだけ正確で綺麗な舞を舞えれば十分な威力の攻撃が出来るでしょう。
そしてもう一つ、彼等の術式を底上げしているものがあります。
近くの民家の一つに多数の死体が押し込まれていました。おそらく彼等はサラさんの術式で殺し合いをさせられたのではないでしょうか?家族や友人と殺し合いをさせ、生き残った人をミュウさんの術式で操っているのでしょう。
一種の蠱毒ですね。怒りや憎しみは一時的に本来以上の力を引き出します。おそらく彼等は今、命を削って魔術を発動しているのでしょう。
周囲からも私に向かって多数の魔術が飛んできます。それらを全て此方も魔術を飛ばして迎撃しながら考えます。
なるほど、良いコンボです。これなら唯の民間人を強力な使い捨ての固定砲台にする事ができます。人数を用意出来れば次弾までの時間のかかるという舞の欠点もタイミングをずらす事で絶え間なく攻撃出来ます。三段撃ちみたいな感じですかね。
戦争でなら占領した敵地の民間人を使って更なる戦争が行えます。思った以上に考えられています。
しかし
「今回は相性が悪過ぎましたね」
この手の手段は私の得意分野です。攻略法は既に見えています。
私は先程把握した全ての人の魂に魔力の糸を飛ばして呼びかけます。
『皆さん、どうか私の声を聞いて下さい。私は皆さんを助けたいのです。どうか私の声に耳を傾けて下さい』
せて、捕虜を奪い返しますか。
『皆さんは今、皆さんの家族を、恋人を、友人を奪った者達に良い様に使われています。思い出して下さい。皆さんの家族の顔を』
そして今の状況を簡単に説明します。
『私は皆さんを助けたいのです。皆さんから大切な人を奪った者達から皆さんを助けたいのです。どうか私を信じて、私に身を任せて下さい』
相手の攻撃を捌きながら魂に訴えかけます。
すると
『お願い、助けて』『奴等に報いを!』『家族の仇をとってくれ!』『解放してお願い!』
などなど、皆さんが返事をしてくれます。
『任せて下さい。さぁ、私に協力して下さい。今から送る魔術を拒否せず、受け入れて下さい』
そうして魔力の糸を通して術式を送ります。すると
「うわっ!うるさ!」
ドカン‼︎やボンッ‼︎など様々な音で周囲から大爆発が起きます。
私が送った術式は自爆魔術です。簡単に言うと自身の魔力を全て衝撃波に変換して周囲を吹き飛ばす魔術です。
「約束通り、彼等の支配からは解放しましたよ。命の保障?した覚えがありませんね」
周囲一帯が今の爆発で更地になっています。どうやらポンジさん達はとうに逃げているようです。しかし、軽い嫌がらせはしておきました。
私もさっさとこの場から逃げましょう。これだけの騒ぎです。直ぐに騎士が駆けつけてくるでしょう。